■ 第三十 雑令 ≪全41条≫ ○01 度十分条 度(=長さの単位)は、10分〔ぶ/ぶん〕を寸とすること。10寸を尺とす ること。{1尺2寸を大尺〔だいしゃく〕の1尺とすること。}10尺を丈 〔じょう〕とすること。量(=容積の単位)は、10合を升とすること。{3 升を大升〔だいしょう〕の1升とすること。}10升を斗とすること。10斗 を斛〔こく〕とすること。権衡〔ごんこう〕(=重さの単位)は、24銖 〔しゅ〕を両とすること。{3両を大両の1両とすること。}16両を斤〔こ ん〕とすること。 ○02 度地条 土地の測量、銀・銅・穀類を量るときには、みな大を用いること。これ以外 は、官私ことごとく小の方を用いること。 ○03 用度量条 度量権〔どりょうけん〕(=度量衡)を用いる官司には、みな様〔ためし〕 (=標準原器)を支給すること。その様はみな銅で作ること。 ○04 度地5尺為歩条 土地の測量について、5尺を歩〔ぶ〕とすること。300歩を里とすること。 ○05 月六斎条 月の六斎の日(毎月8・14・15・23・29・30日)には、公私みな殺 生を禁断すること。 ○06 造暦条 陰陽寮は、年ごとにあらかじめ来年の暦を造ること。11月1日に中務省に申 し送ること。中務省は奏聞すること。内外の諸司(上級官司)にそれぞれ1本 支給すること(被管の下級官司は所管の上級官司から写しを支給される)。い ずれも年の前に所在に到着させること。 ○07 取諸生条 陰陽寮の諸々の生〔しょう〕を取るについては、いずれも医生〔いしょう〕に 準じること。成業年限、及び、束脩〔そくしゅ〕の礼〔らい〕は、統一的に大 学生と同じ。 ○08 秘書玄象条 秘書(=遁甲太一式のような方術書の類)、玄象の器物(=銅渾儀のような天 体観測用器物の類)、天文の図書(=星官薄讃のような星座関係の書物類) は、安易に持ち出してはならない。観生〔かんしょう/かんじょう〕(=観天 文生=天文生)は、占書(=天文占いの書物)を読むことはできない。天文を 仰ぎ観て見た所(の妖祥)は漏泄してはならない。もし徴祥・災異があれば、 陰陽寮が奏(=天文密奏)すること。終わったならば、季ごとに封をして中務 省に送って、国史に記入すること。{送ったものには占言を記載してはならな い。} ○09 国内条 国内に銅・鉄を産出する処があるとき、官司が採掘しないならば、百姓(=一 般人)が私的に採掘するのを許可すること。もし銅・鉄を納めて庸調に換算し たならば許可すること。それ以外の禁処(=禁止区域)でない場所について は、山川藪沢の利用は、公私ともに(平等に)すること。 ○10 知山沢条 山沢に、異宝(=めのう・琥珀の類)・異木〔いもく〕(=沈香・白檀・蘇芳 の類)、及び、金・銀、彩色、雑物があるというところを知ったならば、国用 に供するに堪えるようであれば、みな太政官に報告して奏聞すること。 ○11 公私材木条 (どこかの)公私の材木(ただし未加工の原木段階のもの)が暴水のために漂 失して、(その漂木を)拾ったならば、いずれも岸上に積んで、はっきりとし た標榜を立てて、最寄りの官司に報告すること。持ち主が判明することがあれ ば、5分の1を報賞すること。30日の期限を過ぎても持ち主が判明すること がなければ、拾った人に与えること。 ○12 取水漑田条 水を引いて田の灌漑を行うならば、みな下(※この語の解釈は諸説ある)より 始めること。順序に従って用いること。渠〔みぞ〕に沿って碾磑〔てんがい〕 を造りたいと願ったならば国郡司に報告すること。公私の差し障りがなければ 許可すること。渠・堰〔せき〕を修理するときは、まずそれら用水路を利用し ている家の人を使役すること。 ○13 要路津済条 要路(=人の往来が頻繁な道路)の津済〔つわたり〕について、橋を渡しがた いような処では、みな船を置いて(人々を)運び渡すこと。津に到着した先後 によって(渡す)順番とすること。国郡の官司が検校すること。また人夫を指 定して、その度子(渡子)〔どし/わたしもり〕に充てること。2人以上、 10人以下。2人ごとに、船をそれぞれ1艘。 ○14 庁上及曹司座者条 庁上及び曹司(=八省及びその他官司)の座(=座席)は、五位以上にはいず れも牀(床)〔ゆか〕(=倚子・床子などの、背もたれのない木製の腰掛 け)・席〔むしろ〕(=現代の感覚では「ござ」。腰掛けの上に敷く)を支給 すること。その方法は別式に従うこと。 ○15 在京諸司条 在京の諸司の主典以上には、毎年正月に、いずれも座席を支給すること。以下 (史生〔ししょう〕・掌〔じょう〕など)には、壊れるに応じてすぐ支給する こと。 ○16 因使得賜条 官人等が、使(を務めること)によって賜〔たまもの〕を給禄されたとき、使 の事が中止になった場合には、賜った物はいずれも追徴する範囲にない。罪を 犯して追還〔ついげん〕(=呼び還す(?))ことがあったならば、賜った物はい ずれも徴納すること。 ○17 訴訟条 訴訟(の提訴期間)は、10月1日に開始し、3月30日に至るまでに検校す ること。それ以外はしてはならない。もし提訴に急を要する侵奪があれば、こ の限りではない。 ○18 家長在条 家長が存在するとき、子孫弟姪等は(家長の許可なく)安易に、奴婢・雑畜 〔ぞうきゅう〕・田宅、及び、その他の財物を、私的に自ら質に入れたり売っ たりすることはできない。もし互いに許可を確認せず(?)に、違反して安易に与 えたり買ったりした人は、律に依って罪を科すこと。 ○19 公私以財物条 公私が財物を出挙〔すいこ〕(=利子付き貸与)したならば、任意の私的自由 契約に依ること。官司は管理しない。60日ごとに利子を取ること。8分の1 を超過してはならない。480日を過ぎた時点で1倍(=100%)を超過し てはならない。家資〔けし〕(=家の資産)が尽きたならば、役身折酬〔やく しんせっしゅう〕(=債務不履行を労働によって弁済)すること。利を廻〔め ぐら〕して本〔もと〕とする(すなわち複利計算)してはならない。もし法に 違反して利子を請求し、契約外の掣奪〔せいだつ/ひきうばい〕(=私的差し 押さえ)をした場合、及び、無利子の負債(=債務不履行の際、役身折酬によ る弁済ができない)の場合は、官司が管理すること。質は、持ち主に対して売 るのでなければ安易に売ってはならない。もし(特定期間内、令義解によれば 480日+60日を過ぎて後に)、利子を合計しても本〔もと〕(質物の価 格)に達しないときには、所司に報告して、持ち主に対して(?)売るのを許可す ること。余りが出たならば返還すること。もし債務者が逃亡した場合、保人 〔ほうにん〕(=身柄保証人)が代償すること。 ○20 以稲粟条 稲粟〔とうぞく〕を出挙したならば、任意の私的自由契約に依ること。官司は 管理しない。そうして1年を1期間として判断すること。1倍(=100%) を超過してはならない。官司(の出挙)は半倍(=50%)すること。いずれ も旧本〔くほん〕(=本〔もと〕の値)に従って?)、さらに利子を発生させた り、複利計算してはならない。もし家資〔けし〕(=家の資産)が尽きたなら ば、また上の条に準じること。 ○21 出挙条 出挙は、当事者間の合意に基づいて、私的に自由契約させること。利子の取り 方が条の規定を超過したならば、任意に個人が糺して報告すること。利物はい ずれも糺した人に報賞すること。 ○22 宿蔵物条 官地(=私有地以外)で宿蔵物(=埋蔵物)を拾得したならば、みな拾得した 人に帰すこと。他人の私地(=口分田・墾田など私財と見なされる土地)で拾 得したならば、地主と半分にすること(ただし地主の父祖が埋めたものの場合 は子孫である地主に帰属する)。形製の珍しい古器(つまり銅鐸といった発掘 品)を拾得したならば、ことごとく官司に送って、(拾得者には)対価を酬い ること。 ○23 畜産【角弓_】人条 畜産〔きゅうさん〕(=家畜)が人を【角弓_】〔つ〕いたならば両角を切る こと。人を踏んだならば繋ぎ付けること。人をかじったならば両耳を切ること (いずれも癖のある家畜を識別するための処置)。狂犬があれば、殺すのを許 可すること。 ○24 皇親条 皇親及び五位以上は、帳内・資人、及び、家人・奴婢等を派遣して、市や肆 〔いちぐら〕を定めて、興販〔こうへん〕(=商売)してはならない。市に於 いて売買し、出挙〔すいこ〕し、また人を派遣して外処〔げしょ〕で貿易し、 往復させた場合には、この限りではない。 ○25 私行人条 私用の行人〔ぎょうにん〕(=旅行者)について、五位以上が駅を宿泊利用し たいと願ったならば許可すること。もし辺境にあって、及び、村里がない処で は、初位以上及び勲位もまた許可すること。いずれも(そこで)安易に供給を 受けることはできない。 ○26 文武官人条 文武官〔もんむかん〕の人は、毎年正月15日に、いずれも薪〔みかまぎ/た きぎ/まき〕を進納すること。{長さ7尺(約21cm)。20株〔しゅ〕を もって1担〔たん/にない〕とすること。}一位に10担、三位以上に8担、 四位に6担、五位に4担、初位以上に2担、無位に1担。諸王もこれに準じる こと。{無位の皇親はこの範囲ではない。}帳内・資人は、それぞれ本主〔ほ んじゅ〕に納めること。 ○27 進薪条 進薪の日は、弁官、及び、式部・兵部・宮内省、共に(薪の数や品質の良し悪 しを)監督して、主殿寮に貯納すること。 ○28 給炭条 後宮及び親王に炭〔あらすみ〕を供給するについては、10月1日より開始し て2月30日までに供給し尽くすこと。薪は必要量を知り量って供給するこ と。供進〔ぐしん〕される炭はこの限りではない。 ○29 蕃使往還条 蕃使(=異国からの使節)が往還するにあたっては、大路の側近くに、(蕃使 と)同国の蕃人を置いたり、同色〔どうじき〕(=同じ出身地)の奴婢を連れ 歩(?)いてはならない。また伝馬子〔でんめし〕(=伝馬の馬子)及び援夫〔え んぶ〕等に充ててはならない。 ○30 犯罪被戮条 罪を犯して死刑に処せられた人の父子を配没〔はいもつ〕(=没官〔もっか ん〕して公奴婢として配置)するにあたっては、禁内の供奉(=内膳など身近 にお仕えするもの)、及び、東宮の所の駈使に配してはならない。 ○31 官戸奴婢条 官戸・奴婢が死亡したならば、所司は検校して、年の終わりにまとめて報告す ること。 ○32 放休假条 官戸・奴婢は、旬ごとに休假〔くけ〕1日を許可すること。父母が亡くなった ならば、假〔け〕30日を給付すること。産後15日。懐妊したとき、及び、 3歳以下の男女の親であれば、いずれも軽役に従事させること。 ○33 充役条 官戸・奴婢を使役に充てたならば、本司はきちんと功課を立てて案記するこ と。(奴婢食料を)無駄に(支給して)公粮〔くうろう〕を費やしてはならな い。(※奴婢食料の支給については「倉庫令」の現存しない部分に規定があっ たらしい。) ○34 給衣服条 官戸・奴婢について、3歳以上には、毎年衣服を支給すること。春は布の衫 〔ひとえのきぬ〕、袴〔はかま〕、衫〔ひとえぎぬ〕(※同字だが「ひとえの きぬ」とは別物か)、裙〔も〕を各1具。冬は布の襖〔あわせのきぬ/ふす ま〕、袴、襦〔あわせのきぬ/はだぎ〕(※襖とは同訓異字)、裙を各1具。 みな(身長の(?))長短に応じて数えて支給すること。 ○35 外官条 外官について、親属・賓客があって逗留した場合に、官物を用いて遇してはな らない。 ○36 外任人条 外任〔げにん〕の官人(=外官)は、親属・賓客を同伴して任所に赴任し、及 び、田宅を所有・経営して百姓(=一般人)と利を争ってはならない(つまり 経営活動を行ってはならない)。 ○37 公廨条 公廨〔くげ〕の雑物(=公廨とは元は官庁の舎屋のこと。転じて、そこに収め られている収蔵物を指して言うようになった)は、みな本司に自ら(出挙の状 況を(?))勾録〔こうろく〕させること。費用見在〔げんざい〕の帳(=運用帳 簿(?))は、年の終わりに1度、太政官に報告すること。(太政官は帳簿の)到 着に随って勾勘〔くかん〕(=監査(?))すること。 ○38 造僧尼籍条 僧尼については、京国(=京や諸国(?))の官司が6年ごとに籍を3通造るこ と。それぞれ出家した年月、夏臈〔げろう〕(=修業年数)及び徳業〔とくご う〕(=修得した経論)を表記し、式に依って印すること。1通は職国〔しき こく〕(=京職や諸国(?))に留めること。それ以外は太政官に申し送ること。 (太政官は)1通は中務省に送ること。1通は治部省に送ること。使用する調 度(造籍に用いる紙や墨など(?))はいずれも寺の人数に準じて物を納入させる こと。 ○39 作檻穽条 檻穽〔かんせい〕(=狩猟用の罠・落とし穴)を作り、及び、機槍(=仕掛け 槍)を設置する場合、交通を妨げたり人を傷つけたりしてはならない。 ○40 諸節日条 正月1日、7日、16日、3月3日、5月5日、7月7日、11月大嘗の日 を、みな節日〔せちにち〕とすること。(節会に参集した群臣へ節禄を)あま ねく賜うについては、臨時に勅を聴くこと。 ○41 大射者条 大射〔おおいくは〕(=天皇観覧のもと建礼門で行う群臣の射礼〔じゃら い〕)は、正月中旬に、親王以下、初位以上が、みな射ること。その儀式(= 式次第)及び禄は別式に従うこと。                 (公開:2000/03/18 更新:2000/03/18) ====================================================================== 訳者:しげちゃん(猪狩浩美) Email: HGF03435@nifty.ne.jp   「官制大観」 http://www.sol.dti.ne.jp/‾hiromi/kansei/ ======================================================================