夏色の砂時計(PS2)
メーカー プリンセスソフト 総合評価 70点(佳作)
ジャンル ADV
発売日 2002/05/30
シナリオ 童本桜 エロゲをコンシューマに果敢に移植し続けることで知られるプリンセスソフトの1周年記念ソフト。
初のオリジナル作品ということで、出来が注目された。
原画 村上水軍
サウンド 大田雄一・佐野雅弘・斎藤秀史


個人的エピソード
村上水軍さんの絵は元々結構好きなのと、時間移動ネタが個人的にツボなのに加えて
プリンセスソフトの初のオリジナル作品がどの程度の完成度なのかが気になって買いました。
てっきりループ物だと予想していたんですけど……。

内容
主人公・牧村耕太郎は平凡な毎日を送る普通の高校生。
夏休みを目前に控えた7月のある日、彼は片思いの芹沢香穂に告白しようと決心した。

だが次の日の朝に目覚めた彼は、何故か9月1日に時間移動(デイドロップ)していた。
混乱しながらも学校へ向かった彼を待っていたのは、
哀しみに沈むクラスメート達だった。

耕太郎は、自分が香穂と恋人同士になれたこと、
そして彼女が8月31日の事故によって死んでしまったことを知る……。

デイドロップ。
それは幾度となく繰り返される時間移動。
この過酷な運命を変えることができるのか?

(パッケージ裏より)

システムとか
必要メモリーカード容量は254KB。作られるファイルは1つのみです。

ゲーム的にはごくオーソドックスな選択肢分岐型ADV。
メインルートだと他のヒロインのエピソードも絡んでくる関係上、若干どのフラグが立っているか
わかりにくい面があるので難易度的には中のやや上といったところでしょうか。
でもまあ、基本的には一途に接していれば問題なくクリアできるレベルです。

セーブ数は通常セーブ50個+クイックセーブ1個。
数的には十分で困ることはまずないかと思われます。

スキップは既読/強制の両方を実装。
速度自体はなかなか高速で使い勝手はいいと思います。
あと面白い機能として音声再生の高速化が挙げられるでしょうか。
文字通りテープの早回しのように音声だけを高速で流すことができます。
はっきり言って実用性は皆無に近い機能ですが、お笑い機能としてはアリかと(ぉぃ

バックログは選択肢、あるいは特定シーンの頭まで読み返し可能。また音声再生も可能です。
選択肢が出ている時にそれより前を読み返せず、2回目以降のスキッププレイ時に少々不便など
改善すべき点はありますが、読み返し可能量はかなり多くさほど不満は感じませんでした。

鑑賞系はCG・BGM鑑賞を用意。またおまけで出演声優陣のフリートークを聞くことも可能です。
まあコンシューマギャルゲならこれが妥当なところでしょうね。


最後に。
システム自体には不満はほとんどありませんが、それ以前のところで若干の不満が。
読み込み頻度が高すぎることと後述する音声再生面での問題は何とかして欲しかったです。

あとは様々な日に時間移動するゲームということで、「どの日を消化したか」がカレンダーでいつでも確認できるという仕様は大変便利だったのですけど、できたらそこで「その日何が起きたか」も確認可能にしてほしかったところ。
プレイ期間が長い関係上、その日の時点で何が起きたことになっていて何がまだ起きてない(けど主人公は経験済みだったりする)ことになっているのかというのがわからなくなってしまいがちなので(^^;
改善希望点としてはそんなところでしょうか。まあよくまとまったシステムだとは思いました。

絵とか
原画さんはメイド好きやエロゲプレイヤーにとってはお馴染みの方。
#もっともこのゲームにはメイドさんCGは1枚しか出てきませんけど(^^;
個人的にも好きですし、世間的にもそれほど人を選ばず受ける絵柄じゃないかと思います。
で、村上さんの絵自体は割と好きな部類に入るのですが、いくつか気になる点が。

1つ目はサブキャラは違う方が描いているせいかかなりギャップを感じること。
2つ目は剛士をはじめとして男性キャラの立ち絵が表情に欠けていてなんだか怖い(^^;こと。
3つ目は幾つかかなり崩れたイベント絵があるということ。
特に3番目はちょっと問題のような気がします(^^;

枚数の方は72枚。
パターン違いCGなどはそもそも本編になかったような気がします。
まあイベントの数を考えればこんなものになるのでしょうか。リージェンや朋美の扱い低いですし(笑)

音楽・音声とか
BGMは全32曲、うち2曲がボーカル曲となっています。
肝心の質の方は水準レベルといったところ。
コンシューマギャルゲーという先入観もあるのでしょうが、ちょっとKIDの曲っぽいなと思ったり(マテ
でもまあ、そんな与太はさておきゲームやシーンごとの雰囲気にはきちんと合っていたと思います。

恒例のお気に入りは「運命への帰着」と「went away」「未来この星で」の両ボーカル曲。


で、音声の方ですがこのソフトでは主人公はおろかナレーションまで含めてフルボイスとなっています。
ナレーションまで付いている相当珍しいのではないかと。
ただ、私を含めてほとんどの人がナレーションと主人公の声はオフにすると思うので、果たしてどこまでの意味があったかは疑問が残るところではありますが(^^;

あ、肝心要の配役については演技的にも声質的にも何ら問題はなかったかと。
出演陣も結構豪華ですし、音声なしエロゲに声を付けて移植したりしてるだけあってこの辺はぬかりなしといったところでしょうか。

ただシステムに関連してBGM・CVに共通して見られる音周りの問題がいくつか。

1つは再生ボリュームが小さめであること。
他のゲームと比べて収録ボリュームが小さく聞き取りづらい印象を受けました。
特に香穂のセリフはちょっと…(^^;

さらにもう1つ、再生時に我が家の環境では時々モタリが発生しました(´Д`;
これにはBGM再生に躓く場合と、テキスト表示が音声再生に追いつかない場合の2種類がありましたが、どちらも音声関係の読み込み時に発生という意味では共通の問題かと。
ウチのPS2が悪いのかもですが、気になったので一応書いておきます。

シナリオとか
ぶっちゃけ「タイムリープ」的だよね(マテ
あの本を知ってる人が何割いるか知りませんけど、とりあえずこんな感じです。
ランダムに様々な日に移動する点、特定の期日までの日程を消化すると時間移動現象そのものがなくなる点などから見て影響を受けたのは間違いないと思います。
(もっともあの作品と違って肉体が移動するし、パラドックスや未来の再構成も発生してますが)

さて、例によってまずは長所から。

とりあえず時間移動というネタをかなり上手に料理している点は評価できます。
システム面で示したのと同じ例になってしまいますが、ある時点において「数日後に起こる事件は知っているが、“今日”の前日にどんなことをしたのかはわからない主人公」と「前日に主人公が何をしたのか(=主人公にとっての未来において取るであろう、取らなくてはならない行動)を当然知っている周りの人間」を配して、その両者のすれ違いを使い「まだ見ていない昨日」、つまり先に読み進ませるシーン構成は見事でした。

また、このようなネタで約1ヵ月半という長いプレイ期間を設定すると矛盾などが起こりそうなものですが、少なくとも私が確認した限りでは全編を通じてもほとんど、メインルートに関しては皆無といっていいほど矛盾が見られなかったのは賞賛すべきかと。
物語全体の流れをきちんと把握している証拠です。
というわけでシナリオ自体はなかなか面白いし、構成力も高めだと思います。


ですが残念ながらこういった感想を持つのは初回、またはメインルートを攻略した時だけでしょう。
「香穂の死を回避する」という目的と主人公が物語の開始時点で香穂に好意を持っているという設定上、ある程度仕方ないのですが香穂シナリオがあまりにも中心になりすぎている感があります。
度合いの差こそあれ、他のヒロインは概ね彼女の話からの派生に過ぎません。
(唯一派生しないキャラに関して言えばシナリオそのものが他より格段に短いですし)
マルチヒロインの分岐型ADVとしてちょっとこれはどうかな…と。

また特に香穂に顕著ですが、主人公に惹かれる描写が弱いように感じました。
他のヒロインでもそうですけど、「助ける」という主人公の目的が前面に出過ぎていて、その辺の関係が深まっていく過程の描写がやや薄いかなぁと。
その辺にもう少し力を入れてもよかったかもしれません。


まあ、わかりにくくなったので簡単にまとめると
1本1本のシナリオは結構いいけど、ゲーム全体として見ると粗がある
ってなところでしょうか。
それなりに力はあるライターさんだと思うので、次は頑張って欲しいです。

総評
初のオリジナルでこれなら十分でしょう。
少なくとも次を多少なりとも期待させてくれる出来ではあります。

まとめ。粗はあるけど光るモノも持ってる作品。
時間ネタの処理だけで言えば個人的には「infinity」よりも好きだったりします。
あれと比べて劣る点も多々ありますが、その辺は今後の成長に期待ということで。
あ、でもシステム面は見直し希望。読み込みとか音声再生とかね(´Д`;

書いた時点での総プレイ時間 19時間(コンプ)
お気に入りのキャラ 瀬能あい
お気に入りのセリフ 「好きすぎて……涙が出ちゃうってコト、あるのかしら……?」
「今はまだ……水の次に好きな人、かな?」

初版2002/06/09