水月(Win) ※ディスク2枚組
メーカー F&C・FC01 総合評価 65点(及第点〜佳作)
ジャンル NOV
発売日 2002/04/26
シナリオ トノイケダイスケ F&Cが「ECHO」以来久々に送るノベルゲーム。
同社作品なのに音声がないことがちょっと話題に……なりましたよね?(ぉぃ
原画 ☆画野朗
サウンド おおくまけんいち


個人的エピソード
☆画野朗さんの絵が好きだから買いました。
ええ、それだけですとも。あの絵にはそれだけで買わせる力がありますもの。
というわけでそれ以上の理由はありません(^^;

内容
梅雨明け、蒸し暑い昼下がりに『僕』は目覚めた。 記憶喪失――何もかもを失って。
混乱、そしてすがる過去がない事の恐怖。 闇夜に怯え、震える『僕』を救ってくれたのは、
自分のメイドを名乗る少女、琴乃宮雪。 そして友人たち――宮代花梨、新城和泉、大和庄一。
優しい人たちに囲まれて『記憶喪失の自分』の新しい生活が始まった。
それは、どこかぎこちなくも優しい時間。 『僕』はそんな時間に幸せなものすら見出し始める。


けれども、目覚めたその日から続く悪夢だけは変わることなく『僕』を苦しめ続けた。
夢の中には少女がいた。 色素の欠けた白い肌と赤みがかった瞳。
そして、闇夜を呑み込んで、なお黒光りする髪。 数週間後の七夕の晩、『僕』が出会う美しい人。

牧野那波――

それが、毎夜のように『僕』が射抜き殺し続ける少女の名前だった。
(メーカーサイトより)

システムとか
必要容量は700MB。
音声入ってないのにどこでそんな容量使うんだ?とか思いましたが、どうやら音楽もWMA形式でインストールしているのが原因の模様。
まあおかげでCDレスでも起動できるので良しとしておきますか。

ゲームは極めてオーソドックスな選択肢分岐型ノベルゲーム。
難易度的にはF&Cにしては高めですが世間一般から見れば標準レベルでしょう。
さてオーソドックスと書きましたがシステム的な特徴として挙げられるのは縦書き/横書きのテキスト表示切替とキーワードセレクトくらいでしょうか。

キーワードセレクトというのは時折文中に現れる色違いの文字(キーワード)をクリックすることで、その件についてもう少し突っ込んだ情報が得られるというシステム……なんですが、作中であまり役に立っているとは思えません(^^;
別にキーワードがクリティカルな選択肢になってるわけではないので、極論してしまえば出てきたキーワードの全てに反応しても結局本編の選択肢の結果でシナリオが決まってしまうのです。
せっかくのシステムなんですからもうちょっと重要性を持たせても良かったかなと思ったり(ぉ

で、特徴については書き終わったので以下通常どおり仕様説明。
セーブはクイックセーブ5個+通常セーブ20個×しおり3つで計75個。
実際にはノベルゲームの常で1つのしおりを中心に進めると思いますので、実質25個ですがこれでも十分でしょう。
少なくとも私は不足は感じませんでした。
(5/9追記:実は使ったしおりによってシナリオクリア後に表示されるSDキャラ絵が異なるそうです)

スキップは既読/強制をオプションで選び実行するタイプ。Ctrl押下で強制スキップも可能です。
まあ速度的には十分ですし何も言うことはありません。

バックログはついてはいますが8ページしか戻れないのであまり使うことはないかと(^^;
ただそれとは別に1つ前の選択肢に戻る機能が付いています。
これも使うかと聞かれれば微妙ですが、バックログよりは役に立つかもですね。

鑑賞系はCG・BGM鑑賞とシーン回想と完備。
さすがに老舗だけあってと言うべきかシステムは安定していて使いやすかったと思います。

絵とか
塗り・原画ともに死角なし!
まさにこの一言で全てが言い尽くせてしまう印象があります。

イベントCG・立ち絵ともに☆画野朗さんならではのかわいい絵柄でバランスなど崩れることなくまとまっていますし、塗りの方もやや淡い色使いがゲームの雰囲気に合っていて素晴らしいです。
背景は外注だったかと思いますが標準よりずっと上ですし文句のつけようもありません。

枚数は鑑賞モードによれば69枚(パターン違い除く)
注文をつけるとするならばもっとイベントCGを増やして欲しい、その一点のみです。
一枚一枚は綺麗なのですがプレイ時間を考えると少なすぎる印象を受けるので(^^;

音楽とか ※音声はありません
BGMはCD-DAまたはWMAで再生、全20曲。
ゲームの雰囲気に合わせた和テイスト漂う曲調が特徴で質は水準やや高め。
最近になってようやくこの会社の曲もある程度聞けるようになった気がします(暴言)

恒例のお気に入り曲は「水月」「愛しさ」辺り。
どうでもいいことなのですが曲名のタイトルにやる気がなさ過ぎだと思います(^^;
雰囲気作りはこういうところまで徹底してほしいと思うことしきりです。


さてこのゲームには音声はついていませんがこれは失策かと。
キャラがしっかり立っていて、かつシナリオ(特にセリフ)のテンポは悪くないので、
音声を付けた方がより良くなったのではないかと(^^;
恐らくは何かこだわりの産物なんでしょうけど、余計なこだわりだった気がしてなりません(ぉ
……やっぱりDVD版だと音声が追加されたりするのでしょうか?

シナリオとか
よく頑張った……けどまだ力不足かなぁなシナリオ。
ちょっと辛口な評価かもしれませんが一言で表現するとこんな感じ。

物語は記憶喪失の主人公が毎夜のように見る夢に悩まされつつ、不思議な伝承の残る
田舎町で日々を過ごしていくそんなノベルゲーム(どんな説明ですか)

まあ最初に誉めてしまうと、とかくシナリオが弱いと言われがちなF&Cの中においてはかなりよく出来た話だと思います。
テキストそのものは悪くありませんし、普通にある程度楽しめますから(ぉぃ
CGや音楽も含めた演出面もなかなか上手いですし、見事に雰囲気作りに成功していたかと。
またキャラクターの立たせ方・描き方はさすがと言うべきでしょうね。
相当萌え度の高いゲームに仕上がってると思います。


ただ萌え云々を取っ払ってシナリオ全体を見ると色々粗が目立ちます。
個人的に1番気になったのは場面転換のわかり難さでしょうか。
ある程度確信犯的にやっている部分もあると思うのですが、日付変更や夢と現実の移り変わりなどの表現が拙くてどこで変わったのかプレイしていてよくわかりません。
これはちょっと不親切に思いました。

またそれより何より気になるのが伏線や設定の活かさなさです。

例えばストーリー紹介を見れば誰でも「なぜ主人公が記憶を失ったのか」あるいは「主人公の無くした記憶と町の伝承の繋がり」みたいなものが鍵になると推測するかと思うのですが、主人公が記憶を失ったことはほとんど重要性を持ちません(´Д`;
それ以外でも那波シナリオでの古事記ネタや渡来人山ノ民の話などはモチーフを詰め込みすぎて設定が活かされているとはお世辞にも言いがたく、果たしてどこまで意味があったのか疑問です。
他にもまだアリス・マリアルートで防空壕を見つけるシーンは無くてもいいんじゃ?等など、未使用の設定・未回収の伏線を挙げればキリがありません。
せっかく用意したものはキチンと使って欲しかったところです。


これらの難点と描写の不足から一部のキャラの終盤特に話が見えにくいのが惜しまれます。
何というかこう、統一感がないというか散漫な印象を受けるというか…上手くまとまってないんですよね。
わかりにくい話をわかりやすくまとめてこそ一流のシナリオだと思うのですけど(ぉ
ある程度以上、わかりやすくまとめた花梨や双子の話は好きですし、他も頑張ってるとは思うのですがテーマや描きたい物に対してまだ力不足な印象を受けました(^^;

<ネタバレ駄文>
ちなみに私はマヨイガ=時間の概念のない文字通りの異世界、作中の夢及び現実世界=一部の過去の記憶と思しき物を除いて全部並行世界、だと思っているのですが間違ってますでしょうか?>プレイした方
作中の那波の話や「水月」という言葉の説明を世界観設定とすればそうなると思うんですけど…。

<ここまで>

総評
扱ってるネタとか「現実」の捉え方自体はかなり好きです。
もう少しシナリオ全体の組み立てに気を配れば化けた作品かもしれません。

まとめ。頑張りは評価したいノベルゲー。出来はまあまあ。
あえて音声を無くしたり、シナリオで真っ向勝負したり挑戦心は本当に評価したいと思います。
ちょっとその挑戦が空回りしてる感もなくはないのですが(ぉ
個人的評価は60点ですがそのスピリットを買って5点プラスとしておきます。
DVD版で音声が付くならもう5点以上はプラスということで(笑)

書いた時点での総プレイ時間 約18時間(コンプ)
お気に入りのキャラ 香坂アリス・宮代花梨
お気に入りのセリフ 「馬鹿な男を好きになる子なんて、馬鹿に決まってるよ」

初版2002/05/08 最終更新05/09