■ 第十八 儀制令 ≪全26条≫ ○01 天子条 天子。{祭祀で称するもの。} 天皇。{詔書で称するもの。} 皇帝。{華夷(国内(華)国外(夷))に対して称するもの。} 陛下。{上表(=天皇に文書を奉ること)で称するもの。}太上天皇〔だい じょうてんのう〕。{譲位の帝を称するもの。}乗輿〔じょうよ〕。{服御 〔ふくご/ぶくご〕(天子の用いる物品)をいうもの。(転じて、天子の代名 詞とする。)}車駕〔きょが〕。{行幸をいうもの。(転じて、天子の代名詞 とする。)} ○02 赴車駕所条 車駕の所(行幸の出先)に赴くことを、行在所〔ぎょうざいしょ〕に詣る〔も うでる/まいる〕、と言うこと。 ○03 皇后条 皇后・皇太子以下、率土〔そちど/そつど〕の内(国内の庶人)は、天皇・太 上天皇に上表する(=天皇に文書を奉る)ときには、臣妾〔じんしょう〕名称 〔みょうしょう〕すること(「臣」ないし「妾」と自称し、続けて自分の名を 言う)。{対揚(対面して称揚)するときには、名称(のみ)すること。}皇 后・皇太子は太皇太后・皇太后に対して、率土の内は三后・皇太子に対して、 上啓するときには、殿下と称すること。自称するときには、みな臣妾とするこ と。{対揚では名称すること。} ○04 車駕巡幸条 車駕が巡幸するとき、及び、還るとき、百官の五位以上は辞迎〔じげい〕(出 発時の見送りが辞、帰還時の出迎えが迎)すること。留守〔るしゅ〕(留守 番)の人は、辞迎の範囲でない。もし宿泊をしない場合(つまり日帰り)は、 この令を用いない。 ○05 文武官条 文武官の初位以上は、毎月1日に参朝して、それぞれ所属する司の前月の公文 書を報告すること(=告朔(視告朔)〔こうさく〕の儀式)。五位以上が朝庭 の机の上にまとめて置くこと(?)。すぐに大納言が進奏すること。もし雨に逢っ てぼろぼろになったり、また泥で汚れたりしていたなら、いずれもそこで停め ること。{弁官が公文書を受け取ること。全てまとめて中務省に納めるこ と。} ○06 文武官条(※前条と同名) 文武官の三位以上は、假使〔けし〕(休暇または使者となるとき)に、立ち去 るときにはみな奉辞〔ぶうじ〕(退去時の対面)すること。還ったときにはみ な奉見〔ぶうけん〕(還参時の対面)すること。五位以上は、勅をうけたま わって使者に発つときに辞見するのを、またこのようにすること。また、外官 の三位以上は、失誤があってのことでなく任を去って京に到着したならば、こ れもまた奉見すること。 ○07 太陽虧条 日蝕の時は、有司(陰陽寮)は前もって奏すること。(このとき)皇帝は政務 をお執りにならない(=廃朝)。百官はそれぞれの本司を守ること。事務を執 らず時を過ごして、日蝕が終わったなら退朝すること。皇帝の2等親以上、及 び、外祖父母、右大臣以上、もしくは散一位の喪に、皇帝が政務をお執りにな らないこと3日。国忌の日{先皇の崩日のうち、別式に依って廃務(天皇及び 諸官司が事務を廃して執らないこと)すべきものをいう。}、3等親、百官三 位以上の喪にもみな、皇帝が政務をお執りにならないこと1日。 ○08 祥瑞条 祥瑞があった場合、もし麟鳳亀竜〔りんふうきりゅう/りんほうきりゅう〕 (麒麟・鳳凰・仙亀・神竜といった)の類で、参考図書を調べると大瑞に相当 するならば、直ちに表奏すること。{その表(報告)は、祥瑞である物の種 類・名称、及び、出所を明らかにしたならば、虚飾の言葉を陳べたりいたずら に噂を取り上げたりしてはならない(?)。}上瑞以下は、いずれも所司(治部 省)に報告して、(翌年の)元日にまとめて奏聞すること。鳥獣の類は、生け 捕りにすることがあったならば、その本性に従って山野に放つこと。その他は みな治部省に送ること。もし(慶雲のような)掴まえることができないもの、 及び、木連理〔もくれんり〕(樹木が他の樹木と連なっている)の類で、送る ことができない場合は、所在の官司が真偽を確かめて虚偽でなければ、つぶさ に図を描いて進上すること。賞すべき場合は、臨時に勅を聴くこと。 ○09 元日条 元日には、親王以下の人(つまり天皇・太上天皇・三后・皇太子以外)を拝賀 してはならない。ただし親戚、及び、家令以下(が行う場合)は禁止の限りで はない。もし元日でないときに(たとえば授位任官のお祝いなど)致敬〔ち きょう〕する(=避けられず臨時に拝す)べきことがあったならば、四位は一 位を拝し、五位は三位を拝し、六位は四位を拝し、七位は五位を拝すること。 これ以外(位階の高い年少者が位階の低い貴人や年長者を拝するなど)は、任 意に個人の礼に従うこと。 ○10 在路相遇条 路上で人と行き合ったとき、三位以上は親王に遭ったならば、みな馬より下り ること。{それ以外は拝礼に準ずること。下馬してはならない場合(二位以上 が親王に遭ったときや三位が一位に遭ったときなど)は、みな馬を駐めて道の 脇に立つこと。}本来なら下馬すべき場合であっても、(天皇の行幸や三后・ 皇太子に)陪従しているならば下馬しない。 ○11 偶本国司条 郡司は、本国の国司(史生以上)に遭ったならば、みな馬から下りること。た だし、(郡司が)五位の場合は、(国司が)同位以上でないときは下馬しな い。もし官人(京官の主典以上)が本国において(当国の国司に)遭ったな ら、同位は下馬すること{もし拝すべき場合は下馬の礼に準ずること。}。 ○12 庁座上条 朝堂の座に着いているとき、親王及び太政大臣が現れたならば座から下りるこ と(五位以上は牀席から下り立つ、六位以下は座席を避けて跪く)。左右大 臣・当司の長官に対してはすぐに座を動くこと。それ以外に対しては動かな い。 ○13 儀戈条 儀戈〔ぎか〕(=儀式に用いる頭の平たい戟〔げき〕)(の数)は、太政大臣 に4竿〔かん〕、左右大臣にそれぞれ2竿、大納言に1竿。 ○14 版位条 版位〔へんい〕(座席等の目印の名札)は、皇太子以下(庶人まで)は、縦横 7寸(21cm)厚さ5寸(15cm)(?)。題名にはその品位を書くこと。い ずれも漆塗りの字(墨に漆を混ぜる)。 ○15 蓋条 蓋(きぬがさ)は、皇太子は、表を紫、裏を蘇方〔すおう/すわ〕(赤紫)、 頂と四隅を錦で覆って房を垂れること。親王は紫の大きな纈〔ゆわた〕(絞り 染め)。一位は深い緑。三位以上は紺。四位は縹〔はなだ〕(Gパン色)。 {四品以上、及び、一位は、頂と四隅を錦で覆って房を垂れること。二位以下 は錦で覆うこと。ただし大納言以上は房を垂れること。}いずれも裏は朱色。 房には同じ色を用いること。 ○16 祖父母条 祖父母父母が、重病、及び、牢獄に繋がれているときは、婚姻してはならな い。もしその祖父母父母が、婚姻・婚礼を許したなら、宴会(披露宴)をして はならない。 ○17 五行条 国郡は、みな五行の器(各種の器)を作ること。必要に応じて用いること。い ずれも官物を用いる(公費で作る)こと。 ○18 元日国司条 元日には、国司はみな配下の郡司等を率いて、庁(朝堂・大極殿ないし国庁) に向かって朝拝〔ちょうはい〕(拝賀)すること。それが終わったならば、長 官は拝賀を受けること。宴の場を設けるのは許可すること。{食には当所の官 物、及び、正倉(正税)を充てること。使用量は別式に従わせること。} ○19 春時祭田条 春時の祭田の日には、郷の老者を集めて、郷飲酒礼を行うこと。人々に長を尊 び老を養う道を知らしめること。{酒肴等の物は公廨〔くげ/くうげ/くが い〕(官物・正税)を出して供すること。} ○20 遭重服条 (有能な人について)重服〔じゅうぶく〕(父母の喪)に遭ったときに、情を 奪って(服喪の解任を行わず)職を続行させることがあったなら、服を終わる までは、他人の喪を弔わず、(お祝い等の)賀をせず、宴に出席しない。 ○21 凶服不入条 喪服を着用して公門〔くうもん〕(宮城門、及び、駅家・厨院を除く内外諸司 の門)に入らないこと。喪に遭ってなお職を続行させられるときは、朝参のと ころでは位色〔いしき〕に依ること。家に在るときはその服制に依る(喪服を 着用する)こと。 ○22 行路条 道路小道では、身分の低い人は尊い人に譲ること、若い人は老いた人に譲るこ と、立場の軽い人は重い人に譲ること。 ○23 内外官人条 内外の官人について、その位と蔭をかさにきて、ことさらに(自分の役所の) 憲法に違反する(礼を失したり逆らう)ことがあれば、六位以下、及び、勲七 等以下については、情状を酌量して(それに応じただけの)決笞(笞の決罰) を許可すること。もし長官がいなければ(五位以上かつ罪人より二位以上の) 次官が決笞するのを許可すること。諸司の判官以上、及び、判事、弾正の巡 察、内舎人、大学の諸々の博士、文学等は、決笞の範囲にない(?)。 ○24 帳内資人条 帳内・資人について、蔭位〔おんい〕があるとしても、本主の意に適わない場 合は、杖罪以下を本主が任意に決すること。{四位以下は、ただ笞のみ決する ことができる。} ○25 五等条 五等親は、父母、養父母、夫、子(養子含む)を一等とすること。父方の祖父 母、嫡母(父の正妻)、継母(父の次妻以下)、伯叔父姑(父方のおじ・お ば)、兄弟、姉妹、夫の父母、妻、妾、姪(兄弟の子である甥・姪)、孫(息 子の子)、子の妻を二等とすること。父方の曾祖父母、伯叔の婦(父方のおじ の妻)、夫の姪(夫の兄弟の子である甥・姪)、従父兄弟姉妹(父方のおじの 子=おじ方のいとこ)、異父兄弟姉妹、夫の祖父母、夫の伯叔姑(夫の父方の おじ・おば)、姪の婦(兄弟の子である甥の妻)、同居している継父、夫の前 の妻妾の子を三等とすること。父方の高祖父母(父方の曾祖父の両親)、従祖 祖父姑(父方の祖父の兄弟姉妹であるおおおじ・おおおば)、従祖伯叔父姑 (父方のおおおじの子=父の父方のいとこ)、夫の兄弟姉妹、兄弟の妻妾、再 従兄弟姉妹(父の父方のいとこ男性の子=またいとこ)、外祖父母(母方の祖 父母)、舅姨〔きゅうい〕(母方のおじ・おば)、兄弟の孫、従夫兄弟の子 (父方のいとこ男性の子)、外甥〔げしょう〕(姉妹の子)、曾孫(息子方の 男孫の子)、孫の婦(息子方の男孫の妻)、妻妾の前の夫の子を四等とするこ と。妻妾の父母、姑の子(父方のおばの子=おば方のいとこ)、舅の子(母方 のおじの子)、姨の子(母方のおばの子)、玄孫(息子方の男孫の男子の 子)、外孫(娘の子)、娘聟〔むすめむこ〕を五等とすること。 ○26 公文条 公文(公文書)に年を記述する場合は、みな年号を用いること(干支等を用い ない)。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/03/18) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================