階段を上り屋上へ顔だけ出すとツナギに囲まれ案の定瓜畠が寝ていた。玲はそのまま階段を上りきると、
「健一!桜花ちゃんに何したの?!彼女、本気で泣いてたわよ!」
と怒鳴りながら彼の横に立つ。しかし、瓜畠はいつもの様に怒鳴り返してこなかった。玲は、おや? っと顔に掛かっている雑誌を取ろうとしたがその手を見もしないで瓜畠は掴む。
「ん…玲か………………ああ……フられたよ、本気で」
掴んだ手を放し手をパタパタっと振ると雑誌の上に落とした。玲は何か言おうとしたが瓜畠の口調に黙って桜花の置いて行った洗濯物の残りを干し始めた。玲は黙って洗濯物を干し、瓜畠も黙っていて、ただ時間だけが過ぎる…。が、瓜畠が急に起き上がり呟いた、
「なぁ、玲? まだ、俺の事好きか?」
玲は背中越しに視線を感じたがそのまま洗濯物を干す。
「え? ええ…好きよ」
務めて明るく言ったのだがまた瓜畠は黙ってしまった。玲は振り返りたかったのだがなんだか恐くて出来ない。全ての洗濯物を干し終わってしまい手持ちぶたさで干されているツナギのシワをただ伸ばす…と、後ろで瓜畠が立ち上がる気配がした。玲はドキリとする。
「……すまない。今、もし玲と縁りを戻してもなんだか桜花ちゃんの代わりにしたみたいで嫌だ。それに…やはりもう昔通りには行かない。…すまない」
どうしていいかわからない、そういった口調でただ謝る瓜畠に玲もまた涙を浮が溢れる。しかしすぐ顔を上げ、涙を乱暴に袖で拭くと洗濯籠を持ち勢いよく振り返った。
「泣くな、30男! 私が好きになったくらいなんだから大丈夫だって。…人生は思い通りにならないから面白いんだって言うし! ……私は大丈夫だから…」
玲は笑顔のまま洗濯籠を両手で持ち、瓜畠の脇をすれ違いざま頬に軽く口付けし、小さく呟いた。
『さよなら…』
瓜畠はまた寝っころがると今度は大の字になり、苦笑した。
「結局……二人に振られたな…………………」