ギャラリー
7676番 しおんさまのリクエスト .
アリスは火村の晩御飯、火村はチュウを賭けてゲーム合戦。むろんアリスの負け
その人が部屋に入って来たとき、俺は相棒と2人でゲームに興じていた。
ゼミ室に何台か置いてあるパソコンには、いろんなゲームが入っている。設置された当初から我先にと入れたらしく、今となってはどれを誰がインストール(おそらくは違法だろう)したのかも解らないものが。
本日の対戦はかの有名な○よ○よ。(伏せ字の意味はあるのか……?/苦笑)
理系のように寝袋持参のヤツはいないにしろ、いつも誰かしらたむろしているこの部屋だが、休日の日暮れ時ともなると、さすがに他に人はいなかったのだが―――
「こんちはー。えーと、西原くんと宮沢くんやったよな? お邪魔してもええ……?」
「あ、有栖川さん。どうぞ〜」
「いらっしゃいませ〜♪」
このゼミの学生で彼を知らないヤツはいない。ミステリ作家の有栖川有栖さん。
火村先生のところにしょっちゅう遊びに来ているので、俺らゼミ生ともちょくちょく顔を合わせる。このほややんと穏やかな人が、あの火村先生の親友だというのだから、世の中解らないものだ。
「でも、どうされたんですか?」
「火村先生、部屋におられるはずですけど……」
実は、この2人は親友以上なのではないかという疑惑が、専ら女子たちの間で囁かれている。確認できたヤツはいないらしいが、この人達の耳には届いているのだろうか……?
「それがなー、仕事もうちょっとで終わるからって追い出されてん。今日は図書館も開いてへんし、ゲーム楽しそうやったから、つい……」
「……やってみます?」
「ええの? やるやる。教えてやー」
「ふんふん、同じ色のを4つ並べると消えるんやな。そんで、2色の4つずつがいっぺんに消えるんが『同時消し』と……」
説明しながら、まず俺が手本を見せる。
「で、こうやって、この4つ1組が消えることによって次の4つが完成して消えるのが、『連鎖』です」
「同じ8つ消すんでも、連鎖のほうが同時消しよりも点数が高いんですよ」
「ふーん、うまいもんやなー」
初めのうちは、覚えようと一生懸命見ていたらしいのだが……
「やー、これかわええなぁ。かーくん、うちのパソコンの壁紙にも欲しいなぁ」
「このぷよたち、くっつくと相手の方を見るのがまた、ええやんか。孤立したヤツはわたわたしとるし(笑)」
「うぁ、こいつら、負けそうになると真っ白くなったり泣き出したりしよる。芸が細かいなぁ」
ルールよりもテクニックよりも、キャラクターのかわいさに心を奪われているらしい。これじゃ、あんまり上達しそうにないよなー。別にいいけど。
そんなところは、俺の相棒にちょっと似てる、かな……
それでも、どうにか消すことができ始めたころ、火村先生が顔を出した。
「戻ってこないと思ったら…… なにやってるんだ、お前」
「あ、火村ぁ、対戦しよ対戦!」
いつも思うけど、この人って恐いもの知らずというか…… 火村先生に向かって、俺らには思いもつかないようなことを言うのだ。そして先生も……
「……よし、教えろ」
―――う、ウソの世界だ―――
先生の方も、普段からは考えられないような反応を返す。あの火村助教授が、○よ○よ?
同い年の親友って、いくつになってもこんなもんなんだろうか……?
「俺が勝ったら、今日の夕飯、食べに行くの止めて君の手作りな」
「じゃあ、俺が勝ったら……」
先生が何事か耳打ちした。
「――っ、アホか君はっ///」
有栖川さんは真っ赤になって飛びすさる。何を言ったんだ、何を。
先生はニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
――なんだか、見てはならないものを見てしまった気がする………
「俺、初心者やから、激甘な」
「俺だって同じだろーが」
かくして、どちらも難易度を激甘に落とした、低レベル同士の対決が始まった。
「……どうする? 最後まで付き合うか?」
「こんな珍しいモン、見逃せるかい」
……確かに。コイツほどの好奇心がなくても、一見の価値はある。
「なあなあ、どっちが勝つと思う?」
「そりゃ…、先生だろ?」
「それじゃ賭けにならへんやん!」
愚問だ。
「……っと、これでどうやー! あ、ちゃうちゃう、間違うた〜〜 あーっ、こっち落とすなぁ〜っ!」
有栖川さんは、何やかやと叫びつつ、身体を右に左に動かしている。
1組消えるたびに身体がそれに合わせて揺れるのだが、「もう1組!」とばかりに1回分多く揺れるのが笑える。まるで身体の動きで消えるのをコントロールしようとするみたいに。(せいぜい2連鎖くらいしかしてないのだが/笑)
そして、消えるのを見守っている間、手がお留守になっている。……これじゃあ、勝てねえよな。
それとは対照的に、先生は無表情に淡々とキーを叩いている。かと言ってやる気がないのかというと決してそうではなく、画面を睨みつける目は真剣で恐いほどだ。
ゲームは予想通り火村先生が優勢だ。有栖川さんは、1ゲーム負ける毎に、画面に出ているゲームキャラと同じかそれ以上に「ガーン」という表情を浮かべる。だんだんと負けがこんできて、ほとんど泣きそうだ。
――面白い。
ふと隣の相棒を見遣ると、どっちを応援しているのか、こぶしを握って真剣に対戦を見詰めていて、なんだか笑えた。
「あーーーー」
敗者は机に突っ伏し、勝者は余裕の一服を点ける。
「久々に君の手料理、食いたかったのにぃ〜〜 ガッカリやぁ……」
火村助教授が手料理だと……?(爆) 俺らは思わず顔を見合わせた。
「また今度な。それよりアリス……」
先生は有栖川さんにすっと顔を寄せる。な、なんなんだ、この雰囲気わっ。
「ここで!? あ、アホなこと言うな!」
「2人っきりの時ならいつものことじゃねえか。罰ゲームになんねえだろ?」
「ま、待てって、コラ〜〜」
ギャラリーの存在を忘れているんじゃねえかと思ったが、とんでもなかった。この男、しっかり俺らを見て、またしてもニヤリと笑いやがった。片手で有栖川さんを捕まえたまま、ゆっくりとタバコを灰皿に押し付ける。
そして―――
「ん、やめ、って、コラ…… ん、っ………」
……信じられない。
キス、しやがった。俺らの目の前で。――しっかりとディープなヤツを。
「オイオイ…… 先生、猫かぶってたのかよ……?」
「……………」
俺の思わず呟いた声が、届いているのかいないのか……
「んっ……、ぅ………ぁ……」
――なげーよ、オッサン………
ようやく離れたとき、有栖川さんはかわいそうなくらい真っ赤になっていた。
すっかり涙目で、立っているのも覚束ないといった風情は、なんだか、なんと言うか、その…… 見てると、こっちがヤバくなりそうな感じだった。声もなく固まっていた相棒の顔は、すでに真っ赤に染まっている。
「ひ、ひむ……なん、てことするねん。学生さんの前でっ/////」
「ああ、この2人なら大丈夫だ」
なんでそんなに自信満々なのか、有栖川さんに話しかける顔は、普段からは想像も出来ないくらい穏やかなものだったのだが―――
「……そうだよな?」
そう言ってこちらに向けた目は、事と次第によっては……という剣呑な光を宿していた。
「もちろん俺は、君らのことなど何も知らないが……」
げ。もしかしてバレてる? だから俺らの目の前で?
「ひ……」
「りょ、了解しました……」
なんで、なんでバレてるんだよーーっ!
最も、俺らもこの2人のことはなんとなくわかっていたのだが……同類だからか? この2人みたいにあからさまな態度には出していないつもりだったんだが……(実はバレバレだったのでわっ!?/汗)
こんなこと、女子たちの間にバレたらただでは済まない。ただでさえアヤシイと言う噂が流れているのだ。本当だとなったら、あっという間に広がってしまうだろう。女はこの手の話が大好きだ。実録同人誌というものまであると聞く。嬉々としてネタにされてしまうだろう。(俺らだって、見られないよう細心の注意を払っているのだ。秘密の場所は2、3持っている)
先生はともかく、有栖川さんをそんな目に遭わせるのは忍びない。しょーがない、内緒にしといてやろう。
「さてと、メシ食いに行こうぜ。――お前らも、さっさと帰れよ」
「は、はーい」
何事もなかったかのように颯爽ときびすを返す先生に、良い子のお返事を返す。負けてたまるか。
「ご、ごめんな、ふたりとも。それじゃあな……」
「おやすみなさい、有栖川さん♪」
「でわでわ〜」
まだ赤い顔のまま恥ずかしそうに挨拶する有栖川さんに、俺は同情を禁じ得なかったが、そういうのは『余計なお世話』なんだろうな……
「……行ったな」
「ん……」
思わず2人揃って、はーーっとため息をついた。なんだか、どっと疲れた。
「さっきの、すごかったな……」
どこかぽーっとしたような様子で、相棒が言う。
「ん?」
「先生たち……」
横目で見ると、そう言った頬がほんのりと染まっていて、キスのことを言っているのだと解った。
う… かわいい。
「うらやましいか?」
「そ、そんなこと…っ」
「あんなの、目じゃないくらいかわいがってやるよ」
くそっ、当てられちまった。今夜は思いきりヤってやる!
「今度俺らも、何か賭けて対戦しようぜ?」
「俺は人前チュウは嫌や///」
「俺だって公開するつもりはねえよ」
誰が見せるか。もったいない。先生、アンタにもだ。
「……もう勝った気でいるんやないの? 俺が勝ったら君の手料理やで?」
「任せとけ」
負ける気はしなかったので、俺は気安く請け負った。
さて、何を賭けてもらうことにしようかな…… 楽しく思い悩みながら、俺は顔がにやけないように苦労した。
ちょっとだけなら、あの2人に感謝してもいいかもしれない。
H11.11.4
このお話はフィクションです。実在の人物とはなんら関係はございません<(_
_)>
学生2人、さてどっちがどっちでしょう……?(笑) 内輪ウケですみません。
諸般の事情により、1人は標準語でお送りしております…… っていうか学生の方も、元はヒムアリなのねん(爆)
「賭けるほどのチュウって、どんなチュウやねん…?」→「人前キスにしよかな?」というところから始まったこの話、
犠牲者のはずの2人の方が、いつの間にやら主役になっていました(大笑)
そして肝心のゲームはほんのついでのよう……