ついにチャンスは訪れなかった

illustrated by Mamoru Oshii  私は自宅で仕事をしている時、ボーッとしながら無意識に外を眺めていることが多い。すると、しばしば何か飛んでいるのを目撃することがある。飛行機や鳥ではない。じゃあいったい何が飛んでいるというのか…?
 私は今までUFOらしきものを何度となく目撃しているが、今住んでいる所に移ってからいっそう頻繁に見るようになった。頻繁といっても日に何十回も出現するわけではなく、せいぜい週に一度ぐらいのものである。それでも最近は「また飛んでら」程度にしか思わないほど日常的になってしまい、有り難みがないっていったらありゃしない。しかし確かに最初「それ」を発見した時の驚きは並大抵のことではなく、是が非でも写真やビデオに収めたいと思い、私は着々と準備を整えたのである。
 まず、20倍の双眼鏡を大井町の丸井で購入し、次にカメラも望遠レンズ付きのものを近所で購入した。とはいっても、そんな凄いカメラではなく、猿でも写せる簡単なやつである。本当は一眼レフのような高級機が望ましいのだが、私にはこれしか使えないのでやむを得ない。それからビデオカメラも購入し、いつでも写せるようにテープとバッテリーのチェックは入念に行った。そして、UFOの撮影に見事成功した暁にはテレビ等に出演し、「いやあ、偶然カメラがあったから夢中でシャッターを押しましてね」などと言う予定であった。
 だが、多くのUFOの平均的な飛行時間は10秒程度なので、発見してから双眼鏡などをのんびり取り出していたら全然間に合わない。そこで、撮影機材をキーボードのすぐ横にスタンバイしておき、少しでも怪しいものが飛んで来た時には即座に双眼鏡で確認し、もしそれがUFOであればすみやかに撮影できるようにしてみた。また、仕事をしている静止状態から、窓際に双眼鏡とカメラとビデオを持っていくというUFOモードへ移行するまで遅くとも3秒以内に完了する必要があり、そのための特殊な訓練も実施された。勿論このハードな訓練によって、幾度となく足の小指を椅子に激突させ、そのたびにうずくまったことはいまさら言うまでもない。
 しかしせっかくそうして万全の準備をしたのに、UFOはなかなか現れなかった。それでも私がクソ忙しい時や油断している時に限って、フッと出没したりするのでUFOも結構意地が悪いと言える。かといって年中双眼鏡やビデオなど首にぶらさげているのも重くて辛いし、なんだかのぞき魔みたいで考えさせられるものがある。おまけにキーボードの横やら上に巨大な双眼鏡などを常に置いておくのは、見た目にもかなり異様で、はっきり言って物凄くジャマであった。そして、そういう状況を私は日増しになんだかバカバカしく感じていた。
 それから一ヶ月が経過し、結局あれだけ大騒ぎしたにもかかわらず何ひとつ撮影できなかったのである。しかしそれよりも、こんなことに日々膨大なエネルギーを費やして肝心の仕事がどんどん遅れるほうが私にとっては問題であった。もはやUFOぐらいでいちいち驚いていたら仕事にならない。だから今では、別に何が飛んでたっていいや、と思うようにしているのだが…実はけっこうくやしいのである。
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