another face 〜電網の恋人〜

第十一話・疑惑

 

 

じりりりりりりん…カチッ

 

「んっ朝…。もうちょっと……………はっ!」

 

夏休みだから、もう少し寝ていようと思った私は、今日が旅行の日である事を思い出して飛び起きた。

 

「いっけない!遅刻しちゃう…みちる先生起きて下さい!」

 

隣でまだ寝ているみちる先生を起こすと私は急いで洗面所に向かった。
鏡に映る私の髪は、今朝も寝癖だらけ…。

はぁ…気が重いなぁ…。
……。
…よし!

私は意を決してブラシを取ると、髪を梳き始めた。

 

…プツッ!

 

「イタッ!うぅぅ痛いよーなんでこんなに枝毛が多いの?」

「ふぁぁ…おはよう真奈美ちゃん…今朝も大変そうね。」

 

目に涙を浮べて、痛みに耐えながら寝癖を取る私に、同じく寝癖で髪があちこち向いているみちる先生が、大アクビをしながら朝の挨拶をしてくれた。

 

「おはようござイッ!…ますぅ…クスン…。」

「……自分でやるのが辛いなら私がパッパッとやってあげようか…時間も無いし…。」

 

確かに痛がりながらやっていたら遅刻しちゃうかもしれないなぁ。
いつまでも洗面所にいたら先生にも悪いし…。

 

「うぅぅ…お願いします〜。でも…あまり痛くしないで下さいね…。」

「おまかせー、五分でやってあげるから我慢してね。」

「ひぐっ!!」

 

私から笑顔でブラシを受け取った先生は、痛がる私を気にせずに、がしがしと髪を梳き始めた。

すっ凄く痛いよー。髪の毛が全部抜けちゃう…。

 

「用意は昨日のうちにしてあるから、あとはお昼のお弁当を作るだけね…でも家の台所狭いんだけど…。」

「ダッ!…いじょうぶだとオッ!…もいまスッ!」

 

涙目で返事をする私に、笑顔のみちる先生は楽しそうに髪を梳き続ける。

うぅぅ…痛いよ〜。

 

「まあ、手間がかからないで美味しいものを作ればいいんだし、一緒に作りましょ。」

「はイッ!…たい。」

 

今、私は、みちる先生の家に泊めてもらっている。
帰国しようと思っても泊まるところが無くて困っていた時、丁度みちる先生がお父様の研究資料を受け取る為にミャンマーを訪れていたのが幸運だった。
みちる先生は、私一人で帰国する事を反対していたお父さん達に、「生前父がお世話になったのだから、帰国中は私が真奈美ちゃんの面倒を見ます。」と言って、帰国を許してもらう様、説得してくれたのだった。

 

「えぇーと、忘れ物は…あっ!」

 

ふと鏡の方を見た私は、鏡に映る私が、ペンダントを着けていない事に気付いた。

はぁ…駄目だな。
うっかり、新しい親友を忘れるところだった…。

 

「おはようチャムナ、レナンさん。」

 

私の挨拶に、ペンダントが光の瞬きで答える。
あの事件以来、チャムナは私の守護精霊になった。
だけど私は、そういう関係が嫌だったから、ある日チャムナを呼び出して「お友達になろう」って言って見ると、予想通りチャムナは驚いた顔をした後、すぐに笑顔で「ウン、わかった。」と言ってくれたのだった。
ちなみに普段チャムナは『ミャンマーで知り合ったお友達』という事にしてある。

 

「真奈美ちゃん、忘れ物はない?」

「はい、大丈夫です。」

「それじゃ、VACANCEにしゅぱーつ!」

 

 

「お待たせしました。あれ?…翔さんだけですか?」

 

待ち合わせ場所のst.エルシア学園校門前に着くと、先に来ていた翔さんが、車に凭(もた)れ掛りながら地図を眺めていた。
私が挨拶をすると、顔を上げて微笑みながら返事をしてくれる。

 

「いや…摩耶が今コンビニで買い物中だよ。あっ…おはようございます。歓迎会以来ですね先生。」

「プライベートな時間なんですから『先生』は止めて下さい。熱海までドライバー同士頑張りましょうね。」

 

そう言って、翔さんとみちる先生が、お互いにぺこぺこと頭を下げ合う。
l'omeletteでアルバイトしていた頃にみんなで意見を出し合って決めた行き先が熱海だった。

海も近くにあるから、とっても楽しみだなぁ。

 

「これは失礼しました。こちらこそよろしくお願いします…天都さん。」

「ふふっ…みちるでいいですよ。」

「コラ!私という素敵な婚約者がありながら、今度はみちるに手を出すか!」

みちる先生と翔さんが楽しそうに談笑していると、突然、翔さんの後ろから摩耶姉さんが出てきて、翔さんの首を絞めた。

「キャ…。」

「…いつも思うんだが、お前は一体何処から出てくるんだ?」

 

首から摩耶姉さんの手を外すと、翔さんは苦笑しながら訊く。

…私にも何処から出て来たのか分からなかったな…。

 

「もう…ビックリさせないでよ摩耶。」

「ゴメン、でも翔は何で驚かないのよ。」

「お前の神出鬼没はいつもの事だからな…免疫が出来た。」

 

みちる先生と摩耶姉さんは気が合うらしく、私の歓迎会以来、昔からの親友かと思えるくらい仲が良い。摩耶姉さんの登場にも、みちる先生も最初は驚いていたけれど、すぐに立ち直って笑い合っている。

私なんて、まだ心臓がドキドキしてるのに…

 

「おはよう真奈美ちゃん。そう言えば真奈美ちゃんってどっちの車に乗るんだっけ?」

「まだ決まってないけど、多分、俺達の方になると思う。」

「ふーん、じゃあ道中よろしくね。」

 

そう言うと、摩耶姉さんは私の頭をくしゃくしゃ撫でた。

 

 

 

「おはようございます。」

 

それからしばらく翔さん達と話していると、両手で旅行鞄を持った乃絵美ちゃんが来た。
今日は日差しが強いから、白くて鍔の広い帽子を被っている。

…彼は、一緒じゃないのかな?

 

「おはよう乃絵美ちゃん…ところで…。」

「うふふ…お兄ちゃんなら菜織ちゃんを呼びに行ったよ。」

「そっそうなんだ…。」

 

彼の事を訊こうとした私に、乃絵美ちゃんが笑顔を浮べながら答える。
何だか、私の考えが見透かされている様で恥ずかしかった。

でも、菜織ちゃんが羨ましいなぁ…迎えに来てもらえて…。
……
私も今朝、あのままお寝坊したら迎えに来てもらえたかな?

そんな事を考えながら、私は菜織ちゃんの家が在る方に視線を向けた。

 

 

 

「おはよんよ〜〜〜ん☆」

「おいミャーコ、『おはようございます』だろ!みちる先生もいるんだぜ。」

 

元気な挨拶と共に、今度はミャーコちゃんとサエちゃんが現われた。
明るく笑顔のミャーコちゃんに、いつも不機嫌そうなサエちゃん…正反対な二人だけど、実はとても仲が良いのを私は知っている。

菜織ちゃんと私の、守り守られる関係とは違って、ミャーコちゃんとサエちゃんは、お互いに支え合っているんだよね。
羨ましいな…
私もいつか…菜織ちゃんの力になれるような人になりたい…

 

「いいのよサエちゃん、いつも言ってるでしょ。プライベートの時は『お友達』でいいって。」

「ニャハハ☆さっすがみちるセンセー話が分かるぅー。」

 

ニッコリと微笑むみちる先生に、ミャーコちゃんがピョンピョン飛び跳ねて喜んだ。
プライベートと仕事をキッチリ分ける性格は、みちる先生の良いところだと思う。

 

「…そう言えば菜織達の姿が見えねえな。二人揃って遅刻か?」

「うん…今、カレが菜織ちゃんを呼びに行ってるんだって。」

「ニャハ☆愛のmorning callに行ってるのねぇん。」

「いつからアイツらそんな関係になったんだよ!つまんねー事言ってんじゃねー!」

「ふみゅう…相変わらずサエって怒りっぽい。calcium足りてないんじゃない?」

 

そんな事を言い合いながら、ミャーコちゃん達がじゃれ合う。

対等な立場でいられるなんて、何だか羨ましいな…

 

 

 

それからしばらくして、集合時間の10:00にはキチンとみんな集まった。(菜織ちゃんはカレと口喧嘩をしつつ、ギリギリに走って来たけど…)

 

「それでは出発しましょう。えーと…車割は話し合いで良いわね。」

 

車は、翔さんとみちる先生が運転するレンタカーが二台(翔さんと摩耶さんで借りてきたらしい)。
いろいろ話し合ったり、ジャンケンしたりして組み合わせを決めた。

 

 

 

「じゃあ、まずは高速に乗ってっと…摩耶ナビ頼むな。」

「りょーかい。」

 

助手席に座る摩耶さんにそう言うと、翔さんは車を発進させた。

 

「翔さんお願いしまーす。」

「翔お兄ちゃんお願いします。」

「翔さん…どうか今日は安全運転でお願いしますね。」

「あらあら、ハーレム状態よ。良かったわねぇ。」

 

私と菜織ちゃんと乃絵美ちゃんの声に、翔さんを肘で突つきながら、摩耶さんが意地悪そうに笑う。

 

「お前がいなきゃ最高だったのにな…。」

 

でも翔さんは、そんな摩耶さんを一瞥すると、仕返しとばかりにそう呟いた。

 

「ぬわんですって!そんなバチ当たりな事を言うのは、この口か!この口か!」

「あうあい!あうあい!」

「キャッ!」

 

怒った摩耶姉さんが翔さんの口を横に広げると、車が横に揺れ出した。隣に座っている乃絵美ちゃんが私の腕を掴む。

こっ恐いよー。
だから、「安全運転で」って言ったのに〜…。

だけど、後ろの私達とは対照的に、前の二人はなんだか楽しそうだった。

 

 

 

「「「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」」

 

熱海まで残り3分の1と言うところにあった眺めの良い公園で、私達はお弁当を広げた。

…私のお弁当食べてくれるかな?

 

「お兄ちゃん美味しい?」

「もぐもぐ…美味い!」

「ふふっ、良かった。はい、お茶だよ。」

 

カレのお弁当を探していた私が、カレと乃絵美ちゃんの声に、顔を上げると…

 

「サンキュっ…ゴクゴク…もぐもぐ…。」

「もう…そんなに急いで食べなくても…。」

 

カレは、美味しそうに乃絵美ちゃんのお弁当を頬張っていた。

カレの分は、乃絵美ちゃんが作ってたんだぁ…。
そうだよね…学校でも、いつもそうだったし…。
……。
カレのお弁当どうしよう…。

 

「あっコラ!ミャーコ、私のエビフライ返しなさい!」

「もう菜織ちゃんのケチ…じゃあ私のパセリあげるから…。」

「アンタねえ…せめてその卵焼きを渡しなさいよ。」

「ヤダよーん☆はむはむはむ……。」

 

菜織ちゃんとミャーコちゃんが、おかずを取り合う…。

 

「何やってんだか…あぁー!」

「あら?意外に美味しいわね。もう一個貰うわね。」

「ちょっちょっと、摩耶さ…あぁぁ…アタイの力作が…せっかく食べてもらおうと思ってたのに…。」

 

摩耶姉さんが、サエちゃん力作のだし巻き卵を食べてしまう…。

 

「ハニャア☆サエぇ今何て言ったの?」

「えっ!なっなんでもねえ!」

 

サエちゃんの言葉を聞きつけたミャーコちゃんが、囃し立てる。

 

「サエちゃーん。あなたなかなかスジがいいわよ。ねえっ卒業したらウチに来ない?一流のコックに仕立て上げてあげるわよ。」

「…お断りします!」

 

摩耶姉さんのお誘いに、サエちゃんが不機嫌そうな表情のまま答える。

 

「摩耶…気に入ったのは解るが、あんまりからかうなよ…嫌われるぞ…。」

「うーん、それはいやだなぁ」

「サエちゃんって頑固なところがあるから、一度嫌われたらもう駄目かもしれないわね。」

 

そんな光景を翔さんとみちる先生が、楽しそうに眺めてる。

はぁ…。
みんな楽しそう…。

 

「どうしたの真奈美ちゃん、彼氏にお弁当食べてもらうんじゃなかったの?」

「みちる先生…でも…。」

 

そう言って私が、乃絵美ちゃんからお茶を受け取る彼の方を見ると…

 

「大丈夫よ、男の子だものそれくらい入るわよ。それに、女の子が愛情込めて作った手作り弁当を食べれない男は男じゃないわ。」

 

みちる先生は、そう言いながら私の肩をポンッと叩いて、彼の方へと私の背中を押し出した。

…渡して…みようかな。

 

「あっあのね…お弁当作ってみたんだけど…食べてくれるかな?」

「えっ俺に?」

 

勇気を振り絞りながら私が言うと、カレは手元にあるお弁当と乃絵美ちゃんの顔を見た。
……。
暫らく、気まずい空気が流れる。

 

「アハハ…や…やっぱり、お弁当…二つも食べれないよね。」

 

視線を落としながらそう言って、私が、お弁当をしまおうとすると…

 

「お兄ちゃん良かったね。私のだけじゃ、やっぱり物足りなかったでしょ?」

 

戸惑う彼の横から、気を利かせた乃絵美ちゃんがそう言ってくれた。
すると、彼は一瞬ハッとした後、お弁当を受け取って、早速蓋を開ける。

……。

中には、私が一生懸命作ったお弁当が詰まっている。
見た目も味も…乃絵美ちゃんのには及ばないだろうけど…。
でも、これが今の私に出来る精一杯だった。

…嫌いなものは入れてない…はず。
六年前と変わって無ければ…。

 

「それじゃあ、いただきます。…もぐもぐもぐ…。」

「……どうかな?…おいしい?」

「うん、おいしいよ。」

 

自分でも知らないうちに両手を握り締めて、彼の顔を見つめていた私は、彼の言葉と優しい笑顔にキュンと胸が熱くなった。

 

「こっ今度は、もっともっと、美味しいお弁当作るからね」

「期待してるよ」

 

そう言う彼の肩越しに、ウィンクをしているみちる先生が見えた。

先生…有り難うございます。

 

 

 

それからしばらく食休みをした後、一時間ほどで私達は目的地である熱海に着いた。

 

「わぁ…海だぁ。ねえねえ菜織ちゃん海だよ海。」

「もう真奈美、はしゃぎすぎよ。」

 

砂浜を駆け回る私を見て、菜織ちゃんが呆れた声を出す。
そう言われて、慌てて足を止めた私がカレの顔を窺うと、カレは笑顔で私に手を振ってくれた。

 

「いいじゃないか。真奈美ちゃんにとってはみんなで海に行くなんて、久しぶりの事なんだから。」

「うん!明日が楽しみだなあ。」

 

良かった…変に思われなかったみたい。
でも、さっきのは、ちょっとはしゃぎ過ぎてたかな。
…恥ずかしい。

ミャンマーでもヤンゴン辺りは海に面しているから、海を見る事はあったんだけど、やっぱり、みんなと一緒だから、一人で見る時の何倍も楽しかった。
予定では、明日の朝から海で遊ぶ事になっている。

 

「ねえ、菜織ちゃんって、泳ぐの速かったよね?」

「速いって程じゃないけど…まぁ、真奈美よりは泳げるわね。」

「あー。じゃあ、明日競争しよ。負けないんだから。」

 

カレや菜織ちゃんと一緒に波打ち際まで行って、海水に素足をつけながら明日の事を話していると…

 

「摩耶さん!勝負です!」

 

と、かなり機嫌が悪そうなサエちゃんの声が後ろでした。
振り向くと、ハンドボールを持ったサエちゃんが摩耶姉さんに指を突きつけて勝負を挑んでいる。

 

「何で?あっそうか!さっきの事まだ根に持ってるんだ。」

「そっそんなコトは…とにかく勝負です。」

「まあいいいわ、やっと狭い車から開放されて、体を動かしたかったところだし。」

 

そう言うと2人は砂浜の上に線を書いたりして、即席のゴールを作った。

サエちゃん、摩耶姉さんに力作のだし巻き卵食べられちゃった事、まだ怒ってるのかな?

 

「先に5点入れた方の勝ちです。」

「いいわ。」

 

そう言うと摩耶姉さんは余裕の笑みを浮べる。

何だか、凄く自身が有りそう…。
摩耶姉さんって、スポーツも得意なのかな?
だとしたら、凄いなぁ…。
美人で、頭も運動神経も良いなんて、羨ましい…

 

「でも、ただやるだけじゃ面白くないから、賭けをしましょ。」

「賭け?」

「そう、賭け。私が負けたら一週間ウチの店で食べ放題ね。私が勝ったら、う〜ん…一日私の言う事を聞くってのは?」

 

摩耶姉さんが、サエちゃんに指を突きつけながらそう言うと、摩耶姉さんの言葉に驚くカレを無視して、サエちゃんも余裕そうに微笑みながら承諾した。

 

「まっ摩耶さん!そんな約束していいんですか!?」

「アタイはそれでいいぜ。それじゃアタイから…。」

「……」

 

…あれ?

ハラハラ(ミャーコちゃんはワクワク)しながら見守る私達の中で、何故か翔さんだけが不敵に微笑んでいる。

何でかな?
…まさか、摩耶姉さんって、本当に!?

 

 

「はい、私の勝ちね。さてと何してもらおうかなぁ?」

「そんな…アタイが負けるなんて…。」

 

勝負は5−1で摩耶姉さんの圧勝だった。
最初の一本目は摩耶姉さんは動こうともしなかったけど、二本目からはサエちゃんのシュートを全部止めてしまった。
そして(私には手品の様にしか見えなかったんだけど)フェイントを掛けたシュートでサエちゃんの裏をかいて、連続で5本決めてしまった。

 

「サエちゃん…大丈夫…じゃないみたいね。」

「真奈美、そっとしておいた方がいいわよ。」

「サエは、井戸の中にいるケロヨンだったのねえん。」

「サエちゃん…。」

 

みんなが心配そうに見守る中、サエちゃんは暫らく呆然としていた。

 

 

 

「ほらほら!お兄ちゃんらしく、ぐいーっといきなさい!ぐいーっと!」

「まっ…摩耶さん、未成年にアルコールは…」

「むー!私の酒が飲めないって言うの!じゃあ、おしおきね!」

「そっそんなぁ…みちる先生も何とか言って…」

「あらあら、じゃあ私からは、英文訳をさんじゅ…」

「…飲みます」

 

諦め顔で、ジョッキを持ったカレが、その中身を一気に煽る。

だ…大丈夫なのかな?

菜織ちゃんによると、カレは『生け贄に最適』なんだそうだ。
既に、五杯の中ジョッキを開けているのに、全然酔ってない様に見える。

アハハ…何で、こうなっちゃったんだろ?

元々、夕食後に明日の事を話していたのだが、何時の間にか酒宴へと縺れ込んでしまい、この有り様になっているのだった。

 

「…ねぇ、菜織ちゃん?本当に大丈夫なのかな?」

「ん?へーき、へーき。それより真奈美ぃ?アイツとはどうなのぉ?」

 

小声で隣に座っている菜織ちゃんに話し掛けると、菜織ちゃんは手をひらひらさせて答えた後、私にしな垂れかかり、ほっぺたを突付きながら、そう訊いて来た。

アハハ…
菜織ちゃん、酔ってる。

 

「アハハ…元気だよ。」

「そうかぁ、元気なんだぁ。」

 

私に答えになってない答えに、菜織ちゃんがうんうんと満足そうに頷く。
やっぱり、酔っているらしい。

 

「菜織ちゃんは…」

「わぁぁぁん!聞いてよ真奈美ぃ!アイツったら酷いんだよ!六年間も、私のキチョーな青春を費やして面倒見たのに、この頃冷たいのー!」

「アハハ…そうなんだ…。」

 

そのまま、私に愚痴を零し続ける菜織ちゃんの面倒を見ていると…

 

『マナミ』

 

チャムナ?

不意にチャムナに呼び掛けられた。
勿論他の人には聞こえていない。

 

「ちょ…ちょっと外の空気吸って来るね。」

「あっ!真奈美ぃ、ついでにきつねうどん買って来てねぇ〜。」

「ミャーコちゃんは、l’omelette特製ジャンボパフェ!」

「アタイは、玄米茶セット。」

「アハハ…あったら、買ってくるよ。」

 

売ってる可能性が少ない物ばかりの注文を聞くと、私は浜辺に出た。

 

「どうしたのチャムナ?」

『…なんだかおかしい…。』

 

私の前に、人差し指くらいのサイズでチャムナが、ふわふわと浮いて現われる。
この方が、力の消費も少なく、私の顔を見て話す事が出来るので、良いらしい。

 

「おかしい?」

『マナミへの恋人の絆が弱くなってる。』

「えっ!?そんな…。」

 

チャムナの言葉に、一瞬耳を疑う。

私の気持ちは変わってない…はず。
じゃあ、カレの…。

 

『でもそれだけなら良くある事…問題が弱くなった分、強くなった絆の方。』

「カレの心が私以外の人に傾いてきているって事?」

『そう』

 

やはり、そうらしい。

遠距離恋愛って、駄目なのかな?
それに、みんな可愛いもんね。
……やっぱり、嫌!カレは私の恋人なんだから!

私に胸に、だんだん嫉妬心と独占欲が広がっていく。

 

「いったい誰に……まさか菜織ちゃん!?」

『違う…もっと近くにいる娘…。』

「……まさか!?でも…そんな事って……。」

 

憶測の域を出ないとはいえ、その事は、私に嫉妬や独占欲を吹き飛ばすほどに衝撃を与えた。

何かの間違い…だよね?

 

「……まさか!?でも…そんな事って……。」

 

 

To Be Continued...

 

 

 

第十二話予告

 

「ミャーコ…。」

いつもアタイをからかう賑やかなミャーコ

「……サエ…横に座っていい?」

いつも私に付合ってくれるクールなサエ

「カラ元気でもいいから出しなさい…みんな心配してるわよ…特に彼女は…。」

初めて、互いの気持ちを語り合う二人

 

そしてその夜、花火の明かりに照らし出された光景は…

 

次回『another face 〜電網の恋人〜』

第十二話・判明

感想を書く/目次へ