■ 第十六 宮衛令 ≪全28条≫ ○01 宮閤門条 宮閤門に入るべき人については、本司はつぶさに(自分の部署のそれらの人 の)官位姓名を注記して、中務省に送って、(その記述を)衛府に預けるこ と。(宮城に出入りする人はみな)それぞれの便門(出入りに便利とされる、 勤務の部署に近い門)に応じて籍(=門籍)を置くこと。ただし五位以上はみ な(便門の他にも自由に出入りできるよう、すべての)宮門に置くこと。みな 籍を着けている門でない場合は、いずれも退出することはできない。もし改任 (外官へ異動)となったり使いに行くような類は、本司は当日、省に牒して籍 を除くこと。毎月、1日、16日に、それぞれ一度、籍を換えること。{宿衛 の人もこれに準じること。} ○02 応入禁中条 籍なくして禁中に入るような場合、及び、禁中から物品を請迎し、禁中に物品 を輸送し、丁匠(造営にあたる役民)が役に入る場合は、中務省は臨時に名を 記録して府(衛府)に預けること。50人以上ならば、当衛が記録して奏する こと。輸送することがあって、終わらずに、禁中に宿泊して物品を守ろうと 願ったならば、斟量して留まるのを許可すること。 ○03 兵衛上番条 兵衛、衛士の上番は{衛士の上番というのは、本国から初めて上京する者をい う}、みな正身(本人か)を検点(名簿に点の印を付ける)して、しかる後に 奏聞すること。 ○04 開閉門条 門の開閉については、第1の開門鼓を撃ち終わったならば、すぐに諸門(大門 以外の宮城内諸門)を開くこと。第2の開門鼓を撃ち終わったならば、すぐに 大門を開くこと。退朝の鼓を撃ち終わったならば、すぐに大門を閉じること。 昼の漏が尽きて(=日没となって)、閉門の鼓を撃ち終わったならば、すぐに 諸門を閉じること。{理門(出入りの便宜のため昼夜を通じ開けておく門)は 閉門の範囲にない。}宮城門(羅城門)は、暁の鼓(=第1の開門鼓)を打ち 始めたなら開くこと。夜の鼓(閉門鼓)の音が絶えたなら閉じること。鎰の出 し入れについては、第1の開門鼓の3刻前に出すこと。閉門鼓の3刻後に返す こと。諸衛はすぐに、所部、及び、諸門を按検すること。時を待って行夜(夜 間巡検)する人は、みな兵仗を執って巡行すること。分明に相知ること(互い をよく知っておくこと(?))。毎朝、色別(兵衛・衛士・門部の種類別)にそれ ぞれ1人、在直の官長(宿直している衛府の次官以上)のところへ出向き、平 安(異常がなかったこと)を報告すること。 ○05 未宣行条 詔勅は、まだ宣行(=中務少輔以上が覆奏の後、施行のため太政官に送るこ と)してないときは、司(担当である中務少輔以上)でない人が安易に見ては ならない。 ○06 車駕出行条 車駕〔きょが〕(=行幸する天子)が出行するときには、兵衛・衛士がまず按 行〔あんぎょう〕(=(行列を)調べ整える、ないしは、(先行して)視察) すること。道の辺の日陰・暗がりの所に及んだときは、非常を検察し、前後を 呵叱〔かしつ〕する(=叱る=怒鳴る(?))こと。人が騒々しい声で物を言った り高い所に登っているのを見たなら、下りさせること。もし行幸する所(滞在 地)にあったなら、みな、まず門巷(家の門や街路)を防禁(検察)して、留 まるべからざる所(乗輿の周囲300歩以内)の者を追い斥〔しりぞ〕けるこ と。 ○07 理門条 理門は、夜になったなら火をたくこと。併せて、大きな器に水を貯めておき、 もろもろの出入者を検察すること。 ○08 兵庫大蔵条 兵庫・大蔵の院(建物)の内には、みな火を持って入ってはならない。守当 〔しゅとう〕(=守衛担当)の人は、食事を作る際は、外で作ること。その他 の庫蔵もこれに準じること。 ○09 庫蔵門条 庫蔵の門及び院の外の四面では、常に兵仗を執って防固すること。司(管理担 当の左右兵庫・内兵庫・大蔵省等)でなくして安易に入ってはならない。夜は きちんと時を分けて検行すること。 ○10 諸門条 諸門、及び、守当〔しゅとう〕(=守衛担当)の場所に、正司(担当の衛府) でない役人が来て監察し(ようとし)たならば、先に合契〔ごうけい〕を検査 すること(字を書いた木札を分割して、一方は監察者が携行し、一方は守衛の 部署に置いておき、両者を照合する)。一致すれば検校を許可すること。一致 しなければ捕らえて本府(守衛担当の衛府)に身柄を送ること。 ○11 宮墻条 宮墻の四面の道の内側には物を積んではならない。宮闕の近くで悪臭の物を焼 き、また騒々しい声を上げてはならない。 ○12 宿衛器仗条 宿衛(兵衛・内舎人)の器仗(武器)は、もし誰かが勅と称して求めることが あれば、主司(兵衛府・中務省の判官以上)は覆奏すること。しかる後に渡す こと。 ○13 鹵簿条 鹵簿(〔ろふ〕=天子出御の行列)の中には横入(横切る)してはならない。 監仗(行列の監督担当)の役人が検校する場合は、行き来してもよい。 ○14 車駕臨幸条 車駕が臨幸するところがある際に、もし夜に行幸する場合は、部隊の主帥は、 互いにおのおのを見知っておくこと。このとき侍臣(少納言・侍従・中務判官 以上、及び、内舎人)といえども、外から来たなら勅でない場合はたやすく入 れてはならない。 ○15 奉勅夜門条 勅を受けて、夜、諸門を開く場合は、勅を受けた人はつぶさに開くべき門と併 せて入出の人の名帳を記録して、中務に申し送ること。中務は衛府に申し送る こと。衛府は覆奏すること。しかる後に開くこと。もし中務・衛府ともに勅を 受けたのであれば、覆奏してはならない。勅を受けて実際に出入りする人と、 入出の名帳の名に相違がある場合には、すぐに身柄を拘束して奏聞すること。 ○16 諸門関鍵条 諸門の関鍵〔げんけん〕・管鑰〔かんやく〕は、みな完全に管理すること(?)。 ○17 五衛府条 五衛府(衛門・左右衛士・左右兵衛)の官長は、みな時々、所部を按検し、法 の違反を糺察すること。 ○18 儀仗軍器条 儀仗(礼容に用いる武器)・軍器(征伐に用いる武器)は、10事(1事は弓 1張・箭50隻)以上諸門を出入したならば、みな【片旁】(〔ぼう〕=門 【片旁】=搬出入する武器その他の品名・数量のリスト)を確認すること。門 司(門を固める衛府)は、奏聞して、検討を加えて出入を許可すること。宿衛 の人が常に携帯しているものについてはこの制限に拘束されない。 ○19 献軍器条 軍器・戎仗(武器)を献上することがあれば、すぐに内舎人を献上する人に随 えて、持ち入らせること。 ○20 車駕行幸条 車駕行幸する場合には、すぐに(宮城以内の)諸門を閉じること。必要に応じ て理門を開くこと。留守〔るしゅ〕の人はおのおの理門より出入りすること。 いずれも遷幸の駕(天子の帰宮)の先駆の隊列が到着したときには開門するこ と。 ○21 上番条 宿衛人(内舎人・兵衛)が上番する場合に、そのため理由(自身の病気や父母 の病気・喪)があっても他所へ赴く(帰宅する)ことができず(?)、また、下番 (=非番)の時に日程1日以上出かけよう(帰宅しよう)とするときには、み な本府に申請すること。つぶさに行こうとする場所のことを注記すること。も し日程が1日もかからない場合は、仮に往還するのを許可すること。 ○22 元日条 元日・朔日、(またそれ以外でも)もし聚集することがある場合、また、蕃客 の宴会・辞見には、みな儀仗を立てる(武装して整列する)こと。 ○23 宮門内条 宮門の内側、及び朝堂では、飲酒したり、音楽を鳴らしたり、個人的な挨拶を 述べたり、決罰を行ってはならない。 ○24 分街条 京の街路は、街角ごとに鋪〔ふ〕(=警備小屋)を立てること。衛府は時々夜 間巡回すること。夜の鼓の音が絶えたなら往来を禁止すること。暁の鼓を打ち 始めたなら往来を許可すること。もし公使、及び、結婚・喪病があり互いに連 絡を取り合ったり医薬を求めて訪問する場合は、勘問して明らかに事実である と知ったならば許して通過させること。この類の人でなくして夜を犯したなら ば、衛府はその当日(夜が明けた日)に刑を執行して解放すること。贖〔ぞ く〕す(実刑ではなく代価の徴収で償う)場合、及び、余罪がある場合には、 所司(刑部省ないしは京職)に移送すること。 ○25 諸門出物条 諸門より物資を搬出するにあたって、【片旁】〔ぼう〕がない場合、1事(= 1物)以上の場合、いずれも搬出してはならない。その【片旁】は、中務省、 衛府に預けること。門司は勘考して、欠けるところあれば、事情に応じて推駁 すること。別勅で賜う物はこの限りではない。 ○26 車駕出入条 車駕が出入するとき、諸々の駕に従う人の隊列配置は、鹵簿の図のごとくに。 天子から300歩の範囲内で兵器を持つことはならない。宿衛人が駕に従うの は許可すること。 ○27 有非違条 行幸の隊列内に違反者があったとき、弾正の役人がその姓名を弁えていない場 合には、隊列の先頭へ行って、主司の指揮官に違反者の姓名を問うのを許可す ること。 ○28 宿衛近侍条 宿衛、及び、近侍(少納言・侍従)の人の二等親以上(一等親・二等親)が死 罪を犯して推劾(罪状審理)を受けたならば、推断の司は速やかに専使を遣わ して、牒によって、宿衛及び近侍の人の本司・本府に通報して、宮城内に入る のを許すことがないようにすること。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/03/18) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================