Kanon 美坂 栞SS
   沢山のお弁当
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「祐一」
 昼休み、いつものように、名雪が俺の席の前にやってくる。
 「お昼ご飯どうする?」
 「もうそんな時間なのか?」
 名雪に呼ばれるまで爆睡していた俺は、まだ半分眠っている頭で、これからのことを考える。
 「そうだよ、祐一ぐっすり眠ってたんもんね」
 「寝る子は、育つんだぞ」
 「じゃぁ、私は良く育つ子だよね」
 「お前は、寝過ぎだ。だいたい、1日10時間睡眠なんて、寝過ぎだぞ」
 「だって、眠いんだもん・・・」
 「ま、これに懲りたら、あと10分は早起きして欲しいものだな」
 「懲りるって、私何も悪いことしてないよ」
 「本当か?」
 「うん。それより、祐一、お昼ご飯どうするの?」
 「話を、逸らすな!」
 「私は、最初からお昼のことを聞いたんだよ」
 「そうだったか・・・・?」
 「そうだよ」
 「・・・・あっ!!」
 その時、あることを思いだし、急いで席を立とうとした。
 「どうしたの?」
 「いや、急ぎの用事が・・・」
 昼休み、栞と一緒に食べる約束をしていたことをすっかり忘れていた。
 「すいませ〜ん。祐一さんいますか〜」
 見れば、栞が入り口から身体を半分覗かせて、俺のことを呼んでいた。
 「また来たぞ、可愛い子じゃないか」
 北川が、冷やかすように俺のことをからかう。
 「すいませ〜ん」
 「はぁ・・・。仕方ない、今日も楽しく食堂でランチを楽しむとするか」
 そう呟きながら、席を立とうとすると、俺より先に栞に話し勝ている人物がいる事に気づいた。
 「栞」
 「え?あっ、お姉ちゃん」
 「ちょっと・・・」
 香里は、手招きで栞のことを呼んでいた。
 「し、失礼します」
 少しためらいながら、栞は教室に入ってくる。
 「約束したよね、一緒にお弁当食べるって」

 「え?」
 「折角だから、今日はここでみんなと食べましょう」
 香里は、そう言いながら机を並べ替えている。
 「ちょっと待て!」
 俺は慌てて、止めさせようとした。
 「良いじゃないの、それにあんたはきっと私に感謝することになるわよ」
 「どういう意味だ?」
 「その通りの意味よ」
 相変わらず、意味不明なことを言う奴だ。
 「良いんですか?」
 遠慮目に、栞が聞いてくる。
 「こうなったら、仕方ない。今日はここで食べよう・・・」
 「はい」
 香里と一緒なのが嬉しいのか、栞はいつもより楽しそうだった。
 「今日も、沢山作ってきました」
 そう言いながら、鞄から出した弁当箱には、沢山の料理が詰め込まれていた。
 「これを、全部食べろと言うのか?」
 「はい」
 「・・・ごちそうさま」
 「あ〜、そんなこと言う人、嫌いです」
 「しかし、これはちょっと多過ぎだぞ」
 「そんな事無いです。祐一さん、男の人だから、沢山食べると思って一生懸命作ったんですよ」
 「でもな・・・」
 「栞」
 「え?」
 「私達も食べて良いかな?私、自分のお弁当忘れてしまったみたいなの」
 「栞ちゃんが全部作ったの、美味しそうだね」
 香里と、名雪が、それぞれ箸を持って、お弁当を摘んでいる。
 「知っていたな?」
 箸を持参して置いて、弁当箱を持っていないと言うのは変だった。
 「まぁね」
 香里は、妹が大量の弁当を作ったのを知っていた。だから、一緒に食べるように薦めたんだ。感謝するというのは、この事だろう。
 「おいしいよ〜」
 「あ、その卵焼きは、俺が目をつけてた奴だぞ!」
 既に名雪は、お弁当を摘んでいた。
 そして、そのまま俺達は賑やかに食事をはじめた。
 
 他の奴等の視線が気になったが、俺達4人は、教室で栞の作ったお弁当を平らげた。4人で食べても、少し苦しく感じる量だった。
 「ねぇ、栞」
 食後、香里が優しい声で話しかけた。
 「今の栞には、ちゃんと時間があるから、無理して色々作る必要ないわよ」
 「え?」
 「次は、必ずあるから・・・」
 「うん・・・」
 大量のお弁当に込められた想い。今を一生懸命に過ごしていた栞には、この一瞬がかけがえ無いものだった。
 前の栞に、今しかなかった。だから、色々なものを作ってしまう。
 でも、今の栞には、次がある。明日も、明後日も存在する。
 「そうだな、次は二人で丁度言い量を作ってくれよ」

 俺は、栞の頭に手をおいて、そう言った。
 栞は嬉しそうに目を細め、にっこり笑いながらこう言った。
 「はい、次は、ちゃんと二人分作ります。そうすれば、二人だけで、お弁当です」
 
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 栞SS二つ目です(^^;;
 この話は、栞がなぜあんなに大量のお弁当を作ったのかと言うことを、自分なりに考えたものです。
 次がないから、今しかないから色々と詰め込んでしまう・・・。
 もっと他の考えもあると思いますけど、この話ではそうしてしまいました(^^;;
 もし、何か意見等ありましたら
 haluo@dc.mbn.or.jp
 まで、メールして下さい。感想でもいいです(^^;;
 では、これで失礼します(^^