暇つぶしコラム”墜落王”

戻る
暇つぶしコラム”墜落王” 　これは、同人誌“Ｍｅｃｈａｎｉｃａｌ　ＥｎｃｙｃｌｏｐｅｄｉａⅡ”の穴埋めコラムとして掲載されたものです。
彼らの輝かしい戦歴は兵士達にとって憧れや目的、或いは手柄であると同時に、自分の命を保障してくれるバロメーターであった。　さて、ここに一人の男がいる。決して戦史には顔を出さず、エースパイロットとして名を連ねる事もない偉大な記録保持者。　その名を、”ガンジ・タナベ”。　終戦時の階級は軍曹。ドップパイロットとして出撃回数３２５回、被撃墜回数３０１回、整備不良による墜落５回、一人で３０６機のドップを墜落させた男だ。　そんな彼を人々は嘲笑と軽蔑を込め撃墜王と呼んでいる。　だが、彼には面白い逸話がある。ジャブロー攻略に向かう途中の出来事で彼の乗艦した母艦が連邦軍ＭＳの狙撃をうけ墜落してしまうのだが、戦果を確認に来た連邦兵に対してタナベ軍曹の迅速かつ果敢な攻撃が効を奏し、死傷者を最小限に押さえ、撤退に成功しているのである。　この際に救出部隊を指揮していた、とあるエースパイロットの言葉が墜落王の真実を全て語っている。　　　　　　　　　　「意外に多いんだよ。あいつに助けれた奴は・・・。」　人を殺す才よりも、操る才よりも何よりも、窮地に陥った味方を助ける才と戦場で生き残る才、この２つの才能は新兵からベテラン果ては全てのエースパイロットが何よりも欲しがる才能である。　ガンジ・タナベ軍曹はまれに見るこの２つの才能を最大限に生かしきる事のできる名パイロットだったのである。　常に戦場では殿を務め、囮として敵兵の目を引き、足を止め、自機のドップが落ちるまで戦い抜き、味方が不利だと知るや整備不良の機体をかってでも友軍を助けに向かう男。　それが、不名誉なあだ名を持つ彼の真実である。　最後まで戦場に残る彼だからこそ、先に逃げた者は彼の活躍を知らない。　彼の戦い方は敵を倒すのではなく、足止めすることなのだから撃墜スコアも足まらない、何よりも自機が墜落しているから撃墜スコアの申請も通らない。　彼の真の実力を知るには彼と共に死線をくぐり抜けねばならない。　だが、彼がいる戦場では生き残るには、並みのエースはおろか、よほどの強運がなければ生き残れない。　英雄は英雄を知る。　だからこそ、彼の真実を知る者は少なくとも、彼に偉大な信頼を寄せていたのだろう。　それは、彼の階級にも表れている。　あれだけのドップを墜落させても降格される事なく、常に軍曹であり続けていた。　それは、撤退命令や部下に「死ね」と言う命令を出せる程の指揮権はなく、かつ戦場においては部下に指示を出せるポジション。　彼の能力が最大限に発揮された戦場で一番便利な階級に軍の上層部は彼におき続けたのである。　例えエースパイロットだとしても果たす事の難しい、名も無き偉業の数々、そんな彼こそが英雄と呼ぶのにふさわしいのではなかろうか？