■ 第二十一 公式令 ≪全89条の第23条〜第89条≫ ○23 平出条(の第一) 皇祖〔おうそ〕(=天皇の先祖または始祖に対する敬称。または天皇の亡祖父 に対する敬称。) ○24 平出条(の第二) 皇祖妣〔おうそび〕(=天皇の亡祖母に対する敬称。) ○25 平出条(の第三) 皇考〔おうこう〕(=天皇の亡父に対する敬称。) ○26 平出条(の第四) 皇妣〔おうび〕(=天皇の亡母に対する敬称。) ○27 平出条(の第五) 先帝〔ぜんだい〕(=太上天皇の崩御の後、またそれ以前のあらゆる天皇に対 する敬称。) ○28 平出条(の第六) 天子〔てんじ〕 ○29 平出条(の第七) 天皇〔てんおう〕 ○30 平出条(の第八) 皇帝〔おうだい〕 ○31 平出条(の第九) 陛下〔へいげ〕 ○32 平出条(の第十) 至尊〔しそん〕(=天皇) ○33 平出条(の第十一) 太上天皇〔だいじょうてんおう〕(=譲位した前天皇の尊号。) ○34 平出条(の第十二) 天皇諡〔てんおうのし〕(=天皇の、生前の行迹を累ねた死後の称号。) ○35 平出条(の第十三) 太皇太后〔だいおうだいごう〕(=天皇の祖母の身位を示す称号。){太皇太 妃〔だいおうだいひ〕。太皇太夫人〔だいおうだいぶにん〕も同じ。} ○36 平出条(の第十四) 皇太后〔こうだいごう〕(=天皇の母の身位を示す称号。){皇太妃〔こうだ いひ〕。皇太夫人〔こうだいぶにん〕も同じ。} ○37 平出条(の第十五) 皇后〔おうごう〕(=天皇の嫡妻の身位を示す称号。) これらはみな平出〔びょうしゅつ〕(=平頭抄出。文章の中でこの単語を使う 場合、敬意を表す意味で改行して行頭に書くこと)すること。 ○38 闕字条 大社〔だいしゃ〕 陵号〔りょうごう〕(=先皇の山陵の名) 乗輿〔じょう よ〕 車駕〔きょが〕 詔書〔じょうしょ〕 勅旨〔ちょくし〕 明詔〔みょ うじょう〕(=詔旨の美称) 聖化〔せいか〕(=天皇の徳化) 天恩〔てん おん〕(=天皇の恩恵) 慈旨〔じいし〕(=天皇の言葉) 中宮〔ちゅうぐ う〕 御〔ご〕{至尊(=天皇)を指していう場合。} 闕庭〔けつじょう〕 (天皇の居所) 朝庭〔ちょうじょう〕 東宮〔とうぐう〕 皇太子〔おうだ いし〕 殿下〔でんげ〕 このような類はいずれも闕字〔けつじ〕(=文中にその語を用いるときは敬意 を表してその語の上に1字ぶんの空白をあける)すること。 ○39 汎説古事条 一般論や異国の話など、平闕〔びょうけつ〕(平出と闕字)する名称に言及す るとき、特に(その対象を)指して説くのでないならば、みな平闕しない。 ○40 天子神璽条 天子の神璽〔じんじ〕。{践祚の日の寿〔よごと〕の璽〔しるし〕(いわゆる 神器)をいう。宝にして実用しない。}内印(=「天皇御璽」の印){三寸 (約8.9cm)四方}は、五位以上の位記、及び諸国に公文書を下すときに 捺印すること。外印〔げいん〕{二寸半(約7.4cm)四方}は、六位以下 の位記、及び太政官の文案〔もんあん〕に捺印すること。諸司印{二寸二分 (約6.5cm)四方}は、太政官に上申する公文書、及び案・移・牒に捺印 すること。諸国印{二寸(約5.9cm)四方}は、京に上申する公文書、及 び案・調物に捺印すること。 ○41 行公文皆印条 施行する公文書には、みな事状(本文)、数量、及び、発行年月日、併せて、 署名、継ぎ目のところ(二紙以上にわたる場合)、駅鈴・伝符の剋数、に踏印 (捺印)すること。 ○42 給駅伝馬条 駅馬・伝馬の給付は、みな駅鈴(駅馬の利用資格証明)・伝符(伝馬の利用資 格証明)の剋数(刻み目)の数に依ること。{急用であれば1日10駅(約 30里×10=300里=約159km)以上、緩い用事であれば8駅(約 30里×8=240里=約127km)。帰還の日に事が緩い場合は6駅(約 30里×6=180里=約95km)以下。}親王及び一位に、駅鈴10剋、 伝符30剋。三位以上に、駅鈴8剋、伝符20剋。四位に、駅鈴6剋、伝符 12剋。五位に、駅鈴5剋、伝符10剋。八位以上に、駅鈴3剋、伝符4剋。 初位以下に、駅鈴2剋、伝符3剋。みな位階に応じた剋数の他、別に駅子を1 人給付すること。{六位以下は、事状に応じて増減すること。必ずしも数を限 定しない。}駅鈴、伝符は、帰還到着して2日以内に(京ならば太政官の少納 言経由で中務省の主鈴に、諸国ならば長官に)送り納めること。 ○43 諸国給鈴条 諸国に鈴を給付するにあたっては、大宰府に20口。三関及び陸奥国に各4 口。大上国に3口。中下国に2口。三関の国には、それぞれ関契〔げんけい〕 を2枚給付すること。いずれも長官が管理すること。いなければ次官が管理す ること。 ○44 車駕巡幸条 車駕巡幸がある際、京師(京域)に留守番する役所には、鈴契(駅鈴と関契) を支給すること。量の多少は随時量って支給すること。 ○45 給随身符条 親王、及び、大納言以上、併せて、中務の少輔、五衛の佐以上には、いずれも 随身符(割符の類)を支給すること。左側2つ、右側1つのうち、右符(右側 の符)は身につけること、左符(左側の符)は内裏にたてまつること{身につ けるにあたっては袋にいれること}。もし家にあって勤務時でないときに別勅 で追喚(呼び寄せ)された場合には、符を検査して、合致したならば、然る後 に承認し(随身として)任用すること。検査を終えたならば、左符は封印して 使者に預けること。もし使者が到着したときに符がない場合、及び、検査して 合致しないことがあったならば、承認任用してはならない。本司(大納言/中 務少輔/五衛の佐以上の所属する官司)が追喚した場合はこの限りではない。 ○46 国有急速条 国に急を要する大事があって、使者を発遣し、馳駅〔ちやく〕(臨時の伝令を 発すること)して、互いに報告しあったことがあったならば、毎年、朝集使 は、つぶさに(駅を利用した)使の人の位姓名を記録し、併せて、発遣時の月 日、利用した馬疋の数、告知した事柄を注記して、太政官に送ること。告知を 承けたところもまたこれに準じること。太政官は審査して、駅を発遣してはな らないことがあれば、事情に応じて問いただすこと。 ○47 国司使人条 国司の使の人は、解文を送って京に到着したときには、10条以上の場合は1 日を期限として上申し終えること。20条以上ならば2日で終えること。40 条以上ならば3日で終えること。100条以上ならば4日で終えること。 ○48 在京諸司条 在京の諸司は、用事があって駅馬に乗る場合には、みな本司が太政官に上申し て、奏してから支給すること。 ○49 駅使在路条 駅使が、路程で病気となり、馬に乗ることができない場合、携行している文書 は同行の人(奴を除く従人)によって宛先へ送らせること。もし同行の人がい ない場合は、駅長によって宛先(への最近接国府)へ送らせること。(文書を 受領した)国司は使者を交替して逓送〔だいそう〕(国から国へ送付)するこ と。 ○50 国有瑞条 国に、大瑞、及び、軍機(=軍政。つまり軍を動かすこと)、災異、疫病、境 外の消息(異国や毛人の動向、または飢饉救援の類)があれば、いずれも使者 を発遣して、馳駅して申上すること。 ○51 朝集使条 朝集使は、東海道は坂の東(駿河と相模の境界の坂の東。板東)、東山道は山 の東(信濃と上野の境界の山。山東)、北陸道は神の済〔かんのわたり〕(越 中と越後の境界の河。神済)以北、山陰道は出雲以北、山陽道は安芸以西、南 海道は土左(土佐)等の国、及び、西海道は、みな駅馬に乗る(ことができ る)。それ以外はおのおの当国の(民間の)馬に乗ること。 ○52 内外諸司条 内外の諸司は、執掌のあるもの(職員令で職掌を定めているもの。ただし全て ではなく郡司等は含まない)を職事官とすること。執掌がないものを散官とす ること。五衛府、軍団、及び、諸々の兵仗を帯するもの(馬寮、兵庫など)は 武〔む〕(武官)とすること{太宰府(地名)、三関の国、及び、内舎人は、 武官の限りではない}。それ以外をいずれも文〔もん〕(文官)とすること。 ○53 京官条 在京の諸司を京官とすること。それ以外を外官とすること。 ○54 品位応叙条 叙すにあたっては、親王に四品以上、諸王に五位以上、諸臣に初位以上。令の 条文の中で階位と称しているものは正従上下を各々1階とすること。2階を合 わせて1位とすること(すなわち上下をあわせて1位)。三位以上、及び勲位 は、正従を各々1位とすること。その他の等と称しているものは、また階と同 じとする。 ○55 文武職事条 文武の職事・散官の、朝参行立(朝儀参列時の並び)については、おのおの位 順に序列すること。位が同じときには、五位以上は授位の先後を用いること。 六位以下は年齢を以て決めること{親王は前に立つこと。諸王、諸臣は、それ ぞれ位の順にしたがって、(諸王/諸臣が)混じらぬよう、分かれて列立する こと。}。 ○56 諸王五位条 諸王の五位以上、諸臣の三位以上が、致仕(=定年退職)して、その身が畿内 に在るならば季節ごとに、(諸臣の)五位以上の場合は年ごとに、いずれも内 舎人に1度巡問させ、安否を奏聞すること。 ○57 弾正別勅条 弾正について、別勅で臨時に、他の官司の職務を検校させた場合には、弾正台 の本務に当たらせることはできない。 ○58 内外官条 内外の官について、勅で、(異なる管内の)他の官司の職務を執らせたなら ば、みな権検校とすること。比司(同じ管内で並列する官司、たとえば、とも に民部省管内である主計寮と主税寮といった例)の場合は、摂判〔しょうは ん〕とすること(=署名には「判」と記入することになる)。 ○59 百官宿直条 内外の百官(普通は主典以上の全ての官吏。ただし集解の或説では史生・使 部・直丁も含むことにしてある)は、官司ごとに事務の閑繁を量って、それぞ れ所属の官司で、分番(=交替勤務)して宿直すること。大納言以上、及び、 八省の卿は、この例に含まない{通常の場合についていう。}。 ○60 京官上下条 京官は、みな開門の前に参上し、閉門の後に下がること。外官は、日の出に参 上し、正午後に下がること。政務が繁忙であるときは、事務量に応じて帰宅す ること。宿衛の官(兵衛・内舎人)はこの例に含まない。 ○61 詔勅条 詔勅(の発布に関わる事務)、及び、期限の迫った事務がある場合、併せて、 過所(=関の通行許可書)の請求/給付、もしくは、官物の輸納/受納する場 合、休暇の対象としない。 ○62 受事条 (弁官が)庶事を受理したとき、1日に受理したならば2日(=翌日)に(諸 司に)下達すること。急ぎの事である場合、及び、徒〔ず〕以上の身柄を送致 する場合は、到着受付後、すぐに下達すること。(弁官から送付された庶事 が)少事である場合、(諸司での決裁期限は)5日間{検覆(=特別調査)の 必要のない案件をいう}、中事は10日間{前案(=関係文書)を検覆し、及 び、勘問するところがあるものをいう}、大事は20日間{大簿帳〔だいふ ちょう〕(大きな帳簿)での計算を要する案件、及び、諮詢〔しじゅん〕(重 要な勘問)すべきものをいう}、獄案(刑部省裁断の判決案)は40日間{徒 以上の刑を定めて裁断すべきものをいう}。文書の受付日(送付日・受理 日)、及び、囚徒の拷問に要する日数は、いずれも日程期限の範囲に含まな い。もし事を急ぐ場合、及び期限内に終了すべきことがあれば、この例を用い ない。(訴訟上の案件で、当事者の)召喚の判断を下した場合は、3日を期限 とすること。もし出頭しなかったならば判決を猶予すること。猶予後も20日 目までに出頭しなかったならば、主典が事態を検出して、(当事者を待たず に)事を量って判決すること。事態に期限がある場合は、この例を用いない。 太政官の詔勅施行について、案が成って以後の頒下には、それぞれ書写の期限 を与えること。50紙以下は1日間。この紙数を超過するときには、50紙以 上ごとに期限1日を追加すること。追加が多くなったときでも、計3日を超え ることはできない。赦書〔しゃしょ〕(=恩赦の詔勅)は、紙数が多かったと しても、2日を超えることはできない。軍事の急用で、事柄に急ぐ期限のある 場合、みな(案の成った)当日に(官符を)送出し終えること{もし本司(官 符作成にあたる左弁官/右弁官)の人が少なく、量的に処理をこなせない場合 は、いずれも比司(もう一方の弁官ないし少納言局(外記局))の人を割り当 て補助するのを許可すること。}。 ○63 訴訟条(または訴訟従下始条) 訴訟は、みな下級官司(への申告)から始めること。おのおの前人(=被告 人)の本司本籍地に申告すること。もし遠隔地である、及び、支障があるなら ば、至近の官司に申告して裁断すること。裁断を終え、訴人(=原告人)が不 服として上訴しようと欲したならば、不理状(当事者が判決に不服の旨を記し た文書で、判決を下した官司が発行する)を請求して、(下級官司から上級官 司へという)順序どおりに上陳すること。もし3日以内に(不理状が)発給さ れない場合は、訴人は、発給しない(担当官の)官司姓名を記して、(不理状 なしで上級官司へ)上訴することを許可する。官司はその訴状によって、すぐ に発給しない所由を下推する(=下級官司へ書を下して反報を聞く)こと。然 る後に判決裁断する。(訴訟が、最上級官司である)太政官に至って、受理さ れない(或いは判決に不服がある)場合は、上表する(=天皇に文書を奉る) ことができる。 ○64 訴訟追摂条 訴訟にあたって、(当事者を)召喚し対面して尋問すべきことがあるときに、 もしその人が引き延ばし逃避して、2つの期限(前々条(受事条)で定められ た出頭期限3日・判決猶予期限20日)までに出頭に赴かない場合は、(前条 で定めた下級官司から上級官司へという)順序を越えて上陳するのを許可する こと。そうして(上陳を受理した官司が)下推(=下級官司へ書を下して反報 を聞く)・審理・判決するようにすること。 ○65 陳意見条 事情があって、意見を述べ封進〔ふしん〕(=密封で上表)しようと欲したな らば、任意に封上〔ふうじょう〕すること。少納言が受け取って奏聞するこ と。開封してはならない。もし官人の非法・不正、及び、抑圧・弾圧があるこ との告発ならば、弾正が受理し推断すること。事実かつ正当な内容であれば (結果を)奏聞すること。そうでない場合は(封上者を)糺弾すること。 ○66 公文条 公文(=公文書)は、ことごとく真書(楷書)で作成すること。簿帳(この場 合、大税帳・計帳・田籍などの類)・科罪、計贓〔けいぞう〕(=贓贖〔あが もの〕を計ること)、過所(=関の通行許可書)、抄【片旁】〔しょうぼう〕 (返抄や門【片旁】など)の類で、数字があるものについては、大字〔だい じ〕(一二三でなく壱弐参)にすること。 ○67 料給官物条 官物を(庫蔵から)出給したならば、上抄(授受した公文書を記録すること) の日に、つぶさに匹・丈・斛・斤(などの単位)、数量、出給した官司の(担 当官の)姓名を記載すること。 ○68 授位任官条(または喚辞条) 位を授かり任官する日に、(天皇の面前、口頭で)呼び指す称は、三位以上 は、先に名を、後に姓を。四位以下(五位以上)は、先に姓を、後に名を。 (天皇の面前、口頭で)授位任官の日以外は、三位以上は、姓のみを呼ぶこと {もし右大臣以上ならば官名を呼ぶこと}。四位は、先に名を、後に姓を。五 位は、先に姓を、後に名を。六位以下は、姓を取り去って、名を呼ぶこと。た だし(天皇の面前以外の場で)、太政官(太政官機構のうち弁官を除く大納言 以上)に於いては、三位以上は大夫〔だいぶ(?)〕と呼ぶこと。四位は姓を呼ぶ こと。五位は先に名を後に姓を。寮以上(弁官、及び、神祇官・省・台・府・ 坊・職・寮、ならびに大国・上国)に於いては、四位は大夫と呼ぶこと。五位 は姓を呼ぶこと。六位以下は姓名を呼ぶこと。司、及び、中国以下(中国・下 国)では、五位は大夫と呼ぶこと。 ○69 奉詔勅条 詔勅をうけたまわったとき、及び、奏聞を経て既に試行の段階となった太政官 奏であっても、事理を検討して灼然〔じゃくねん〕とせず(=はっきりしな い、といった意味か)不便不都合であるならば、施行を命じられた、或いは、 不都合を発見した官司は、事情に応じて執奏する(=現場の意見を奏す)こ と。もし緊急の軍事で施行を中断できない場合は、施行しつつ奏上すること。 執奏が理に適っているならば、内容に応じて(奏上者の)考を進めること。 (不都合を)知りながら奏上しない、及び、奏上が理に適わない場合は、また 内容に応じて降格すること。 ○70 駅使至京条 駅使が京に到着して、機密の事柄を奏上したならば、人と会話させてはならな い。蕃人の帰化については、館(蕃客用館舎)に置いて粮食を与えること。こ れもまた任意に往来を出入りさせてはならない。 ○71 諸司受勅条 諸司が勅をうけたまわった場合について、中務省を経ずに直接来たもの、及 び、口勅(口頭で伝えられる勅)を宣った場合には、従ってはならない。もし 口勅をうけたまわって物を求められたならば、中務省を通してはならない。諸 司が勅をうけたまわってそのまま供進すること。そのとおりに(?)奏聞するこ と。 ○72 事有急速条 緊急時で勅旨を出さざるを得ないときに、もし太政官を経ていては遅滞する恐 れがあるならば、中務省はまず諸司に移(=伝達)すること。正勅(2条「勅 旨式条」に従った正式の勅旨)は後に行うこと。 ○73 官人判事条 官人の政務処理について、草案を作成してのち、自ら不備に気付いた場合に は、牒を上申して追改するのを許可すること。 ○74 詔勅宣行条 詔勅を宣行する(=中務少輔以上が覆奏の後、施行のため太政官に送る)と き、文字の脱落、誤りを発見した場合、内容に関わる改動がなければ、本案 (=中務省に保管している詔勅の案)を検討し、明らかに知り得たならば、す ぐに改めて正しいものとすること。覆奏してはならない。詔勅以外の公文書で 誤脱があったときは、長官に報告して改正すること。 ○75 詔勅頒行条 詔勅を頒行する際、民政に関係する事柄であるならば、頒行が郷に到着したと き、いずれもみな里長・坊長に部内を巡歴させ、人々に述べ示して、一人一人 がきちんと詳しくわきまえておくようにさせること。 ○76 下司申解条 下司〔げし〕(=下級官司)からの上申書は、道理や言葉が不備であっても、 みな受理するようにすること。書面にて下推する(=下級官司へ書を下して反 報を聞く)こと。(下級官司からの上申が)道理的にも事実面からももっとも なことであるのに、(上級官司が)妄りに突き返すようなことがあった、及 び、道理であるのに抑え退けたならば、順序を越えて(さらに上級の官司へ) 上申するのを許可すること。上符〔じょうふ〕(=上級官司からの下達文書) に理不尽があったならば、また執申する(=現場の意見を上申する)のを許可 すること。 ○77 諸司奏事条 諸司の奏事(=通常は太政官が、諸司の解状を得て、それを天皇に上奏する が、諸司が直接上奏する場合(たとえば71条「諸司受勅条」のような)もあ る)は、みな長官を経由せずに安易に上奏することはできない。もし機密のこ とがある、及び、長官のことを論ずる場合は、この例に含まない。 ○78 須責保条 保人〔ほうにん〕(=保証人のうち、単に事実の有無を証明するだけである証 人とは異なり、事実の発生・不発生を担保し連帯責任を負う立場の人。ただし 現実には証人も保人も同様の保証責任を負っていた)を必要とするとき(たと えば、条件付きで釈放する囚人には、逃亡しないという保証が必要)は、みな (保人の人数を)5人と制限すること。 ○79 受勅出使条 勅をうけたまわって使に出るときには、お言葉をうけたまわってから後、正当 な理由なしに自宅で寝泊まりすることはできない。 ○80 京官出使条 京官が公事によって使に出るときは、みな太政官に報告して発遣すること。 (目的地に至るまで)経由する諸国に対しての(省台の)符や(府・庫・寮・ 司の)移は、弁官がみな便使〔たよりづかい〕(=別の目的で発遣される便宜 的な使を言い、ここで述べている使者の本来の目的は符移の送達ではないか ら、こう呼ばれる)に託して送付させること。帰還の日に、(符移を受け取っ た諸国が発行した受領の)返抄を太政官に送ること{もし使者が直ちに京に向 かわない場合は、その返抄は、所在の司(その使者が逗留するところの国司) に渡すこと。(その国の発遣する)便使に預けて(京へ)送ること。急用であ れば、専使〔たくめづかい〕(=特定の使命のためだけに発遣される使。便使 に対する語)を割り当てて送ること。}。 ○81 責返抄条 (在京諸司は、)諸々の使が帰還した日には、みな(その使者の持つ)返抄を 請うこと。 ○82 案成条 草案・本案を作成、また他司から来た公文書を記録・成巻したならば、つぶさ に収蔵目録を箇条書きに記録する(そして、案にその目録を副えて収蔵する) こと。目録にはみな軸を付けること。その上端には、何年何月に何という司が 納めた案目、と記すこと。15日ごとに庫に納めて終了させること。詔勅の目 録(及び本案もか)は、別所に安置すること。 ○83 文案条 文案について、詔・勅・奏の案、及び、考案、補官・解官の案、祥瑞・財物 (財物帳=争訟があったときの判断文)・婚(五位以上の妻妾の名簿)・田 (田籍・田図)・良賎(良賎の別を判定したもの)・市估(市司の作成した貨 物時価簿)の案、このような類は、永久に保存すること。それ以外は、年ごと に検討・選択して、3年に1度、除棄すること。つぶさに(除棄したものの) 記録目録を作ること。(保存を延長して)保存期限を作る場合は、事情を量っ て保管収納すること。期限が満ちたならばそれにしたがって除棄すること。 ○84 任授官位条 任官・授位したならば、任授したところの官司(式部省・兵部省、及び、中務 省、太政官)は、みなつぶさに官・位・姓名、任授するときの年月、本籍、年 紀(=年齢)を記録して、名簿(任官簿・授位簿)を造ること{任官簿は、本 籍・年齢を除く。}。官人は連署して印記する(その官司の印を捺す)こと。 もし転任(=ここでは、時代が下ってからいう遷任も含めた異動)したり、死 亡したり、及び、事情があって、正当な理由で任を去ったならば、名簿の下に 朱書で注記すること。考によって解官(=解任)した場合、及び、罪を犯して (刑部省が)除名・免官・免所居官することがあったならば、(官や位を)解 免した官司は、また解免の事状を記録して、前に準じて名簿(解簿・免簿)を 造ること。記録したならば元の任授したところの官司に報告して、(その司に ある任官簿・授位簿の)案に注記し、除くこと。もし考解・除免となった人 が、再び叙用(=叙位・任用)されることができたならば、叙用した官司は、 記録して、解官したところの官司に報告して、(解簿・免簿から)除くこと。 (再び)叙位されるまでの間に、本籍地に在って死亡した場合、刑部省に知ら せて(解簿・免簿に)注記し、除くこと。その他(四等官以外で)、職掌によ る必要から(その官職にある人の)名簿を造らねばならない場合は、いずれも これに準じること。 ○85 授位校勲条 授位や、叙勲の検討といった類は、原則としてまとめて奏上すべきであるが、 考第の判定が未だ完了しないもののあるときには、完了したものから順に奏上 すること。(全てが完了するのを)待って、停滞させるようなことをしてはな らない。 ○86 官人父母条 官人の父母が、病患して危篤であるときには、(その官人を)遠使に差し充て てはならない。 ○87 外官赴任条 外官が赴任するとき、子弟の年齢が21歳以上ならば、勝手に随行することは できない{畿内の任官については、この限りではない。}。(任地への)見礼 訪問については許可すること。 ○88 行程条 (標準の)行程について、馬は1日に70里(約37.1km)、徒歩は50 里(約26.5km)、車は30里(約15.9km)とする。 ○89 遠方殊俗条 遠方の殊俗(=異なる風俗)の人が来朝したならば、(その人が初めて到着し た)所在の官司は、ぞれぞれ図(=風俗を描いた絵か)を造ること。その容 状・衣服を描き、(図に続けて)つぶさに名号(=国号と人名)・処所(=国 の所在・地理)、併せて風俗(=気候・習俗)を注記すること。終わったなら ば、奏聞すること。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/04/02) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================