3日続いた雨も上がり久しぶりに見た太陽に瓜畠は眩しそうに目を細めると屋上へ続く階段を軽く駆け上がった。
「おや?」
屋上の物干し台には一面に整備員達のツナギやらタオルやら仕事場の汚れ物がはためいている。そこにてっきり誰もいないと思っていたのだが人影が見えた。
「桜花ちゃん? …なにしてるのこんな所で?」
「きゃっ!」
シワを伸ばしていたツナギを握りしめ飛び退く様に振り返った桜花は声の主が瓜畠だとわかると、ふぅとため息を付いた。
「う、瓜畠さん…もう驚かさないで下さい」
クチャクチャになってしまったツナギをもう一度シワを伸ばしながら怒った様にそっぽを向き竿にツナギを掛ける。
「ごめんごめん。でもどうしたのエプロンなんかして? それに洗濯は整備員達の当番制のはずだよ?」
階段のすぐ脇の手すりにもたれ掛かると手にしていたコーヒーカップを口に運んだ。
「ええ、そうらしいんですけど…折角久しぶりにお天気になったので今日は大掃除の日って決めたんです。それで私ちょっと暇があったので皆さんのお手伝いをっと思ったのですが…よくわからなくて…そしたら身の回りの事してくれたら嬉しいと皆さんが…それで……」
少し恥ずかしそうにうつ向くと手にしていたツナギをまたクチャっと握る。瓜畠はしばし呆れたがさっきの嬉しそうに洗濯物を干す桜花の顔を思い出し苦笑する。
「(まったく、いい様に使われて…)そーいう事は甘やかしちゃ駄目だよ。それに桜花ちゃんだってそんな暇じゃ無いだろ? いつ試合になるのかもわからないんだ」
「でも、私のする事はあまり…ところで瓜畠さん。何故ここに? あ、訃天丸に何か問題でも?」
瓜畠はその問に黙って手のコーヒーカップと雑誌を見せ肩をすくめる。桜花もそれを見て困った様に微笑んだ。
「どーも天気がいいと建物の中にいるのがもったいない様な気がしてね。今日は僕の仕事も少ないし…会社に出席取りに来た様なもんさ」
「そんな。 皆さんの機体も帰って来たばかりで調整とかあるんじゃないんですか?」
「ああ、それはSの仕事。桜花ちゃんの機体なら僕が速攻で見るんだけどね」
話ながら手摺の所にコーヒーを置くと桜花の所まで行き洗濯物を篭から取り上げ桜花に渡す。それを桜花は礼を言って受け取ったが、同時に瓜畠に手を掴まれた。桜花は、はっとして掴まれた手をしばし不思議そうに見る。
「う、瓜畠さん…あの、手を…」
状況を理解すると見る見る顔が赤くなっていく。慌てて瓜畠の顔を見上げたがそこには今まで見た事無い程の真剣な顔があった。
「桜花ちゃん。今まで普通にする様に努力はしてきたつもりだけど、事態は進展しそうに無いんで思い切って言う。僕はもう28なんだ。そういう事でちょっと焦ってるのかもしれないけど…僕は桜花ちゃんが…」
「あ、あの、止めて下さい…」
まっすぐ見つめ、決した様に口を開いた瓜畠を桜花は小さな声で遮った。そして瓜畠の手をもう片方の手でゆっくり離す。
「わ、私は瓜畠さんが好きです。玲さんもSさんも…でも、好きとかそういうんじゃなくて…よくわからないんですけど……ごめんなさい…私…答えられません……」
「そんな難しい事じゃない…大丈夫……」
うつ向いたまま静かに泣いている桜花の肩を抱こうと手を置く。が、その肩が大きく、びくっと震えた。瓜畠は思わず手を離す。 そして桜花の態度に瓜畠は全てを悟った。
「…そうか…俺じゃ駄目って事か……そうか…」
「ほんとに…ごめんなさい…」
たまらず桜花は瓜畠の脇を駆け抜けると階段を掛け降りていってしまった。残された瓜畠はやり場の無い手で頭を掻くとその場に座り込む。
「やっぱなぁ〜…まぁ、わかっていた事とは言え…キツいなぁ……」
一人明るい声で呟くと、ドサっと地面に寝っころがり眩しい太陽に雑誌を掛けた…。
つづく・・・。