気がつくと、眠っているとばかり思っていたアリスが、目を開けてこちらを見ていた。
「―――読んだん?」
静かに訊いてくるアリスの瞳の中にあるのは怒りではなくて、穏やかな柔らかい光。照れ隠しに怒ってくれた方が、よっぽど安心できるのに。
「今更そんなん見せられたって、困るわな。堪忍なぁ……」
ちょっとはにかんだような笑顔を見せて、アリスは再び目を閉じた。
「こんなことになって、部屋に残しても置けんで、処分に困って持ってきてもうてん……」
目を閉じたまま話し続けるアリスの、額に掛かる髪をそっと梳いてみる。昨日シャンプーしてもらったという髪は、元のしなやかさを少しだけ取り戻していた。
「……そこだけ破いて、丸めてこのゴミ箱に捨てといたら、お昼前にはお掃除のおばちゃんが持ってってくれて、それで終わりやって解っとるんやけどな…… どうしてもできんかってん」
額から頬へと指を滑らせると、気持ちよさそうに俺の手に擦り寄ってくる。普段から陽に当たる生活には縁遠いヤツだったが、この白さはどうだ。
ほとんど白1色の部屋の中で、夕闇に浮かび上がる、その色に染まってしまったような、白。
「俺、君に読んで欲しかったんかなぁ……?」
目を開けて、頼りなさそうな口調で訊いてくる。本当に自分でも戸惑っているようだ。
―――そんな目で見るな。
押え込んだはずの、抑えきれるはずもない何かが、また湧き上がってくるのを感じる。
同時に。遠い昔に諦めたはずの、とっくの昔に見限ったはずのことも思い出した。
何かに――神に――祈りたい気持ち。
もしも、もしも祈れば助けてくれるというなら……!
――――でも。そんなことはありえないと知っているから………
「ゴメンな、火村……」
それを見越したかのように、アリスが呟いた。
何に謝っているんだ。謝られたって、納得できるか!
「アリス……!」
たまらなくなって、覆い被さるようにして抱きしめる。力を込め過ぎないように、細心の注意を払って。
本当はこみ上げてくる想いのままに、力一杯抱きしめてしまいたかった。息が詰まるほどに。
……………できるはずもなかったが。
「ひむら……」
微かに抱きしめ返してくれる腕が愛しかった。右手が俺の肩に回り、左手が頬に触れてくる。
それに合わせて、腕に繋がれた細い管が一緒に揺れた。
アリスをベッドに縛り付ける、忌々しくも、あまりにも頼りない命綱。
―――いっちまうつもりじゃねえよな、アリス?
こんな、たった数ページの想いだけ遺して………
12.3.4
ちょっと痛いのに挑戦してみようかと思ったんですけど、うう、ここらへんが限界。殺せない……
本当は隠しページにしようかと思ったんですが、Hかと期待して探されても困るんで(爆)
嫌いな方、読ませてしまってごめんなさい。
(し、しまった。病室って、朝から消灯まで電気点いてたよね……/汗)