■ 第二十二 倉庫令 ≪全22条のうちの復原逸文16条≫ (※ 倉庫令は現存しないため、以下は日本思想大系「律令」(岩波書店)に 収録された復原逸文の訳です。第01条・第07条は、養老令ではなく大宝令施行 期のものとなっています。) ○01 (倉於高燥処置条) 倉は、みな高く乾燥した処に於くこと。周囲に池渠〔いけみぞ〕を開くこと。 倉の周囲半径50丈(約148m)以内に館舎を置いてはならない。 ○02 (受地租条) 地租を受納するにあたっては、みな乾燥して清浄であるようにしておくこと。 (到着の)順に【片旁】(=木札文書。ここでは納入書)を(提出させ)収め ること。同時ならば、遠い方を先とすること。京国の官司(京職ないし国司) は、輸納する人と共に籌〔ちゅう〕(=計算に用いる竹製の算木〔さんぎ〕) を執って、直接相対して受納すること。{在京の倉は、主税と共に検校するこ と。国郡は長官が監検すること。} ○03 (倉出給条) 倉(=正税その他の米穀類の官物を収めている倉庫)からの出給にあたって は、ひとつの倉の中のものを全て出し終わってから、次の倉に移ること。余分 があったならば、帳簿に付けること。不足分があったならば、事状に応じて、 (責任者から不足分を)徴収し、処罰すること。蔵(大蔵・内蔵など、調庸物 や諸国貢献物といった中央の財物を収める倉庫)もまたこれに準じること。 ○04 (大蔵出給条) 大蔵(=大蔵省所管の中央財物収納倉庫)は、(各季節の)1季の間に用いる 物の予定数量に応じて、量って出して、別に貯蔵すること。所用に応じて(そ こから)出給すること。内蔵(=内蔵寮所管の皇室関係財物収納倉庫)は、1 年間に用いる(予定の)物を納れて、毎月、別に貯蔵して、出して用いるこ と。いずれも余分があったならば、帳簿に付けること。不足分があったなら ば、事状に応じて、(責任者から不足分を)徴収し、処罰すること。 ○05 (倉蔵給用条) 倉・蔵の財物を出給するにあたっては、みな太政官符を承ること。供奉(=天 皇への供給)に用いる場合、及び、緊急に出給すべき必要がある場合、併せ て、諸国が式(=法)に依って出給し用いる場合は、先に用いて後に申奏する こと。(倉・蔵が使用している)器物(=設備・雑器)の類で、新しい物と古 い物を交換するときは、新しい物が到着するとともに、古い物はいずれも所司 (ここでは、その倉・蔵が所属する官司)に送り返すこと。年の終わりに、両 司(倉蔵の司と所司)は、それぞれ新旧の物を計会(=相互に対照して確認) すること。正当な理由なく欠損したならば、所由の人(欠損を生じさせた直接 関係者)から徴収すること。 ○06 (倉蔵貯積雑物条) 倉・蔵に貯積している雑物を出給するときは、まず収納年数の長い物から出し 終えていくこと。長年貯蔵することができない物、及び、古くなって使用に堪 えなくなった物があれば、太政官に上申して、斟量して処分すること。 ○07 (倉貯積条) 倉に貯積するにあたって、稲・穀・粟は貯蔵年数9年間までとすること。雑種 (=雑穀)は2年間まで貯蔵すること。糒〔ほしい/ほしいい〕(=干し飯) は20年間貯蔵すること。{貯蔵後3年以上を経たならば、1斛に付き耗〔こ う〕(=目減り)1升までを認めること。5年以上ならば2升。} ○08 (置公文庫鎖鑰条) 公文を置いている庫(=兵器や文書を収めている倉庫)の鎖鑰〔さやく〕(= 扉の錠と鍵)は、長官が自ら管理すること。もし長官が不在であれば次官が管 理すること。 ○09 (在京倉蔵巡察条) 在京の倉・蔵は、いずれも弾正(巡察弾正)に巡察させること。在外の倉庫 は、巡察使が出たときに按行〔あんぎょう〕(=視察して調べ整え)させるこ と。 ○10 (調庸物応送京条) 調庸などの物を京に送るときには、みな実際に送る物の数・色目(種目・名 称)に依って、それぞれ簿(=調帳・調庸帳)を1通造ること。(種目ごとに 納入先官司が異なるため)国は、(門文(=各官司への納品書)に、)明らか に進納する物の種目・数量を注載して、綱丁〔ごうちょう〕(=調庸物等を京 に運送する際に、宰領として運脚らの指揮・納入・返抄(受領証)の受取を務 める正丁のこと。国司・郡司が務めた場合は綱領という)等に預けて、各所司 に送らせること。 ○11 (倉蔵文案孔目条) 倉・蔵、及び、文案(=発行した公文書の案(控え)、及び、受領した公文 書)の孔目〔くもく〕(=公式令第82条「案成条」に定められた目録(の条 目))は、専当〔せんどう〕(=担当責任者)の官人が交替する日には、いず れも事項ごとに後任者に引き継ぐこと。然る後に放還する(=責任を解いて任 地を去らせる)こと。もし(収納物の)数が多くて、移動できない(実物に当 たれない)場合は、(倉庫の寸法と収納物の数量から)帳簿上だけで確かめて 引き継ぐこと。 ○12 (倉蔵受納条) 倉・蔵の受納について、後の出給の際に、もし不足があったならば、受納官を 務めた人と出給官を務めた人から均等に徴収すること。すでに引き継ぎを経て いるならば、後任者から徴収すること。余分があった場合には、帳簿に付けて 太政官に上申すること。 ○13 (欠負官倉条) 官倉(の収納物)を欠損して徴収する場合について、もし引き継ぎの後(の自 己の管理下)で欠損を生じた官人であるときには、任を離れないならば、(徴 収ぶんを)本倉に納めること。すでに任を去っているならば、便宜上、後任地 及び本籍地に納めるのを許可すること。隠截〔いんせつ〕(=私的に出挙して その利を着服すること)、及び、貸用は、在任/去任〔こにん〕を問わず、み な京に納めること。 ○14 (欠失官物条) 官物を欠失したり、併せて、勾獲〔こうかく〕(=帳簿と照合して欠失を検 出)したりして、徴収するにあたっては、いずれももとの物に依って徴収・充 当すること。その物が準備不可能な場合、及び、郷土にない場合は、その物の 価格に相当する財貨で徴収するのを許可すること。死亡している場合、及び、 配流しているならば、いずれも徴収を免除すること。 ○15 (割取交易物直条) 交易の物の費用(つまり必要物資や貢献物を購入するための支出)を着服した ならば、隠截の罪と同じとする。田租を余計に徴収する、地子(=公田(や私 田)の小作料)を過剰に収奪する等の罪は、非法の罪に準じること。不法に取 得した財物を官司の所有となした場合は、坐贓〔ざぞう〕(=監督支配の官人 としてではなく不法に財を得た者)として処分すること。私物となした場合 は、(監督支配の官人が)法を犯した場合に準じて処分すること。 ○16 (有人従庫蔵出条) 庫・蔵から出てくる人があって、盗みと疑わしい様子があったならば、すぐに 身体検査等を行うこと。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/04/02) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================