あの蒼空の向こう側にいるヒトへと送る私の想いは儚くて…

 

 

ふぅー

ぼわ…

 

中天より注ぐ暖かな陽光

高く蒼穹に浮かぶ白い綿雲。

そして、灰色のコンクリートに置いた緋の花瓶と紫の花

硬くザラついた壁に寄りかかって、右手に持った紅白縞のストローを左手に持ったピンクの容器の中に差し込む。

 

ぽちょぽちょ

 

ストローを容器の中で上下させ、液が付き易いよう予め縦に数回切っておいた先端に中のシャボン液を付けると、私は想いを胸に、再びそれを口に咥えた。

 

ふぅー

 

ゆっくりとストローの中へ胸の中の想いを吹き込む。

 

まるいまるい──しゃぼんだま。

あおいあおい──しゃぼんだま。

 

…ぱちっ

 

「……」

 

先程より少し大きめに膨らんでいたそれが、微かな音を立てて割れ、吹き込んだ想いが霧散する。

少し強く吹きすぎたのかもしれない。

 

「……ふぅ」

 

小さくひとつ息を吐くと、私は赤錆の浮いたフェンス越しに、外の景色へと目を向けた。

目の覚めるような翠峰から碧海へと吹き降ろす緑風。

どこまでも続く紺碧から翠露へと響く潮騒。

ここは、二つの風が出会う場所。

風に髪を撫でられながら、ゆっくりと目を閉じ、少し顎をそらす。

感じるのは、陽光の温かさ、双風の歌、翠と碧の香。

この美しさを教えてくれたのは、誰だっただろう?

陽が──

風が──

香が──

大切にしまった記憶を呼び覚ます。

瞼の裏に、楽(かな)しい想い出が映る。

 

「…」

 

目を開けば蒼空。

どこまでも高い蒼穹。

遠い記憶の彼方、誰かが愛した世界。

広く高く果ない世界。

 

……

……

 

遠い潮騒と木々のざわめき。

近い鐘の音と町の喧騒。

時の流れを伝える音が、私を夢想から現実に呼び戻した。

制服のポケットから銀の懐中時計を出し、時間を確認する。

まだ少し時間がある。

想い出を再び胸の奥──自分の中の一番大切で一番綺麗な場所にしまい直すと、私はまたストローを口にした。

そして、先程より幾分そっと想いを吹きこむ。

どこまでも広がるこの蒼空。

その向こうにいるあの人へと…

この想いが届くことを祈って…

 

ふぅー

ぼわ…

ふぅー

ぼわぽわ…


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