■ 第二十九 獄令 ≪全63条≫ ○01 犯罪条 犯罪があったならば、みな事が発覚したところの官司で審理・判決すること。 在京の諸司の人、京及び諸国の人について、在京諸司で事が発覚した場合、徒 〔づ〕以上を犯したならば、(身柄を)刑部省に送ること。杖〔じょう〕罪以 下は当司で刑を執行すること。衛府が罪人を捉えた場合、京に本籍を置いてい ないときは、みな(京職ではなく)刑部省に送ること。 ○02 郡決条 罪を犯したとき、笞〔ち〕罪は郡が判決・刑執行すること。杖〔じょう〕罪以 上は、郡が判決して(身柄を)国に送ること。(国衙での)再審を終えて、徒 〔づ〕・杖、及び流〔る〕の罪で(本人以外に働き手がない・流刑にするのが 不適切などの理由で)杖に換刑すべき場合、また贖〔ぞく/しょく〕す(=物 で罪をあがなう)場合は、そのままそこで徒・杖の刑を執行・贖を徴収するこ と。{刑部省で徒以上を判決したときもこれに準じること。}刑部省及び諸国 で、流以上、もしくは除免官当の判決をしたならば、みな案(鞫状〔きくじょ う〕(=訊問調書)と伏弁〔ぶくべん〕(=被告が判決を承服する旨の書 類)、及び、断文(=判決文))を連写して、太政官に上申すること。太政官 で再審して審理を終えたなら申奏すること。太政官で再審して、決着しないこ とがあれば、在外の場合は使(専使)を派遣して再度審理すること。在京の場 合は、あらためて刑部省において審理すること。 ○03 国断条 国の下した判決について、太政官で再審理が必要なものの場合は、太政官が 量って使の人(=覆囚使)を差し向けること。強明に法律を理解している人を 任用して、七道(行政区分)別に現在の囚人を巡回審理すること。審理を終了 していながら判決が下されていない場合、(覆囚使は、国司の行う裁判の)進 行を促し、判決を出させて、すぐに再審すること。再審を終えたならば、記録 して報告すること。{もし国司が事実を枉〔ま〕げて判決し、使の人(=覆囚 使)の推定によれば無罪であるとき、国司が事実を伏せたことを認め冤罪が はっきりとして免罪する場合は、(覆囚)使が任意に判決して放免すること。 そうして事状を記録して報告すること。使の人は、国の判断と異なることがあ れば、それぞれ事状を報告すること。もし審理をし尽くして、判決を下すべき であるにもかかわらず、使の人が判決せず、妄りに口実を設けて遅延させたな らば、国司は事状を記録して太政官に報告して、使の人の考に附けること。} 徒〔づ〕罪(=懲役刑)を国が判決して伏弁〔ぶくべん〕(=被告が判決を承 服する旨の書類)を得たとき、及び、盗品を摘発されたり現行犯であることが はっきりしているならば、そのまますぐに使役すること。使を待ってはならな い。それ以外は使を待つこと。使の人はそうして全て再審すること。審理し終 えて、国の判断と同じになったならば、そのまま国に預けて配役させること。 ○04 覆囚使条 覆囚〔ふくしゅ〕(=(徒以上の)再審)の使の人が到着したならば、まず獄 囚(=犯罪の有無を問わず収監されている人)・枷【木丑】〔かちゅう〕(= 首かせ・足かせ)・鋪席〔ふしゃく〕(=獄囚に支給する敷物)・疾病・粮餉 〔ろうしょう〕(=(獄囚の)食事)のことを検査すること。法に従ってない ことがあればまたその状況をもって報告し考に附けること。 ○05 大辟罪条 大辟〔だいびゃく〕罪(=死刑)の執行があったならば、在京の場合は、死刑 執行する司は3度覆奏すること。{執行の前1日に1度覆奏すること。執行す る日に2度覆奏すること。}在外の場合は、符下〔ふげ〕の日(=執行命令の 太政官府が出される日)に、(刑部省が(?))3度覆奏すること。{初めの日に 1度覆奏すること。後の日に2度覆奏すること。}もし悪逆以上を犯したなら ば、ただ1度だけ覆奏すること。{家人・奴婢が主を殺したならば、覆奏して はならない。}京内で囚(の死刑)を執行する日には、雅楽寮は音楽を停止す ること。 ○06 断罪条 断罪(=徒〔づ〕以上の宣告)をし、刑を執行するときには、いずれも犯状 〔ぼんじょう〕(=判決)を宣告すること。大辟〔だいびゃく〕罪の囚(死刑 囚)の刑を執行するならば、みな(物部ないし衛士・兵士が)警備して(庶人 の場合は)枷〔か〕(=くびかせ)を着けて、刑所へ連行(?)すること。囚人1 人に警備20人。囚人1人(増える)ごとに(警備を)5人加えること。五位 以上、及び、皇親は、馬に乗るのを許可すること。親属・友人と決別の挨拶を 交わすのを許可すること。その日の未〔ひつじ〕(=午後2時頃)の後に刑を 執行すること。囚人の身柄が京外にあるならば、奏報(=執行前の覆奏)のと き、馳駅〔ちやく/ちえき〕(=馬を使った急使)して(急いで)行き来して はならない。 ○07 決大辟条 大辟〔だいびゃく〕罪(=死刑)を執行する場合は、みな市で行うこと。五位 以上、及び、皇親について、犯した罪が悪逆以上でない場合は、家で自尽〔じ じん〕(=自刃)するのを許すこと。七位以上、及び、婦人は、犯した罪が斬 でなければ、人目につかない処で絞首すること。 ○08 五位以上条 大辟〔だいびゃく〕罪(=死刑)を執行するとき、五位以上については、在京 の場合は、刑部省の少輔以上が執行に立ち会うこと。在外の場合は、次官以上 が執行に立ち会うこと。その他はいずれも少輔及び次官以下が立ち会うこと。 立春より秋分に至るまでは、死刑を奏上・執行してはならない。もし悪逆以上 を犯した場合、及び、家人・奴婢が主を殺したならば、この令に拘わらない。 大祀(践祚大嘗祭)、及び、斎日〔さいにち〕(=六斎日=殺生を避ける毎月 8・14・15・23・29・30日)、朔日(=ついたち)、望〔もう〕 (=陰暦15日)、晦(=みそか=月の最終日)、上下弦(=毎月8・9日と 22・23日頃の月齢)、二十四気(立春・冬至・大寒など)、假日(=休 日)には、いずれも死刑を奏上・執行してはならない。京に在って囚人の死刑 を執行するならば、みな弾正台・衛士府に立ち会わせること。もし囚人が冤罪 だとはっきりしていることがあるならば、執行を停止して奏聞すること。 ○09 囚死条 囚人が死んで(喪に服すような間柄の)親戚がない場合は、みな空き地(空閑 地)に仮に埋めて【片旁】(=木標)を上に立てること。その姓名を記して、 そうして本属(本籍のある官司)に下すこと。流罪・移郷に処せられた人が道 中に、及び、流罪・徒罪に処せられた人が使役中に死んだ場合、これに準じる こと。 ○10 犯流以下条 流〔る〕以下を犯して、除免官当するとき、奏上以前に死亡したならば、位記 は没収しない。奏上のときに死亡を知らず、奏上後に死亡したと伝えた場合 は、奏によって定めること。大赦によっても罪を許されないものについては、 通常の例に依る(奏上前でも位記を没収)こと。もし雑犯〔ぞうぼん〕(=八 虐・故殺人以外の罪)による死罪のとき、刑が定まってから赦〔しゃ〕にあっ て、刑の執行を完全に免除されたならば、現任の職事(官職)を解任するこ と。 ○11 流人科断条 流人、及び、移郷の人の判決が確定したならば、みな妻妾を放棄して配所に赴 いてはならない。もし(流移人が)妄りに(どこかへ)逗留(配所に赴かな い)、許可なく帰還、及び、逃亡することがあれば、そのまますぐに太政官へ 報告すること。 ○12 配三流条 流人を配すときは、罪の軽重に依って、それぞれ三流〔さんる〕に配すこと。 {すなわち、近・中・遠処のことである。} ○13 流移人条 流移の人は、太政官が量って配すこと。(流移を判決する)太政官符が(罪人 の身柄を収監している刑部省ないし諸国に)到着したならば、季ごとに1度、 (罪人を)送り出すこと。{もし太政官符が、季の末月に到着したならば、後 の季の人と一緒に送り出すのを許可すること。}つぶさに随う家口〔けく〕 (=家族)、及び、送り出す日月を記録して、便宜に従って配所に下すこと。 互いに警備の人員を充てて、専使(領送使)が監督して、配所に送り届けるこ と。配し終わったならば、速やかにはじめ送った処(刑部省ないし諸国)へ報 告し、併せて太政官に報告して知らしめること。もし妻子が(出発地の)遠く に在って、また、容易に来ることができない場合は、あらかじめ追喚しておい て、一緒に発つことができるようにすること。妻子が到着しない間に、(出発 地で)囚の身を使役するときは、取りあえず付近で公役〔くやく〕すること。 そうして(妻子到着までに出発地で)すでに使役した日数は記録して、配所に 下してからの日数と相殺するのを許可すること。 ○14 逓送条 死囚を逓送する場合、みな道の途中の軍団の大毅に自ら監督させること。及 び、それ以外の囚徒を逓送するとき、禁固する(刑具を着ける)場合は、みな 少毅が監督すること。併せて警備を充てて、まちがいなく(罪人を)授受させ ること。 ○15 在路条 流移の人が道中にあるならば、みな途中の国が食料を支給すること。食料を受 けるごとに停留することが2日を超過してはならない。伝馬を支給するしない は、その時々で処分すること。 ○16 至配所条 流移の人について、配所に到着して送り届け終わったならば、もと居たところ を発った日月、及び、到着日を勘定して、移動期間を計算すること。もし領送 の使の人(=領送使)が道中に滞留して、旅程の範囲外となった場合は、(流 移人を)受けた官司は、事情に応じて罪に問い裁判すること。そうして事状を 太政官に報告すること。 ○17 六載条 流移の人は{移人とは、本犯が除名(だが、赦に会い移郷)する者をいう}、 配所に到着して6年以後、仕官を許可すること。{反逆の縁坐流を犯した場 合、及び、反逆(=謀反・謀大逆)によって死を免除して配流した場合は、こ の例でない。}本犯が流ではないものの特に配流した場合は、3年以後、仕官 を許可すること。蔭があるならば、それぞれ本犯の収叙の法に依ること。現任 を解いたとき、及び、除名の移郷でない場合は、年限は考解の例に準じるこ と。 ○18 犯徒応配居役者条 徒〔づ〕罪を犯して使役に配する場合、畿内は京師に送ること。在外は当地の 官役(雑務)に服役させること。流罪を犯して(配所で)使役する場合、また これに準じること。婦人は裁縫、及び、脱穀・精米に充てること。 ○19 流徒罪条 流〔る〕・徒〔づ〕罪で使役するとき、みな【金太】〔だ〕(=鉄製の首か せ)もしくは盤枷〔ばんか〕(=木製の首かせ)を着けること。病があれば外 すのを許可すること。頭巾を着けさせてはならない。旬〔じゅん〕ごとに休暇 を1日支給すること。服役している区域より出してはならない。病による休暇 はその日数ぶんをあとに回すこと。服役日数が満ちたならば本籍のある官司に 逓送すること。 ○20 徒流囚条 徒流囚が服役中、囚1人に対し2人が警備すること。在京は、物部及び衛士を 取って充てること。{1分は物部、3分は衛士。}在外は、当地の兵士を取っ て、交替で警備させること。 ○21 婦人産条 流移囚について、道中、婦人(本人または妻妾・従者で良人の場合)が出産す ることがあれば、家口(家族・同行者)全員に休暇を20日支給すること{家 女〔けにょ〕(=女性の家人)及び婢〔ひ〕には休暇7日を支給する。}。も し本人及び家口が病にかかった、或いは、増水で先に行くことができない場合 は、いずれも付近の国司に報告して、毎日検校させること。進むことができる ようになればすぐに発たせること。{もし病人に同行者が多く、全員を留め待 たせることができない場合、領送使は(その病人を)しっかりと付近の国郡に 預けること。法に依って療養させる(医薬を支給する)こと。癒えるのを待っ てすぐに逓送させること。}もし(流移囚に同行している)祖父母・父母が亡 くなったならば、休暇を10日支給すること。家口が亡くなることがあれば、 3日。家人・奴婢は1日。 ○22 流移人条 流移の人が配所に到達する前に、(同行していない)祖父母・父母が郷に在っ て亡くなったならば、現在地で休暇を3日支給して発哀〔ほつあい〕(=(遠 隔地へ行かずに)死者に哀悼の意を捧げるため哭声をあげること)させるこ と。徒流の人が配所で服役中、(同行しているか在郷かを問わず)父母を亡く したならば、休暇を50日支給して挙哀〔こあい〕(=発哀と同じ)させるこ と。{祖父母が亡くなって跡継ぎとなる人もまた同じ。}2等親は7日。いず れも往還の日程は支給しない。 ○23 婦人在禁条 (良人の)婦人が禁所にあって(=女囚)、臨月となったならば、保証人を 取って仮釈放するのを許可すること。死罪の場合は産後20日が満ちたとき、 流罪以下の場合は産後30日が満ちたならば、いずれもすぐに(禁所へ)再収 監すること。旅程は支給しない。 ○24 犯死罪条 婦人が死罪を犯して子を産んだ場合、家口〔けく〕(=家人・奴婢も含む同籍 の人)がなければ、近親に預けて養育させること。近親がなければ四隣に預け ること。(同じ身分で)養って子としたいと欲する者があれば、異姓であって もみな許すこと。 ○25 公坐相連条 公坐相連〔くざそうれん〕(=官人が公罪を犯したとき、同一官司内の長官〜 主典がそれぞれ連坐するもの)するときは、右大臣以上、及び八省の卿、諸司 の長を、いずれも長官とすること。大納言、及び、少輔以上、諸司の弐(次 官)を、みな次官とすること。少納言、左右弁、及び、諸司の糺判(を職掌と する官人)を、みな判官とすること。諸司の勘署(を職掌とする官人)を、み な主典とすること。 ○26 父祖官蔭条 父祖の官蔭〔かんおん〕によって、出身して位を得た場合、父祖が除名の罪を 犯したならば、子孫までは追求しない。もし子孫がまた除名したならば、後叙 の日には無蔭〔むおん〕の法に従うこと。父祖の犯罪によって(?)降格して叙し たならば、また後蔭〔ごおん〕に従って叙すこと。 ○27 因犯移配条 官人について、犯罪によって移配するとき、及び、別勅で現任を解くとき、も しくは、本罪が除免官当してはならない場合は、位記はそれぞれ剥奪する範囲 でない。 ○28 応除免条 罪を犯して除免及び官当する場合は、奏報(=天皇への奏上と、解免した官司 から任授した官司への報告)の日に、除名は位記をことごとく破ること。官 当、及び、免官、免所居官は、ただ見当〔げんとう〕(=官当で返上する官 位)・見免〔げんめん〕(=免官ないし免所居官で剥奪される官位)、及び、 降至〔ごうし〕(=剥奪対象となる位階)の位記を破ること。降所不至〔ごう しょふし〕(=剥奪対象の位階よりも下の位階)については追求する範囲では ない。破るときには、いずれも太政官に送って破ること。式部の案(保存され ている位記の写し)に毀〔き〕の字を記すこと。{太政官の印を、毀の字の上 に捺印すること。} ○29 除免官当条 罪を犯して除免官当する場合は、(その官人は)執務にあたったり、朝会 〔ちょうえ〕してはならない。勅命によって特別裁判を受けたならば、官当除 免でなくとも、徒以上は内に参ってはならない。三位以上は、解官以上でなけ れば、執務にあたり、朝会し、及び、内に参って供奉(=身近にお仕え)する のを許可すること。 ○30 犯罪事発条 罪を犯して事が発覚したとき、盗品を摘発されたり現行犯であることがはっき りしているならば、全共犯者の逮捕が未完了であったとしても、まず現在逮捕 している人を犯状によって裁判すること。それ以外は後で追求すること。 ○31 犯罪未発条 罪が犯されたものの発覚しておらず、及び、すでに発覚しているが判決が下さ れていない段階で、格〔きゃく〕により(現行法を)改正したならば、もし格 の方が重ければ、(罪を)犯したとき(の法)に依るのを許可すること。もし 格の方が軽ければ、軽い法に従うのを許可すること。 ○32 告言人罪条 人の罪を告言〔ごうごん〕(=告発・告訴)するとき、謀叛以上でなければ、 みな(真実かどうか告発者を)3審させること。告言を受けた官司は、いずれ もつぶさに、虚偽ならば反坐に処せられるとの旨、はっきりと告げ示すこと。 審判ごとにみな日を別にすること。告言文書を受理した官人が、審判の文書の 末尾に署名すること。審判が終わったならば、しかる後に裁判を行うこと。も し事件に切害〔せちがい〕があればこの例ではない。{切害というのは、殺人 し、賊盗し、逃亡し、もしくは良人を強姦し、及び、急速の事情があるもの (堤防を壊したり水火を放って家を焼いて盗むなどの類)をいう。}被告の身 柄を拘束するときは、告発者の身柄もまた拘束すること。取り調べを終えた上 で(告発者を)釈放すること。 ○33 告密条 告密〔ごうみつ〕(=密(=謀叛以上の犯罪)を告発)する人は、みな当処の 長官に報告して告言すること。長官に犯罪があるのならば、次官(次官のいな い国の場合は隣国の国司)に報告して告言すること。もし長官・次官ともに密 の事があれば、任意に隣国に報告して論告すること。告発を受理した官司は、 法に準じて(誣告であったら反坐に処す旨を)示し語り、具体的な内容を言っ たならば、すぐに身柄を拘束して、状況に応じて取り調べること。もし逮捕す べきならばすぐ逮捕すること。(自国のみでは逮捕不能で)他国と相談すべき 場合は、所在の国司は、状況に応じて逮捕収容すること。事件が謀叛以上にあ たるならば、(まだ告発人を)取り調べている(途中だ)としてもなお、馳駅 〔ちやく〕して奏聞すること。乗輿を指斥〔ししゃく〕(=天皇を(名指し で)批判)したとき、及び、妖言で衆を惑わしたならば、検校し終わってから まとめて奏すること。告発を承けて逮捕したならば、もし(告発どおりの犯罪 のみで)別状がなければ、(捜査開始時の馳駅奏聞のみに止め)別奏してはな らない。告密を称しているとしても、(誣告の場合の処置を)示し語ったと き、(密事であるとのみ言って)具体的な内容を言わず、事を天皇に直接奏上 すると言ったならば、告発を受理した官司は、さらにはっきりと、虚偽ならば 無密反坐の罪に処せられると示し語ること。また(ここで)、具体的な内容を 言ったならば、身柄を拘束して馳駅して奏聞すること。もしただこれは謀叛以 上であると(のみ)称して、(具体的な)事状を吐かない場合は、駅を使って 使を差し充て監督させて京に送ること。{もし勘問しても事状を言わず、その ために(摘発等の)時期を逸したならば、知っていて告発しなかったことと同 じとする。}死罪を犯した囚人、及び、配流の人が、告密した場合は、いずれ も(京へ)送る範囲ではない。取り調べ、及び、奏聞する場合は、前の例に準 じること。 ○34 囚逮引人条 囚人が、他人を共犯者だと主張したならば、みな詳しく事情を問いただし、然 る後に召喚すること。もし召喚して無罪と判明して釈放して、またさらに妄り に主張した場合、及び、囚人が、獄に在って死んだならば、年ごとに事状をつ ぶさにして、朝集使に預けて、太政官に報告して(太政官から使人を派遣し て)再審すること。 ○35 察獄之官条 察獄〔さつごく〕(=犯罪の審理)をする官人は、まず五聴(=辞聴・色聴・ 気聴・耳聴・目聴で、被告の言辞・顔色・気息・聞いたことへの反応・目つ き)を観察し探ること。また、諸々の證信〔しょうしん〕(=証拠)を調べる こと。事状が甚だ疑わしいにも関わらず、なお白状しないならば、こうした後 に拷掠〔こうりょう〕(=訊〔じん〕=拷鞫〔こうきく〕=拷問)すること。 訊はそれぞれ間を20日置くこと。もし訊を終えぬまま、他司に移して拷鞫す る場合は{囚人を他司に移したならば、本案(訊問調書)を連写して一緒に移 すこと}、前の訊と通計して、計3度まで行うこと。罪が重害でない場合、及 び、嫌疑が少ない場合には、必ずしもみな3度を満たすようにしてはならな い。もし囚人が、訊によって死亡したならば、みなつぶさに当処の長官に報告 すること。在京の場合は、弾正と共に対面して検証すること。 ○36 非親訊司条 囚人を訊問するにあたっては、自ら訊問を担当する官人でなくして、囚人の所 に出かけ接見することはできない。 ○37 冤枉条 すでに死罪が定まり奏報(=天皇へ報告)した場合であっても、なお冤枉〔え んおう〕(=冤罪)を訴え、無実と疑わしいことがある場合、推覆〔すいふ く〕(=再審)するときは、書類を以て奏聞すること。使を派遣し馳駅〔ちや く〕して検校すること。 ○38 問囚条 囚人の訊問が終了したならば、訊問した司は、口述を写した供述書を作成する こと。(作成が)終わったならば、囚人に対し読み示すこと。 ○39 禁囚条 囚禁〔しゅきん〕(=獄囚の収監)について、死罪は枷【木丑】〔かちゅう〕 (=首かせ・足かせ)。婦女及び流罪以下は、【木丑】〔ちゅう〕(=足か せ)を除けること。杖罪は散禁(=特に刑具を着けず収容して出入の自由を禁 じる)。年齢80歳(以上)、10歳(以下)、及び、癈疾〔はいしち〕(= 身障者等)、懐孕〔えよう〕(=妊婦)、侏儒の類は、死罪を犯したとして も、また散禁とする。 ○40 犯罪応入条 犯罪があって、議請〔ぎしょう〕に入る(=特別審判の開廷、及び、天皇裁決 の申請を行う)場合には、みな太政官に申告すること。審議に際しては、大納 言以上、及び、刑部卿・大輔・少輔、判事が、太政官に於いて議定すること。 六議(=皇親・高位高官・賢人・武功者といった特定の重要人物が持つ特別審 議の特権)に該当しない件だとしても、刑部省及び諸国で流〔る〕以上ないし 除免官当を裁判した場合に、処断に疑わしいことがあり、及び(被告が)処断 に伏さないときは、また衆議して量定すること。本条に挙げた太政官・刑部省 (の官人)でないといえども、別勅によって参議(=審議に出席)する場合 は、また(議場へ)集まる範囲にある。もし(出席者の)意見が異なることが あれば、個人別にその議を述べること。太政官は断簡して書類を以て奏聞する こと。 ○41 諸司断事条 諸司の判決(文書)は、ことごとく律令の正文〔しょうもん〕に依る(=本文 に依拠する)こと。(文書内にあるミスについての)主典による検出は、ただ 実情を調べることのみ可能。判決内容について安易に論じることはできない。 ○42 応議請減条 議請減〔ぎしょうげん〕(=議や請や減といった減刑特権者に相当)すべき人 が、流〔る〕以上(に当たる罪)を犯した場合、もしくは除免官当(に当たる 罪を犯した場合)は、いずれも肱禁〔こうきん〕(両肱〔ひじ〕を縄縛して収 監)すること。公坐〔くざ〕(=公事によって犯した罪)の流〔る〕、私罪の 徒〔づ〕は{いずれも官当〔かんどう〕(流・徒の実刑の代わりに位勲を1年 間剥奪する換刑)でない者をいう}、(身柄を拘束せず)保〔ほう〕(=保 証)を取って参対〔さんだい〕させる(在宅のまま訊問時のみ出頭させる)こ と。初位以上及び無位の、贖〔ぞく〕(=実刑の代わりに相当額の贖銅〔ぞく どう〕を徴収する換刑)すべき人(=議請減の特権者の縁者、及び70歳以上 16歳以下)が、徒以上及び除免官当(に当たる罪)を犯したならば、梏禁 〔こくきん〕(=足かせを着けた拘禁)。公罪の徒は、いずれも散禁(=特に 刑具を着けず収容して出入の自由を禁じる)。巾〔かぶり〕は脱がせない。 ○43 五位以上条 五位以上が罪を犯し拘禁するときは、在京の場合はみな、先に奏上すること。 もし死罪を犯した場合、及び在外の場合は、先に拘禁して後、奏上すること。 いずれも(他の罪囚と隔離して)別所に監禁するのを許可すること。婦女の (五位以上の)有位者もまた同じ。もし五衛府の志〔さかん/そうかん〕以上 及び兵衛が罪を犯して追捕すべきときは、いずれも鞫獄〔きくごく〕(=取り 調べ担当)の官司が、本府(犯人の所属する衛府)に知らせて追掩〔ついあ ん〕(=指名手配)するのを許可すること。本府はすぐに上奏した上で逮捕し (身柄を取り調べ担当の官司へ)送検すること。主帥及び衛士(が罪を犯して 追捕すべきとき)は、(上奏を経ず)すぐに本府が逮捕して(身柄を取り調べ 担当の官司へ)送検すること。 ○44 奉使条 使を奉って犯人追捕に向かうことがあれば、みな本部本司(犯人が所属する官 司)に通報すること。単にすぐに収捕することはならない。もし急を要す密 (=謀叛以上の犯罪)ならば、かつがつ捕らえられるような場合には、本司に 通報してその公文を取る一方で直ちに逮捕に発遣すること。 ○45 婦人在禁条 婦人を収監しているときは、みな男夫と所を別にすること。 ○46 当処長官条 囚〔しゅ〕(=ここでは、収監している未決段階の被告・原告)は、当処(未 決囚を収監している官司)の長官が、15日に1度、検行すること。長官がい なければ次官が検行すること。(裁判の遅れで)囚(の状態)が引き延び、長 期間禁獄して推問されていない場合、もしその旨を知ったときは、十分な証拠 が揃っていないとしても、或いは(原告が)1人を複数の犯罪で告言している とき、及び、被告の告言された犯罪が複数であるときに、重罪については結審 し、軽罪について未だ終えていない場合、このような徒はいずれも、検行の官 司はすぐに断決〔だんけつ〕(=判決を下し刑を執行)すること。 ○47 盗発条 (犯人逮捕の有無を問わず、諸国で)強窃盗事件の発生、及び、徒〔づ〕以上 の囚については、それぞれ本犯〔ほんぼん〕(=刑の減免等の処分を受ける前 の元々の罪)に依って、つぶさに発生及び判決月日を記録し、年別に帳をまと めて、朝集使に預けて、太政官に報告すること。 ○48 犯死罪条 死罪を犯して禁獄しているとき、悪逆(=直系尊属への暴行・殺人予備罪、及 び、二等親以内の尊属・長上と外祖父母への殺人罪)以上でなく、父母の喪に 遭い、婦人が夫の喪をし、及び、祖父母の喪をして相承(跡継ぎ)となる人に は、みな假〔いとま〕を7日給って発哀〔ほつあい〕(=挙哀〔こあい〕= (現地へ赴かずに)死者へ哀悼の意を捧げるため哭声をあげること)させるこ と。流・徒の罪(で未だ服役していない人の場合)には20日。すべて旅程は 給付しない。 ○49 鞫獄官司条 鞫獄〔きくごく〕(=取り調べ担当)の官司で、(訊問担当者が)訊問される 人と五等の内親であるとき、及び、三等以上の姻戚、併せて、学業を授かった 師、及び、復讐や不仲なことがあれば、みな(担当者を)替えて訊問するのを 許可すること。帳内・資人を経ているときの(?)、本主についてもまた同じ。 ○50 検位記条 犯罪があって位記を調べるとき、もし位記が紛失し、或いは遠隔地にある場合 は、みな案(=式部省に保管してある写し)を調べること。 ○51 有疑獄条 国に疑獄(=罪跡がはっきりせず有罪・無罪の判決を下しがたいもの)があっ て結審しない場合は、刑部省に移送して罪を議すこと。もし刑部でもなお疑わ しい場合は、太政官に上申すること。 ○52 贖死刑条 死刑を贖〔ぞく〕す(=換刑として実刑の代わりに相当額の贖銅〔ぞくどう〕 を納入する)ことは、80日を期限とすること。流は60日、徒は50日、杖 は40日、笞は30日。もし理由もなく期限が過ぎるまでに納入しない場合 は、赦に会おうとも免除しない。披訴〔ひそ〕(=控訴)することがあったと しても、控訴審での判決が前の判決から変更されない場合は、また(赦に会お うとも)免除の範囲にない。もし官物(に損害を与えてその賠償)を徴収する 場合は、直〔あたい〕(=労賃(?))になぞらえること。50端以上になる場合 には100日、30端以上に50日、20端以上に30日、20端未満に20 日。もし官物を損傷して、正贓〔しょうぞう〕(=元の現物)及び贖物〔ぞく もつ〕(=賠償物)を徴収する場合で、それに充当する財がなければ、官(= 官司(?))が役使し、その労働で相殺すること。その物(賠償物)が多いとして も、(私人ではなく官に入れる場合は)5年を期限に止めること。{1人の1 日に、(労賃ぶんとして)布2尺6寸を相殺すること。} ○53 給席薦条 獄には、席〔むしろ/しゃく〕(=「ござ」。い草・竹・藁・蒲〔がま〕・そ の他植物を編んだ敷物の総称で、鎌倉時代後期以降畳敷きが普及するまでは、 もっぱら室内で用いられ、かつ必須であった、現代の畳に相当するような敷 物)、薦〔こも/せん〕(=植物「まこも」を粗く織った敷物で、出入口に垂 らしたりもする。席よりも粗い)を給付すること。紙、筆、及び、兵刃〔ひょ うにん〕・杵棒〔しょぼう〕(武器刃物)の類は、いずれも入れてはならな い。 ○54 有疾病条 獄囚に疾病があれば、主守〔しゅしゅ〕(=看守に当たっている官人)は申牒 〔しんちょう/しんぢょう〕(=上申)すること。判官以下は、自ら実状を検 知して、医薬を給付し救い癒すこと。重病のときは枷【木丑】〔かちゅう〕 (=首かせ・足かせ)を脱がせること。そうして家の者が1人、拘禁されてい る所に入って看病するのを許可すること。(獄囚が)死ぬことがあれば、また すぐに同じく検知すること。もし(非法な死や自殺など、病気以外の)他の理 由があれば、状況に応じて問いただすこと。 ○55 応給衣粮条 獄囚に、衣粮〔いろう/えろう〕(=衣食)、薦〔こも/せん〕・席〔むしろ /しゃく〕(=いずれも敷物)、医薬を給付するにあたって(の費用)、及 び、獄舎を修理する類(の費用に)は、みな贓贖〔ぞうぞく/ぞうしょく/あ がもの〕(=罪人が官司に納入した盗品や実刑に代わる代物)等の物を以て充 当すること。無ければ官物を用いること。 ○56 至配所条 流人が配所に到着して居作(=服役)したならば、いずれも官粮〔かんろう〕 を支給すること{加役〔かやく〕流もこれに準じること}。もし留住〔る じゅ〕(=現住地に住まわせたまま服役させること)して居作する場合、及 び、徒役する場合は、いずれも私の食粮を食〔は〕むこと。家が貧しくきちん と準備できなければ、二親等以上の親族が交代で50日の食粮を準備するこ と。尽きるに応じて公〔おおやけ〕が(?)支給すること。もし家を離れること遙 かに遠く、食粮を送ることができない(?)場合、及び、家人〔けにん〕(=ここ では家の者くらいの意味か(?))が知らない(?)場合は、官司(?)が衣粮を支給す ること。家人が到着したならば、支給ぶんに従って徴収し納めさせること。 {見囚〔げんしゅ〕(=収監している未決囚や、判決は出ているものの未だ配 所へ送っていない囚の類)で、(家の者が)食粮を送ることができない(?)場合 は、またこれに準じること。} ○57 在京繋囚条 在京の繋囚〔けいしゅ〕(=禁獄されている獄囚)、及び、徒役の処には、常 に弾正を毎月巡検させること。(罪人を)安置し役使するにあたって法に従っ ていないことがあれば、事態に応じて糺弾すること。 ○58 犯罪条 罪を犯し、及び、官物を欠損した場合に、赦降〔しゃごう〕(=恩赦や犯した 罪の軽減)を経て(賠償等を)免除されるべきときに、別勅で推徴〔すいちょ う〕(=犯罪の審理や損失分の徴収)の指示があったならば、赦降の例に依っ て執聞〔しゅうもん〕(恩赦に会った事状を記録して奏聞)すること。 ○59 放賤為家人条 (奴婢を)賤身分から解放して家人〔けにん〕及び官戸〔かんこ/かんご〕と した場合に、当人が逃亡して30日を経過したならば、いずれも再び賤身分に 充てること。 ○60 資財入官条 罪を犯して資財を没収した場合、もし(一部の縁者が)縁坐を免除されたなら ば、或いは律に依って縁坐としてはならないならば、ぞれぞれ分法〔ぶんぽ う〕(=没収資財の返還規則)を計算して(没収資財の一部をその縁者に)返 還すること。別勅で罪を降〔ごう〕(=軽減)して軽い罪に準じたならば、没 収した物が現存しているときには、また返還すること。{元の罪には縁坐規定 がない(したがって資財没収されない)が別勅で資財田宅を没収したならば、 罪人の所属する房戸(=罪人の家庭)のみ没収(して残りの縁者のぶんは返 還)すること。}もし他人の寄託や貸借を受けたもの、及び質物〔しちもつ〕 (=出挙〔すいこ〕(=利子付貸与)の抵当)の類については、没収の段階で すぐに(寄借主ないし質主が)言請〔ごんしょう〕(=申し立て)することが あって、その証拠が明確であるならば、みな(没収対象として)記録する範囲 にない。競財〔きおいたから〕(=その帰属について複数の主張がある財物) があって、官司で判断できない場合は、法に依って(裁判を行い)検校(罪人 の所有物と裁決が出たならば没収、そうでないときは帰属者に返還)するこ と。 ○61 弁證已定条 弁證〔べんしょう〕(=供述と証言)が確定した後で、赦に会ってさらに(そ の弁證を)翻した場合(たとえば確定した弁證が今回の恩赦の対象であるかな いかによって自分が得するような供述に変更するなどの類)、ことごとく赦の 前の弁證を以て(罪を)定めるようにすること。 ○62 傷損於人条 人を傷害した場合、及び、誣告〔ふこく/ぶこく/むごう〕(=虚偽の告発) して罪となった場合、その人が贖〔ぞく〕す(=換刑として実刑の代わりに相 当額の贖銅〔ぞくどう〕を納入する)ときには、銅は、告発し、及び、傷害さ れた家に納入すること。両人が互いに犯して共に罪となった場合、及び、同居 者が互いに犯した場合は、銅は官司に納入すること。 ○63 杖笞杖 杖〔じょう〕(=刑具)は、みな節目〔ふしめ〕を削り去ること。長さは3尺 5寸(約106cm)。囚を拷問するとき、及び、通常の杖刑の執行に用いる 杖の、大きい頭経〔はしわたり〕4分〔ぶ〕、小さい頭経3分(直径約 0.9cm以上1.2cm以内)。笞杖〔ちじょう〕(=笞刑用の刑具)の も、大きい頭3分、小さい頭2分(直径約0.6cm以上0.9cm以内)。 枷〔か〕(=足かせ)の長さ4尺(約121cm)以下3尺(約91cm)以 上。梏〔こく〕(=字は手かせの意だが足かせのこと)の長さ1尺8寸(約 54.5cm)以下1尺2寸(約36cm)以上。杖笞の判決が出たならば、 臀〔しり〕に受けること。拷訊〔こうじん〕(=拷問)するときは背中と臀を 分けて受けること。数は等しくすること。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/04/26) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================