学校の中庭。春になれば賑やかに彩られ、沢山の人が集まる場所。
 でも今は、雪が降り積もり、誰もこない寂しい場所。
 「・・・」
 なんで、こんな所にいるのか、自分でも分からなかった。
 本当なら、昨日私は、遠い世界に旅立つはずだった・・・。
 どうすることも出来ない運命の中で、どうしたらいいのか分からずに、そして導き出した一つの答え。
 でも、私はこの場所に立っている。

 「はぁーー」
 吐く息は白くて、周りの景色に溶けて逝く。それは止めることの出来ない時間のように、消えていってしまう。
 「はぁーー」

 もう一度、大きく息を吐く。白い塊が生まれて、消えていく。
 私がいる場所、居るべき場所・・・。
 それはもう、この世界のどこにも残されていないはずなのに・・・。
 そして、それをもう望んではいけないはずなのに、私はこの世界にまだ存在していた。

 きっかけは、偶然の出来事。道端であった二人のカップル。すごく楽しそうで、暖かだった。
 私が、そのことを思い出した瞬間、不思議と笑うことが出来た。
 もう絶対に笑うことは出来ないと思っていた。、絶対に泣かないと誓ったのに、可笑しくて涙がこぼれていた。

 あの時見たカップルの男の人。あの人は、この学校の制服を着ていた。
 私があこがれていた場所。そこに通っている人・・・。
 学校には沢山の人がいて、あの人に会える可能性は無いと思っていた。人のこない場所で、私の心の中だけで、あの人に会っている自分を描いて、少しだけ幸せな気持ちになれた。
 私は、コレ以上を望んではいけない存在だから、この場所でひっそりとたたずんでいる。
 あの人に会いたいのなら、校門で待っていたほうが確率が高い。
 でも、実際に会ってはいけないから、この誰も来るはずのない場所で、私が憧れていた場所で、待っていることしか出来なかった。
 起こるはずの無い奇跡を・・・。

 「あ・・・」
 一瞬、信じることが出来なかった。私の方にやって来る人がいる。その人は・・・
 それは、決して起こるはずの無い奇跡。その小さなかけらが、私の前にやって来た瞬間でした。