世界初!洋→和変換アダプター製作記
illustrated by Mamoru Oshii   私はレコーディングでよく観音崎マリンスタジオという所に行く。文字どおり、すぐ目の前が海で抜群の環境にあるスタジオだ。自宅から約1時間で到着できるのも便利だし、スタジオのスタッフの人達も暖かく迎えてくれるので、大変気に入っている。(編注:観音崎マリンスタジオは、現存しません。)
 そうした中で何日間もディレクターやエンジニアなどのスタッフと共同生活をするというのは、友情が芽生える反面(決してヘンな意味ではない)、各個人の生活スタイルを維持することを大変困難としている。例えば、起きる時間が違うとか、食事の趣味が異なるなどといったことだが、そういう人々の中でひときわ異彩を放つディレクターが存在する。彼はなんと、洋式トイレでうんこが出来ないのである。そんなばかな、と思うなかれ、これは真実なのだ。考えてみれば確かにスタジオから宿泊施設のホテルに至るまで和式トイレは一切ないし、いざ便意をもよおしてから間に合う距離に公衆便所はない。仕方がないのでやむなくガマンしている訳だが、事態は深刻化する一方であった。
 私はそんな彼を見かねてエンジニアの人と相談の結果、洋式→和式変換アダプターをプレゼントすることにした。しかし市販品は和式から洋式にするものばかりで、その逆は皆無であることが判明した。そこで、ないのなら作れば良い、という訳で、ダイエーへ部品を買いにエンジニアの人は車を飛ばした。但し本物の便器は大変高価だし携帯には重くて不適当のため、予算は5千円以内、素材には木を使用することが条件になった。しかも仕事の合間をぬって製作せねばならず、私たちにとっては相当の負担であったが、これを成し遂げてこそ初めて真の友情と呼ぶことができるのであろう。
 30分後、揃った部品は、木製の縁台、タライ、スリッパ、太い蛇腹のホースなどであった。そしてそれらの素材を前にディレクター以外のスタッフ全員で緊急ミーティングを行った。問題点は2つあり、いかに安定よく洋式トイレにフィットさせるかということと「大」はともかく「小」をいかに処理するかが最大のポイントであった。しかし、縁台の足2本を取り、媒体となる洋式便器に一端を乗せるという神業的な私のアイデアによって見事解決をみるに至り、また「小」についてはすでにエンジニア氏のこれまた天才的なヒラメキによって、タライとホースでクリアできることが判った。もっとも、その方法についてはとてもここで詳説できない。
  さらに綿密なる打ち合わせの後、密かに製作作業は始まったのだが、鋸や金槌を使用して縁台の加工をしたため凄じい大音量を伴ってしまい、瞬時にディレクター氏にバレることとなった。彼は苦笑しながら「仕事もちゃんとしてくださいね」と言い残し、その場を去って行ったので、これは単にテレているに違いない、と勝手に判断した我々はさらに燃え、再び大音響を発しながら製作は進行したのである。
 そして約1時間後、世界初・洋式→和式変換携帯アダプター「和式くん」は遂に完成したのだ。携帯と呼ぶにはあまりに巨大であったが、とりあえず早速彼を呼び、実際のスタイルで座って頂いた。我々が得意になってその使用方法を説明している間、彼は座ったままホースなどをいじり黙って聞いていたが、その後かなり長い異様な沈黙の末、「こんなので僕がうんこできるか!」と叫んだ。
 我々は大変なショックを受けた。一体何が気に入らないと言うのだろう。そりゃあ確かにうすらでかいし、 かっこ悪いのも認めるが・・・・・・。しかし、まあ見ていて頂きたい。かっこ良くてコンパクトな「和式くん」2号機計画は現在も着々と進行中なのである。
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