朱の絆<FRIENDS>【W】
ダイジェスト版

 

 

鳴り止まぬ電子音。

そのけたたましさと傷みでズキズキする頭を押さえ、西日の差し込む床の上を音がする場所まで這ってゆく。

 

テュルルルルルルルルッ!

ぺた…ぺた…

 

しかし、テーブルと同じ木目調の電話置きまであと少しのところで、白い足が湿り気を帯びた音を鳴らして俺の横を通り過ぎた。

白い踝がそのまま電話機の前まで辿り着くと、昼下がりの居間に響いていた電子音が鳴り止む。

 

テュル…

 

「はい、水瀬です」

 

寝癖で毛先があちこち向いた髪…

ふらふらと安定しない姿勢…

床に伏せたままの姿勢で視線を上げると、秋子さんのカーディガンを羽織り、両手で持った受話器を耳に付け立っているのは、起き抜けの名雪だった。

 

「はい…」

 

寝ぼけているのだろう。どこか機械的な返事をする名雪の顔を観察しながら俺は立ち上がり、その隣に寄り添ってやる。

『支え』は、何時でも支えられる場所にいないといけないから…。

 

「はい…は…」

 

機械的な返事を続ける名雪。

その目が一瞬大きく見開かれると、小さな唇が…受話器を持った手が小刻みに震え出した。

そして、その顔が段々と白くなって…

目の前の儚げな存在が、風に吹かれた蝋燭の様に一瞬揺らめいたかと思うと、自らの髪にふわりと身体を包み込まれながら後ろに倒れこんだ。

 

「とっ!」

 

とさ…

 

透かさずその背中に回り込んで、抱き止める俺。

少女の重みと共にその髪が俺の胸に掛かり、変わらぬ香りを舞い上がらせる。

名雪の顔にも乱れ髪が数本被っていたが、気にした様子は無く、何かに怯えるように躰を小刻みに震わせていた。

 

「もしもし、どちら…」

 

名雪の肩を抱きながら、名雪を怯えさせた何かを知る為に彼女が放り出した受話器を拾って呼びかける。

そんな俺の腕の中で、名雪が歯を鳴らし囈言の様に呟くのが聞こえた。

 

「おかあさん…しんじゃう…」

 

 

 

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──刹那──―

──白いの闇と──―

──朱いの光が───

──全て──―

──そう全てを──―

──温かく包み込んだ──―

──碧い森も──―

──蒼い空も──―

──彼女の微笑みも──―

──彼女の涙も──―

──そして最後の言葉さえも──―

 

 

作品は、『パンドラの虜』発行↓に掲載