■ 第八 戸令 ≪全45条≫ ○01 為里条 戸は、50戸を以て里とすること。里ごとに長を1人置くこと。{職掌は、戸 口を検校し、農桑を課し植えさせること。非違を禁察し、賦役を催し使役する こと}。もし山谷の隔たりが険しく、位置が離れており、人口が少ない所に は、便宜に従って考えて置くこと。 ○02 定郡条 郡は、20里以下16里以上を以て、大郡とすること。12里以上を上郡とす ること。8里以上を中郡とすること。4里以上を下郡とすること。2里以上を 小郡とすること。 ○03 置坊長条 京は、坊ごとに長を1人置くこと。4坊に令を1人置くこと。{職掌は、戸口 を検校し、非盗を督察し、賦徭を催し使役すること}。 ○04 取坊令条 坊令には、正八位以下の、明廉強直にして、時の政務に堪える者を採って充て ること。里長・坊長には、いずれも白丁の清く正しく、強堅な者を採って充て ること。もしその里・その坊に人材がなければ、比隣の里・坊より選び用いる ことを許すこと。{もし八位以下の者で、その意志があれば許すこと}。 ○05 戸主条 戸主には、皆、家長を以てなすこと。戸の内に課口があるならば課戸とするこ と。課口がなければ不課戸とすること。{不課というのは、皇親、及び八位以 上、男年16以下、また、蔭子、耆、癈疾、篤疾、妻、妾、女、家人、奴婢を いう}。 ○06 三歳以下条 男女は、3歳以下を黄とすること。16以下を小とすること。20以下を中と すること。男は、21を丁とすること。61を老とすること。66を耆とする こと。夫がなければ寡妻妾とすること。 ○07 目盲条 ひとつの目が盲目、両耳が聞こえない、手に2つの指がない、足に3つの指が ない、手足に大きな親指がない、頭にできものができて髪が禿げ落ちている (白癬寄生性匍行疹やハンセン氏病による脱毛か)、久漏〔もるやまい〕(身 体が腐り、そこから膿汁が出て止まらない病気。重度の痔瘻か)、下重〔げ じゅう〕((男子の)陰核が張腫して歩行困難となる病気。陰嚢ヘルニアまた は陰嚢水腫)、大【《やまいだれ》+嬰】【《やまいだれ》+重】〔だいよう しゅう/だいえいしゅう〕(【《やまいだれ》+嬰】は頸部の腫れもの(風土 性甲状腺腫瘍の一種)、【《やまいだれ》+重】は足の腫れもの(象皮病)。 その大きなものができている場合)、こうした類(の人)は、皆、残疾とする こと。癡〔おろかひと〕(重度の精神発達遅滞)、唖(発語不能の言語障 害)、侏儒(いわゆる小人症)、腰背部の骨折や脊髄損傷等による不自由があ る、一支廃(1本の手足が不具)、こうした類(の人)は、皆、癈疾とするこ と。悪疾(=癩病。ハンセン氏病)、癲癇と精神異常、二支廃(2本の手足が 不具)、両目が見えない、こうした類(の人)は、皆、篤疾とすること。 ○08 老残条 老残(老丁・残疾)は、いずれも次丁とすること。 ○09 五家条 戸は、皆、5家で相互に保(守)ること。1人を長とすること。以て相互に検 察させること。非違をなすことのないこと。もし、遠くの来客が宿留すること があり、また、保内の人が行詣する所があるならば、いずれも、同保に話して 知らしめること。 ○10 戸逃走条 戸が逃走したならば、5保に追訪させること。3年以内に捕らえられなけれ ば、計帳から除くこと。その土地は公に収還すること。収還までの期間は、5 保及び三等以上の親類が、均分して耕作・収穫すること。租調は代行して輸す こと。{三等以上の親類というのは、同里に居住する者をいう}。戸の内の口 が逃げたならば、同戸が代行して輸すこと。6年以内に捕らえられなければ、 これもまた計帳から除くこと。その土地については、上記の法に準ずること。 ○11 給侍条 年80及び篤疾には、侍を1人給付すること。90に2人。100歳に5人。 皆、子孫を優先的に充てること。もし子孫がなければ、近親を採ることを許す こと。近親がなければ、外より白丁を採ること。もし同家の中男を採りたいと 欲する者には、いずれも許可すること。郡領以下の官人は、しばしば巡察する こと。もし供侍が法に適っていない場合は、便宜に従って推決すること。篤疾 が10歳以下で、二等以上の親類があるならば、侍は給付しない。 ○12 聴養条 子がない場合には、四等以上の親類の、子の世代に合致する者を養うのを許可 すること。すぐに本属(本籍のある官司)に報告して、旧から除き新戸籍に附 けること。 ○13 為戸条 戸の内より、口を析出して、新しい戸を作りたいとの願いがあったとき、中男 になっていない場合、及び、寡妻妾は、いずれも析出することはできない。分 けるときには、この令は用いないこと。 ○14 新付条 新しく戸に附けるときは、皆、保証を取って、本籍のない理由を問うこと。逃 亡し、詐り、なりすますのでないことを確認し、しかる後に許可すること。先 のものと2つの本籍があるならば、本国に属すものとして定めること。ただし 大宰の部内、及び三越、陸奥、石城、石背等の国は、現在の住所に属すものと して定めること。もし2つの本籍があるならば、前の本籍に属すものとして定 めること。法によって析出できないのではなくて、失郷によって本籍より分か れて合戸するときは、またかくの如くすること。 ○15 居狭条 戸は、土地の足りない郷に居て、余地のある(豊かな)所へ移り住もうと願う とき、国境を出ないならば、本郡に申牒〔しんちょう/しんぢょう〕(=上 申)すること。当国が処分すること。もし国境を出るならば、太政官に申請し て報せを待つこと。国郡は、閑の月に領送すること。付領し終えたならば、お のおの太政官に申告すること。 ○16 没落外蕃条 外蕃(異国)に没落していた人が帰還したとき、及び、化外の人(異国人)が 帰化するとき、所在の国郡は衣食を給付すること。状況をつぶさにして飛駅を 発して申奏すること。異国人は、余地のある国の本籍に附けて安置すること。 没落の人は、旧の本籍に属すこと。旧の本籍がなければ、任意の近親の籍に附 けること。いずれも、食料を給付して逓送し、前所に達するようにすること。 ○17 絶貫条 浮逃して籍が絶えた者、及び、家人、奴婢、放されて良となった者が、もし良 と訴え出て免れることができたならば、いずれも所在地の籍に附けること。も し本籍に帰還したいと願うならば許可すること。 ○18 造計帳条 計帳を作るには、毎年6月30日以前に京国の官司は、所部の手実(=戸主自 らの実状申告書)を請求すること。つぶさに家口、年紀(=年齢)を注記する こと。もし全ての戸が郷になければ、すぐに旧の籍に依って転写すること。併 せて居ない理由を顕わすこと。手実を収受し終わったならば、式に依って帳を 作り、連署して、8月30日以前に太政官へ申し送ること。 ○19 造戸籍条 戸籍は、6年に1度作ること。11月上旬より着手し、式に依って検討作成す ること。里ごとに1巻とすること。全部で3通写すこと。つぎ目に皆、その 国、その郡、その里、その年の籍と注記すること。5月30日までに終えるこ と。2通は太政官に申し送ること。1通は国に留めること。{雑戸・陵戸の籍 は、さらに1通写して、それぞれ本司に送ること}。用いるところの紙・筆等 の調度は、皆、当該の戸に出させること。国司は用いるところの量を計算し て、臨時に斟酌すること。百姓を侵損することはできない。籍が太政官に到着 したならば、いずれもまずすぐに納めて、その後検討せよ。もし増減を隠没し て矛盾するところがあれば、状況に応じて推問すること。国が、錯失したと承 認したならば、すぐに省籍に、つぶさに事の理由を注記すること。国もまた、 帳籍に注記すること。 ○20 造帳籍条 戸口については、帳籍を作るついでに、年齢を計算し、丁・老・疾に当たると なった場合は、課役を徴し、または免除し、また、侍を給付すべき場合は、 皆、国司自ら形状を審査して、以て簿に定めること。ひとたび定めて以後、さ らに審査してはならない。もし詐欺の疑いありと疑わしい場合は、また事情に 応じて見定めて、以て帳籍に附けること。 ○21 籍送条 籍は、太政官に送る場合は、当国の調使に持たせて送ること。もし調を京に入 れないならば、専用の使いを立てて送ること。 ○22 戸籍条 戸籍は、常に5回分(=30年分)を保管すること。遠年のものは、次のもの の作成に従って破棄すること。{近江の大津の宮の庚午の年の籍は破棄しな い}。 ○23 応分条 相続財産を分割する際には、家人・奴婢{氏賎は範囲外}、田宅、資財{功田 功封は直系男女のみに入れること}、を総計して、方法を作ること。嫡母、継 母、及び嫡子に、おのおの2分{妾は女子の分に同じ}。庶子に1分。(各相 続人の(?))妻家の所得は分割の限りにあらず。相続人である兄弟のうちのある 者が亡くなっている場合は、その子が父の分を承けること{養子もまた同 じ}。兄弟が皆、亡くなっているならば、それぞれの子が均分すること。姑 (相続人の父の姉妹)と姉妹は、未婚であれば、それぞれ男子の半減分とする こと。{すでに嫁いでいても、財産分与を経ていない者はまた同じ}。寡妻妾 は、男がなければ、夫の分を承けること{女の分は上に同じ。もし夫・兄弟、 皆、亡くなっているならば、それぞれ一子の分に同じ。男があるも無いも等し くする。これは、夫の家に在って志を守る者についていうものである}。もし 同財共居しようと欲するとき、及び、死亡者の生存中に処分して証拠が明確で あるときには、この令は用いない。 ○24 聴婚嫁条 男の年は15、女の年は13以上で、結婚を許可すること。 ○25 嫁女条 娘を嫁がせる場合は、皆、先ず、祖父母、父母、伯叔父姑(父方のおじ・お ば)、兄弟、外祖父母に報せること。次に、舅(母方のおじ)従母(母方のお ば)、従父兄弟(いとこ)、同居共財しておらず、また上記の親族がなけれ ば、いずれも娘の希望に任せて、婚主(婚姻をつかさどる人)とすること。 ○26 結婚条 婚約がまとまってのち、3ヶ月経過しても理由無く成婚に至らない場合、及 び、逃亡して1ヶ月以内に帰還しない、もしくは外蕃(異国)に没落して1年 以内に帰還しない、及び、徒罪以上の犯罪を犯した場合、女家が破談を欲した ならば許可すること。すでに成婚した場合でも、夫が外蕃に没落して、子供が ある場合は5年、子供がない場合は3年以内に帰還せず、また、逃亡して、子 供がある場合は3年、子供がない場合は2年以内に出てこなければ、いずれも 改嫁を許可すること。 ○27 先姦条 婚前交渉があってのちに結婚したならば、婚前交渉が赦免された場合でも、な お離婚させること。 ○28 七出条 妻を棄てるには、以下の7つの理由があること。1には、子がないこと。2に は淫乱。3には舅姑に仕えない。4には口舌。5には窃盗。6には妬忌。7に は悪疾。皆、夫が手書して棄てること。尊属は、近親と同じく連署すること。 もし文字が解らなければ、書指(署名代りに指の長さと節の位置を写し描いた もの)で証拠の印とすること。妻を棄てる状況があるといえども、3つ棄てる ことのできない理由がある。1には、妻が舅姑の喪をつとめ終えたとき。2に は結婚したときに賤しくて、後に貴い身分となったとき。3には帰す実家がな いとき。しかし、義絶、淫乱、悪疾を犯したならば、この令にかかわらない。 ○29 先由条 妻を棄てることは、先ず、祖父母、父母に報せること。もし祖父母、父母がな ければ、夫は自由にすることができる。皆、その妻家より将来するところの見 在の財を返還すること。もし使用していた婢に子があれば、また返還するこ と。 ○30 嫁女棄妻条 娘を嫁がせたり、妻を棄てたりすることが、正当な親族によって行われなかっ た場合、成婚ならず、離婚をなさない。正当な親族が後で知って、3ヶ月以内 に、不当なものとして理を糺す手続きを取らなかった場合には、皆、それ以上 論ずることはできない。 ○31 殴妻祖父母条 夫が、妻の祖父母、父母を殴り、また、妻の外祖父母、伯叔父姑、兄弟姉妹を 殺した、もしくは、夫妻間の祖父母、父母、外祖父母、伯叔父姑、兄弟姉妹同 士が互いに殺し合った、また妻が、夫の祖父母、父母を殴り罵り、夫の外祖父 母、伯叔父姑、兄弟姉妹を殺傷した、また夫を害そうとしたならば、赦にあっ てその罪が許されたとしても、皆、義絶(縁が途絶えた=強制離婚)とするこ と。 ○32 かん寡条 配偶者に先立たれた者、親や子が無く孤独な者、貧窮者、老疾者が、自活する ことができない場合は、近親者に収養させること。もし近親者がなければ、坊 里に預けて安置供給させること。もし路上に在って病を患い、賦役に任じるこ ともできなければ、当地の郡司が収容し、村里に預けて安養させること。こう して医療を加え、併せて事情を検討審問すること。つぶさに本籍属すところを 注記すること。病が癒えた日に、前の居住地へ移送すること。 ○33 国守巡行条 国守は、毎年1度、属郡を巡行し、風俗を観て、古老に古事等を問い聞き、囚 徒について記録し、裁判の不正を正し、政ごとや刑罰の得失を詳しく視察し、 百姓の憂い苦しむところを知り、敦くは五教を諭し、農の功を勧め務めさせる こと。部内に、好学、篤道、孝悌、忠信、清白、異行にして、郷閭に聞こえの 高い人があれば、推挙して上京させること。不孝悌にして、礼を乱し、常を乱 し、法令に従わない者があれば、糺して捕らえること。郡内に、拓けた田畑が あり、産業が盛んで、礼教が設けられ、禁令が行われていれば、郡領の能とす ること。閑散として、農事が荒れ、盗みが起こり、獄訟が繁くある場合は、郡 領の不とすること。もし郡司が、官に於いて、公廉であり、私腹を肥やさず、 色を正して節操を保ち、謙虚であるならば、必ず慎重に目に留めておくこと。 心持ちが貪欲で穢らわしく、へつらいいつわって名声を求め、公節無くして、 私門が繁栄していくようなことがあれば、これもまた慎重に目に留めておくこ と。政績の能不、また、行状の善悪は、皆、記録して考状に入れ、それを以 て、考課すること。政事を侵害し、考課を待たぬ場合には、事情に応じて糺弾 推問すること。 ○34 国郡司条 国郡司は、管轄の部内の検校に向かうにあたっては、百姓の送り迎えを受けた り、産業を妨げたり廃したり、また、供給を受けて煩擾させるようなことをし てはならない。 ○35 当色為婚条 陵戸、官戸、家人、公私の奴婢は、皆、同種同身分間で婚姻すること。 ○36 造官戸籍条 官戸・奴婢は、毎年正月に、本司・色別(身分種類別)に、おのおの籍を2通 作ること。1通は太政官に送ること。1通は本司が保管すること。工作・書 算・医術等の技術を持つ場合には、種類別に具体的に注記すること。 ○37 良人家人条 良人、家人が、不法に身分をおとしめられ、賎に充てられて、奴婢と結婚させ られて男女を生んだ場合、後に訴え出て免除されることができたならば、生ん だところの男女は、いずれも良人及び家人の身分に属させること。 ○38 官奴婢条 官奴婢では年66以上及び癈疾となった者、また、没官となるも戸を為すこと を認められた者は、いずれも官戸とすること。年76以上となった場合は、い ずれも放して良人とすること。{任意に希望するところの籍に附けること。反 逆の縁坐で80以上になった者はまた良人に属すのを許可すること}。 ○39 放家人奴婢為良及家人条 家人、奴婢を放して、良人及び家人とした場合には、これを本籍地に報告し、 申牒〔しんちょう/しんぢょう〕(=上申)して、旧籍から除き新籍に附ける こと。 ○40 家人所生条 家人の生んだところの子孫は、相承して家人とすること。皆、本主が任意に駆 使すること。ただし、同時期にその全員を集めて駆使したり、売買することは できない。 ○41 官戸自抜条 官戸、家人、公私の奴婢で、略奪され外蕃に没落していた者が、自ら抜け出し 帰還することができたならば、皆、放して良人とすること。略奪されたのでは なく、また主に背いて外蕃に入り、後に帰還した者は、おのおの、官・主に返 還すること。 ○42 為夫妻条 官戸、陵戸、家人、公私の奴婢が、良人と結婚して生んだところの男女は、賎 であるとの実情を知らなかった場合には、良人に属させること。皆、離婚させ ること。逃亡して生んだところの男女は、皆、賎に属させること。 ○43 奴姦主条 家人、奴が、主及び主の五等以上の親族と(婚外)情交して生んだところの男 女は、おのおの没官(官が没収=官有の賎)とする。 ○44 化外奴婢条 異国人である奴婢が、自ら我が国に帰化したならば、ことごとく放して良人と すること。すぐに本貫を定め籍に附けること。本主の先から帰化したといえど も、本主が自分の奴婢と認定することはできない。もし、異国の人で、はじめ から我が国で賎に充てられた場合に、その二等以上の親類が、のちに帰化した ならば、代価を払って良人とするのを許可すること。 ○45 遭水旱条 水害干ばつ、蝗などの災害に遭い、作物が実らない所で、糧食が少なく賑給す べきときには、国郡は実情を検討し、あらかじめ太政官に申告して奏聞するこ と。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/03/18) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================