■ 第九 田令 ≪全37条≫ ○01 田長条 田は、長さ30歩、広さ12歩を段とすること。10段を町とすること。段の 租稲2束2把{町の租稲22束}。 ○02 田租条 田租は、国土の収穫がある早晩に準じて、9月中旬から輸納を始めること。 11月30日以前に納入を終えること。舂米を京に運ぶことは正月より運出を 始めること。8月30日以前に納入を終えること。 ○03 口分条 口分田の班給は、男に2段{女は3分の1減ずること}。5歳以下には班給し ない。土地が余地があったり不足したりする場合は、郷土の法に従わすこと。 易田(地味が薄く隔年で耕種する田)は、2倍にして班給すること。班給を終 えたならば、つぶさに町段及び四至(東西南北の隣接地)を記録すること。 ○04 位田条 位田は、一品に80町。二品に60町。三品に50町。四品に40町。正一位 に80町。従一位に74町。正二位に60町。従二位に54町。正三位に40 町。従三位に34町。正四位に24町。従四位に20町。正五位に12町。従 五位に8町{女は3分の1減ずること}。 ○05 職分田条 職分田は、太政大臣に40町。左右大臣に30町。大納言に20町。 ○06 功田条 功田は、大功は世襲。上功は三世に伝えること。中功は二世に伝えること。下 功は子に伝えること{大功は、謀叛以上の罪を犯さず、それ以外は、八虐を犯 し除名に処せられたのでなければ、いずれも中途で没収することはない}。 ○07 非其土人条 田の班給は、その土地の人でない場合には、皆、土地の不足しているような郷 に受けることはできない{勅で指定したところのものはこの令に関わらな い}。 ○08 官位解免条 職田、位田を班給される人について、もしその歴任の官位の中に解免されたも のがあるならば、その解免されたものに属する田は没収すること。除名された 者は、口分田のみとする。もし賜田があれば、これもまた没収すること。その 家の中に、官位ある人があり、また、班給されるべき口分田が満たされていな い場合には、没収ぶんからそちらへ回して班給するのを許可すること。余剰ぶ んがあれば、没収すること。 ○09 応給位田条 位田を班給されるべき人が、未だ班給されないうちに、及び、全てを班給され ないうちに死亡した場合、子孫がそれらを継承してはならない。 ○10 応給功田条 功田を班給されるべき父祖が、未だ班給されないうちに、及び、全てを班給さ れないうちに死亡した場合、子孫に班給すること。 ○11 公田条 諸国の公田は、皆、国司が郷土の物価に応じて賃租すること。その価は太政官 に送り、以て雑用の費用に充てること。 ○12 賜田条 別勅(個別の勅)で人に賜う田を、賜田と名付ける。 ○13 寛郷条 国郡の界内で、所部に班給する田が、きちんと足る場合は、寛郷(豊かな郷) と位置付けること。足らない場合は、狭郷と位置付けること。 ○14 狭郷田条 狭郷の田の不足分は、寛郷で遙受するのを許可すること。 ○15 園地条 園地の班給は、地の多少に応じて均等に班給すること。もし戸が絶えたなら ば、公に返還すること。 ○16 桑漆条 桑漆の生産を課すについては、上戸に桑300根、漆100根以上。中戸に桑 200根、漆70根以上。下戸に桑100根、漆40根以上。これらを5年で 植え終えること。郷土が桑漆に適さない場合、及び、狭郷では、必ずしも数を 満たさなくてもよい。 ○17 宅地条 宅地の売買は、皆、所部の官司に報告して、申牒〔しんちょう/しんぢょう〕 (=上申)して、しかる後に許可すること。 ○18 王事条 王事(天皇の命令で行うこと)が原因で外蕃に没落して帰還しない者につい て、その人の分の地は、同居の親族がある場合、10年を経過して後、収還す ること。帰還の日には、便宜に応じて、すぐ班給すること。王事によって、そ の人がそのまま死亡した場合には、その地は子に継承させること。 ○19 賃租条 田の賃租は、おのおの1年限りとすること。園は任意に賃租、及び、売却する こと。皆、所部の官司に報告して、申牒〔しんちょう/しんぢょう〕(=上 申)して、しかる後に許可すること。 ○20 従便近条 口分田の班給は、努めて身近な至便なところにすること。隔越してはならな い。もし国郡の区画変更が原因で、地が他の境に入れられたり、また、ばらば らに入り組んだりした場合には、従来の区画を元に受給するのを許可するこ と。在所に田がなければ、離れた郡で受給するのを許可すること。 ○21 六年一班条 田は、6年に1度班給すること{神田、寺田は、この限りにあらず}。もし死 亡を以て田を退いた者については、次の班年に至るごとに、すぐ収公するこ と。 ○22 還公田条 公に返還する田は、皆、主が自ら量って、1段として返還させること。削った り重ねたりして割き返してはならない。前から削られたりしていたのならば許 可すること。 ○23 班田条 班給にあたっては、班給の年ごとに、正月30日までに太政官に申告するこ と。10月1日より開始し、京国の官司が、あらかじめ検討して簿を作るこ と。11月1日になったならば、受給者を全て集めて、対面して同時に受給す ること。2月30日までに終わらせること。 ○24 授田条 田の受給にあたっての優先順位は、先に課役に、その後で不課役に。先に無い ものに、その後で少ないものに。先に貧しい者に、その後で富める者に。 ○25 交錯条 田が交錯することがあって、両主が交換したいと求めたならば、本部に報告 し、判定して、田簿から除附するのを許可すること。 ○26 官人百姓条 官人百姓は、いずれも田宅園地をもって、捨施し、また、売易して、寺に与え るてはならない。 ○27 官戸奴婢条 官戸、官奴婢の口分田は、良人と同じ。家人、私奴婢は、郷の寛狭に応じて、 いずれも3分の1を班給すること。 ○28 為水侵食条 田が、水によって侵食された場合、旧の水流が変化し、新たに耕作可能な土地 が出現した場合は、まず侵食された家に班給すること。 ○29 荒廃条 荒廃して3年以上になる公私の田を借佃しようという者がある場合、官司に報 告し、判決を受けて借りること。隔越している場合でもまた許可すること。私 田は3年経ったら主に返還すること。公田は6年経ったら官に返還すること。 満限日に、借りた人の口分田が足らない場合、公田であれば、そのまま口分田 に充当するのを許可すること。私田はそうしてはならない。官人が、所部の境 界内に空閑地があり、耕作を願ったならば、任意に営種するのを許可するこ と。交替、解官の際は、公に返還すること。 ○30 競田条 係争中の田について、判決によって得たとき、後に改判したとしても、それま でに耕したり植えたりしていたならば、苗は植えた人に入れること。耕したけ れども植えてはいない場合には、その功力(耕作の労力)を報いること。断決 を経過しないまま、強いて耕したり植えたりしたものならば、苗は地判に従わ せること。 ○31 在外諸司職分田条 在外の諸司の職分田は、大宰の帥に10町。大弐に6町。少弐に4町。大監、 少監、大判事に2町。大工、少判事、大典、防人の正、主神、博士に1町6 段。少典、陰陽師、医師、少工、算師、主船、主厨、防人の佑に1町4段。 諸々の令史に1町。史生に6段。大国の守に2町6段。上国の守、大国の介に 2町2段。中国の守、上国の介に2町。下国の守、大上国の掾に1町6段。中 国の掾、大上国の目に1町2段。中下国の目に1町。史生は前述の如く。 ○32 郡司職分田条 郡司の職分田は、大領に6町。少領に4町。主政、主帳に各々2町。狭郷は、 (事情に応じるものとし、)当然のようにこの数を満たしてはならない。 ○33 駅田条 駅田は、みな駅に近いものから班給すること。大路に4町。中路に3町。小路 に2町。 ○34 在外諸司条 在外の諸司の職分田は、交替以前に植えたものは前の人に入れること。もし前 の人が自ら耕したけれども植えてはいない場合は、後の人は、その功直に報い ること。闕官の田は、公力を用いて営種すること。その際にある当年の苗子 (作物と実)は、新人が到着した日に、数に依って給付すること。 ○35 外官新至条 外官は、新任で到着したならば、秋の収穫に及ぶ頃までに、式に依って給粮を 給付すること。 ○36 置官田条 畿内に官田を置くにあたっては、大和、摂津に各々30町。河内、山背に各々 20町。2町ごとに牛1頭を配給すること。牛は1戸に1頭飼養させること {中中以上の戸をいう}。 ○37 役丁条 官田は、丁役(労働(?))したところについては、宮内省は、毎年あらかじめ、 来年に植えるところの種類、及び、町段の多少に応じて、式に依って功を量っ て、太政官に申告して支度・配当すること。上役(役目を終える日(?))には、 国司が、役月の閑要に応じて、事情を裁量して(駆使の者などを)派遣配当す ること。田司は、年ごとに交替すること。宮内省は、年の終わりに、収穫の多 少を校量して、考課評定すること。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/03/18) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================