■ 第二十六 喪葬令 ≪全17条≫ ○01 先皇陵条 先皇の陵は、陵戸を置いて守らせること。陵戸でなくして守らせたならば、 10年に1度交替すること。墓域の内側は、埋め葬ったり、耕したり牧畜した り伐採・採取してはならない。 ○02 服錫紵条 天皇は(一般人のように服喪をしないので)、本服(=本来なら喪に服すべ き)2等以上の親の喪のためには、錫紵〔しゃくじょ〕(=薄墨色の麻の細布 衣)を(3日)着用される。3等以下(の親)及び諸臣の喪のためには、帛衣 〔びゃくえ〕(白い練絹衣)を除き、雑多な色を用いられる。 ○03 京官三位条 京官の三位以上が、祖父母・父母、及び、妻の喪に遭った場合、四位が父母の 喪に遭った場合、五位以上が亡くなった場合、いずれも奏聞すること。使(= 弔使)を派遣して弔わせること。{殯斂〔ひんれん〕(=死者に用いる棺・衣 等の支給)の事は、いずれも別式に従うこと。} ○04 百官在職条 百官が、在職中に亡くなったならば、当司は分番して喪(葬儀)に会〔え〕す ること。親王、及び、太政大臣・散一位は、治部省の大輔が葬儀のことを執り 仕切ること。左右の大臣及び散二位は、治部省の少輔が執り仕切ること。三位 は治部省の丞が執り仕切ること。三位以上、及び、皇親は、みな土部〔はじ べ〕(=諸陵司に所属)が礼制〔らいせい〕(=凶礼。喪事の儀礼)を示すこ と。{内親王・女王、及び、内命婦もまたこれに準じること。} ○05 職事官条 職事官が亡くなったならば、賻物〔ふもち/ふもつ〕(=死者に贈る品物) は、正従一位に、【糸《いとへん》+施の旁】〔きぬ〕(=あしぎぬ)30 疋、布120端、鉄10連。正従二位に、【糸《いとへん》+施の旁】〔き ぬ〕25疋、布100端、鉄8連。正従三位に、【糸《いとへん》+施の旁】 〔きぬ〕22疋、布88端、鉄6連。正四位に、【糸《いとへん》+施の旁】 〔きぬ〕16疋、布64端、鉄3連。従四位に、【糸《いとへん》+施の旁】 〔きぬ〕14疋、布56端、鉄3連。正五位に、【糸《いとへん》+施の旁】 〔きぬ〕11疋、布44端、鉄2連。従五位に、【糸《いとへん》+施の旁】 〔きぬ〕10疋、布40端、鉄2連。六位に、【糸《いとへん》+施の旁】 〔きぬ〕4疋、布16端。七位に、【糸《いとへん》+施の旁】〔きぬ〕3 疋、布12端。八位に、【糸《いとへん》+施の旁】〔きぬ〕2疋、布8端。 初位に、【糸《いとへん》+施の旁】〔きぬ〕1疋、布4端。みな(官職の高 下など立場に関わりなく)本位によって給付すること。散位の、三位以上に は、3分の2を給付すること。5位以上には半分を給付すること。太政大臣に 【糸《いとへん》+施の旁】〔きぬ〕50疋、布200端、鉄15連。親王及 び左右の大臣は一位に準じること。大納言は二位に準じること。(誰かが)も し戦場で死んだならば、みな(この)職事の例に依ること。別勅で賜う物はこ の令には拘わらない。無位の皇親は従五位に準じて、3分の2を給付するこ と。{女もまたこれに準じること。}(割り算の)端数は切り上げて給付する こと。 ○06 賻物条 賻物は、(1人に対し)2つの給付基準がある場合、多い方に従って給付する こと。 ○07 官人従征条 官人が、征討・駕行、及び、使の旅先で死没したならば、みな(賻物の他に) 殯斂〔ひんれん〕(=死者に用いる棺・衣等)の調度を給付すること。 ○08 親王一品条 親王一品には、方相〔ほうそう〕(=方相氏。中国の古神に扮して疫を逐う人 (ここではその装具))・【車需】車〔にしゃ/きくるま〕(=喪葬車。車に 載せた喪屋)を各1具、鼓〔く〕(=つづみ・たいこ)100面、大角〔だい かく/はらのふえ〕(=大きい角笛)50口〔く〕、小角〔しょうかく/くだ のふえ〕(=小さい笛)100口、幡〔ばん〕(=流れ旗)400竿〔か ん〕、金鉦〔こんしょう〕(=かね)・鐃鼓〔にょうく/ふりつづみ〕(=不 詳だが、小さな鐃〔どら〕の一種)を各2面、楯7枚、発喪〔ほちあい〕(= 挙哀〔こあい〕と同じ。棺の側で死者に哀悼の意を捧げるため哭声を放つ礼) を(埋葬の日を含めて)3日。二品には、鼓80面、大角40口、小角80 口、幡350竿。三品、四品には、鼓60面、大角30口、小角60口、幡 300竿。【車需】車、鐃鼓、楯、鉦、及び、発喪の日は、いずれも一品に準 じること。諸臣の一位、及び、左右の大臣は、みな二品に準じること。二位、 及び、大納言は、三品に準じること。ただし、楯・車を除くこと。三位には、 【車需】(=車のない喪屋)1具、鼓40面、大角20口、小角40口、幡 200竿、金鉦・鐃鼓各1面、発喪1日。太政大臣には、方相・【車需】車を 各1具、鼓140面、大角70口、小角140口、幡500竿、金鉦・鐃鼓各 4面、楯9枚、発喪5日。その他(帷帳〔いちょう/ゆいちょう〕(=棺を蔽 う白布の帳〔とばり〕)など)の装具、及び、遊部〔あそびべ〕(=死者の凶 魂を鎮めるのを専門とする氏)については、いずれも別式に従えること。五位 以上、及び、親王について、いずれも、【車需】具、及び、帷帳を借りたり、 もしくは私的に準備したいと願ったなら許可すること。{女もまたこれに準じ ること。} ○09 皇都条 皇都及び道路の側近くには、いずれも死者を埋葬してはならない。 ○10 三位以上条 三位以上、及び、別祖(=分立した氏の始祖)・氏宗〔ししゅう〕(=氏の 長)については、いずれも墓を営むことができる。それ以外はしてはならな い。墓を営むことができる場合でも、大蔵〔だいぞう〕(=火葬・散骨)した いと願ったならば許可すること。 ○11 皇親及五位以上条 皇親、及び、五位以上が死亡したならば、いずれも臨時に、(必要人員を) 量って送葬夫〔そうそうのぶ〕(=葬送・造墓のための人員としての公民の雑 徭)を支給すること。 ○12 立碑条 墓にはみな碑を立てること。具官(=帯びる官職全て)姓名の墓、と示すこ と。 ○13 身喪戸絶条 人が死亡して、戸が絶え親族もない場合は、所有していた家人〔けにん〕・奴 婢、及び、田宅・資材は、四隣五保(いうなれば隣り組)が共同で管理運営す ること。財物は供養に使ってしまうこと。家人・奴婢は解放して良人〔ろうに ん〕とすること。もし死亡者の存命中に処分して、証人・証拠書類が明らかな らば、この令は適用しない。 ○14 親王条 親王、及び、三位以上が、暑月に亡くなったならば、氷を支給すること。 ○15 薨奏条 百官(散官・女官・無位皇親等全てを含む)が死亡したならば、親王、及び、 三位以上は、薨と称すこと。五位以上、及び、皇親は、卒と称すこと。六位以 下、庶人に至るまでは、死と称すこと。 ○16 喪葬条 (資力が足らず)喪葬で、(身分にふさわしい)葬礼を準備できないとき、貴 い身分は賤しい身分と同じ程度にすることはできる。賤しい身分が貴い身分と 同じにすることはできない。 ○17 服紀条 服喪の期間は、君(天皇・太上天皇)・父母・及び、夫、本主(帳内・資人が 仕えるあるじ)のために1年。祖父母・養父母に5ヶ月(1ヶ月30日と単純 固定計算するので=150日)。曾祖父母・外祖父母・伯叔姑・妻・兄弟姉 妹・夫の父母・嫡子に3ヶ月(90日)。高祖父母・舅姨・嫡母・継母・同居 の継父・異父兄弟姉妹・衆子・嫡孫に1ヶ月(30日)。衆孫・従父兄弟姉 妹。兄弟の子に7日。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/03/18) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================