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         もらいもの A

 100&10000番 chaponさまのリクエスト   「家族ぐるみのヒムアリ」が読みたいです!甘甘なやつ! 



 クラシックコンサートが行われる会場に、火村に悪態をつかれながら、開演ギリギリで飛び込んだ。
 高い所にある入口と、大ホールまでの階段を一気に駆け上がったせいで、膝が笑っている。
「あちぃ……」
 冬だというのに、ホールの暖房のせいもあって一気に汗が噴き出した首すじを手で扇ぐ。
「お前のせいだぞ……」
 そう言う火村の息も、まだ上がっている。日頃、運動不足だのなんだのと私をからかっているが、所詮は同い年なのだ。
 ヘン、ざまあみろ。
 席に座って、まだ息も整わないうちに客席の明かりが落ち、ほっと安堵の息を吐く。もう少しで、休憩時間まで閉め出しを食うところだった。
 ギリギリセーフ。原因は私にある。
 朝には完成予定だったエッセイに昼過ぎまでてこずり、ほんの少し仮眠を取るつもりだったのだが……
 火村からの電話で叩き起こされ、部屋の暗さにビックリして一気に覚醒したとき、約束の時間に余裕でセットしたはずの目覚ましは、見事に止められていたのだった。





 このコンサートのチケットは、ついこの前母親が来て、火村と一緒に行けと2枚置いていったものだ。
 なんでも、近所の息子さんが出演するので義理買いさせられたのだが、一緒に行くはずだった仲間の都合が悪くなったのだとか。
 後で感想を求められたらどうするつもりなのだろうか。まぁ、私の知ったことではないが。
 この間、一緒に12月恒例のゴールドベルクを聴きに行ったばかりだったのでどうかと思ったが、火村は案外あっさりとOKしてくれた。

 しかし……
 今更だが、曲が始まってからこっそりと、入口で渡されたプログラムを確認する。2、3の小曲は知っているが、メインとなるであろう組曲は私の知らないものだ。
 少々マズイ気がしないでもなかった。私はクラシックもロックも歌謡曲もそこそこ好きだが、どれもあんまり造詣が深くない。早い話が、あんまり曲をたくさんは知らないのだ。今回は予習する暇もなかったし……
 最初の方の曲は誰もが知っているポピュラーなものだったのでそれなりに楽しんで聴けたが、進むにつれだんだんと、さっき満足させられなかった睡魔に再び支配されるのをどうすることもできなかった。

 どうしよう。眠い――

 これが、いつも行くゴールドベルクだったら、絶対に最後まで眠ったりしない自信があるのだが。
 だいたいクラシックというものは、知ってる曲、好きな曲ならば気持ちよく聴けるが、全然知らない曲となると、心地よく聴いているうちに、途中で長過ぎて眠くなってくるものである。私だけではない、と思いたい…… 
 それに、クライマックスでどんなにホールを揺るがす大音響になっても、身体に共鳴はするが、耳には優しく響き――人によって個人差があるのだろうが――不思議とウルサイとは感じない。
 子守り歌には最適、なのである。
 どうせタダ券だし、ましてや私は締め切り明けなのだ。眠くなって当然というものではないか! ……と心の中で力説して、私は重力に従って落ちてくる瞼と、火村の方に傾いて行く身体に逆らうことを放棄した。
 コートにまで染み付いたキャメルの匂いが、なんとも言えない安心感を誘う。
 もうちょっと火村の肩の位置が高いと枕にもってこいなのだが、いかんせん身長がそれほど違わないので、まぁこれで我慢するとしよう。
 最後の記憶は、ピアノソロが入るメインの曲の為にステージに出てきたソリストの、鮮やかな青いドレスと、編み込んだ髪に刺した白い花。
「……きれーな ひと やぁ …………
 僅かに残る意識でぼんやりとそう思った。
 ピアニストさん、オーケストラのみなさん、ごめんなさい。子守り歌にされるのは不本意でしょうがでもこれもみんな演そうがきれいやからなんですどうかかんにん して く だ さ い で は 、 お や す み な さ  い …………







 拍手が手拍子に変わったことで目が覚めた。再びステージに戻った指揮者とコンサートマスターとソリストに花束が渡される。
「あ、あれえ?」
 もうアンコールなんか!?
 どうやら、途中にあったはずの休憩時間もぶっちぎり、とうとうラストまで爆睡し続けていたらしい。
「こら、キョロキョロするな」
 うう、怒られた…… そろっと隣を伺うと、解放された肩をこっそりと動かしながら、横目で睨んでいる火村と目が合って首を竦めた。
 へらっと笑って姿勢を正し、アンコールの曲くらいは心を込めて聴かせていただくことにする。
 曲に紛れて聞こえた、呆れたような火村の「バカ……」という呟きが、耳に痛かった。



 最後に今までのお詫びも兼ねて盛大な拍手を送り、さて帰ろうと腰を上げようとした途端に、なぜか後ろの席の客からポカリと頭を叩かれた。
「な、なにすんねん」
「なにするやあらへんやろっ!」
 こ、この声は……

 確認するまでもない。
 丸めたプログラムを握り締めこちらを睨んでいるのは、珍しくもきれいにめかしこんだおかんだった―――



火村ぁ、交代してくれ〜  


無理に2つに分けたら、前半短いです。ありゃりゃ (+_+)

せっかくのコンサートですが、私は音楽を描写する筆力を持ち合わせておりません……(T_T)
情けない〜〜 演奏する方がいい……