スタジオでのうたた寝 その真実は…
illustrated by Mamoru Oshii ご覧になった方もいらっしゃると思うが、押井守さん監督の「トーキング・ヘッド」という映画で河合拳という作曲家役があり、それを石原慎一さんが好演している。言うまでも無く私のパロディであるわけだが、いかにもいいかげんそうな軽い態度や服装といい、すぐ温泉に逃亡してしまうところなど、なかなか真にせまるものがあって人々の笑いを誘っていたようだ(ただし本人よりは数倍かっこいい)。
 ところがその中で、椅子に座ったまま上を向き、口をだらしなく開けて熟睡しているシーンがあるのには、仰天するとともに少なからず疑問を感じた。確かに連日の徹夜で疲れている時など、スタジオでうっかり寝てしまうこともあるだろうが、まさかあんな姿で私が寝ているとは考えてもみなかったからだ。レコーディング中において私が寝てしまうというのは、いっさいの作業がストップすることを意味する。そのため、本来は極度の緊張感を伴って仕事にのぞむべきであり、間違ってもうたた寝など許されるものではないとは思う。しかしやっぱり眠い時があるのもこれまた事実で、特に食事の30分後などはかなり危ないと言える。
 そこでやむを得ず少しだけうたた寝する時は、ややうつむいて椅子に座り、腕などを組んでサングラスをかけるようにした。これは、目さえ隠せば他人に寝ているところを悟られないであろうし、いかにも真剣に考え事をしているように見えるといった、まさに一石二鳥と呼べる空前のアイデアであり、今のところ99%の成功を確信している。この完璧と言ってよいほどの作戦により、ほとんどの場合において「ぼく10分寝ます」宣言をしない限りは、決して誰にも知られるハズがないと思っていたのだ。
 だが映画の中の私は、もはや完全に上を向いており、オマケに口まで開けちゃってるではないか。勿論映画だから多少は事実と異なり、誇張もあるのだろうと思って押井さんに問い合わせてみたところ「いつもこんなだよ」と、非常に明快な答えが返ってきた、しかも恐るべきことに、ヨダレやイビキなども伴っていることが同時に判明するに至って、さすがの私も慄然となり、策に溺れた己れの甘さを恨んだ。さらに寝言もよく言っている、という不気味な情報も後に寄せられたが、幸いなことにこれはデマであった。
 とにかく、私は何か重いもので後頭部を殴られるようなショックを受けつつも、心の中で過去における仕事を走馬灯のように思い起こしていた。いったい今までに何回ヨダレを垂らしながら寝ているところを人に目撃されたのであろうか。10回や20回なんてなまやさしいものではない。本当にとんでもないことである。
 それにしても、ディレクターやスタッフの人達がそんな私を毎回見逃してくれていたのは、恐らく武士の情なのであろう。私はそういう温情にずっと甘えていたかと思うと、恥ずかしさのあまりルーラを唱えて温泉にでも逃げてしまいたくなった。しかし次の仕事関係者によって、すでに呪文は封じ込められていたのである。いとあはれ……。
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