〜前書き〜
99年5月20日〜6月1日(だったかな)まで、
ヤマハのライダーホームページ用取材ということで、
ヨーロッパに行かせていただいた。
時間が経って、ずいぶん頭が整理されような気がしないでもないので、
その時の顛末記を書いてみようと思う。
すげー長くなりそうなので、
不定期にちょっとずつ、チクチクチクチクと更新していくことにします。
タイトルは十返舎一九の不朽の名作、「東海道中膝栗毛」をもじりました。
読んだことないけど。
しかし膝栗毛? 膝から、栗毛……?
調べてみたら、膝からぼうぼう毛が生えているコトではなかった。
「膝を栗毛の馬の代用とすること」、転じて、「徒歩で旅行すること」だって。
やっべー。いきなり飛行機乗っちゃったよ……。
■欧州道中膝栗毛 第1回 〜プロローグ〜

成田を出発したエアフランス275便は、間もなく日本海を横断し、
ユーラシア大陸上空に差しかかろうとしていた。
北朝鮮人民民主主義共和国からのミサイル攻撃に備えて体を固くしていた僕は、
しかし緊張を解くわけにはいかなかった。
今度はミグ25フォックスバット超音速迎撃戦闘機の急襲に備えなければならない。
ボーイング747-400の右列、通路側に僕のシートは用意されていた。
隣に座ったのは老夫婦だ。団体旅行で、パリその他に行くらしい。
しかしながらこの老夫婦、会話がほとんどない。
窓際に座った奥さんがたまに外の風景を指さしながらご主人に声をかけるが、ご主人は「む」とか「うう」とか言うだけである。
では彼は何をしているのか。始終メモを取っているのである。
それは離陸時から始まった。
ジャンボジェットがふわりと空に舞うと、福島幸次郎さん(仮名)は腕時計を眺め、
おもむろにノートを取り出した。
表紙には「パリ旅行記 福島幸次郎」と書いてある。
最初のページの1行目に、福島さんはこう記入した。
「12:22 日本離陸」
ノートを閉じる。満足げだ。陸地が途切れ、日本海に出ると、再びノートを開く。
「12:50 日本通過」
日本海を窓の下に見つけた奥さんが、「ホラ」と指さすと、
「む」
腕時計を眺め、再びメモだ。
「12:51 日本海上空」
この調子では、パリに着くまでの間に辞書でも完成するかもしれない。いや、ぜひ完成してほしい。
頑張れ福島さん! あなたならできる! 
何時何分にドリンクが出たか、そのドリンクはどこ製の何というものか、
それを持ってきてくれたのは何という名前のフライトアテンダントか、
その人はどんな人生を歩んでこのAF275便に乗っているのか……。
メモを取るべきことはまだまだたくさんある。真のジャーナリスト魂を見せてください、福島さん!!!
心の中でそう応援しながら、僕はこの機内にたどり着くまでのバタバタを思い出していた──。

以下次号。おしまいったら、おしまい!!

編註; 後に機中で配られた入国審査書の職業欄により、福島さんはジャーナリストではなかったことが判明。
福島さん、ていねいなブロック体で「RETIRED」と記入していた。そっか、リタイヤしちゃってたか……。

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