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        人の物は俺の物 (ってなタイトルだったような……)(改)



「俺、来月の頭に仕事で大阪行くんだ。出てこれないか?」
「あー、あかんあかん。その頃ちょうど修羅場やと思うわ」
 電話の相手は京都在住の同業者、朝井小夜子。年上で口は悪いがけっこうイイ女だ。
 今現在付き合っている唯一の女、といっても、まあいいだろう。いや、もちろん遊びは別だ。
 遊びの女は何人かキープしている。遊びの男も、……まぁ、たまにはね。

「なんだよタイミング悪いなぁ。しょうがねえ、アリスでもナンパしてみるか」
「ナンパて、女の子かいな。……ま、でもアリスって本当かわええしねぇ。誰かさんと違うて」
「あれ? 何それ、もしかして妬かせようとしてんの?」
 アリス相手に嫉妬しろと言われても、無理な相談だ。いかにも人畜無害そうにほやほやとして、ライバルとしての危険度はゼロに等しい。
 いや、そういう好みの女もたくさんいるだろうが、俺と付き合うようなタイプの女とは競合しないという意味だ。かわいいと言われても、あれでは文句は言えないだろう。
「アホ言いなや。どうしたって弟分にしかならへんわ。あんたと同い年とはとうてい思われへん」
 ほらな。
「そうだよなぁ。弟とか犬っころとか、そういうイメージだよな」
 なんとなくちょっかいを出したくて、いじめると楽しそうで。あっちの関係になりたいと思ったことはないが、成り行き次第ではいいパートナーにもなれそうな感じだ。
「犬コロてあんた、容赦ないなぁ。うーん、でもどうかねぇ。あの子もなんや締め切り抱えとるみたいなこと言うとったけど」
「ちぇ。アリスにもしばらくご無沙汰なんだよなー」
 考えたらここ数ヶ月会っていない。ふむ、思い出したら会いたくなっちまったな。ぜひお付き合い願いたいところだ。

「アリスかて東京に行くことあるやろ。そっちで会おうて連絡あらへんの」
「それがさー。せっかく上京して来てもアリスのやつ、どこへ遊びに行くでもなく、昼間は古本屋をうろうろするだけみたいでさー。夜は夜でいっつも片桐ちゃんに一人占めされちゃってんのよ。来るたびに泊めてもらってるんだとさ。俺だって何時でも泊めてやるのに」
「あんたの手ェの早さ知ってるんやないの?」
 おっと。俺が男もイケルってことは、バレちゃいないはずだが。
「あれ、俺だけのせいにするつもり?」
「ふふん、まあね」

「アリスにはそんな甲斐性ありそうにねえよな」
「そうやねぇ、アリスから彼女の話は全然聞かへんね。犯罪学者のセンセとつるんで事件現場行ってるいう話は耳タコやけど」
 何?
「犯罪学者? 事件現場? 何それ。そんなコネがあるのか、あいつ」
「知らんかったん? 学生時代からの友人で、なんと実在する名探偵なんやて。警察関係者の間じゃ有名らしいで。今度紹介してもらお」
「本当か? 聞き捨てならねえなぁ」
「アタシは会うたんびに聞かされるで。なんや気ぃつくと、いつの間にかそのセンセの話になってんねん。ホンマに聞いたことないのん?」
「ああ。1度も」
 ふーーーん? なんだか面白くない。何者だ、そいつ。

「あんたのこと信用してへんのと違う? ネタにされたら困る、とか」
「ネタに、しないのか?」
「あの子変に律儀やし、意地っ張りやからね。絶対ネタにはせえへんのやて。『ホラ話書いてこそ小説家ですやん!』ていっつも言うてるわ」
「ふーん」
 アリスの言いそうなことだ。
「おもろいでー、まるで自分のことみたいに自慢しよるで。話が出るたびに特技が増えてってるし。大好きなおもちゃ自慢しよる子供みたいやな」
 想像できる。好きなことを話すときの生き生きした目と、無防備な笑顔。

 …………アヤシイ。

 面白くない。面白くないぞ。
 別にアリスが誰を誉めようと貶そうと関係ないのだが、ついちらっとアリスを相手に、などと考えてしまった直後なだけに、みすみす人に攫われるのは惜しいような気がしてきた。鳶に油揚げな気分だ。
 アリスがそっちの人間だとは思ったこともなかったが、彼女もいないらしいし……
 ふーーむ。
 可能性はある、か? 早いとこ確認しておくべきだったな。
「それはぜひ、俺にも紹介してもらわないとな」
「ふふん、信用されるかどうかやね。頑張りや」
「おう」
 信用、なんだろうか。アリスが俺にそいつの話をしない理由は。

「その前にアリスの原稿が終わってるかどうかやね」
「ま、当日電話してみるさ。ところで……」
 アリスの話題はここまで。このあとはちょっと甘い会話でもするさ。一応、恋人同士だからな。その辺はマメにしとかないと、モテる男は努まらない。

 しかし気になる、その友人とやら。
 人のモノかも知れないと思うと俄然欲しくなるのは、俺の悪いクセだ。

 いつか俺が手に入れてやる。




初めに書いた日 H11.4月下旬
加筆大幅修正  H12.8.15 


元の話は某サイトさまに置いていただいてたのですが、閉鎖されてからだいぷ経ちますので、出戻りとして載せさせていただきます。
赤星には特に思うところはなかったのですが、どんなヤツかなぁ〜と思って書きました。が、書いたあとも全然思い入れはありません(爆)

当時はを初めからアリス狙いの人として書いたのですが、大幅に訂正いたします。
アリスも、そうそう他の男から懸想されるほどのヤツじゃないと思うので。(アリシストにあるまじき発言)
火村だけでたくさんです(大笑)