この作品は、三浦綾子さんの最後の長編小説となったもので、「北海道綴り方教育連盟」への弾圧事件が背景になっています。昭和初期、恐怖と凶作で、娘が身売りされるような東北地方の農村の困難な生活状況に、心ある教師達は現実に押し流されずたくましく生きる子ども達を育てようと、生活綴り方による教育方法を始め、この教育運動は全国各地へ広がっていきました。しかし、侵略戦争を拡大する日本の支配層は、治安維持法の下で、国民への弾圧を強め、教育の分野にもその手を伸ばし、ついには生活綴り方まで治安維持法違反をでっち上げて弾圧し、全国で約300名の現職教師が検挙されたのが「生活綴り方教育事件」です。
「私は、国が誤った方向へ行こうとしたら、命を賭してでも『それは行けない』というだけの勇気をもたなくちゃあいけないと思っています。」
三浦綾子さんの言葉です。あの教育事件を背景として、またご自身の戦中での教師体験がこの作品に重ねられ、難病の発症を見ながらも、今日の私達に二度とあのような戦争を招いてはならないということが遺言とも思える深い言葉で語られています。
戦前の日本は治安維持法によって、平和を望む多くの人たちが犠牲者となった、まさに暗黒の時代でした。
戦後は、平和憲法の下に暮らしてきました。しかし今、その憲法が変えられようとしています。このような状況の中で、前進座の「銃口」公演は、平和を願う多くの人たちに勇気と希望を与えてくれると確信しています。
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