■ 第七 僧尼令 ≪全27条≫ ○01 観玄象条 僧尼が、天文の玄象を観察し、偽りの災祥を説き、語ること国家天皇に及び、 百姓を妖惑し、併せて、兵書を習読し、人を殺し、性交し、盗み、また、詐っ て聖道を得たと称したならば、律に依って、俗人として官司に付して、罪を科 すこと。 ○02 卜相吉凶条 僧尼が、吉凶を占い、また、まじないや巫術によって病を癒したならば、皆、 還俗とする。仏法に依って、持呪して病を救うは禁止の限りにあらず。 ○03 自還俗条 僧尼が自ら還俗したならば、三綱の場合はその貫属(出家以前の本籍)に記録 すること。京にある者は僧綱に報告し、その他は国司に報告すること。また、 治部省・民部省に申告して僧尼名籍から除籍し、戸籍に付けること。もし三綱 及び師主が隠して申告しないまま30日以上が経過したならば50日苦使す る。60日以上ならば100日苦使する。 ○04 三宝物条 僧尼が三宝物を官人に贈答し、もしくは、徒党集団を構え、徒衆を擾乱し、ま た、三綱を罵り辱め、長宿(=長老宿徳)を犯し欺いたならば、100日苦使 する。もし集まって事を論じた際に、正直な語り口で、理を以て陳述し諫めた 場合にはこの限りにあらず。 ○05 非寺院条 僧尼が、寺の院に所在せずに、別に道場を立てて、衆を集めて教化し、併せ て、妄りに罪福を説き、また、長宿を殴撃したならば、皆、還俗とする。国郡 の官司が、知っていながら禁止しなかったならば、律に依って罪を科すこと。 乞食する者があった場合、三綱は連署して、国郡司に報告すること。精進練行 であるということを存知ている場合には、判決で許すこと。京内では玄蕃寮に 報告して知らしめること。午刻以前に、鉢を捧げて告げ乞うこと。これ以外で は、物乞うことはならない。 ○06 取童子条 僧については、近親郷里より、信心の童子を取って供侍することを許すこと。 童子の年が17に至ったならば、各々、本色(元の身分)に還すこと。尼につ いては、婦女のその意志がある者を取ること。 ○07 飲酒条 僧尼が、酒を飲み、肉を食い、五辛を服したならば、30日苦使する。もし疾 病の薬分として用いるならば、三綱はその日限を給すること。もし酒を飲んで 酔い乱れ、また人と闘打したならば、各々還俗とする。 ○08 有事可論条 僧尼は、有事に論ずべからず。所司を経由することなく安易に表啓を奉り、ま た、官家を擾乱し、妄りに嘱請したならば、50日苦使する。再犯ならば 100日苦使する。もし官家及び僧綱が、断決に不平があり、理に屈滞するこ とがあって、申論すべきことがあるときには、この限りにあらず。 ○09 作音楽条 僧尼は、音楽を作り、また博打をしたならば、100日苦使する。碁・琴は規 制の限りにあらず。 ○10 聴着木蘭条 僧尼には、木蘭・青碧・皀・黄及び壊色等の色の衣の着用を許可すること。そ れ以外の色、及び、綾、羅、錦、綺は、いずれも着用してはならない。違反し たならば、それぞれ10日苦使する。安易に俗衣を着けたならば100日苦使 する。 ○11 停婦女条 寺の僧房に婦女を泊め、尼房に男夫を泊めて、1宿以上を経たならば、その由 来するところの人を10日苦使する。5日以上ならば30日苦使する。10日 以上ならば100日苦使する。三綱が知っていて許したならば由来するところ の人と罪を同じくする。 ○12 不得輙入尼寺条 僧は、安易に尼寺に入ってはならない。尼は、安易に僧寺に入ってはならな い。師主を観省し、また、死病を看問し、斎戒、功徳、聴学することがあるな らば許可すること。 ○13 禅行条 僧尼は、禅行修道があり、寂静を願う意志があり、俗に交わらずに山居を求め て服餌(神仙不死薬を服用すること)しようかと欲したならば、三綱は連署す ること。在京の場合は、僧綱・玄蕃寮に報告すること。在外は、三綱・国郡に 報告すること。真実を検討し記録し、太政官に申告して、判定を仰いで公文を 下すこと。山居の付属するところの国郡は、所在の山を知っておくこと。その 他の場所へ向かってはならない。 ○14 任僧綱条 僧綱{律師以上をいう}を任じるには、必ず、徳行があり、よく徒衆を伏し、 道俗が願い仰いでおり、仏法を堅持する人を任用すること。推挙するところの 徒衆は、皆、連署して太政官に牒すること。もし集団で組して扇動し、みだり に無徳の人を推挙することがあったならば、100日苦使する。一度任じて以 後、安易に交替してはならない。もし、過罰があり、また、老い病して、任に 堪えぬ場合には、すぐに上記の法に依って選び替えること。 ○15 修営条 僧尼が、苦使に当たる罪を犯したときには、功徳(経典・仏具など)を修営さ せ、仏殿を料理(修理)させ、また、清掃などに使うこと。功程(毎日の仕事 量=ノルマ)を決め与えておくこと。もし三綱がおもねり組みして使役しな かった場合はすぐに、赦して苦使を執行しなかった日数に準じて罰苦使するこ と。本人の病や父母・師主の病・喪などの理由があって赦すには、いずれもそ の事情を審査し、真実を確認し、しかる後、要請に依ること。もし理由ばかり あって実状がないのを安易に赦した場合には、安易に赦した人は、妄りに要請 した人と罪を同じくする。 ○16 方便条 僧尼が、詐って方便をなし、法名を俗人に移し与えた場合、還俗とする。律に 依って罪を科すこと。由来するところの人も同罪とする。 ○17 有私事条 僧尼は、私事の訴訟をして官司に詣り来たならば、一時的に、俗形に依って事 に参加すること。佐官以上及び三綱が、衆事もしくは功徳のために官司に詣る ときには、床席を設けること。 ○18 不得私蓄条 僧尼は、私的に園宅財物を蓄え、また売買や営利を生む行為をしてはならな い。 ○19 遇三位已上条 僧尼は、道路で三位以上に遭ったならば、姿を隠すこと。相手が五位以上であ れば、乗馬している場合には馬を駐めて道側に立ち、揖(〔ゆう〕=胸の前に 両手を組んでする礼)して過ごすこと。もし徒歩であるならば姿を隠すこと。 ○20 身死条 僧尼等の死亡は、三綱が月ごとに国司に報告すること。国司は、年ごとに朝集 使に持たせて太政官に申告すること。京内は、僧綱が、季節ごとに玄蕃寮に報 告すること。また年の終わりに太政官に申告すること。 ○21 准格律条 僧尼に犯罪があったとき、格律に準じると徒1年以上の罪となる場合には還俗 とすること。還俗の際に没収する告牒を以て、徒1年ぶんに充てるのを許すこ と。もしそれ以上の罪があるならば、律に依って科断すること。もし100杖 以上の罪を犯しているならば、杖10ごとに苦使10日に替えること。罪が還 俗に至らない(=苦使に処せられる)と還俗するとに限らず、判決を終えるま では、いずれも散禁すること。もしこの苦使の条制以外のことで罪を犯して (=内律違反を犯して)還俗とまでには至らない場合、仏法に依って、三綱 に、事を量り科罰させること。還俗したり罰を受けた人は、属す寺の三綱及び 衆事を告訴することはできない。ただし、もし謀大逆、謀叛、及び、妖言して 衆を惑わした場合には、この限りでない。 ○22 私度条 私度、及び、他人になりすまして官度を受け、すでに還俗の判決を受けてな お、法服を着用したならば、律に依って科断すること。師主、三綱及び同房の 人も、事情を知っていたならば、それぞれ還俗とする。同房でないとしても、 事情を知っていながら容止して1宿以上を経過したならば、皆、100日苦使 する。僧尼が、事情を知っていながら浮逃の人を居止して1宿以上を経過した ならば、これもまた100日苦使する。この罪は、この条文と律の条文とに依 り、罪の重い側の条文に依って論じること。 ○23 (教化条) 僧尼は、俗人に経像を授け、門ごとに歴訪して教化したならば、100日苦使 する。このとき、俗人については、律に依って論じること。 ○24 出家条 家人、奴婢等が、もし出家することがあり、のちに罪を犯して還俗、または自 ら還俗したならば、いずれも追跡して旧主に帰すこと。おのおの元の身分に戻 すこと。私度の人は、たとえ経業があっても、度したとは見なされない。 ○25 外国寺条 僧尼が、100日苦使の罪を犯すことがあって、それを3度経たならば、在所 を改めて、外国〔げこく〕の寺に配すること。したがって、畿内の寺に配入す ることはできない。 ○26 (布施条) 斎会には、奴婢、牛馬、及び兵器を以て、布施に充てることはできない。僧尼 も、これらを安易に受納することはできない。 ○27 焚身捨身条 僧尼は、焚身・捨身といった宗教行為を行うことはできない。もし違反した場 合、また由来するところの者は、いずれも、律に依って科断すること。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/03/18) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================