なまえ
電話が鳴る。
『火村ぁ。海くん、死んでもうたんやってなぁ。かわいそうに……』
開口1番、名乗りもせずに捲し立てる声は予想どおりアリスのものだったが、その内容に面食らった。
「……誰だ、カイくんって」
共通の知り合いか? 聞いたことがあるような気もするが、ピンとこない。
『ええ、火村、覚えてへんの? 薄情なやっちゃな〜。一緒に会いに行ったやんか! もう忘れたん?』
一緒に? 会いに行った?
アリスより記憶力が劣っているとは思いたくないが、他人に対する興味は薄い。確かにアリスに比べたら、ずいぶんと薄情者だろう。
「悪い、思い出せない。どこの誰だっけ……?」
『どこって、海遊館の海くんやんか!』
「あ、ああ……」
あいつか。あのジンベエザメ。思わず脱力してしまう。
『ニュースでも言うてたやろう?』
「そりゃそっちのローカルニュースだろう?」
『そぉか? あー、もう1回くらい会いに行きたかったのに…… 残念やぁ〜』
ガラスにへばり付くようにして、飽きずに水槽を覗き込んでいたアリスの姿を思い出す。そんなに気に入っていたのか。そういえば使いみちのなさそうな、ジンベエザメのぬいぐるみもどきの帽子も買っていたな。
―――まてよ。まさか、見に行った動物についている愛称、全部覚えているわけじゃあるまいな。
なんとなくありそうなのがアリスの恐いところだ。
(阿倍野動物園のゴリラの名前は、『ゴンタ』だったよな?)
(確か鳥羽の水族館には、ジュゴンだか何だかがいたような……)
そこには立ち寄る暇がなくてよかったと、アリスの嘆きを聞き流しつつ、こっそり胸を撫でおろしたりするのだった。
H12.6.14
11日に、死んでしまった海くん。1ヶ月前には元気だったのに……(;_;)
にも関わらず、「海くんて誰?」と思ってしまったのは、私です (爆)
ゴメンね、ネタにしてしまって……