■ 第十七 軍防令 ≪全76条≫ ○01 軍団大毅条(※13条と同じ条名) 軍団の大毅は1000人を統率すること。少毅は副官としてそれを統率するこ と。校尉は200人。旅帥は100人。隊正は50人。 ○02 隊伍条 兵士はおのおの隊伍を作ること(5人で伍、50人で隊)。弓馬が得意な人は 騎兵隊とすること。それ以外を歩兵隊とすること。主帥以上(校尉・旅帥・隊 正)は、種別(騎兵/歩兵)ごとに統率すること。両者を混成してはならな い。 ○03 兵士簡点条 兵士を徴発するにあたっては、みな本籍近くの軍団に配属させること。隔越 (国外に配属)してはならない。配属して軍に入れるには、同戸のうち3丁 (正丁3人)ごとに1丁を取ること。 ○04 簡閲戎具条 国司は、毎年孟冬(冬のはじめ=10月)に、戎具(武器・武装)を簡閲する こと。 ○05 兵士為火条 兵士は10人を1火〔か〕とする。火別に6の駄馬(荷馬)を充て、飼養して 肥え元気にさせること。差発の日には、これをもって荷馬に充てることを許可 すること。もし死失があれば、すぐに替わりの馬を立てること。 ○06 兵士備糒条 兵士各人ごとに糒〔ほしいい〕6斗、塩2升を備え、併せて、火の行軍(軍に 動員した兵士)のための戎具等は、いずれも種別の倉庫に貯蔵すること。もし 貯蔵してから長期間を経て腐敗し実用に堪えない場合はすぐに回転させ良質の ものを(兵士自身が)納入すること。11月1日より開始して12月30日以 前に納入し終えること。番ごとに上番の人から2人を取って守掌させること。 雑仕は(守掌(?))してはならない。行軍の日には火(に必要なぶん(?))を計 算して給出すること。 ○07 備戎具条 兵士は、火ごとに、紺の布の幕(天幕)1口〔く〕、裏を着けて。銅の盆・小 さな釜、どちらか(ごはんや水を入れるのに用いる)入手可能なものを2口。 鍬1具、【坐+リ《りっとう》】【石隹】〔くさきり〕(=草切)1具、斧1 具、手斧1具、鑿〔のみ〕1具、鎌2張、鉗〔かなはし〕(かなばさみ・やっ とこ)1具。50人ごとに、火鑽〔ひうち/ひきり〕(火打ち金)1具、熟艾 〔やいぐさ〕(点火用の乾燥よもぎ)1斤、手鋸〔のこぎり〕1具。各人に、 弓1張、弓弦袋1口、副弦〔そえつる〕2条、征箭〔そや〕(弓矢)50隻、 胡箙〔やなぐい〕(弓筒)1具、大刀1口、刀子1枚、砥石1枚、藺帽〔いが さ〕1枚、飯袋〔いいぶくろ〕1口、水甬〔みずおけ〕1口、塩甬1口、脛巾 〔はばき〕(脛用脚絆)1具、鞋〔からわらぐつ〕1両。みな自身で備えさせ ること。欠けたり少なかったりしてはならない。行軍の日には、自分で全て携 帯して行くこと。もし上番(衛士・防人として赴任)の年ならば、各人の戎具 だけを持って行き、それ以外は持って行ってはならない。 ○08 兵士上番条 兵士の上番するについては、京に向かう場合(向京兵士=衛士)は1年、防に 向かう場合(向防兵士=防人)は3年。現地までの日程は年限のうちに計算し ない。 ○09 赴教習条 弩手について、教習に赴く場合、及び、征討を行う場合には、(07条に定めた ような)弓箭の具備を課してはならない。 ○10 軍団条 軍団は、1隊ごとに、強壮な人2人を選抜して弩手に充てること。均分して番 に入れること。 ○11 衛士上下条 衛士は半分に分けて、1日は勤務し1日は非番とする(=毎日交互に上番勤務 する)こと。{特別な事情のない日を言う。}下日(非番の日)ごとに、当府 (衛士府)で弓馬を教習させ、刀を用い、槍〔ほこ〕を弄〔と〕り、また弩 〔おおゆみ〕を発射し、投石機を操作させること。午の時(昼12時)になっ たならおのおの解放して帰らせること。こうして本府は試練して、その技術の 向上を確かめること。別勅でない場合は雑仕は(教習)してはならない。 ○12 兵士向京条(または衛士防人条) 兵士の京に向かうのを衛士と名付ける。{火別に白丁5人を取って火頭〔か ず〕(炊事係)に充てること。}辺境を守るのを防人〔ぼうにん/さきもり〕 と名付ける。 ○13 軍団大毅条(※01条と同じ条名) 軍団の大毅少毅は、おしなべて部内の散位、勲位、及び、庶人の武芸を称えら れる人を取って充てること。校尉以下(校尉・旅帥・隊正)には、庶人の弓馬 が得意な人を取ること。主帳(軍団の書記)には、書算が巧みな人を取るこ と。 ○14 兵士以上条 兵士以上については、みな歴名簿を2通作ること。いずれも征防遠使(征伐・ 防人・化外や異国への出陣)の処所を明記すること。そうして貧富の上中下3 等を注記すること。1通は国に留めること。1通は毎年、朝集使に持たせて兵 部省に送ること。もし出陣させることがある場合、及び、上番するときには、 国司は歴名簿に依り、(富強の)順に派遣すること。衛士・防人が故郷に還る 日には、いずれも国内の上番を、衛士は1年、防人は3年、免除すること。 ○15 兵衛使還条 兵衛が使(派遣)から還った場合には、3番(約半月の上番勤務を3回)以上 経過したなら1番を免除すること。もし勤務を願ったなら許可すること。 ○16 充衛防条 兵士を差発して衛士・防人に充てたならば、父子兄弟を併せて派遣してはなら ない。もし祖父母・父母が老疾でそれに侍す場合に、家に兼丁(=本人以外の 正丁・中男)がなければ、衛士・防人に充てる限りではない。 ○17 差兵条 兵を20人以上差発したならば、契勅を待ってはじめて差発すること。 ○18 節刀条 大将(衛府の長官ではなく、征討軍の総将)の出征には、みな節刀(刑罰の権 を委ねる印としての刀)を授けること。(大将の)辞を訖ったなら(辞令が下 りたなら)帰宅して家で寝ることはならない。(大将の)家が京にあるなら ば、毎月1度、内舎人を派遣し、安否を問うこと。もし(家人に)疾病があっ たなら医薬を給付すること。凱旋の日には、天皇に奏して使を派遣して郊労す ること。 ○19 有所征討条 征討を行うことがあって、従軍人数を数えて3000人以上を満たしたなら ば、兵・馬の出発する日に、侍従を使に充てて、宣勅慰労して発遣すること。 防人1000人以上を満たしたならば、出発の日に内舎人を派遣して、発遣す ること。 ○20 衛士向京条 衛士が京に向かい、(また、)防人が津(船着場。難波の船着場=難波津と特 定する説もある)に到着するまでの間は、みな国司に自ら親しく部領(統率監 督)させること。{衛士が京に到着する日には、兵部省がまず戎具を検閲し て、三府に分配すること。もし欠けたり少なかったりしていることがあれば、 事情に応じて推罪すること。}(防人が)津より出発する日には、専使が部領 して、大宰府に預けること。往還するときには、途上で、(或いは(?))前後に 落伍して留まり、百姓を侵犯し、または、田苗を損害し、桑漆の類を伐採させ てはならない。もし違反することがあれば、国郡は事情を記録して太政官に申 告すること。(この場合)統率者に対しては、法に依って罪を科すこと。征討 軍の行路もまたこれに準ずること。 ○21 有宿嫌条 将帥(ここでは副将軍以上)の出征にあたって、彼に宿怨を抱く人を配下に任 じてはならない。 ○22 軍営門条 軍営の門は常に厳重に警備を整えて、出入を呵叱〔かしつ〕(大声で責めただ す)すること。もし勅使があったならば、みな先ず軍将に報告して、軍容を整 え備えて、然る後に勅を承ること。 ○23 衛士下日条 衛士は、下日といえどもみな安易に(京の勤務地から)30里(約16km) より外に私に出かけてはならない。もし事情があるならば、本府(所属する衛 府)に報せて、許可の判断があったときに(勤務地を)離れること。上番して いる年は、重服〔じゅうぶく〕(父母の喪)があったとしても帰郷許可の範囲 としない。{下番の日に(任務終了して帰郷した日から)服喪を終わらせるこ と。} ○24 将帥出征条 将帥の出征に関して、兵が10000人以上を満たしたなら、将軍1人、副将 軍2人、軍監2人、軍曹4人、録事4人(を置くこと)。5000人以上なら ば、(そこから)副将軍・軍監を各1人、録事2人を減らすこと。3000人 以上ならば、(さらに)軍曹を2人減らすこと。それぞれ1軍とすること。3 軍ごとにそれを統括する大将軍1人(を置くこと)。 ○25 大将出征条 大将の出征にあたって、軍に臨んで敵に対しているときに、大毅以下が軍令 (大将のみが出すことのできる作戦指令)に従わず、また、軍事を怠ったり違 反して緊張に欠け覇気を乏しくすることがあれば、(律によって)死罪以下 (に相当するもの)は、いずれも大将が斟酌して(勅裁を経ずに)決定するの を許可すること。帰還の日に、事情をつぶさにして太政官に申告すること。も し敵や賊に臨んでいない場合は、この令は用いない。 ○26 軍将征条 軍将が征討するにあたって、交代する場合は、元の将が出迎えに行ってはなら ない。必ず兵を厳重にして守備しておくこと。代わる人が到着したならば、詔 書を開き示して、合符(本人を証明する符か)を検討確認し、その上で従軍さ せること。 ○27 征行者条 征行にあたって、みな自らに婦女(使用人・婢を含む)を連れ従えることはで きない。 ○28 征行条 征行について、大将以下(すべての戦士)が父母の喪に遭うことがあったなら ば、みな征討から帰還するのを待って(大将軍が節刀を奉還し、戦士以上が軍 用の官物を所属の役所に返納し終わってから)、然るのちに告発〔ごうほつ〕 する(=喪を告げ哀を発する)こと。 ○29 士卒病患条 士卒(すべての戦士)が病患した場合、及び、陣にあって負傷した場合には、 みな医〔くつし〕(医師)を派遣して治療すること。軍監以下は自ら治療に立 ち合うこと。 ○30 定勲功条 大将が出征し勝利の後、諸軍を解散する前に、すぐに衆に対して詳細に軍功を 定め(勲簿を作成)すること。併せて軍行以来の勝利のこと、及び、諸々の軍 用物資・軍人・兵馬・甲仗の現在数量・損失数量を記録して、大将以下が連署 すること。軍が帰還した日に、軍監以下録事以上は、おのおの本司(兵庫寮や 馬寮など)に赴き、返納して持ち出した物資との照会を行うこと。終わったな らば然る後に放還すること。 ○31 申勲簿条 勲の申告の簿〔ふ〕(勲簿)には、みなつぶさに、陣別の戦果、勲人〔ぐんに ん〕(戦功を立て叙勲されるべき人)の官位姓名、左右廂(軍陣内で配置され た左廂・右廂の別)と相捉〔そうさく〕(指揮官)の姓名、それぞれの人別に 扱った武器の種類、勲人の所属する軍団、主帥(軍団の隊正)、本籍地(国 郡)、官軍・賊衆〔ぞくしゅ〕の勢力人数の多少(正確な人数というわけでは ない)、あちらとこちらが殺傷した数、及び、獲得した賊・軍資(食料や牛 馬)・器械(武器や甲冑)を記録し、戦ったときの日月、戦いの場所を明記し て、併せて、陣別の戦図(戦争地図(合戦絵図との見解もある))を描くこ と。そうして図の上に、つぶさに副将軍以上の姓名を注記して、勲簿に付け て、太政官に申し送ること。勲賞の高下は臨時に勅を聴くこと。 ○32 叙勲条 行軍を叙勲するとき、勲簿を定めるにあたっては、隊ごとに先鋒の人をもって 第1とすること。その次を第2とすること。第1等は得なかったものの、その 勲功が第2等より優れていた場合、そして、同じ勲等といっても人によって優 劣が少し異なるならば、みな勲功のある順に名を列記すること。もし(勅が あって)全てを叙勲することがならない場合は、後ろのものから数を減らして いくこと。 ○33 応加転条 叙勲のときに、転(勲功を計る単位)を加える(加転する)にあたっては、み な現在の勲位の上に加算すること。もし勲位がなければ、1転に対し勲十二等 を授けること。(その後は)1転ごとに1等を加算すること。勲六等以上に は、2転ごとに1等を加算すること。勲二等以上には、3転ごとに1等を加算 すること。五位以上の人で、勲位を加算し尽くして(勲一等まで昇って)な お、余りの勲功(転)がある場合は、父子に分け授けるのを許可すること。も し父子が亡くなっているならば、1転ごとに田(功田ではなく賜田)を2町賜 うこと。六位以下、及び、勲位(無位で勲位だけある人)の人は、1等を加え てなお、余りの勲功(転)がある場合は、父子に分け授けるのを許可するこ と。(ただし、)田を賜う範囲にはない。 ○34 得勲条 勲人が勲を得るにあたって、叙勲以前に亡くなった場合は、その勲は生存者の 場合と同様、前条の規定に依って加算し授けること。もし戸が絶えて、その人 の蔭などを受ける人がない場合は、叙勲や分授(合授)を停止すること。 ○35 犯除名条 勲位について、除名にあたる犯罪を犯し、その保留期限を満たしてから叙す場 合には、勲一等は勲九等に叙すこと。勲二等は勲十等に叙すこと。勲三等は勲 十一等に叙すこと。勲四等以下は勲十二等に叙すこと。官当及び免官、免所居 官は、降叙を計算してこの法に達しない(十二等以下になる)場合は、(名例 律との兼ね合いで)高い等級になる方に準じて叙すのを許可すること。 ○36 簡点次条 兵士の徴発の規定(03兵士簡点条)によらない場合は、安易に人を取って軍に 入れ、また、人を解放して軍から出してはならない。替え玉して軍に入ったり して認定され賤に入る場合、及び、蔭があって軍より出る人の場合、検討して それが事実であるならば、みな兵部に申告して軍より出すのを許可すること。 軍に在籍する人の年齢が60歳になったならば、軍役を免除すること。60歳 に満たないとしても、身体が弱く長く病気して軍役に耐えられない場合は、ま た出すのを許可すること。 ○37 兵衛考満条 兵衛は考満(8考での叙位の年)に達するごとに、兵部省が校練すること。文 武の才能に従ってつぶさに等級を定めて太政官に申告すること。時々の任務を 遂行するに足る場合は、才能を量って処理すること。年齢60歳以上ならば、 みな兵衛を免除すること。また60歳に満たないとしても、もし脆弱で長い病 気をして宿衛に耐えられない場合、及び、郡司に任ずることがあった場合に は、本府(左右兵衛府)は事情を記録して、併せて、身柄を兵部省に送るこ と。検覆(=特別調査)して事実であると確認できたならば、奏聞して放出す ること。 ○38 兵衛条 兵衛は、国司・郡司の子弟(少領以上の子孫弟姪)の、剛健で弓馬が得意な人 を選んで、郡ごとに1人貢すこと。もし采女を貢した郡は、兵衛を貢す範囲に はない。{1国を3分して、2分は兵衛、1分は采女(等分できないときは兵 衛の方を多くする)。} ○39 軍団置鼓条 軍団にはそれぞれ、鼓を2面、(軍事用の角笛である)大角〔だいかく〕(は らのふえ)を2口、少角〔しょうかく〕(くたのふえ)を4口、置くこと。 (鼓も角も)双方を通じて(取扱者は)兵士を用いること。分番して教習する こと。倉庫が損壊して修理する場合は、10月以降に兵士を勤務させるのを許 可すること(?)。 ○40 行軍兵士条 行軍の兵士以上が、もし病気になったり死亡することがあったならば、行軍は つぶさに随身の資財を記録して本籍地(?)の人に預けて連れ(持ち)帰らせるこ と。屍は当所で焼いて埋葬すること。ただし副将軍以上は、(専使を派遣し て)本籍地へ還すこと。 ○41 出給器仗条 器仗等を給付した場合は、領収の日にきちんと証明文書を作ること。行事・還 事(行き帰りの行事)が終了したならば、簿に拠って照会し返納すること。も し正当な理由なく損失することがあれば、太政官に申告して相当分を弁償させ ること。 ○42 従軍甲仗条 軍に配備する甲仗(鎧とその他の兵器)は、戦いの経緯で失落した場合は弁償 徴収を免除すること。損壊した場合は、太政官が修理すること。戦いを経るこ となく損失したならば、3分の2を徴収すること。軍に配備したのでなく(駕 行や儀式などで)損失したならば、みな損失当時の估価(物価)、及び、料造 式(武器製作の人員・資財・数量などの規定か)に準じて、徴収配備するこ と。太政官は修理をすること。水火に焼き流されたりして、人力の制御すると ころでなかった場合は、実情を検討して徴収を免除すること。国郡の器仗は、 毎年、帳に記録して、朝集使に預けて、兵部省に申告すること。(兵部省は) 審査検討し終わったならば、2月30日以前までに記録して進奏すること。 ○43 軍器在庫条 軍器を(兵器)庫に置くときは、みな棚を作って安置すること。種類別に場所 を分けること。適時、曝涼(陰干し)すること。 ○44 私家鼓鉦条 個人の家には、鼓鉦〔くしょう/こしょう〕(皮鼓と金鼓)、弩、牟〔む〕 (2丈(約5.9m)の矛〔ほこ〕)、【矛肖】〔しゃく〕(馬上で用いる 1丈2尺(約3m55cm)の矛)、具装(馬の武装)、大角、少角、及び、 軍幡(軍旗類)があってはならない。ただし、楽鼓(楽器としての鼓)は禁止 の対象としない。 ○45 在庫器仗条 (兵器)庫にある器仗は、使用に耐えないようであれば、当所の長官が実情を 検討し事情をつぶさにして太政官に申告すること。状態に応じて、処分・廃棄 すること。鑽(槍類の矛先)、刃、袍(鎧の下に着る綿入れの一種)、幡 (旗)、弦麻(弓弦用の麻)の類は、そのまま当所で軍器を修理するときの用 に充てること。在京の(兵器)庫の場合は、兵部省に送って、任意に公用に充 てること。もし保管管理が法に照らして不適切で損壊してしまったのならば、 事情に応じて相当分を弁償させること。 ○46 五位子孫条 五位以上の子孫は、年齢21歳以上で、現在、役任がなければ、毎年、京国の 官司が審査検討して実情を調べること。12月1日を期限として、併せて、そ の身柄を式部省に送って、太政官に申告して、性識聡敏でありその儀容によっ て採用すべき人を選考して、内舎人に充てること。{三位以上の子は選抜の対 象としない(選考なしで任用)。}それ以外は、式部省が、状況に応じて大舎 人及び東宮の舎人に充てること。 ○47 内六位条 内六位以下八位以上の嫡子は、年齢21歳以上で、現在、役任がなければ、毎 年、京国の官司が審査検討して実情を調べること。実情を採点して選考するこ と。3等級に分けること。儀容端正で書算に巧みであれば、上等とすること。 身材強幹で弓馬が得意であれば、中等とすること。身材劣弱で文算に不識であ れば、下等とすること。12月30日までに上等・下等を式部省に送って選考 すること。上等を大舎人とすること。下等を使部とすること。中等を兵部省に 送って試練して兵衛とすること。もし人数が足りなければ、(大舎人・兵衛・ 使部(義解では兵衛のみと規定)を)通じて、庶子を採用すること。 ○48 帳内条 帳内(親王・内親王に与えられる従者)には、六位以下の子、及び、庶人を採 用すること。資人(大臣・大納言の職に与えられる従者(職分資人)と五位以 上に与えられる従者(位分資人))には、内八位以上の子を取ってはならな い。ただし職分(資人)に充てる場合は許可すること。いずれも、三関(鈴鹿 関のある伊勢・不破関のある美濃・愛発関のある越前)及び大宰府管内(西海 道諸国島)、陸奥、石城、石背、越中、越後の国の人を取ってはならない。 ○49 給帳内条 帳内の給付にあたっては、一品に160人。二品に140人。三品に120 人。四品に100人。資人は、一位に100人。二位に80人。三位に60 人。正四位に40人。従四位に35人。正五位に25人。従五位に20人。 {女には半減すること。減らす数が半分に割り切れない場合は繰り上げ計算 して給付すること。}太政大臣に300人。左右大臣に200人。大納言に 100人。 ○50 【《やまいだれ》+隆】〔りゅう〕疾条 帳内・資人が、【《やまいだれ》+隆】〔りゅう〕疾して(癈疾以上を指す が、ここでは執務に耐えない病気にかかった場合を指す)、仕えることを免除 するにあたっては、みな式部省に申請すること。審査検討して事実であるとわ かったならば、(別の人と)交替するのを許可すること。 ○51 給事力条 大宰、及び、国司には、いずれも事力を給付すること。帥に20人。大弐に 14人。少弐に10人。大監、少監、大判事に6人。大工、少判事、大典、防 人の正、主神〔かんづかさ〕、博士に5人。少典、陰陽師、医師、少工、算 師、主船〔ふねのつかさ〕、主厨〔くりやのつかさ〕、防人の佑に4人。諸々 の令史に3人。史生に2人。大国の守に8人。上国の守、大国の介に7人。中 国の守、上国の介に6人。下国の守、大上国の掾に5人。中国の掾、大上国の 目に4人。中下国の目に3人。史生は前のごとく。{1年に1度交替するこ と。みな上等の戸のうちの丁を取ること。同時に庸を徴収してはならない。} ○52 辺城門条 辺城門(辺境に設けている城門)は日の出後に開いて日没前に閉じること。も し事情があって夜開く場合には、警備体制を設けた上で開くこと。もし城主 (城を担当する三関の国司)に公事(外交上の用事)があり、城を出て検行す る場合には、ともに出てはならない。管鎰〔かんいつ〕(鍵)は、城主が自ら 管理すること。鑰〔やく〕(鍵)を使って開閉する人は、慎重に重要な家柄 (眷属など)の人を選抜して充てること。 ○53 城隍条 城隍(城堀)が崩れ落ちたならば、兵士を動員して修理すること。もし兵士が 少なければ、付近の人夫を動員するのを許可すること。閑月(農業が暇な月) に合わせて修理すること。崩れ落ちた部分が多すぎて急時の守固に欠ける場合 には状況に応じてすぐに修理すること。仕事を終えたならばつぶさに記録して 太政官に申告すること。動員する人夫は、みな10日以上働かせてはならな い。 ○54 置関条 関を置いて守固すべき場合は、いずれも置いて、兵士を配し、分番して勤務・ 非番すること。三関には、鼓吹・軍器を設置し、国司(いわゆる関司で、目 〔さかん〕以上)は分担して守固すること。配置する兵士の数は別式に依るこ と。 ○55 防人向防条 防人が防(防御地)に向かうにあたって、もし家人・奴婢、及び、牛馬を連れ て行きたいと願うことがあれば、許可すること。 ○56 齎私粮条 防人が防に向かうにあたっては、おのおの私的に食料を持参すること。津より 出発する日には状況に応じて公粮を給付すること。 ○57 上道条 防人が上道(本国を出発)して以後、行路にあって死亡・逃走した場合、人を 差し替えてはならない。 ○58 将発条 防人が出発しようとするとき、罪を犯して身柄を拘束されている場合、及び、 公私の訴訟に関わっている場合で、徒刑に至るようでないならば、状況に応じ てすぐに量刑決裁して発遣すること。罪が徒以上に至るならば、人を差し替え ること。 ○59 欲至条 防人が到着するとあれば、所在の官司(防人司)は、前もって配置計画を立て ること。防人到着後の1日に、すぐに勤務を終えた人と武器等を交替配備して 終わらせること。担当の場所は季節ごとに代わる代わるして、苦楽が均等であ るようにすること。 ○60 旧防人条 勤務を終えた防人を替え終わったならば、すぐに路程の食料を給付して(故郷 へ)発遣すること。新人が欠けたり少なかったりすることがあって、元の数の ぶんだけ充当できないとしても、安易に勤務を終えた人をもって留め補っては ならない。 ○61 防人番還条 防人が防に向かうとき、及び、(防人としての)当番から帰郷するときに、路 上で病気にかかって、それ以上進んで行くのに耐えないことがあったならば、 すぐに側近くの国郡に預けて、食料ならびに医薬を給付して救命治療するこ と。行程に耐えるほど治るのを待って、然る後に発遣すること。そうして本籍 地及び前にいたところへ移すこと。死亡したならば、状況に応じて棺を給付し て焼き埋葬すること。もし資財があれば、兵部省に申し送って、本人の家へ 持って帰らせること。 ○62 在防条 防人については、防にあって守固する以外に、それぞれ防人の多少を量って、 当所の側近くに空閑地(休墾地)を給付すること。水陸の都合のよい場所(?)に 応じて斟酌して営種すること。併せて雑菜類をもって防人の食に供すること。 耕作に必要な牛力は太政官が給付すること。収穫の苗子は、毎年数を記録し て、朝集使に預けて太政官に報告すること。 ○63 休假条 防人が防にあるときには、10日に1日の休假〔きゅうけ〕(仮の休み=休 暇)を許可すること。病気になったならばみな医薬を給付すること。火内の1 人を遣わして、療養に専念させること。 ○64 蕃使出入条 蕃使(異国からの使節)が出入するときや、囚徒、及び、軍物を伝送するにあ たって、人を防援(守役人)に用いるならば、みな数を量って(?)所在の兵士を あてて逓送すること。 ○65 東辺条(または縁辺諸郡人居条) 東辺・北辺(東海道・東山道・北陸道の蝦夷と接する地域)、西辺(西海道の 隼人と接する地域)にある諸々の郡の人居は、みな城堡の中に安置すること。 営田の場所にはただ庄舎(農具保管・耕作時の宿泊用の小屋)のみを置くこ と。農繁期になって、(強壮で)営作に耐えるようであれば、城堡を出て庄田 で就労させること。収穫を終えたならば城堡に連れ帰ること。城堡が崩れ落ち たならば、当地の居戸〔ここ〕(居住している戸)を修理に働かせること。農 閑期に合わせて修理すること。 ○66 置烽条 烽〔ぶう/ほう/とぶひ〕(のろし)を置くのは、みな互いの距離40里(約 21km)。もし山岡で隔絶し便宜上安置すべきことがあれば、相照らし見る ことができるようにさせること。必ずしも絶対に40里と限定するものではな い。 ○67 烽昼夜条 烽は、昼夜、時を分けて伺い眺めること。もし烽を放つ場合には、昼は烟〔え ん〕(煙)を放ち、夜は火を放つ。烟を1刻(30分)放ち尽くし、火を1炬 〔こ〕放ち尽くすまでに、前方の烽が応答しない場合は、すぐに脚力(徒歩連 絡員)を派遣して前方の烽に通告すること。伝報(応告)を失した理由を問い 知って、速やかに所在の官司(前方の烽が属すところの国司)に報告するこ と。 ○68 有賊入境条 賊があって境に侵入したときに烽を放つ場合、賊衆の多少、烽の数の節級(1 〜4炬)はいずれも別式に依ること。 ○69 烽長条 烽には長を2人置くこと。3烽以下を管理監督すること。ただし境を越えるこ とはできない。国司が、管内の人で重要な家柄であり管理監督の任務に耐える 人を選考して充てること。もしいなければ、双方を通じて、散位・勲位を任用 すること。分番して勤務・非番すること。3年に1度交替させること。交替の 日に、新人を教えて全般を理解させること。然る後に交替すること。烽を修理 する場合は、みな、烽子〔ぶうし/ほうし〕を働かせること。公事でない限 り、安易に守るところを離れてはならない。 ○70 配烽子条 烽には、それぞれ烽子を4人配置すること。もし丁がないところでは、いずれ も次丁を取ること。近いところから順に遠いところへと(烽子候補を)及ばせ ること。均分して(2人1組で)当番に配置すること。順番に勤務・非番する こと。 ○71 置烽処条 烽を置くところの火炬〔かこ〕(発火材)は、それぞれの距離25歩(約 44.5m)。もし山が険しく土地が狭いことがあって、25歩を満たすこと ができないところでは、照応するに明確であるようにすること。必ずしも距離 の遠近を限定してはならない。 ○72 火炬条 火炬は、乾燥した葦を芯にすること。葦の上に乾いた草を用いて節〔ふし〕を 縛ること。縛ったところの周囲には、肥えた松明〔しょうみょう/たいまつ〕 を差し挿むこと。いずれも使用のための貯〔もうけ〕(準備品)を10具以 上、舎の下に架(棚)を作って積んでおくこと。雨に濡らしてはならない。 ○73 (放烟貯備条) 烟を放つために準備しておくものとして、艾〔よもぎ〕、藁、生柴(生木)等 を採収し、それらを混ぜ合わせて烟を放つこと。藁・柴等を貯めておくところ には、みだりに人に火を放たせたり、また、野火を延焼させることがないよう にすること。 ○74 応火筒条 (後方からの)火に応答する火筒は、もし(通報が)東に向かっているなら ば、応じる烽の筒口は西に開くこと。もし西に向かっているならば、応じる筒 口は東に開くこと。南北もこれに準じること。 ○75 白日放烟条 昼に烟を放ち、夜に火を放つときには、まず筒の裏を見ること。到着した報せ を確実に錯覚してないと確認してから、然る後に応答すること。もし昼に天が 曇り、霧が起こって、烟を眺めても見えないような場合は、すぐに脚力を走ら せて、互いに前方の烽に通告すること。霧が開けたところでは、式に依って烟 を放つこと。烽を置いてあるところでは、烽の周囲2里(約1km)にわたっ て、みだりに烟火を放ってはならない。 ○76 放烽条 烽を放つにあたって、違漏(烽の数を間違える、野焼きを見間違えて烽を放つ 等の類)があったなら、元に放ったところ、伝報を失ってしまった状況を、速 やかに所在の国司に報告すること。検察して事実がわかったならば、駅(や く)を発して奏聞すること。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/04/02) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================