白詰草話(Win) ※ディスク2枚組
メーカー Littlewitch 総合評価 60点(及第点)
ジャンル ADV
発売日 2002/07/05
シナリオ 大槍葦人・古我望 「北へ。」などで知られる大槍氏が立ち上げたブランド・Littlewitchのデビュー作。とにかく大槍氏の絵でエロゲができるというのが話題に(^^;
原画 大槍葦人
サウンド yan・ヨーグルト

※以下の評価は修正パッチver.1.01に基いています

個人的エピソード
新システムFFDによる演出に惹かれてやってみました。
あとはまあご多分に漏れず大槍さんの独特なタッチの絵は割と好きなんで。

内容
2008年、東京。
絶大な政治力を背景に超法規的活動を行いながらも、
その実態、目的が謎に包まれた研究機関「古痕」。
各分野の傑出した人材が集まるその組織の中でも、ひときわ異彩を放つ研究者がいた。
彼の名は津名川宗慈。
遺伝子工学に長け、ヒトゲノムの解析とプログラム、
そしてそれらを応用した戦闘用アンドロイドの研究を行う津名川の知識の深さと鮮烈さは、
まるで「はじめから答えを知っている」かのようであった。

その研究段階で作り出され、エマ、沙友、透花と名付けられた三人の少女達は、
追加された24対目の遺伝子ゆえに「エクストラ」と呼ばれた。
人の手によって作り出された、限りなく人に近く、
しかし人とはかけ離れた存在。
表面的には穏やかな時を過ごしていた彼と彼女達の日常は、
研究所に侵入してきた正体不明の戦闘用ロボットとの戦いを境に変化していく……。

さまざまな事件を乗り越え、徐々に明らかになっていく計画の全容と
それぞれの真の目的、エクストラに関わる人間達の悲しい過去。
エクストラの兵器としての性能を知り、暗躍を始める軍部。
独自の正義に基いて動く、公安のナンバーレスエージェント「荒山鳥人」。
津名川にライバル意識を燃やすもう一人のエクストラ開発者「高宮エレン」。
そして交錯する人々の思惑の中で深まり行く謎。
……「古痕」、「オリジン」、そして「バベル」とは……。

行き場の無い幾多の軋轢がドミノのように加速し、
物語はすべてを巻き込みながら終焉へと昇りつめていく……。
(マニュアルより)

システムとか
必要容量はおよそ800MB。
音声がないゲームにしては多い部類に属するでしょうか。

ゲームは全10話からなる選択肢分岐型のADV。
1回目ではハッピーエンドに辿り着けなかったり、ハーレムエンドを見るためには効率よく全員分のHシーンを回収しなくてはならないなど、若干面倒な部分もありますが全体としての難易度はさほど高くない部類かと思われます。

セーブ数は60個+クイックセーブ1個。十分な数だと思います。
気をつけるべきはロードの仕様について。
セーブが任意のタイミングで可能なのに対して、ロードの方は各話ごとにいくつか用意された再開ポイントからしか再開できないようになっています。

スキップと名のつくものは特になし。
1番それに近いのがゲーム速度の変更で、最大で(多分)256倍速まで上げることが可能。
まあほとんどが共通ルートということもあって、スキップがないのはあまり気にはなりません。

また読み返し機能も用意されていません。
捻ったようなセリフが多い作品なので個人的にはこの機能は欲しかったところ。
ビデオのように早送りができるなら巻き戻しもできそうな気がするんですが……(ぉ

鑑賞系はBGM・CG鑑賞にシーン回想と一通り用意。


さて、既に名称だけはチラリと出ていますが、この作品の特徴はFFDというシステムにあります。
ゲームの表示に関わるシステムの名称で、要するにマンガのコマ割りのように小さな絵を並べたりフキダシを使って物語を見せるというシステムです。
文字通りのデジタルコミックを実現したような見た目でト書きなどがないのが特徴。
詳しくはメーカーの解説を見てください(ぉ

処女作で、しかも独自システムということで不安も大きかったのですが驚くほどよくできています。
とりあえず我が家ではバグらしいバグもありませんでしたし、FFDについても絵を出すタイミング・位置などよく考えられているのがプレイしていてよくわかりました。
大変丁寧に作っていて、この辺は好感が持てますですよ〜。

絵とか
これはもはや少女というより幼女でしょ(^^;
そんなわけでややもすれば細すぎるほど線が細い少女が特徴の絵柄です。
有名な方ではありますが、絵画調の塗りも含めて多少好みは分かれるところかもしれません。

ただ、大槍氏の独特な絵柄が好みなのであれば間違いなく満足いく出来に仕上がっています。
塗りは氏自らがやったと言われても違和感がないほど高いレベルで大槍氏の雰囲気を再現していますし、草薙による背景もさすがのレベルの高さです。
FFDというシステムを使う都合上、1枚1枚の絵は小さめなものの枚数は多く、ファンも納得できる仕上がりかと。

唯一惜しむらくはHシーンのフルサイズCG以外は鑑賞モードで見られないこと。
せっかくの美麗なCGなんですからコマ割CGもちゃんと見られるようにして欲しかったです(^^;


先述したように鑑賞モードで見られるCGはHシーンのみ48枚(パターン違い除く)
ちなみに雑誌のインタビューによればコマ割CGも含めれば全部で軽く300枚はあるそうです。
……見られないCGが80%以上ってどうなのよ?

音楽とか ※音声はありません
BGMはPCMで収録、全39曲。
実際に作中で使われるのは35曲で、うち3曲がボーカル曲です。

作曲担当のご両名のファンなので、多少贔屓目が入っているかもしれない…と前置きした上で書きますが
質は極めて高いです。
CD-DAではないので早期のサントラ発売を求めたいところ。
また、全般的に演出が上手い作品だけあって曲もちゃんと場面に合わせて使っていたと思います。

お気に入りは「廻」「Reminiscene」「透花 op02」「dimention」「Evening」「透明な感覚」+ボーカル曲。
ボーカル曲はどれもいいと思うのですが、個人的にはゲームで使われてるショート版の方が好きです(ぉ


この作品では使われていませんが、音声は付けるべきだったかと。
フキダシの形や向き・セリフのフォントなどで誰のセリフかはわかるようになってはいるのですが、大勢で話すと多少わかりにくくなる場面があったのでそれを是正するというのが、その理由です。

またその理由を抜きにしても、キャラが個性的かつ殆どの場面がセリフのみで構成されるこのゲームは音声を付けやすく、また同時に付けた方がいい作品だと思います。
基本的にFFDはボイス付きに向いた仕様だと思うので次は是非その辺りも考えて欲しいです。

シナリオとか
畳む方法まで考えた上で風呂敷は広げましょう(^^;
例の如く一言に集約するとこんな感じになるかと思われます。

この作品で評価すべきはシステムをよく理解したシナリオだということ。

FFDというシステムは余計な文章なしで情景描写を行えたり、あるいは文章にスピード感が求められる戦闘シーンなども容易に描けるというメリットを有しています。
また、それ以外でもプレイヤーに常に第三者的観点を要求する反面、焦点を当てるキャラクターを自由に切り替えられる(カメラのレンズを向ける相手を替えると言えばわかりやすいでしょうか)というのも利点でしょう。

この作品はそれを十分に理解した上で、細かく場面を切り替えながらエクストラやバベルに関わる人々の思惑を断片的に見せることで話を盛り上げるという手法を取っています。
これは一人称型のADVではまずできない方法ですし、とかく謎が多いこの作品には向いている見せ方かと。
まあ話の全体像が見えない分、プレイヤー的にはイラつく面もなくはないのですが(^^;

またセリフのセンスが非常に良かったと思います。
芝居がかったセリフが多く、他の作品で出てきたらむしろ滑稽にしか映らないようなセリフばかりなんですが
そのセリフが意味深でこの作品には合っていて物語全体に箔をつけてるというか…(ぉぃ
まあそれは仮に冗談としても、説明的なセリフを極力使わずに話を展開した点については評価できるでしょう。
途中でその努力が放棄されてるのは残念ですけど(^^;


……なんですが最後の締めでシステムの利点を捨ててしまっているんですよね(´Д`;

全10話構成のこの作品、8話までに関しては大きな不満はありません。
8話まで来てまだロクに話が見えないのはやや問題かと思いますが、それ以外についてはエクストラとの穏やかな日常もしっかり描きつつ、場面転換を利用して裏で蠢く陰謀も描いてプレイヤーの興味は引いてくれるので。

ただラストの2話で風呂敷を畳むために全てを説明調の長セリフで済ませるのはどうかと。
ある程度は仕方ないのでしょうが、もうちょっとどうにかならなかったんでしょうか。
例えばカメラを動かせるんだから敵役に焦点を合わせてモノローグを使ってみるとか。
最後の最後でシステムの利点を捨てて、主人公視点からほとんど動かさなかったのは解せません。
高宮・荒山・少佐の思惑は絶対に描いておくべきだったと思うのですが……。

雑誌インタビューによれば「10話に収めるためにかなりシナリオを削った」らしいので、もしかすると最後の締めが急展開かつ妙に描き方が雑になっているのはそのせいなのかもしれません。
だとしたら本当に惜しいです。是非削らずにフルで収録して欲しかったところ。


それ以外の不満点としてはほぼ完全な1本道であること。
Hシーンの相手が変わっただけのシナリオを何回もやるのはやや苦痛。
話の流れ上仕方ないのはわかるんですが、それなら無理にマルチエンドにしなくてもいい気がします(^^;

総評
見せ方は本当にかっこ良くて好きなんですけど……。ま、次に期待。

まとめ。雰囲気に浸り、楽しむゲーム。
演出・設定・セリフ…そういった物によって生み出されるどことなくクールで壮大な雰囲気を味わうゲーム。
それに酔えなければそこまでという。私は終盤で酔いから醒めてしまったので、この評価ということで(^^;

書いた時点での総プレイ時間 9時間40分(コンプ)
お気に入りのキャラ 透花
お気に入りのセリフ 「今にわかる。『経験に勝る信仰なし』というやつだよ」

初版2002/07/27