無題〜あなざーばーじょん〜
光は自転車を降りてそれを押している、重い荷物を載せた状態ではとても丘を登ることは出来ない。
彼女の視線はただ一件のビルに注がれている…ただ丘の中腹にビルはそこにしかないがそんな事は気にしちゃいけない。
光はようやくそのビルに辿り着き、その前に自転車を止め玄関の前に立つ。
光「ふぅ〜ん…」
そう呟くと頭の両側で髪の毛を結わえているゴムバンドを外し、それを手提げ鞄の中に押し込み、そしてチャイムを押し込んだ。
SE「ぴんぽ〜ん」
光は辺りをきょろきょろしながら反応を待った…だが、何時まで経ってもドアが開く様子がない、不審に思った彼女はドアノブに手を掛けてみる、するとそれは鍵が掛かって無くなんの抵抗もなく開いた。 彼女はいぶかしみつつも中に入り、暫く当たりを見渡していた。 本当に誰もいないようだ。 光はキッチンが有るとおぼしき方向に行き、先ほど買った荷物を下ろし、おもむろに鍋を取り出した…。
キッチン中で光は鼻歌混じりで料理をこなしている、彼女は翼より遥かに手際が良く腕も立つ。 あっというまに料理を仕立て上げてしまい、それらを食堂に運び始めた。
他方自称悪のアレクと生粋の悪人フェル。 彼らはラ・ターシュ家のお茶会からの帰り道、たわいもない話をしながら丘を下っていた。
アレク 「やはりあの家の紅茶はうまいな。茶葉の質が違うのか、
はたまた煎れる者の腕の差か……」
フェル「どーもすいませんね。僕、そういうのって苦手なんですよ。
…あれ、なんかいい香り…」
ヘカテ「会社からのようですね。確か、誰もいないはずですが」
フェル「料理作って待ってる侵入者…まさか」
アレク 「翼か?」
二人は全力で走り、キッチンの方へ向かう。 アレクがドアノブに手を掛け一気にそれを開いたが中には誰もいない。
フェル「ふぅ〜よかった」
アレク 「それでは先のどの香りは一体?」
ヘカテ「よく見ると流しを使った跡がありますね」
一行は廊下に出て奥の方を見た。 すると食堂の明かりが灯っている。
アレク「まさか…(^^;」
ヘカテ「翼嬢ですね(^^;;」
フェル「……全く(ーー;」
二人は落ち着いた足取りで食堂に向かいドアを開ける、そこには既に光が椅子に座って待っていた。
光「お帰りなさい」
翼が来訪したと勘違いしているアレクは明らかに動揺しているし、フェルはまたもや冷酷な視線を送っている。
アレク「ああ翼よ…せめて事前に連絡を…」
光「電話をかけてみたんだけど…」
アレクは自分の携帯電話を見たが、それには電源が入っていなかった。
アンと一緒にお茶を飲む席上無粋な呼び出し音が鳴らぬよう、そしてその時を楽しみたいため電源を切っていたのを今更になって思い出す。
アレク「そうか、それは済まなかった翼」
光「いえ、良いんです…」
翼と光は容姿が極め似ている。 毎日二人を見ている人間ですら髪型やしゃべり方で
二人を区別しているほど…。 今光はあえて翼のしゃべり方を真似て喋っているため
偶にしか合うことがない2人にはそれが判るはずもない。
光「あっ料理が冷めます、アレクさんもフェルさんもどうぞ…」
アレク「それもそうだな、それでは有り難く頂くとしよう」
フェル「僕は…」
光「食べて下さいね(ニコ)」
フェル「うっ…」
「食べない」とフェルは言いたかったのだろうが、光が気勢を取ったことと無邪気な笑顔に負けて渋々着席するフェル、それを見てアレクは頷きヘカテは苦笑を禁じ得ないのだった。
フェル「でも待って下さい、まず君が食べてよ」
そうフェルは言うと光の方を振り向く。
光「えっ…信じて貰えなんですか…(;;」
そう言うと光は胸の前で両手を組み合わせ両の目をうるうるさせながらフェルを見つめる。 それを見て一瞬フェルはドギマギしたが次の瞬間にはいつもの冷酷な自分を取り戻すことに成功した。
フェル「1度や2度の事で信用できないよ僕は」
光「そんな……ごめんなさい!」
そう言うと光は鞄からナイフを取り出し自らの喉に突き立てようとした。無論アレクが止めてくれると言う計算が有ってのことだが、それは多少計算がずれた。
フェル「わーー!」
とフェルは叫ぶととっさに光が持つナイフを右手で払い飛ばした。いつものフェルならば絶対にあり得ない行動だ。
光「信じて貰えます…?(;;」
フェル「わかった、判ったよ…」
光「それじゃ食べましょう(ニコ)」
アレク「翼…無茶な事をしないように…」
翼(光)の行動力に薄ら寒い物を感じるアレク君で有った(笑)
それからはつつがなく食事が終わり、光は洗い物を片づけようと流しに洗い物を持って姿を消し、食堂には二人+一人の状態になった。
フェル「…ったく何て子供なんだ…」
ヘカテ「全くですね(^^;」
アレク「フェルが咄嗟に止めてくれたから良かった物の…フェルご苦労だった」
フェル「いえ、あそこで死なれちゃ問題が有りますからね」
アレク「どう言うことだ?」
フェル「僕らは悪を信奉しているから死んでも知らないけどここで死なれたら後が
面倒くさいでしょ?」
ヘカテ「彼女の所属する組織ですか…?」
フェル「うん、何れ組織が大きくなればあんな所を気にしなくても済むようになる でしょうけど」
アレク「案ずるなフェル、私が世界を征服した暁には、あのように間違った悪は 我が正しき悪の道に導いてみせる!」
ヘカテ「(^^;」
フェル「なにか違うような…まぁいいか」
そうこうしていると光が流しから帰ってきた。
光「片づけも終わったのでそろそろ失礼させていただきます…」
アレク「うむ、ご苦労だった。 気を付けて帰るよう」
フェル「…」
光「それじゃ」
そう言うと光はドアを閉めた。 それを見届けたアレクは携帯電話を取り出す。
ヘカテ「どこへ連絡をするのですか?」
アレク「翼にはたしか光という姉妹が居ただろう?それに頼んで過激な行動を慎 むよう言って貰うだけだ」
そう言うとアレクはマッチメーカー関係者のみに配られる住所リストに目を通し日比野翼、光両名の住む部屋に有る電話の番号を探し、そこへ電話をかけた。
翼「はい、日比野ですが」
アレク「ああ、アレクシスと言うが…」
翼「アレクさんっ! ええどうして電話を…」
アレク「君は光だね?」
翼「え? 私は翼ですけど…」
アレク「なに!? 翼は今先ほどまでここに居たのだが…」
翼「いえ私は今日は一日中基地から出てませんが…まさか」
アレク「まさか?」
翼「ええ今日は光がサングロイアに遊びに行ったんですけど…」
アレク「…と言うことは先ほど来ていたのは光だったのか?」
翼「たぶんそうだと思います」
アレク「そうか…それは失礼した、光が帰ったらくれぐれも無茶な事をしないよう に言っておいてくれ」
翼「判りました…」
アレク「それじゃ失礼する」
フェル「今のは翼じゃなかったんですか?」
アレク「どうやらそのようだな…」
ヘカテ「(^^;」
一方の光。
光「ふぅ〜ん、アレクさんってああ言う人だったんだ…。どーして翼が好きになるか
わかんないなー」
そう言いながら外していたゴムバンドで再び髪の毛を結わえている。
光「そうだ! たしかアンリエットさんの家はこの上だったね。アンリエットさんにも 色々聞いてみよーっと」
終
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