腐り姫〜euthanasia〜(PC) ※ディスク2枚組
メーカー ライアーソフト 総合評価 75点(佳作〜良作)
ジャンル インモラル・ホラーADV
発売日 2002/02/08
シナリオ 星空めてお・高尾登山・睦月たたら・天野佑一
水上温泉卿
バカゲーブランドとしての知名度は大分上がったであろうライアーソフトが初めて出すシリアスオンリーのソフト。
ちなみに「euthanasia」とは安楽死という意味。
原画 中村哲也
サウンド 雑音工房NOISE

※以下の評価は初回特典FD(笑)に収録された修正版に基いています
 また文中では「OPタイトルに戻るまで」を1周、「スタッフロールが出るまで」を1巡として記載しています

個人的エピソード
なんか毎回書いているような気もしますけどFCの会員なんで。
あとは純粋にここがシリアスオンリーで作るとどんなゲームになるのか、が気になったというのもあります。

内容
雨の降りつづく夏の日に、深紅の着物の少女に出逢った。
少女は、腐り落ちた果実の匂いがした――


妹と父が怪死を遂げ、記憶喪失となった主人公は、義母に連れられ故郷の町へと戻る。
そこで主人公は蔵女〜くらめ〜と呼ばれる、深紅の着物の少女と出逢う。少女は、妹に瓜二つだった。
家族や友人は、身を案じながらどこか罪の意識を潜ませ、そんな彼らに蔵女は肉欲と狂気を与え崩壊させていく。

記憶と現実の境界が揺らぎ、喪失感と蘇る恐怖との狭間に葛藤しながら、
やがて全ての記憶を取り戻し、赤い雪が降り積もるなか、世界が死の静寂に包まれるまでの4日間。
(パッケージ裏より)

システムとか
必要容量は210/450MBのいずれかを選択。
最近のものじゃ少ない部類に入るかもしれませんね。

ゲームは選択肢分岐型のADV。
ループ物という仕様もあってどこが分岐の原因になるのかわかりにくい局面もあり、難易度は高めです。
ヒント機能「盲点」も用意されていますが、使うとシリアスな雰囲気がぶち壊しになるので攻略に行き詰まったら大人しく攻略情報に頼ることをオススメします(^^;

セーブ数は100個。
4日間を繰り返す物語だし難易度は高めということで使用頻度は高いイメージを持つかもしれませんが、
実際のところこんなに使うことはありません。
このソフトはシステム的に1本道で次の周回に進んでしまうとそれ以前の周回のデータをロードしても強制的にあるべき場所に戻される仕様になっているからです。
(わかりやすく書くと1文字でも2周目の話を読んでしまったら1周目のデータをロードしても
強制的に2周目の話に戻されてしまうということ。後戻りは「記憶を消す」を選ばない限りできません)
でもまあ、あって困るものでもないですし問題はないでしょう。

スキップは既読/強制をメニューで選択、Tabキーで次の選択肢までスキップします。
Ctrlキー押下でメッセージを表示しながらのスキップもできますが、どちらも高速。
しかしながら「記憶を消す」と既読フラグまで消えてしまうのはいただけません。
このソフトはトゥルーEDを見るためには何巡かしなくてはいけませんが、
2巡目以降はほとんどが既読テキストになるのでこの辺は配慮して欲しかったところ。

バックログは99ページ分。これは十分な量だと思います。
鑑賞系はCG・BGM鑑賞とHシーン及びED回想が用意されています。

既読フラグの仕様といきなりFDが付いている点を除けばよくできたシステムかと。

追記:我が家の環境ではなぜか正規の方法ではアンインストールできませんでした(´Д`;

絵とか
若干クセが強いですが、まあ悪くはないと思います。
本職がマンガ家さんだけあって、線の少ないいかにもマンガ的な絵柄です。
エロゲでは珍しいですけど私個人としては結構好きですね、こういうの。

さて、このゲームには特徴的なこととして立ち絵がありません。
立ち絵を使わず、バストアップCGもそれほど使わず、その代わりに背景に数多くのチップキャラを
配してで場面の状況をプレイヤーに伝えているんですが、これは非常に良かったと思います。
余計な状況説明のテキストを省けますし、下手にバストアップCGを使うよりも全身のポーズを見せることで
そのキャラの感情を表現できていたところもありましたし。
どこか哀愁漂う背景の良さも相まってゲームの雰囲気作りに一役買っていたかと。

枚数は鑑賞モードによれば85枚(パターン違い除く)
まあ、特別少なくもなく多くもなくと言ったところですかね。
どうでもいいことですけど、芳野母さんの目がとても怖いのが気になりました(ぉ

音楽・音声とか
BGMはCD-DAで収録、全20曲。
ゲームの雰囲気に合った和風で落ち着いた曲調の物が多いのが特徴。
ライアーのBGMは大体レベルが高いのですが、今回もレベルはかなり高めです。
こんな曲調の物も書けるのかと驚かされました。

お気に入りは「とうかんもり」「湿原」「雨の午後の犬」「夢のきざはし」辺り。


音声は男女問わず主要キャラが一部のシーンのみ喋るというタイプ。
きちんとキャラに合った人が選ばれていますし、演技力の方も安心して聞けるレベルです。
一部だけ音声をつけるならいっそフルボイスにすればいいのに…と思わないでもないですが、
そうなると今度は冗長に感じそうな気もするので難しいところですね(^^;

ただ、シナリオの技量を見るにその辺まで配慮した文を書く力はあると思うので、
次あたりはフルボイスでもいいのでは?

シナリオとか
「鶏が先か、卵が先か」なまさにループなSFシナリオ。
このシナリオを一言で総括してしまえばこんな表現になるかと思います。
蔵女と主人公の時間を巡る物語の発端がいつなのかということも、トゥルーEDの結末に関してもこの一言で括れますので(謎)

シナリオはかなりレベルが高いと思います。
笑いが書ける人は大抵文章そのものが上手い場合が多いですけど、
ライアーシナリオ陣はまさにその典型例でしょう。
その人たちがシリアスに徹すればこれほどの物が書けるのか…と正直驚きました。

まず序盤〜終盤にかけてはループ物ならでは面白さを素直に十二分に味あわせてくれます。
周回を重ねる間に各キャラの陰の部分や、様々な真相を徐々に明かしていくのも手法としてはありきたりですが、フラッシュバックなどで小出しにしていくやり方が上手くて飽きさせません。
1巡目に関して言えばほとんど重複するテキストがないというのもその一因でしょう。

また記憶のフラッシュバックを
1周目:CGのみ→2周目:CGと相手のセリフのみ→3周目:2周目+主人公のセリフ
→4周目:3周目の内容+主人公の心情
というように表現して、徐々に詳細を明らかにしていく演出が非常に上手かったと思います。
こういうのなかなか見ませんよね。

さらに言えば1周のプレイ時間を約1時間にするとか、基本的に1ページで終わる文章を書くという細かい心遣いもなかなかできることではありません。さすがの一言です。

また先ほど「序盤〜終盤」と書きましたが終盤も十分に面白く、プレイヤー側の予想を裏切るSF的な展開を見せながらも上手くまとめたと思います。(伝奇ではなくSFなのはやれば誰にでもわかることなので触れません^^;)
終盤がやや難解で解釈に悩むようなシーンもありますが、これはまあ良し悪しでしょう。
個人的にはこういう考える話、嫌いじゃないですけどね。


ただ難点もあります。
1つは基本的に一本道の物語だということ。
システム的にも一本道ですが、お話的にもこれはほぼ一本道の物語です。
話が面白いのが救いではありますが、選択肢などのゲーム性が弱くなってしまったのは残念。
またこれが原因で1巡目が終了すると読んだ話ばかりになってしまうという弱点もあります。

またもう1つは「序盤〜終盤」と「終盤」を分けた理由でもありますが、
終盤に用意された展開がちょっと唐突過ぎるということ。
もうちょっと伏線的な流れを用意しておいてくれてもよかったのでは…と思います(^^;

まあキャラの設定に関わる物なんで、「そういう設定なんだ」と割り切ってしまえば終盤はそれを使って上手くEDに向けて話をまとめていると思うんですけどね。
全体としての出来がいいだけにこういう細かいところが気になりました。


しかし総じて見れば面白いと言って間違いないでしょう。
まあラストのオチが「YU-NO」とか「AIR」くさいのが気にならないでもないですが、その辺はつつくだけ野暮ですね(^^;

余談:おまけシナリオは面白いけど、個人的には盲点同様ちょっと悪乗りしすぎかもと思います。

総評
うん、よくできていると思いますよ。掛け値なしに。

まとめ。良質循環ゲーム。
個人的には終盤の例の突飛な展開に馴染めなかったので75点ですが、実際の出来だけを見れば80点クラスでしょう。
この手の話が好きな人、単純に面白いテキストが読みたい人で「ライアーはバカじゃなきゃライアーとは認めない」と思ってる以外の人なら買って損はないと思います。

書いた時点での総プレイ時間 11時間30分(コンプ)
お気に入りのキャラ 蔵女(というか普通こうなる気が)
お気に入りのセリフ 特になし

初版2002/02/19