めざせ!世界最速ミニ四駆

illustrated by Mamoru Oshii 今年11歳になった甥からミニ四駆を差し出され「憲ちゃん、これ、 どうやったら速くなる?」と毎日のように質問をされる。私が「電池を8本積みなさい」と、めんどうくさそうに答えると、それじゃダメ だ、と言う。本当は色々詳しく教えたいところだが、なにより私自身がミニ四駆にハマりそうなので、あまり深入りしないようにしている のである。
 なにしろ私はこの手のおもちゃのスピードアップを図ることについては過去においてさんざん研究しており、そのスピードへの飽くなき追求はなんとHOゲージの鉄道模型にまで及んだものだ。本来鉄道模型とはリアリズムの追求であり、決してスピードなどを競うものではない。それなのに、運転台もない1台のモハ103が全開でコーナーを抜ける姿を見て興奮する私は、ハッキリ言って少しおかしかったと思う。
 もちろん初めのうちは大人しくスケール速度に近い運転をして満足していた。しかし、スピードを上げるとカーブでひっくり返ってしまうことに不満を感じ、そのたびにバンク角をきつくした結果、レイアウトはほとんどインディのオーバルコース状態となった。また、クハとかサハのようなモーターの付いていない車両は、正に足手まといとばかりにレイアウト上から姿を消し、モハのみが残るといった異常事態に事は発展した。さらにトルクは不要と考え、2つ程あったモーターを1つにし、スリップ防止用の重りを外して車体の軽量化を図り、ボディも重心を下げるため取り払ってしまった。こうなると元が何の車両であったか全く判らない骸骨のような物体となり、それがもの凄いスピードでレール上を疾走する姿は、とても鉄道模型とは呼べないほど壮絶な光景であった。
 しかし、それでも飽き足らなくなった私はついに自作の道へと進んだ。だいたい、コントローラーをオフると本物の電車は惰力で走るのに、当時の鉄道模型はストンと糸が切れたように止ってしまうことも気に入らなかった。そこで何年間にわたり、車軸そのものをモーターにしてしまうとか、モーターに巨大なフライホイールを付けたりという失敗を重ね、ついに飛行機のようなプロペラをつけるといった暴挙に出るに至った。むろん、モーターの数を変えたり、モーターのマウント部を空気バネにしたりと数々の涙ぐましい試行錯誤があったことは言うまでもないが、これはもう決定的に速かったので、世界最速だ!向かうところ敵なし!と大満足していた。
 だが、・・・・・・考えてみれば、敵などいなかったのだ。鉄道模型の競技会がある訳もない。要するに、いくら速くても誰も誉めてはくれないのである。友人に自慢をすれば「これ、電車?」と言われる始末であった。これでは鼻で笛を吹かせたら世界一、というのと何等変わりはない。ああ、私は何を作っていたのか。この情熱を傾けた分、それこそ勉強でもしていれば東工大にだって合格していたかもしれないのに・・・・・・。
「憲ちゃん、どうやったら速くなる?」。だから、電池を8本・・・・・・いや、まてよ。いっそ私の燃え尽きることのできなかった怒濤の青春時代を、あえてここに呼び戻してみようか。義姉の話では、私くらいの年齢のマニアもごくまれにいると言うじゃないか。よーし、甥よ、今度の大会は私がお父さんのフリをしてついて行くからな。電池なんかもはや、じゅ、16本だあ!
(大会はレギュレーションが厳しく、電池は2本までだそうである・・・・・・ちぇっ)
▲HOME▲