痩せない理由はわかっているのに…
illustrated by Mamoru Oshii 30を過ぎてから、私は突然体重が増え始めた。それまであまり体重など気にしたこともなく、どちらかというと痩せぎみであった私が逢う人逢う人にいちいち驚かれるので、ある日恐る恐る体重計に乗ってみた。すると針はみるみる今までの体重計を超え、かろうじて75キロで停止したのである。これをみて仰天した私は、さすがになんらかの対策を講ずる必要性を痛感して関係著書を読破した結果、原因は運動不足ではないか、との見方を強めた。そこで雑誌の通信販売でスポーツ器具を物色していると、サウナスーツというビニールでできたトレーニングウェアまでついて2万円弱、という、大変魅力的な室内自転車を発見した。直感的にこれしかない、と思った私は即座に注文したのである。
 3日後、パトレイバーの打ち上げがあり、各スタッフの人が壇上で挨拶していた。その内容の殆どが当然のことながら、これからのパトレイバーについて、といった非常に前向きな話であり、私の番になったらやはりそのような話をする予定だった。ところがその時、急に例の自転車の話をすることを思いついた。大勢の人の前で自分の決意を発表することが肝要である、とダイエット本に書いてあったのを思い出したからだ。しかし私がその話を始めると、全員ぽかんと口を開けて何が起こったのか、という顔をしている。どうやら完全に場違いだったようだが、目的遂行のため、やむを得ない。
 それから1週間、待ちに待って送られてきた自転車は私の望み通りの品であった。早速組み立て、例のサウナスーツに身を包み、ゆっくりとペダルを漕いでみた。しかし自転車にはスピードメーターと距離計が装備されているので、速いほうがより痩せるに違いないと一方的に考え、私は恐ろしい勢いで漕ぎ始めた。するとみるみる汗が吹き出してくるため、サウナスーツが身体に張り付いて気持ち悪かったが、これで痩せられると思うと一層足に力が入った。そして、だんだん速度も上がって全身汗まみれになりつつも、更にスピードアップを試みようと足に力を入れた瞬間、急にガクッとなって踏み外し、「ゴツ」という鈍い音と共に、思い切りペダルでむこうずねを打った。んががが…と、呻き声をあげながら暫く部屋でのたうちまわったが、それでも5分程して痛みがひくと、私は再び自転車にまたがったのである。物凄い根性だった。もはや執念とも言える。
 そうこうする間に30分が経ち、急いでシャワーを浴びた。なんたる充実感。確実に10キロは痩せたとも思える。筋肉もついたようだ。全身が力強さでみなぎっている。そして風呂を出ると猛烈な喉の渇きを覚え、冷蔵庫から溢れんばかりの力強さでビールを取り出し、あっという間に1本飲んでしまった。だが、まったく足りないのでもう1本飲んだ。けっこういい気持ちになったので、今度は日本酒を飲むことにした。5合飲んだところで少しお腹もすいてきた。インスタントラーメンを作って食べた。足りない。仕方ないので残った汁に御飯を入れて食べた。そして、そのまま寝てしまった…。
 私は気がついた。これが体重の増えた最大の原因だったのだ。これじゃ、いくら運動したって全然意味がない。結局はただの食べ過ぎだったのである。運動はもう止めた。
 −−その後、室内自転車は洋服掛けに利用され、現在はとまと・あき氏の所にある。
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