瓜畠研究室。明鈴の整備調整用に用意された部屋の中央にその本人である
明鈴が座っていた。ただ椅子に腰掛けじっと瓜畠の方を見つめているが、
その目に光は無く耳の後ろから数本のコードが伸びていた。

 瓜畠:「こんなに早く不具合が出るとはなぁ〜」

数台のディスプレイを眺め頭を掻く。と、部屋のドアをノックする音がした。

 瓜畠:「どーぞ」

 美姫:「あの、健一さん?」

入って来たのは美姫だった。今日大学が終わった後直接こっちに来る様に
今朝言っておいた。彼女は少し大きな鞄を肩から掛け戸口で部屋の中を覗
き込み明鈴の存在に少々驚いた様に口をつむった。

 瓜畠:「入って。明鈴は今メンテ中」

 美姫:「明鈴、ちゃん」

 瓜畠:「本来、一部の社員以外に見せちゃいけないんだけどね、状況が状況だから
     特別に。俺もこんな事になるなんて予想してなかったんだ」

 美姫:「……」

 瓜畠:「明鈴はどうも美姫ちゃんの事を心よく思ってない。それは美姫ちゃんも分
     かってると思うし、美姫ちゃんも気にはなると思う」

 美姫:「……はい。明鈴ちゃんが健一さんの事好きなのは分かります……」

 瓜畠:「明鈴の行動は明かだし、まぁ、そういう風にプログラムしたんだけどね」

 美姫:「……どうしてですか?……説明して下さい」

 瓜畠:「その為に呼んだんだよ。明鈴はアンドロイドだ、そして俺は制作者。俺の
     言葉は明鈴にとって絶対だ。どんな命令だって、どんな事してたって俺の
     言葉に逆らう事は無い。どんなに人間らしくさえたってこれは変えられな
     いんだ」

 美姫:「でも、健一さんは明鈴ちゃんを人間として見てるといつも言っているでは
     ないですか。でしたらそんな命令系統はとってしまっては……」

 瓜畠:「それは、そうだが……明鈴は兵器だ。ちょっと嫌な話ししちゃうかもしれ
     ないけど、俺自身はいつも明鈴は人間だと思ってる。けど、同時にフソウ
     の開発者なんだ。アンドロイド等の兵器はマスターに絶対服従だ、どんな
     場合でも。だからマスター命令のプログラムは外せない。でもそれじゃぁ
     俺の言葉に何でも従う明鈴は日常生活じゃ余りにも不自然だ。そこで俺は
     考えたんだ…」

 美姫:「自分を恋人にさせちゃえばいいと?」

 瓜畠:「簡単に言うとそうだね。俺の言葉は自分の好きな人の言葉、明鈴はああい
     う性格にしたから思ったら一本…って感じだろ?だから、それで不自然さ
     をだいぶ解消出来る、と思ったわけだ」

 美姫:「でも、私が……」

 瓜畠:「そう。俺が美姫ちゃんと付き合い始めちゃって、明鈴の感情プログラムに
     様々な障害が出てきた。アンドロイド本来のマスター服従のプログラムと
     明鈴という感情プログラムのズレ……態度は最近の明鈴の行動を見ればわ
     かる通り情緒不安定、行動能力の低下、それに内部でもプログラムの命令
     系統の誤差から処理速度が大幅に落ちてきている。これは戦闘アンドロイ
     ドにとって最悪だ」

 美姫:「何故そんな事を……私、なんだか悲しいです」

 瓜畠:「反省してるよ、思慮が足りなかった。明鈴と美姫ちゃんの二人を傷付けた。
     明鈴がほんとに人間だったら『好きな人がいるから』と言えたけど、そうも
     いかない」

 美姫:「……では、どうするんですか?」

 瓜畠:「このプログラムは消去するよ。もう一つ考案中だったキーワード方式でや
     ってみる。これはマスターの音声で、ある特定の言葉を聞きその後の言葉
     には絶対服従とするといったプログラムなんだ。録音音声でも命令が可能
     な為に軍用としては色々問題があるんだけどこの際仕方がない。このまま
     より数倍マシだ」

 美姫:「そうですか……」

 瓜畠:「これからすぐやる。それで今晩中にリプログラムしちゃいたいから今日は
     ここに泊まるよ」

 美姫:「わかりました。それと……私ここにいたくないので今日は帰ります。ごめ
     んなさい……明鈴ちゃんに謝っておいて下さい……」

 瓜畠:「……!! 待った!何故、美姫ちゃんが謝るんだい?」

 美姫:「……だって…私が急に出てきたから……そうじゃなかったら……明鈴ちゃ
     んだって記憶を消される事はなかったんです……」

 瓜畠:「それは、違う。取って付けたみたいになっちゃうけど、どっちみちこれは
     消されるプログラムだったんだ。それがちょっと早まっただけ、美姫ちゃ
     んのせいじゃない……」

 美姫:「…………ほんとう、ですか…………」

 瓜畠:「ああ……」

 美姫:「…………」

 瓜畠:「……やっぱり今日帰るよ。かなり遅くなって、朝方になっちゃうと思うけ
     ど、起きていてくれるかい?」


 美姫:「…………はい」


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