■ 第二十四 医疾令 ≪全27条のうちの復原逸文26条≫ (※ 医疾令は現存しないため、以下は日本思想大系「律令」(岩波書店)に 収録された復原逸文の訳です。第21条・第22条は、養老令ではなく大宝令施行 期のものとなっています。) ○01 (医博士条) 医博士〔いはくじ〕(=医術教官)は、医人(=医師)のうちの、学識技能が 優長な人を任用すること。按摩・咒禁の博士もまたこれに準じること。 ○02 (医生等取薬部及世習条) 医生〔いしょう〕・按摩生〔あんまのしょう〕・咒禁生〔じゅごんのしょ う〕・薬園生〔やくおんのしょう〕(=いずれも典薬寮に属す、各分野の学 生)は、まず薬部〔くすりべ〕(=いわゆる部〔べ〕ではなく、薬師〔くす し〕の姓〔かばね〕を持つ諸氏が世襲している医術職)、及び、世習〔せしゅ う〕(=3代以上にわたって医業を受け継いでいる家)を任用すること。次に 庶人の、年齢13歳以上16歳以下で聡明な人を任用すること。 ○03 (医針生受業条) 医針の生〔しょう〕は、各経(=書物)ごとに授業の単位とすること(※以 下、列挙されるのは履修書名)。医生は、甲乙〔こうおつ〕、脈経〔みゃく きょう〕、本草〔ほんぞう〕を習うこと。兼ねて(=選択科目として)、小品 〔しょうぼん〕、集験〔しゅうげん〕等の薬方〔やくほう〕を(2つ)習うこ と。針生〔しんのしょう〕は、素問〔そもん〕、黄帝針経〔おうだいしんぎょ う〕、明堂〔みょうどう〕、脈決〔みゃくけつ〕を習うこと。兼ねて、流注 〔るちゅう〕、偃側〔えんそく〕の図、赤烏神針〔しゃくうじんしん〕等の経 を習うこと。 ○04 (医針生初入学条) 医針の生は、初めて学に入ったならば、まず(医生は)本草、(針生は)脈 決、明堂を読むこと。本草を読んで、薬の効能・性質を習得すること。明堂を 読んで、図を検討し、その孔穴(=ツボ)を習得すること。脈決を読んで、 (針生が)互いに診察しあって、時間帯による脈の状態変化を習得すること。 次に、(針生は)素問、黄帝針経、(医生は)甲乙、脈経を読むこと。みな精 通しておくこと。兼ねて(=選択科目として)教習する(2つの)授業も、そ れぞれ通熟しておくこと。 ○05 (医生教習条) 医生は諸経を習熟したならば、授業を分けて教習させること。総数20人の割 合にして、12人に体療〔たいりょう〕(=成人の一般診療科)を学ばせるこ と。3人に創腫〔そうしゅ〕(=腫瘍科か)を学ばせること。3人に少小 〔しょうしょう〕(=未成年の一般診療科)を学ばせること。2人に耳、目、 口、歯を学ばせること。おのおのその授業を専攻すること。 ○06 (医針生誦古方条) 医針の生は、おのおの教習するところに従って、(上の条までに挙げた諸経以 外にも多数ある)往古の薬方から自身の専攻に必要な部分を拾って憶えるこ と。腕のいい医〔くすし〕が診療をすることがあれば、その助手をして、針灸 の方法を習得すること。 ○07 (医針生考試条) 医針の生について、博士は1ヶ月に1度、試験すること。典薬の頭・助は1季 に1度1度、試験すること。宮内の卿・輔は、年末に、総まとめの試験をする こと。{考試の方式は、大学生の例に準じること。}もし実力に優れ、現任の 官人を追い越している人があれば、すぐに任用し替えるのを許可すること。学 にあって9年までに修了できない場合は、退学させて(医針生に採用する以前 の)もとの身分に戻すこと。 ○08 (医針生成業条) 体療を学ぶについては、7年を期限として修業させること。少小、及び、創腫 は、各5年で修業させること。耳目口歯は、4年で修めさせること。針生は、 7年で修めさせること。成業したならば、典薬寮の医術優長の人が宮内省にお いて丞以上と共に面接して、(最終試験として)詳しく校練(=試問)を加え ること。つぶさに品行・技能を述べて、太政官に申送すること。 ○09 (自学習解医療条) 私的に自ら学習して、医療を習得した人があれば、(本人自ら)名を典薬寮に 投じること。試験に合格したならば、医針生の例に準じて考試するのを許可す ること。 ○10 (医針生束脩条) 医針生は、初めて学に入ったならば、みな束脩〔そくしゅ〕(=束ねた乾し 肉)の礼(入学時の教官への贈物)を行うこと。大学生に準じること(※学令 第04条「在学為序条」)。按摩・咒禁の生は半減すること。 ○11 (教習本草等条) 本草、素問、黄帝針経、甲乙を教習するに付いては、博士はみな、諸経の文に 依拠して講説すること。五経を講義する方法と同様にすること(※学令第09条 「分経教授条」)。 ○12 (定医針師考第条) 医針の師は、典薬寮がその所能(=専門技能)を量って、病があるところへ派 遣して救療すること。毎年、宮内省が、その識見の優劣、病を癒した数の多少 を検討して、考第を定めること。 ○13 (医針生選叙条) 医針生について、成業して太政官に送られたならば、式部省が覆試すること。 それぞれ12条。医生は、甲乙4条、本草、脈経、各3条を試験すること。針 生は、素問4条、黄帝針経、明堂、脈決、各2条を試験すること。選択科目に ついては、医針それぞれ2条。問答の方式は、いずれも大学生の例に準じるこ と。医生がすべての問題に合格したならば、従八位下に叙すこと。8つ以上合 格したならば、大初位上に叙すこと。針生は、医生よりも1等落とすこと。不 合格者は退けて、本学へ還すこと。経が不合格であっても、実技が堪能で、病 を癒すことは可能と考えられるならば、そのまま医師に任用するのを許可する こと。 ○14 (按摩咒禁生学習条) 按摩生は、按摩、傷折〔しょうせつ〕(=打ち身・捻挫・骨折)の治療法、及 び、刺縛〔しばく〕(=針で悪血を瀉出したり、骨折過所を固定したりする) の技術を学ぶこと。咒禁生は、咒禁(=まじない)して邪気を払い病災を防ぐ 方術を学ぶこと。みな3年を期限として成業させること。成業したならば、い ずれも太政官に申送すること。 ○15 (医針生等不得雑使条) 医針の生、按摩咒禁の生は、専ら習業させること。雑事に使役してはならな い。 ○16 (女医条) 女医(=宮廷の婦人科治療にあたる女性医師)は、官戸・婢(=どちらも官有 賤民の女性)の、年齢15歳以上25歳以下の、知性秀でた人30人を採用し て、別所に安置して、産科、及び、創腫、傷折、針灸の法を教えること。みな 経文に依拠して(諸博士が)口授(=書物を読ませず口頭で授ける)するこ と。毎月、医博士が試験すること。年末に内薬司が試験すること。7年を期限 として修業させること。 ○17 (国医生条) 国の医生について、医術優長で、熱心に(中央へ)仕えたいと願ったならば、 本国は、つぶさに技能を述べて、太政官に申送すること。 ○18 (国医師条) 国の医師について、医術を教授すること、及び、生徒の履修課程の年限は、い ずれも典薬寮の教習の方法に準じること。その他、治療法や使用必要なことが あれば、また兼ねて習わせること。 ○19 (国医生試条) 国の医生は、毎月、医師が試験すること。年末に、国司が面接して試験するこ と。いずれもはっきりと優劣を定めること。試験して合格しないことがあれ ば、状況に応じて科罰すること。もし師の教えに従わず、しばしば間違いを犯 すことがあった場合、及び、学業を果たせず、長期間進学できない場合は、事 情に応じて退学させること。すぐに替わりの人を立てること。 ○20 (薬園条) 薬園(=典薬寮所属の薬草園)は、師に検校させること。園生〔おんのしょ う〕を採用して、本草を教え読ませ、諸薬、併せて、採取・栽培方法を弁え知 らせること。付近の山沢に薬草があるならば、採ってきて植えること。(その 際に)用いる人手は、いずれも薬戸(=典薬寮所属の品部)を使役すること。 ○21 (依薬所出収採条) 薬品の備えは、典薬寮が毎年、必要量を推計すること。薬の産地に対し、太政 官に申請して散下〔さんげ〕する(=太政官が諸国へ輸進の指示を出す)こ と。 ○22 (採薬師条) 国について、薬を輸出する処では、採薬師〔さいやくのし〕を置くこと。適切 な時期に採取させること。(その際の)人手は、当処の付近から採用して配置 すること。 ○23 (合和御薬条) (天皇の)御薬を合和するにあたっては、中務省の少輔以上1人が、内薬司の 正と共に監視すること。服薬の日には、侍医がまず毒味すること。次に内薬司 の正が毒味すること。次に中務省の卿が毒味すること。しかるのちに御〔ご〕 (=天皇)にたてまつること。{中宮、及び、東宮についてもこれに準じるこ と。} ○24 (五位以上病患条) 五位以上が疾患したならば、いずれも奏聞すること。医〔くすし〕を派遣して 治療すること。病気を診断して薬を支給すること。{致仕(=定年退職)の人 もまたこれに準じること。} ○25 (典薬寮合雑薬条) 典薬寮は、毎年、傷寒〔しょうかん〕(=寒気で起こる病)・時気〔じけ〕 (=季節の変調で起こる病)・瘧〔ぎゃく/おこり〕(=夏の日射で起こるマ ラリヤの類の熱病)・下痢・傷中〔しょうちゅう〕(=諸々の内臓病)・金創 〔こんそう〕(=刃物による傷)、諸々の雑薬を調製して、治療の用意をして おくこと。{諸国もこれに準じること。} ○26 (医針師巡患家条) 医針の師等が患者の家を巡回診療して治療した所は、(その家の人が)病状の 経過と、患者の家、医人(=医者)の姓名を記録して、宮内省に報告するこ と。それによって(その医人の勤務評定をし)進退すること。{諸国の医師も またこれに準じること。}                 (公開:2000/03/18 更新:2000/03/18) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================