うりゅとりゃ
「アリス、どうした? 何があった」
「な、何でもあらへん」
「何でもないって、お前……」
アリスが泣き腫らした目をしていた。
土曜の夕方、6時半頃。マンションを訪ねた俺を出迎えたアリスは、たった今まで明らかに泣いていたような顔をして、しかし決して訳を話そうとはしない。
一体、どうしたってんだ……
「話せ」
「イヤや」
「……じゃあこれは俺が一人で食う」
「あー、それも嫌やー オレのたこ焼きーー! 豚肉入りー コンニャク入りーー!」
うるさい。
誰のたこ焼きだって? これは俺がみやげに買ってきたんだ。
「じゃあ話せ」
「……」
しばらくたこ焼きと何かを秤にかけていたようだったが、どうやらたこ焼きの方に軍配が上がったらしい。 ……食い意地の張ったヤツだ。
「でもなぁ、ほんまにわざわざ話すようなことやないねん。馬鹿にされるんがオチや……」
「いいから話してみろ」
「……あんなぁ、さっきたまたまテレビ点けたらな……」
「だから言うたやんかーー!!」
思いっきり脱力する俺の耳元でアリスが喚いている。しかし、アリスらしいといえばアリスらしいが、34にもなってコイツは……
「ウルトラマン見て泣いてただとぉーー?」
「だってだって、今日の怪獣すごいかわいそうだったんや。きみかて見てたら泣くわ」
泣くか。バカアリス。
「オレらの子供の頃と違うて、なんや複雑そうやったわ。怪獣もそう単純に悪いヤツばっかしやないらしいで」
「あー、そーかい」
三文ドラマでもテレビニュースでも泣けるアリスのことだ。モノがウルトラマンだろうがおかあさんといっしょだろうが関係なく、感動する時はするのだろう。
「どーせバカにしとるんやろ」
「いや、作家センセイは感受性も強くないとな。いっそ羨ましいくらいだぜ」
俺には到底真似できない。どうせ作り物だろうと思ってしまうのだ。
いやそれ以前に、この前泣いたのは何時のことだったろう……
「よこせ、たこ焼き」
むうっとした顔をして、アリスはたこ焼きを2つ同時に頬張った。
たこ焼きもビールも、他のツマミも底を尽いた頃。
「……思ったんやけどな」
何を言うかと思えば。
「きみの抱えてるモンも、案外くだらない事なんと違うかー? オレに笑われる思て、今更言い出しにくくなったんやろー」
お前じゃあるまいし。
軽く言い返そうとしたが、ソファにグテッと寄りかかって目を閉じている横顔に少し緊張の色が見て取れて、冗談に紛らした本気なのだと知れた。
「……そうかもな」
「ははっ、そうやろそうやろ」
目を閉じたままのアリスの頭が傾いてきて、俺の肩におさまる。
「……言いたくなったら言うてな……」
「……ああ」
「約束やで……」
全く、コイツには敵わない。
確かにくだらないことかもしれない。ただ自分が弱くて、縛られているだけなのだ。
いつか言える日が来るだろうか。
「ウルトラマンにでも頼んどいてくれ」
「はぁー?」
俺が、もっと強くなれるように。
H11.6.6
昨日のウルトラマン見て泣いたのは私……
かーなーりー情けなかったのでネタにしてみました。アリス、すまん。
しかし火村よ、神頼みはしないのにウルトラマンにならいいのか?
関係ないけど今のウルトラマンって、何歳くらいをターゲットに設定してるんだろう……?