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物理化学的濾過
物理濾過とは浮遊懸濁物質(SS)を濾し取る働きをすることをいう。たとえば、エサの残りや枯葉、動物の死骸などをフィルターに引っ掛けるのである。また水の濁りとなる懸濁物やコロイドなどもそうである。
この方法として加圧濾過など物理的にきれいにする手段はある。
水草水槽では大形動物や数多くの動物だけを飼育している水槽とは違い、浮遊懸濁物質量は少なく、ましてや比較的大きな糞、死骸、エサの残りかすなどはないため、目の粗い濾材を使うことは無意味である。
このようなことから水草水槽において、そう物理濾過を重視する必要性はない。
このことよりもまだ、バランスのとれた水槽では不要ではあるが、それに近づけるための化学的濾過を重視するべきではないか。
活性炭
活性炭吸着は一般浄水では洗剤、臭気、フェノール、有機物の除去に用いられている。我々のもつ、水槽内でもこれが役立つ、水槽設定時、水質不適合からいくらかの草は枯れ、それらが有機物として溶解する。その水槽にそれを浄化する能力があれば問題はないのだが、設定時などの環境設定や大量の換水による環境変化において、バクテリア不活性による水質悪化はまのがれない。そのようなとき、有機物レベルで除去できるのだ。 この仕組みは溶質が活性炭粒子付近に来たとき、液境膜を通過し細孔内を拡散し、壁面で吸着反応をおこす。吸着が生ずる原因はクーロン力、ファン・デル・ワールス力など物理的なものと、特別な場合は原子価の影響による化学的なものによりもとめられる。(G、ベイロイル・K、ブラッツーラ・W、ヘルベルト・W、フォールマー:1976) 活性炭の吸着能力は、吸着されるものの濃度によってきまる。たとえば、ある一定の活性炭量でアンモニウムを吸着させたとする。そのとき30ppmの濃度を示したものが20ppmに下がったとする。しかし15ppmのものを同じ活性炭量で5ppmにはできないのだ。従って悪い水質をある程度良くすることはできても、ある程度良い水質をより良くするのは物理化学的濾過では難しいということになる。
ゼオライト
ゼオライトは粘土鉱物のアルミナケイ酸塩でイオン交換により、アンモニウムを除去する。なかでもclinoptilite系のものがアンモニウムの交換率が大きい。
ゼオライトはNH4+を選択的交換し、それじたいの構成元素のうちNaまたはKを放出する。水中にNa+,Ca2+,K+などのイオンが多いとイオン交換が阻害される。
吸着量は活性炭同様、濃度によって変化し、pH7以上で高くなるほど阻害される。水草育成水温であれば阻害されない。メッシュが細かいほど反応速度は早い。
ゼオライトの問題点はイオン交換によりナトリウムまたはカリウムを放出するところにある。養殖のように魚だけを育成するのであれば問題はないのだが、水草水槽では、肥料に関係し、藻類の発生を招くとも限らない。従って、長期のゼオライトの使用は避けるべきである。
その他、アルミニウムによる凝集や急速砂濾過、長毛濾布濾過などが、養殖や水族館ではおこなわれている。しかし、水草水槽ではこのような濾過は必要がないので説明を省く。
生物濾過
生物濾過とは、微生物により有機物を分解し、無機物とする反応をいう。
その中で特に重要な反応は窒素化合物が種々の微生物により分解、無機化され、さらに他の窒素化合物に代謝転換されて行く。この反応は、溶存酸素、水温、有機物量などに左右され、それにより水質を決める。水草水槽においては、植物自身が健全に育っていれば多くの酸素が供給されるため酸素量には問題はない。しかし、動物量が多い場合や、給餌量が多い場合、微妙な水質変化から藻類の発生などを招いてしまう。養殖などの場合は、生物に影響がなければ藻類の発生を招いたとしても問題はないのだが、我々のもつアクアリウムでは大きな問題となってしまう。
このことをいいかえるなら、いくら無機化が進み、動物には有害な物質が溜まらなかったとしても、水草の成長を阻害し、藻類の成長を助長する物質が蓄積されれば鑑賞用としては失格である。
さてここで水槽内における物質循環をみてみよう。
水溶性有機物や無機化合物は同化または合成反応により、植物体に利用される。
つぎに窒素循環過程をみてみよう。
・好機的反応
・嫌気的反応
硝化反応
アンモニア態窒素の酸化
NH4+ + 1.5O2 → NO2− + H2O + 2H+
亜硝酸態窒素の酸化
NO2− + 0.5O2 → NO3−
一般的に窒素化合物の多い水槽(養殖、大型魚など比較的生物密度が高い)ではこの反応によりH+が多く生成されpHが降下する。このような場合はアルカリ度を高くする必要があるが、水草水槽のように窒素化合物が比較的少ない水槽ではさほど気にとめることはない。
もし、これらのものが多くpHが降下するのであれば、アルカリ度を高めるのではなく換水を行い窒素化合物量を減少させることが必要である。
脱窒反応
2NO2− + 6H(有機物から供給)→N2↑ + 2H2O + 2OH−
2NO3− + 6H(有機物から供給)→N2↑ + 4H2O + 2OH−
脱窒反応は好気性下でも行われる。しかし、嫌気性下の方が効果的であることが知られている。そしてまた硝酸塩を還元するためにはH(水素)が必要となる。そのため、水素供与体としての有機物が必要となる。水草水槽では、そうバランスが崩れていない限り硝酸塩濃度は高くない。従ってそれを脱窒するだけの水素供与体としての有機物も水槽から供給される。
養殖の方面では、脱窒のためにメタノールを添加する例もある。
微生物活性
従属栄養細菌はそれぞれにおいて、蛋白質、糖質、脂質などを分解する。この分解反応はそれぞれの細菌の増殖とは直接関係がなく、このような基質がなくとも成育が可能である。
また分解活性も、水温、酸素などの環境条件によって変化し、それぞれの微生物の種類によっても一定ではない。そのためいくら細菌数が多くても活性率が低ければ、何の役にも立たないということである。
たとえば、同じ有機物量の水槽が2つあったとする。そのうちの1つは細菌が100個体いたとし、活性率が100%であった。もう1つの水槽は300個体いたとして、活性率が20%であつた。このとき後者のほうが3倍も細菌が存在する。しかし、働きが悪く、前者のほうが40%も分解能力が高いということになるのだ。ゆえに、活性率は細菌数とは比例しないということである。
硝化細菌においても、菌体の増殖をおこなうにあたって、基質を酸化したときのエネルギーを利用する。この場合の活性も必ずしも菌体数と比例はしない。
さて、そうすればどのようにすればこの活性率を高くすることができるのだろうか。 その要因は温度、溶存酸素、濾過層の形態、濾材、濾材の洗浄、交換などがある。
温度※
溶存酸素
濾過層の形態
濾材
従属栄養細菌
40℃
多く必要
----------
多坑質細目
硝化細菌
30℃
多く必要
表面積が大きい
多坑質細目
脱窒細菌
無
流量が少ない
多坑質細目
※濾過学的には表示された温度が最適ではあるが、極度に低温でない限りその水温に適したバクテリアが活性化する。水草水槽のように20-25度位であれば問題はない。
以上のように、濾過層の温度は高めとするほうが良い。これはオランダのアクアリウム(ダッチアクアリウム)では蛍光灯の安定器を取り外し、濾過層を暖めるのに活用すると同時に、安定器を取ることにより水面の過熱を防ぎ、なおかつ、底砂を保温し、底砂をも濾過層として大いに活用していた。
酸素は好気性細菌であれば当然必要とする。しかし、これは炭酸同化により十分供給されていれば問題はない。嫌気性細菌は酸素のないところのほうが、活性率は高くなる。従ってトロップフィルターのようなものと、底砂の還元箇所をうまく利用すればよい。硝化細菌は濾過床が深くなれば活性率は低下する。そのためには十分な表面積を取り、なおかつ好気的にし、活性率を高めるべきである。
濾材は、バランスの取れている水槽では物理濾過をあまり重視せずとも良い。従って、濾過層採水部はある程度の目合の濾材を使用し、その次の段階から細目の多坑質のものを使用すればよい。トロップフィルターは一度濾過した水を多坑質細目のところへ通せばよい。
後、問題となるのは濾材の洗浄、交換である。これを失敗すると細菌群にたちまち変移が起こり、取り返しのつかないことになる。物理濾過をさせるような場所のものは、洗浄しようが取り替えようがそう問題ない。しかし、その他の生物濾過に従事しているところは少量づつ、ある程度の日数を置き、洗浄、交換するべきである。できれば、1つの水槽で、濾過層を2つ設けて置くのが最善である。そうすると、2週間おきに、それそれを新品の濾材に交換したとしても、1つの濾過層は1カ月ほおっておくことになる。このことから、細菌群の不活性や変移を避けることができよう。
しかし、有機物を分解し有害物質などを無害化する反面、昜分解性有機物の難分解性物質への転換などの作用があるため、定期的な換水は避けられない。これを怠ると、底砂の硬直などから、細菌が不活性化してしまう。
また、比較的水の汚れている水槽(特に魚類を多く飼育)ではCODが上昇し、前者のような循環が成り立ちにくくなる。一般には生物的作用より、化学的作用の方が反応速度は遅いと考えられている。しかし、酸化、分解の反応のうち若干のものは自動的に行われる。たとえば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオンなどは、富栄養の原因となるリン酸態リンなどと結び付き、藻類に利用されやすいかかたちとなり、藻類の発生を招く。
そのほか、多量にある有機物を分解し、嫌気的となりその条件の元で、細菌により、アンモニア、メタンガス、硫化水素等を生成し、生物が住めない環境としてしまう。
このようなことが、水草水槽でも経験することがあるだろう。この原因として、既に死に至っている植物を大量に植え込んだときや、生物が多く死亡しているのを知らずに放置したとき、また給餌量が大量にあったときなど、底砂で細菌が大量に酸素を消費し、底砂が嫌気的となり、水の透明度は減少し、残った有機物を有害なアンモニアやその他のガスに変えてしまう。 このときに、ドブのようなメタンガス臭、硫化水素臭がする。 もしこのようなことが起きたなら、速やかに底砂などの洗浄を行い、原因となる有機物を直ちに取り去らなければならない。このときも底砂を水道水で洗浄するのではなく、その水で洗浄せねばならない。そして、すぐ草を植え込むのであれば、二酸化炭素と肥料の添加を控え、水質を調べながら1日何度でも換水しなければならない。もし草を植え込まないのであれば、エアーレーションを行い、水質を調べ、透明度が戻れば、草を植え込んでも良いだろう。