「〜特別な日の訪問者〜」




機動六課のとある執務室、一人真剣に幾つか展開したモニターに向かい、
仕事をこなす女性・・・というにはまだ幼く、少女と言うには少し大人びいた、
機動六課部隊長である八神はやてが真剣な眼差しで仕事に集中していた。
処理を終えたモニターは消え、また新たなモニターが展開される。
彼女の親友の言葉を借りるならまさに「全力全開」で仕事に取り組んでいると言えるだろう。


そんな電子音のみが響き渡る執務室に、来訪者を告げる新たな電子音が鳴り彼女の集中力を中断させた。
「・・・はい?」
邪魔されたせいなのかそれとも疲れのせいなのか、彼女は少し苛立ちを含んだ声で返答した。
「八神部隊長・・・高町教導官並びにテスタロッサ・ハラオウン執務官ですが」
来訪者は室内に誰がいても良いように、少し堅苦しい役職名で入室の許可を尋ねた。
「・・・え?なのはちゃんにフェイトちゃん?!」
思いもよらない人の来訪に、少し驚いた様子ではやては二人の名前を親しみを込めて呼んだ。
通常ならこの二人が尋ねに来ても何ら不思議ではないのだが、
今日に限っては違う、彼女たちが楽しみにしている用事があることをはやては知っていたのだ。
「うん・・・はやてちゃん中に入って良い?」
「あっ!うん・・・ちょっと待ってな」
少しの間呆然としていたはやてだが、ドアのロックを解除して二人を執務室に招きいれた。


「あーやっぱり・・・はやてちゃんまだ仕事してる。」
「はやて・・・仕事まだ終わらないの?」
最初に声を発したのは高町なのは、次にフェイト・T・ハラオウン・・・二人ともはやての幼馴染で親友だ。
「うん・・・もう少しかかるかな?今朝急な仕事が入ってな、そのせいで事務処理が押してんねん」
正直何かをしながらの会話はあまり好きとはしていないはやてだが、今日はそうも言ってられず、
なのはとフェイトの突然の来訪で、一旦は中断していた作業を再開したはやては遅れてる理由を口にした。
「せやけ、なのはちゃんとフェイトちゃんはもう先行ってると思ってたんやけど・・・」
「・・・・そんなの・・・・はやてちゃんがいないと意味ないんだけど?」
少し拗ねた口調でなのはがはやてに問い返した。
普段仕事中の素振りからは想像出来ない位子供っぽいしぐさだが、
親しい友人にだけ見せるその仕草もまた彼女の魅力の一つだ。
「そ・・・それはそうかもしれへんけど・・・仕事がなぁ・・・・」
「日頃の行いが悪いからだよはやて」
「・・・・・・・・すんません・・・・・」
日頃の行いをフェイトに注意され、心当たりがあるのかはやては申し訳なさそうに謝った。
普段誰にでも優しいフェイトだが、時にとても痛い所を突いてくる。
だが本人は「痛い所を突いてる」っと言う自覚が全くない天然さんだった。


「ほんとに・・・仕方がないなぁ〜はやてちゃんは・・・・」
少しの沈黙の後、なのはが溜息をつきながら唐突に話し始めた。
「仕事は私とフェイトちゃんで片付けるから、はやてちゃんは先に帰ってくれるかな?」
「・・・え・・・・ちょ、なのはちゃん何言ってん?」
「だーかーら、ここは任せて先に帰れっていってるの。ねー、フェイトちゃん♪」
「そーそー、ここは私達に任せてはやては先に帰っててよ。」
「い・・・・いやいや・・・それはアカンやろ?二人かってさっきまで自分の仕事で疲れてるんやから、 そんなん頼まれへんよ」
二人の突然の申出に、再び驚きを隠せないはやてだが自分のせいで迷惑は掛けられないとばかりに反論する。
「あのねはやてちゃん、正直はやてちゃんが帰ってくれないと何も始まらないの・・・ここで仕事されてる方が私達には迷惑なんだよ?」
「そ・・・・それは・・・・」
「それに守護騎士の皆も今日の為に、日頃の仕事切り詰めて早くに帰ったのに、一番の主役のはやてちゃんが帰ってこないんじゃあんまりじゃないかな?」
「わ・・・わたしかて今日の為に仕事切り詰めてたよ?せやけど急用は仕方ないやんか・・・・」
少し強めの口調でなのはが説教したのが気に入らないのか、はやてはブツブツ言いながら仕事を進める。
「わたしかってはよ帰りたいよ、せっかく皆が苦労して時間空けてくれてるん知ってるもん。今朝入った急用かて正直たいした事じゃないのに呼び出されてえぇ迷惑やし。いい加減にして欲しいわ、たまには自分達でやれっての!!」
今朝の急用を思い出してか、はやては早口でグチをこぼし始めた。
はやてをはじめはやての守護騎士であるシグナム達も、今日のこの日に時間が空くように毎日仕事を切り詰めて頑張ってきた。
もちろんなのはやフェイトも然りだ。
それらを全て知ってるからこそ、はやては今の自分の状況にイライラしてしまう。
ココで仕事してる事自体が既に皆の努力をふいにしてるようなものだから。
「はやて、時間がもったいないからここは私達に任せて・・・っね?」
「・・・・せやけど・・・・」
はやての煮え切らない返事を聞いてはのは無理やりはやての手を取って、
「仕方がない・・・フェイトちゃん!実力行使なの!」
「ちょ・・・二人ともなにすんねん・・・」
なのはが右の手を、フェイトが左の手を持ちはやての作業を止めにかかる、
両の手を封じられたはやては、口で抵抗を試みた。
「ちょーもー放してなぁ〜・・・仕事でけへんやん・・・あともうちょっとで終わるさかい・・・な?」
それを聞いてなのは、フェイトが展開されているモニターを覗き込み内容を確認するが、
どう考えても「あとちょっと」で終わるような処理量で無い事は一目瞭然だった。
「はやて、この量はあとちょっと位じゃ無理だよ。」
「そ・・・そんなん、やってみぃひんかったら分からへんやん・・・・」
「わかるよ・・・はやて、今はやてに仕事させて、日付が変わったら本当に意味がないんだよ?守護騎士皆の気持ちを台無しにするつもり?」
「むぅ・・・・そーやけど・・・・だからって二人に押し付けてえぇって訳でもないし・・・」
フェイトに家族である守護騎士達の事を言われ、徐々に抵抗の勢いが弱くなってきたはやてになのはから一つの提案を出した。
「じゃぁ・・・はやてちゃんこーしよう!私とフェイトちゃんで仕事片付けるから、はやてちゃんは私達に何か報酬を頂戴♪」
「・・・報酬?」
「うん♪報酬」
「ちょっとなのは!!なに言って・・・」
なのはからの訳のわからない提案を聞いてフェイトが反論しようとしたが、その言葉は最後まで言われる事は無かった。
「・・・それってバイトって感じでえぇんかな?」
「うんうん、そんな感じに考えてくれれば良いよ♪」
少し考えてはやてがなのはに質問をしたが、なぜかなのははかなり上機嫌で返事を返した。
「うーん・・・それやったら・・・二人に任せても・・・ええかな・・・」
正直、もので釣るみたいな行為は不本意だが、背に腹は換えられない。
家族である守護騎士の気持ち、なのはやフェイトの気持ちを想えば、ここは素直にものに釣られてもらうことにした。
「うん♪任せてなの!!」
「はやてにしか出来ないものは、まとめておくから明日の朝確認してね」
なのはとフェイトは力強くはやてに了承の返事をした。
「こんな事私が言えた義理やないけど、後から絶対に来てな・・・」
毎年家族と親友に祝ってもらっている・・・・今日は6月4日ではやての誕生日。
「うん、日付が変わる前には必ず行くね。」
「私達もはやての誕生日お祝いしたいから、必ず・・・」
二人からの気持ちのこもった言葉が、はやての心を暖かくする。
「よーし、善は急げや!今開いてる分だけでもやって後お願いするわ!!」
そう言って展開してるモニターに手を差し伸べた時、なのはから突然の催促が飛び出した。
「あのねはやてちゃん、さっき言ってた報酬の件だけど・・・先にもらってもいいかな?」
「・・・うん?バイト代?・・・・・・ええよ〜、えっとなんぼにしたら見合うか・・・」
先ほど交わした報酬を前払いで欲しいとの要望に、すこし「?」的な感じもしたが、
はやてはなにも考えずに了承し、バイト代を伝えようとした時・・・・
「お金じゃないよはやて・・・・」
「うん報酬はこれで十分♪ねーフェイトちゃん♪」
「うん♪十分十分」
二人の声が耳の傍で聞こえ、



「「改めて、誕生日おめでとう・・・はやて(ちゃん)」」





祝いの言葉と共に微かに触れるやわらかい感触と「ちゅっ」っと言う音がはやてを慌てさせた。
「・・・・!!!っな!!・・・・・な・・・なな・・・・なんするん?!」
二人のいきなりの行動に頬を真っ赤に染めたはやてが問い返す、
「んー?報酬を前払いでもらっただけだよはやてちゃん♪」
「ふふ、もらった報酬分はきちんとこなすから安心してねはやて♪」
親友二人のしてやったりの笑顔をみたら、これ以上なにも言えなくなり、
ただぼーぜんとと恥かしさをこらえてたが、
「なに、はやてちゃん・・・まだ報酬くれるの?だったらもちろん歓迎なの♪」
なのはの更なる要求に辛抱できなくなったはやては、
「そんなんやれへんわーーーーー!!!なのはちゃんとフェイトちゃんのあほーーーーー!!」
っと恥かしさのあまり少し涙目になりながら、執務室を急いで出て行った。


「もう可愛いなぁ〜はやてちゃんは・・・・」
「うん・・・可愛いね」
はやての出て行ったあとを少しの間見つめていた二人だが、
約束を守る為に真剣に仕事に取り掛かった。



大切で大好きな八神はやての誕生日を皆で祝う為に・・・・・。




fin