怠 惰
はっと気付くと世界が明るくなっていた。
「嘘ぉ。目覚まし掛けとったのに〜」
時刻にして11時15分。朝というより昼に近い。
「コラぁ! 起きんかい火村」
「んー。何だよ朝っぱらから……」
「オマエ、目覚まし止めたやろう? どうしてくれんねん!」
なんてことだ。せっかくの(去年ほどには騒がれてないにしろ)新世紀を。
御来光ツアーに出掛ける人のように、気合を入れて早起きせねばならなかったわけではない(いや私にとっては充分早いのだが)。どこに遠出するわけでもなく、このマンションの屋上から眺めるつもりだったので、7時頃に起きれば充分だったはずなのに。
「21世紀の夜明けをこの目で拝むはずやったのに〜〜」
うが〜〜っと吠える私を、火村は眠そうながらも冷ややかな目で見ていた。
「夜明けなんていつでも見れるじゃねえか。しょっちゅう徹夜するはめになってるくせによ」
「はめってなんやねん。それが俺の本来の執筆時間なんや」
「次にその本来の時間に執筆する日に見るんだな」
「なに言うてんねん! 21世紀の幕開けは今日しかないんや!」
「どんな日だって1度しかねえだろが。……ったく、起きなかったのが悪いんじゃねえか」
「……誰のせいやねん」
「俺ひとりのせいだとでも?」
違うとでも言うつもりだろうかコイツは。除夜の鐘を聞きながら年越しそばを食った後、あんな時間まであんなコトしてないで、さっさとおとなしく眠らせてくれていれば、きっと起きられたはずなのに。
睨みつけてやると、心当たりがないわけでもないコイツは咳払いをひとつ。
ううう。もう、火村なんか、火村なんか……
「いいじゃねぇか。ここまできたら一緒だ。もう少しこうしてようぜ」
ベッドの上で正座してしまっている私に、火村の手が伸びる。上半身を引き倒され抱き寄せられ首まですっぽりと布団に包まれてしまうと、とんがっていた気持ちまでふわんと暖かくなって、怒っているのが困難になってくる。
火村なんか、火村なんか、―――嫌いになんてなれるわけ、ない。
それでもやっぱり諦めきれなくて、握り締めた時計を恨めしげに睨んでいると……
「言っとくけど。その時計の置いてあった場所、俺の手は届かないぜ」
「――――」
……そ、そうかも。ということは消去法で行くと犯人は(記憶にないのだけれど)私?
「――ゴメンナサイ」
額をコツンと火村の胸につけて謝ると、大きな温かい手が優しく、怒ってないよと知らせてくれる。
大好きな手。この手がずっと私のものでありますように。私に触れるのをためらったりしませんように。
「あけましておめでと。今年も… 今世紀もよろしくな?」
抱きしめる腕に、ぎゅっと込められた力は了承のサイン。私も時計を放り出して、火村の背中に手を廻した。願わくは、私の手も火村にとって喜びでありますように。
1年の計は元旦にあり。火村とずっとこうしていられるなら、それもまた悪くはない。ううん、大歓迎だ。
ああしかし、2年参りも初詣も行ってない。どうしょう〜
こんな俺らですけど、今世紀もどうかひとつ、よろしくおねがいします。
後日必ずお参りに行きますので、今日のところは勘弁したってください。
罰当たりにもベッドの中から神様への注文を出し、私は火村と怠惰な寝正月を決め込むことにした。
こんなに心地好い状態でいられる日を、1日でも多く過ごせますように……
H13.1.1
年賀メール用の小話として書いてみたのですが、中途半端に長くなってしまったので
サイトに上げることにしました。(それにしては短いのですが……)
よって年賀メールはナシなのです。お許しくださいませ。
ではではみなさま、よいお年をお迎えください (^-^)/