■ 第十二 選叙令 ≪全38条≫ ○01 応叙条 叙すべき人(ただし勅授ではない六位以下の人)について、本司は、8月30 日以前までに校定すること。式部は、10月1日より着手し、12月30日ま でに終えること。太政官は、正月1日より着手し、2月30日までに終えるこ と。みな、期限内に処分し終えること。叙すべき人について、本司は、旅程を 量って申し送り、省(式部省・兵部省)に集めること。 ○02 内外五位条 内外の五位以上は勅授。内八位、外七位以上は奏授。外八位、及び、内外初位 は、みな、太政官の判授。 ○03 任官条 任官について、大納言以上、左右大弁、八省の卿、五衛府の督、弾正の尹、大 宰の帥は勅任。その他の官は奏任。主政、主帳、及び、家令等は判任。舎人、 史生、使部、伴部、帳内、資人などは、式部の判補。 ○04 応選条 選任にあたっては、ことごとく状迹〔じょうじゃく〕(行状と毎年の考課成 績)を審査すること。選考の日には、まず徳行のある人を優先すること。徳行 が同じであれば、才用の高い人を取ること。才用が同じであれば、労効の多い 人(まず勤務年数が多い人、次に年長者)を取ること。 ○05 任両官条 2つ以上に任官した場合、ひとつを正とすること。その他を兼とすること。 ○06 任内外官条 内外の文武官に任官した場合に、本位(本人の位階)と高下があるならば、も し職事(実際に任にあたる際の官職)(の相当位)が卑しければ行とするこ と。高ければ守とすること。 ○07 同司主典条 同司の主典以上には、三等以上の近親を用いてはならない。 ○08 在官身死条 在官中に死亡したり、また、解免があったりした場合は、みなすぐに言上する こと。国司については、大上国の介以上、中国の掾以上が、いずれも欠けた場 合、及び、下国の守が欠けたならば、みな馳駅〔ちやく〕(臨時の伝令を発す ること)して、太政官に申告すること{もし大宰の帥、及び、三関国、壱岐、 対馬の守の場合は、1人欠けただけでも、なお、馳駅の例に従えること。返報 を待つ間は、大宰には、判事以上の官人を発遣して代任させること}。新任し 終えたならば、馳駅して発遣すること。 ○09 遷代条 初位以上の長上官の交替までの期間は、みな6考(6回の考)を以て期限とす ること。6考が中中ならば、1階進めて叙すこと。3考が中上であるごとに、 及び、2考が上下である、また、1考が上中ならば、それぞれさらに1階進め て叙すこと。1考が上上ならば、2階進めて叙すこと。4階を進め加える場 合、及び、考を計算すると五位以上に至るような場合は、奏聞して、別に叙す こと。考が満たない間に、理由があって失誤なく解任(役所の廃止や定員削 減、遭喪、病気等)、及び、考が中下以下にある場合には、進める限りにあら ず。もし、上考下考があって、相殺して、なお上考があれば、各法に依って、 階を加えるのを許可すること。考が満たない間に、現任から遷って内外の官と する場合は、いずれも前労を通計するのを許可すること。6考の他に余考があ れば、通計して後任の考に充てること。 ○10 計考応進条 考を計算して進める場合には、かねて上考下考があれば、相殺することができ る。ひとつの中下ごとに、ひとつの中上を以て相殺することができる。ふたつ の中下、及び、ひとつの下上ごとに、ひとつの上下を以て相殺することができ る{下上というのは、つまり、私罪を犯してない者をいう}。上中以上は、下 考があったとしても、そのまま上第(上中以上の考)に従えること{下考とい うのは、つまり、解官に至らない者をいう}。公罪の下中、私罪の下上は、上 下があったとしても、なお、下考に従えること。 ○11 散位条 散位は、もし現在ある官職に欠員がない場合、欠員があるといっても、才識が 相当しない場合は、六位以下は分番して上下すること。欠員があるごとに、 各々本位に依って、才を量って任用すること。{分番については、2考以上を 経過して、長上に移入したならば、いずれも7考を以て選限(成選年限)とす ること。もし1考の経過で長上に移入したならば、6考の例と同じにすること を許すこと}。8考を経過したならば、8考が中であれば、1階進めて叙すこ と。8考のうち、4考が上、4考が中ならば、2階進めて叙すこと。8考が上 であれば、3階進めて叙すこと。考が8に満たないといえども、異国に使いし て4周年を満たしたならば、またこのようにすること。すなわち、上考下考が あるならば、前の例に依ること。別勅、及び、技術を以て、諸司の長上に直す る場合には、考限、叙法は、いずれも職事(長上官)と同じである。 ○12 考満応叙条 考が満期となり叙すべき人について、高行異才がある、或いは、優れた治国の 見識を持つならば、みな抜擢するにあたって、考や及第に依らずにすることを 許すこと。選限に通常の条を以てしてはならない。 ○13 郡司条 郡司には、性識清廉であり、時の務めに秀でた人を取って、大領、少領とする こと。剛健かつ聡敏であり、書算が巧みである人を、主政、主帳とすること。 大領には外従八位上、少領には外従八位下に叙すこと{大領、少領は、才用が 同じであれば、まず国造を取ること}。 ○14 叙舎人史生条 舎人、史生、兵衛、伴部、使部、及び、帳内、資人を叙すにあたっては、いず れも8考を以て期限とすること。8考が中ならば、1階進めること。8考のう ち、4考が中、4考が上ならば、2階進めること。8考が上ならば、3階進め て叙すこと。 ○15 叙郡司軍団条 郡司や軍団を叙すにあたっては、みな10考を以て期限とすること。10考が 中ならば、1階進めること。10考のうち、5考が上、5考が中ならば、2階 進めること。10考が上ならば、3階進めて叙すこと。上考下考がある場合 は、相殺方法については、いずれも8考の例と同じ。外散位は、分番して上下 (国府へ出勤)した場合は、みな12考を以て期限とすること。12考が中な らば、1階進めること。12考のうち、6考が上、6考が中ならば、2階進め ること。12考が上ならば、3階進めて叙すこと{相殺方法は、郡司と同 じ}。分番の2考、長上の8考は、また、10考の例と同じ。もし3考以上を 経過したならば、いずれも11考を以て期限とすること。 ○16 帳内資人条 帳内、資人等の才が、文武の貢人として秀でているならば、また貢挙すること を許すこと。及第したならば、内位に叙すこと。不第ならば、おのおの本主に 返還すること。 ○17 本主亡条 帳内、資人等は、本主が死亡したならば、1周忌の年の後に、みな式部省に送 ること。もし職事に任用したならば、そのまま改めて内位に入れること。雑色 に任用するには、考満の日に内位に叙すことを許すこと。もし無位の者で(そ こでの勤めが)6年に満ちてない場合は、みな本籍地に返還すること。もし (本籍地に返還せずに)めぐらして帳内・資人に充てたならば、また前労を通 計することを許すこと。 ○18 以理解条 長上官は、理由があって失誤なく解任した場合には、後任の日に、前労を通計 することを許すこと。考によって解任したり、また罪を犯して解任した場合に は、この例を用いない。理由があって失誤なく解任した場合でも、理由なく私 的に勤務停止して、1年を過ぎたならば、また前労を除くこと。 ○19 帳内労満条 帳内の労が満ちて叙すにあたっては、その才が理務に秀でており、本主が、内 位に叙したいと欲したならば許可すること。 ○20 官人至任条 官人(主典以上)の交替着任にあたっては、印文がない場合には、交替させて はならない。 ○21 官人致仕条 官人は年齢70歳以上になれば、致仕(=定年退職)を許可する。五位以上の 場合は上表する(=天皇に文書を奉る)こと。六位以下の場合は、太政官に申 告して奏聞すること。 ○22 職事官患解条 職事官は、病気となって120日を経過した場合、及び、親の病気によって休 暇が200日を満たした場合、及び、父母の身の回りの世話をする(侍する) 場合は、いずれも解官すること{侍すべき人が、有能かつ必要な人物で、駈使 に力を借りることがあるようであれば、官帯のままで侍させること}。みな状 況を詳細に太政官に申告して奏聞すること。番官は、本司が判断して解任する こと。いずれも本籍地へ下すこと。解任については、申告後、すぐに取り消す ことはできない。才能技術をもって諸司に長上している人については、もし侍 に当たったり、喪に遭ったり、病気で解任した場合には、侍が終わったとき、 服喪期間が満ちたとき、及び、病が癒えた日に、召還して本司に仕えさせるこ と。侍に充てる人は、まず優先的に兼丁(=家に2人以上の正丁・中男がい る)を充てていくこと{兼丁とは、中男以上をいう}。 ○23 癲狂【酉凶】酒条 過去に一度でも癲癇・発狂・酒乱のあった人、及び、祖父・父・子・孫が死罪 を犯したならば、みな侍衛の官(侍従以上、内舎人、中務判官以上、内記、兵 衛など)に任じることはならない。 ○24 散位身才条 散位については、身体才能が劣弱で、理務に堪えない場合は、式部が判断して 諸司の使部に充てること。 ○25 失位記条 位記を紛失した場合は、所在地に陳牒すること。本籍地本司の長官は、その紛 失理由を推問し、状況の詳細を省(中務・式部・兵部)に申告すること。授案 (位記発給記録簿)を検討して、太政官に申告して再発給すること。紛失によ り再発給するとの旨を、新しい位記にも授案にも詳細に注記すること。 ○26 位記錯誤条 位記の記載に錯誤があった場合に、訂正し改めて授ける場合には、五位以上は 奏聞すること。六位以下は判定して改めること。いずれも授案に注記するこ と。 ○27 国博士条 国博士、医師は、いずれも部内で任用すること。もし人材がなければ、付近の 国から採用することができる{考限、叙法、及び相殺方法は、いずれも郡司と 同じ}。補任の後は、いずれも理由なく安易に解任することはできない。 ○28 内外文武有闕条 内外の文武官は、欠員があれば、欠員数に応じてすぐに補充すること。総員を 交替させることはできない。 ○29 秀才進士条 秀才には、博学高才の人を任用すること。明経には、学2経以上に通じている 人を任用すること。進士には、明確に時務をならい、併せて、文選、爾雅を読 みこなした人を任用すること。明法には、律令に精通している人を任用するこ と。みな品行方正清廉であり、名声と素行が相副っていること。 ○30 秀才出身条 秀才の出身(=任挙)にあたっては、上上の第(成績)に正八位上、上中に正 八位下を叙す。明経の上上第に正八位下、上中に従八位上。進士の甲第に従八 位下、乙第、及び、明法の甲第に大初位上、乙第に大初位下。秀才、明経は、 上中以上を得て、蔭がある場合、及び、孝悌(子・孫としての徳)を表彰され た場合には、本来の蔭、本来の第に1階加えて叙すこと。明経は、2経以外 に、1経通じている毎に1等を加える。 ○31 両応出身条 2種(以上)で出身資格がある場合は、高い方の位にしたがって叙すこと。 ○32 為人後者条 誰かの養子である場合、それが兄弟からの養子でないならば、出身することは できない。 ○33 贈官条 (子への)贈官(=蔭位の贈位)は、(父が)王の戦で死亡した場合には、 (父が)生官である場合と同じ。それ以外は、1等下にすること。 ○34 授位条 授位は、みな年齢25歳以上と制限すること。ただし、蔭を以て出身する場合 は、みな年齢21歳以上と制限すること。 ○35 蔭皇親条 皇親に蔭するについては、親王の子に従四位下。諸王の子に従五位下。五世王 (=皇親ではなくなる)は従五位下。その子は1階下にすること。庶子はさら に1階下にすること。ただし、別勅で処分する場合には、この令に拘束されな い。 ○36 考満応叙条 考が満期となり授位する場合に、もし蔭の方が高いことがあれば、高い方に従 えるのを許可すること。 ○37 除名応叙条 除名の罪を犯したのち、処分期限が満期となり、(再び)叙すにあたっては、 (もと)三位以上は、状況を記録して奏聞して勅を聴くこと。正四位は、従七 位下に叙すこと。従四位は、正八位上に叙すこと。正五位は、正八位下に叙す こと。従五位は、従八位上に叙すこと。六位、七位は、いずれも大初位上に叙 すこと。八位、初位は、いずれも少初位下に叙すこと。もし出身の位がこの法 より高いことがあれば、その高い方に従えること。免官、免所居官も、またこ れに準じること。{出身というのは、蔭によるもの、及び、秀才、明経の類を いう}。なお、才に優れていることから、特に授位なさる場合には、いずれも 通常の例に拘束されない。 ○38 五位以上子条 五位以上の子が出身するにあたっては、一位の嫡子に従五位下。庶子に正六位 上。二位の嫡子に正六位下。庶子、及び、三位の嫡子に従六位上。庶子に従六 位下。正四位の嫡子に正七位下。庶子、及び、従四位の嫡子に従七位上。庶子 に従七位下。正五位の嫡子に正八位下。庶子、及び、従五位の嫡子に従八位 上。庶子に従八位下。三位以上は、蔭を孫にまで及ぼすこと。(嫡孫、庶孫 は、それぞれ)子の場合よりも1等下にすること。{外位の蔭については、内 位に準じること}。五位以上は、高い勲位を帯しているならば、そのまま当該 の勲の相当する階に依り、これを官位の蔭と同じにする。(ただしこのと き、)四位は1等下にすること。五位は2等下にすること。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/03/24) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ 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