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Interview ( KangarooPaw )

聞き手:小田晶房
インディーズ・マガジン 2000年07月号(Vol.37)


繭、そしてneinaという音響ユニットの一員として、ドイツMille PlateauxやオーストラリアEXTREMEから作品をリリースしているサウンド・デザイナー中村公輔。
彼のソロ・ユニットと言えるカンガルー・ポーのサウンドは、中期ビートルズを想起させるサイケデリック感と独特の浮遊感を湛えた奇妙な音響世界。
とは言え、実験性のみを押し出したアバンギャルドなものではなく、極端にエフェクト加工された自身のボーカルやギター・サウンドにロック・ミュージックへの愛情が感じられる心地いい音楽だ。
あえて未完成なところで寸止めするのも、彼の個性のようだ。



コンセプチャルなものではなく 分裂症的なところを見せていきたい

中村さんが参加しているユニット“繭”の音は、完成され過ぎているような気がするんですよ。でもこのカンガルー・ポーは、そのイメージとは違って未完成な感じがします。

中村 実は、EXTREMEから出た繭の1枚目は、元々2枚組でリリースされるだけの音源があったんですよ。でも、いきなり2枚組というのもなんなんで、1枚になったんです。で、あの作品には、僕の曲は入っていないんです(笑)。今度出る2枚目には入っているんですけどね。繭はインターネット上で知り合った人たちとの流動的なユニットで、詩だけを書いている人もいます。でも実際は、成田(真樹)さんと細海(魚)さんしか会ったことがないんですけどね。会ってみたら、みんな近いところに住んでいたんですけど。

ネットで知り合ったとは言え、一緒に作業をするにはやっぱり人間的なコミュニケーションが必要だと思いますか?

中村 いや、そうでもないですね。本当に意思を疎通させて作るつもりなら、1人でやった方がいいかなぁ、と。分かり合えないまま誤解をはらんだままで作った方が、音楽的に奥行きができると思います。

Mille PlateauxやEXTREMEの音源って結構聴いていたんですか?

中村 聴いてるのはオヴァルやアレック・エンパイアくらいで、あんまり詳しくはないですね。ただ、かなり昔ノイズのバンドをやっていて、灰野敬二やデレク・ベイリ−みたいな音楽が好きだった時期はありますけれど。そのときはギター……というかギターを肩から掛けてプラグでノイズを出して(笑)。

当時から録音指向だったんですか?

中村 そうですね。レコ−ディングの練習のためにライブやってる感じでした(笑)。ノイズと並行して、メインでサイケ/ソフトロック系のバンドとハ−ドコアバンドをやってたんですけど、サイケの方から録音にはまってった気がします。基本はギターでした。今は打ち込み、というよりもエディットですね。使っている楽器は、ほとんどMacintoshとサンプラーだけ。音ネタを外から取り込んで、ハードディスクの中で加工しています。

1人になってから音楽性は変わりました?

中村 バンドのときは、音楽的に構造のあるものを作っていたんですけど、1人になって音楽の構造をコミュニケ−ションの手段にしなくてもよくなったので、もう少し抽象的なものを作ってもいいかなと思い始めました。

ただ、抽象的といっても、単なるアバンギャルドに終わっていない音作りですね。

中村 アバンギャルドな手法を使っていても音味はポップですからね。カンガルー・ポーは、全く別の接点のない音楽性を並列に置いて、完成させないまま機能させるというのを目指しています。いかにもアバンギャルドっぽい音の、伝統芸能的前衛に抵抗があるのでネタとしてポップな要素を入れることで前衛っぽさも擦り抜けていこうかと。

他に繭とカンガルー・ポーの違う部分は?

中村 繭に提出する曲は、繭の枠の中で曲を作ろうという考えがあるから音楽性が限定されちゃうんですが、カンガルー・ポーの場合は、自分が責任を取ればいいんだから、何でもいいんじゃないかと思ってます。少し分裂症的な部分を見せて行ければいいなと思っています。

確かに、作品自体は、そんなにコンセプチャルじゃないですよね。

中村 それは自分でも思いますね。バラバラにしたかったというのはあります。

歌をエフェクト加工している理由は?

中村 例えばベックとかだと、歌やドラムが主軸にあって、それに効果音的に実験的なものを加えていくと言うようなプロダクションじゃないですか。だからポップスのファンは歌だけでも楽しめるだろうし、コア層は変な音も含めて楽しめる。だけど僕は歌も奇妙な音も等価にしたかったし、歌の扱いを大きくするということは大きな資本を使って多数を相手にするときにやればいいことだと思うのでこういう形にしました。昔バンドで歌っていたので、歌うのが恥ずかしいというわけじゃないです。最初に音楽を聴くようになったころビ−トルズ中期以降とかゾンビ−ズとかサイケっぽいものから入ったので、ボ−カルにエフェクトをかけると言うのが自然な感覚になってるってのもあるかもしれません。サイケのエフェクト感とかをコンピューターに置き換えて作業することに興味があります。

今コンピューター内のエフェクトを使うと、お手軽にサイケ感ってできますよね。

中村 そうですね。でも、当時のサイケ感の再現と言うことじゃなくて、ガレ−ジサイケとかで持ってるエフェクト全部かけてやる的なサイケ感をコンピュ−タ−でできればと。

曲作りはどのようにして?

中村 断片断片で作っていきます。音響的なものとロック的なものを別々に作っておいて、ハードディスク内でグチャグチャにしてしまうことが多いです。

曲を作って、そこで終わらない理由は?

中村 やっぱり、普通の曲は簡単にできちゃうんですよ。ドラム、ギター、ベースだけで作ってしまうのは、つまらないというか、一人でやっても仕方ない。編集しているときは、普通の歌モノを作っているときと精神状態が違うので、全く違うものが出来てくるんです。MacでWindowsが動くソフトとかあるじゃないですか、自分をそんなものにしたいという気持ちがあるんですよ。ロック・ミュージシャンみたいな感じの自分がいるとか、なりきって作業をしていくんです。分裂症エミュレ−ションモ−ド搭載という感じで(笑)バンドを辞めたのは、よっぽど個性の強い人たちと一緒にやらないと、かえって1人で作ったものになるような気がしたんです。そうじゃない音楽が作りたかったから、あえて1人でやり始めたんですよ。

ただポピュラリティがある音だと思うんですよ。でも意図的に隠している気さえする。

中村 それはやっぱり、ポップスを聴く耳を軸にした意見だと思います。まあ、最初の一枚でポピュラリティを前面に押し出していくと、この人はこういう人だって言う枠にいれたれてしまう気がしたので、意図的に避ける気持ちもありますが。今回のアルバムでは音楽的に分裂させるってのがコンセプトだったんで、それなりの完成を見せたものに関しては、カンガルー・ポーでは使わずに人に提出してしまったり。

できた音を後で壊すことってありますか?

中村 ほとんど1度作ってから壊しますね(笑)。マスタリングみたいな状態まで作り上げてから、それをネタにしてまた曲を作り始めたり。延々と作り続けちゃいます。

CDにして、ようやく完結させられる?

中村 そうですね。そこでファイル的には完成なんですが、完成したものとして聴いてほしくはないなぁと思います。自分で言ってしまうのはなんなんですが、音楽的に誤解されるような種をまき散らしてるつもりなんで、読み替えられることで完成を避けるというのが狙いです。

今回、自らのレーベル(深海レコード)からリリースしていますが、このレーベルは、中村さんのソロ・レーベルなんですか?

中村 自宅で細かくレコーディングしている人って自己完結してしまうことが多いじゃないですか。ネットで知り合った人とか、点としてはたくさん存在しているんですけど、それを繋ぐ線がないんです。HDレコ−ダ−を使った編集とか、DSP処理を施したロックということで「.rock(ドットロック)」という新ジャンルを提唱していくつもりなんですが、そのキ−ワ−ドを軸にそういった人の作品をリリ−スしていく予定です。

抽象的な音楽には珍しく、ライブでも面白そうなサウンドだと思うのです……。

中村 ライブはやったことがあるんですが、自宅のシステムは持っていけないし、アルバムと同じ内容にしても面白くないので、プラグインなどを使ったインプロ的なやり方で模索しているところです。

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