「おーい、教授。耐ショックの4番プログラムシール、お前持ってたよな?……」
ドアを開くなり瓜畠はズカズカと勝手に部屋に入り込む。と、我が目を疑った。
「……………………お、お前……これはマズいだろ……」
誰にとも無く呟く。部屋の中は以前来た時とは比べ物にならない程整理させており一瞬部屋を間違えたのかとさえ思った。しかしそんな事ではこんなに驚かない。取り合えず正気に戻るとその問題点を一旦視界から外し、部屋の主を探した。
「あの、教授は奥でお仕事中ですが? 重要なご用件でしょうか、瓜畠さん?」
きょろきょろと探す瓜畠のすぐ下からその問題点が声を掻ける。瓜畠はまた敢えて無視すると、
「アルベイン!教授っ!出て来い!」
と大声で奥へ怒鳴る。
「あの、そんな大声出さないで下さい…」
少し泣きそうな表情のまま瓜畠を見上げる。瓜畠はその両肩に手を掛けるとゆっくりどかし、部屋の中へ入って行った。
「おいっ! 教…」
「そんな大声出さなくても聞こえますよ」
バイザーディスプレイを手に持ったまま奥の部屋からアルベインが顔を出し自分の机に座った。そこへ瓜畠は近寄ると後ろを指差す。
「……なんだアレは?」
「アレ、とは? あっ、翼ちゃん、瓜にコーヒーはいいですからお掃除続けてくださいね」
取り合えずコーヒーメイカーに向かったそれはアルベインの言葉に、はい、と答えると書類の束の方へ向かった。
「あれだ、あれ! 今後方で稼動してるアンドロイド!」
「基本構造はSUー03の改造です。中の秘書用データは私専用のプログラムに組み直しました。完全なオリジナルですよ?」
「あーなるほど、それは凄い。…じゃぁあの外見もお前のオリジナルか?」
「無論。今は掃除の為動きやすいよう体操着に着替えさせてますが、本来は朝の定例時間に着替える用組んである。服のバリエーションとしてはオーソドックスな私服やスクール水着はもちろん、社の制服も特注したし、スモッグ、浴衣、イブニング、ガールスカウトやもろもろの制服等も数パターン入手した」
「おーなるほど、それは凄い。…が、そんな事じゃない。あの顔だ、顔」
「おや?問題でも? あれでも、動静止画像6000パターンよりモーションを作り忠実に再現したつもりだったんですが…」
「そ〜じゃないだろぅっ! ほんとに、まんま、じゃないか! ここまでクリソツに作るとは聞いて無いぞ」
椅子に得意そうにふんぞり返るアルベインに瓜畠は、ばんっ!と机を叩いた。 その音にびくっと振り向いたアンドロイドは『あの、教授…』と心配そうにこちらを見ている。
「ほらほら、翼ちゃんが心配そうに見てるじゃないですか……あー、翼ちゃん、喧嘩じゃないから掃除続けて」
「…だいじょぶなのか? アンドロイドは特に五月蝿いからな。本人の許可は?」
「とりましたよ」
「…ウソだな」
「ほんとですって。第一大丈夫です、基本的にこのフロアより出ない様言ってありますから。この役員フロアなら外にバレる事もありませんし、外部の人間が入ってくる事もありませんし。秘密厳守です」
「隠蔽工作って言うんじゃないか? それ…」
「馬鹿を言っては困りますね。翼ちゃんには秘書用のプログラム以外何も入れてません、万が一事故や誘拐なんかにあったらどうするんですか。その様な危険な目に逢わす訳にはいきませんね。第一このSU−03はまだ販売されてないんですよ? 社外に漏れるのも何かと問題があるじゃ無いですか、それでです」
「…こいつは」
拳を振るわせる瓜畠に計画的な笑みを浮かべる。
「オールオッケー、問題無いですよ。誰にもバレませんし、翼ちゃんは私が責任持って大事にしますから。ね、翼ちゃん?」
後ろで書類の束に目を通していた翼に笑い掛けると翼は、はい、と笑い返す。
「…お前、絶対痛い目見るぞ……」
もはや何も言う事は無いと脱力のまま瓜畠は部屋を後にした…。