第二格納庫。今ここではGF戦に向けて最終調整が成されていた。玲専用AK『バクヤ』のコックピットへ様々なケーブル類が伸びている。内部は検査機等が持ち込まれだいぶ狭く女性の身体でも余り身動きが取れない。しかしこうしている時が彼女にとって一番落ち着く時だった。計器類に走る光をただぼーと目で追い眺めている。真っ暗な中、ただ無機質な光だけが輝く…まるで宇宙にいる様な錯覚に捕らわれる…。
「お〜い、玲! 寝てるんじゃないだろうな? チェック終わったらさっさと開けろ。外から開けちまうぞ」
 ドンドンッと開閉口を何者かが叩く音がする。彼女は急に現実に引き戻された様にビクっとすると慌てて開閉口のコックを捻った。
「あぁ、ごめんないさいね。ちょっとぼーとしちゃったかしら」
 開閉口の向こうに予想した通り、瓜畠の顔がある。彼女は少しバツの悪そうに笑った。
「まだ来たばっかで訓練、試合、また訓練。そしてまた試合だ。ちょっと疲れてるんじゃないか? ちゃんと寝てるか?」
 開閉口に身体を乗り入れ彼女の回りにある検査機を次々に取り出し、結果を見ながら異常が無いのを確かめると計器を足元に積んで行く。態度はいつもと変わらないが、口調が労わる様に少し和らいでいる。
「大丈夫。…今までの仕事に比べたら軽いわ」
 ファーイーストのテストパイロット時代。常に競作という性質上何よりもまず結果が重要視された。パイロットの資質はもちろんだが、その資質は機体の性能を十二分に引き出せるかどうかというモノで、機体の設定も人間本位では無く机上の空論通りの性能向上重視、まともに扱えるものでは無かった。しかも書類と同じ結果を出さなければパイロットの腕が悪いと同じチームメイトのはずの開発員に罵られる。もっとも、罵られるというのは無事に機体から降りられたからの話で実験中に強制転移、その後見なくなったパイロットも何人かいた…。
 検査機類が無くなり、少し広くなったコックピットでちょっと伸びをするといつもの表情に戻り、身を乗り出して瓜畠の検査結果のファイルを覗く。
「ハードの方は問題無さそうね。ま、今更なんか出たらエラい事になるけどね」
「そりゃそうだ。さてとこれはオーナーに見せて…後はソフトだな。AIとの同調チェックからだが、今回は武装プログラムが変更されてるから、そこん所よろしく。じゃ俺、下にいるから終わったら呼んで」
 そう言って検査機類を足でどけるとファイルをパタパタさせて足場の階段を降りて行く。が、数歩で立ち止まると、
「それと、今度はあんま壊さないでくれよ。武装とか装甲は買い直しだから予算高く付くんだよな、修理は面倒だし…まぁ、負けない程度に気にして」
 急に思い出した様にそれだけ言うと素早く降り行ってしまった。彼女は身を乗り出したまま彼を見送りしばしキョトンとしていたのだが、意味を飲み込むと…
「修理の事考えて戦えますかっての!このヘッポコ整備員!」
 大声で叫んだ。


<戻る>