another face 〜電網の恋人〜

第十二話・判明

 

 

「海ー!」

「泳ぐぞー!」

 

旅行二日目、待ちに待った海水浴が始まった。
着替えの終わったヤツから、次々に旅館の前に広がる海へと飛び出して行く。
アタイもボードを抱えて、砂浜へ続く階段を降りていった。

 

「ふーん…相変わらずサエって実用性重視なんだね。旅行の時ぐらいもっと可愛い水着着れば良いのに…。」

「可愛くなくて悪かったな…。」

 

聞き慣れた声に、アタイは振り返らずに答える。

 

アタイは『泳ぎ』に来たんだから、いいじゃねーか…

 

「悪くは無いけどさぁ…そんなんじゃ、カレに振向いてもらえないよぉ☆」

「なっ!?何でアイツの名前が出てくるんだよ!」

 

後ろからの言葉に、自分でも不思議なくらい焦りながら振り返ると、左腕に通した浮き輪をくるくる回しつつ、意地の悪い視線をアタイに向けるミャーコがいた。
その口が「してやったり」と言うふうにニヤーっと釣り上がる。
その時やっとアタイは、ミャーコに鎌をかけられたのに気付いた。

 

「ホラ☆やーっぱりサエってカレの事が…。」

「ミャーコ!コラ待て!忘れさせてやるー!」

「待たないよーん☆キャーみちるセンセー、サエちゃんが苛めるんですぅ☆」

 

ミャーコを追っかけながら先に行ってる菜織達のところまで行く。

 

…このごろミャーコにいい様に言われっぱなしだな…なんか頭にくる。

 

「もう遅いぞ!ほら早く泳ごう。」

「ニャハハ☆いっちばーんっと。」

 

「泳ごう」と言いつつ、昨日と同じ格好の摩耶さんの言葉に、ミャーコがそのままの勢いで海へと突っ込んで行く。
相変わらず、勢いだけで生きてるヤツだ。

 

「あっミャーコちゃん準備体操しないと…。」

「そうよミャーコちゃん。じゃないと溺れちゃうわよ。」

「ふみぃ…やらなくても大丈夫だと思うけどな…じゃあラジオたいそーだいいちー☆…。」

 

乃絵美とみちる先生に注意されたミャーコは、勢いよく振り返り、駆け足で戻って来ると、周りの注目を集めるくらい大きな声で、ラジオ体操を始めた。
少し…いや、かなり周りの視線が痛い。

 

…ちぃとは、付き合わされる方の身にもなりやがれ…。

 

「「「いち・にい・さん・しー!ごー・ろく・しち・はち!!」」」

 

だけど、みんな(特に真奈美)は、心底楽しそうに体を動かしていた。

 

 

「それじゃあみんな行ってらっしゃーい。お姉さん達は日光浴してるから。」

「くれぐれも危ない事するなよ。みんなの事頼んだぞ。」

「分かってますよ翔兄。任して下さい。」

 

浜辺に立てたパラソルの下でパタパタと手を振る三人の自称『保護者』が、アイツにアタイ達の面倒を頼む。
まあ、建前みたいなものなんだろうけど…

 

「お兄ちゃん行ってらっしゃい。」

「ん?じゃあ、後でな。」

 

三人と一緒にパラソルの下でパーカーを羽織ったまま座っている乃絵美が、笑顔でアイツに手を振ると、アイツは乃絵美の髪をくしゃっと一撫でして、菜織達と一緒に歩いていった。

 

「なんだ、乃絵美は来ないのか?」

「うん…ちょっと摩耶お姉ちゃんとお話したい事があって、少ししたら行くよ。サエちゃん。」

 

そんなアイツを横目で見送りながらアタイが訊くと、乃絵美は、みちる先生と談笑している摩耶さんの方を見ながらそう答えた。

 

「そうか…じゃあ待ってるからな乃絵美。」

「うん、行ってらっしゃい。」

 

 

「菜織ちゃーん待ってよー。」

 

午後、アイツ達とは別に、向こうの島(片道で大体10q)までの遠泳に挑戦していたアタイの後ろから真奈美が声を掛けてきた。

 

「まぁなぁみぃー!どこ行くのー?!サエについてくなんて無謀な事止めなさーい。」

「へっ?菜織ちゃん。」

 

菜織の声が浜辺の方から聞こえる。
どうやらアタイを菜織のヤツと間違えていたみたいだ。
仕方なくアタイは、その場で立ち泳ぎに切り替えて、真奈美の方に振り向く。

 

「これ以上は真奈美じゃ無理だと思うぜ、菜織達と一緒に浜辺で待ってな。」

「あれ?サエちゃん?」

 

アタイの言葉に、真奈美はそれまでやっていた平泳ぎのままでアタイの周りをくるくる回りながら答える。どうやら立ち泳ぎが出来ないらしい。

 

「アタイ以外の誰に見えるんだよ…そうか!真奈美眼鏡してねえから…。」

「うん、かけながら泳げないから…コンタクトも危ないし…。」

「じゃあアタイについて、こんなトコまで泳いで来るなよな…はぁ…。おーい菜織ー迎えに来てくれー。」

 

相変わらずくるくる回り続ける真奈美にため息を吐くと、アタイは菜織達を呼んでやった。
しばらくすると菜織と一緒にアイツも泳いで来る。

 

「もう…真奈美ったら相変わらず抜けてるわねぇ。」

「菜織、そんな事言っちゃ可哀相だろ。さっ真奈美ちゃん帰ろ。」

「うん…ゴメンね迷惑掛けちゃって…。」

 

済まなそうにに謝る真奈美を、アイツと菜織が両脇から抱える様にして泳ぐ。
アタイの予想通り、真奈美の体力じゃ浜辺まで戻れないらしい。

 

「…迎えも来たみたいだからアタイは行くぜ。」

「あっちょっとサエ!待ちなさいよ。」

 

後ろで菜織が呼び止めたが聞こえないフリをして、アタイはさらに沖に向かって泳ぎ始めた。
真奈美とくっ付いて赤い顔をしているアイツの姿に、苛立ちを感じながら…

 

 

あれから海に苛立ちをぶつける様に30分ほど泳いで浜辺に戻ると、乃絵美がスポーツドリンクとタオルを持って待っていた。

 

「サエちゃんお疲れさま。やっぱりサエちゃんは凄いなぁ…私だったらすぐに溺れちゃうよ…。」

「別にそんなに凄かねえよ。そう言えば乃絵美って泳げるのか?」

「うん、小さい頃から少しずつお兄ちゃんに教えてもらってたから泳げるよ。でも私、体力が無いからすぐに疲れて立っちゃうの…。」

 

乃絵美に渡されたタオルを頭から被って片手で乱暴に髪を拭きつつ、ドリンクを飲みながら訊くと、乃絵美は胸の前で指を絡めながらそう答えた。

 

「ふーん…ところでアイツ達は?」

「お兄ちゃん達は、向こうでスイカ割りの用意をしてるよ。私はサエちゃんがこっちに戻って来るのが見えたから、一緒に行こうと思って待ってたの。」

「そっか…ありがとな乃絵美。」

 

しっかし誰がスイカ割りなんかしようって言ったんだ?

ミャーコか?いや…真奈美かも…。

 

そんな事を考えながら、アタイは乃絵美と一緒にスイカ割り大会(?)の会場に向かった。

 

 

「えい!痛ッ!!」

「大丈夫か乃絵美!?」

 

スイカを左に30cmほど外して砂を叩いた乃絵美に、アイツが心配顔で駆け寄ると、乃絵美は「大丈夫だよ」と笑顔で答えて、アイツの手を取った。

 

……

アイツ…益々シスコンぶりに拍車がかかってきたな…。

 

「ニャハハ☆乃絵美ちゃんザンネーン。次はサエだよ。」

「んっ分かった。」

 

率先して進行役を買って出たミャーコが、乃絵美から外した目隠しを振りながらアタイを呼ぶ。
それに従い、アタイがスイカの横に転がったままのバットを拾ってミャーコの前にいくと、ミャーコは目隠して、グルグルと(たぶん)五回転ぐらい回した。
そして、ぽんっと背中を押される。

 

「5mほど前だよサエちゃん。」

「サエー右30度。」

「サエ☆左に三歩。」

「サエちゃーん、後ろ向きよー。」

「冴子、左360度!」

 

…みんなバラバラな事言ってやがる。どれが本当だ?

 

とりあえず右に三歩程歩いてみる。

 

「サエちゃん、もうちょっと前。」

「サエちゃん!英文訳30ページ!」

「サエ、0.62度ほど左」

「サエー☆そこで踊ってー。」

「サエちゃーん、50mダッシュ30ぽーん!」

「サエちゃん!演歌歌ってー。」

 

ますますワケ分かんねー事言って来やがった。

 

仕方なく5歩ほど前に行ってみる。

 

「サエちゃーん、そこに穴掘ってー。」

「サエちゃん頑張ってー!」

「サエ☆商工会長さんのところにデリバリーお願い。」

「サエちゃん!好きな人の名前叫んでー。」

「サエちゃんあとちょっとだよ。」

「冴子あと5歩左のところ叩けー!」

「サエー!ハニーレモンパイお願い。」

「あっミャーコちゃんはカニミソパスタねー☆」

 

ったく!真面目に誘導しろよな…。

仕方ない…アイツの言う事を信じてみるか…。

 

左へ五歩ほど歩いて、バットを勢いよく振り上げると…

 

すっぽーん……。

 

うっかり手が滑ってしまい、バットがすっぽ抜けた。

 

「乃絵美!真奈美!」

「ミャーコ!」

「ひゃん!」

「きゃ!」

「ふみゃ!」

 

ザスッ

 

急いで目隠し取とって周りを確認すると、アタイの後ろ7mぐらい…ちょうどアイツ達がいたところにバットが刺さっている。

 

「すっスマン!大丈夫かみんな!」

 

アタイが急いで駆け寄ると、アイツらとスイカを挟んで反対側にいた摩耶さん達も慌てて走ってきた。

 

「私は、大丈夫みたい…ミャーコは?」

「ちょっとサエ危ないじゃない!もうすぐでミャーコちゃんの頭がスイカになるところだったんだから!。」

 

とりあえずコイツらは大丈夫みたいだ…。

 

「のっ…乃絵美…大丈夫か?」

「うっ…うん…お兄ちゃんが守ってくれたから…ありがとう…。」

「真奈美ちゃんは?」

「うん…大丈夫…ありがとう…。」

 

二人の無事を確認しながら、アイツが乃絵美と真奈美に手を貸して起こす。

 

三人とも赤い顔してやがる…。

……

なんでだろ?凄くイラつく…。

 

「ハニャア☆なんだか怪しい雰囲気だねー。」

「ミャーコちゃん、それってどうゆう意味?」

「だからー禁断の愛が芽生えて、さらに三角か…フギャ!」

 

無言でアタイは、くだらない事を言うミャーコの頭に苛立ちをぶつけた。

 

「ふみゅう、サエーいつもより痛いよーもっと優しく叩いてよー。」

「知るか!」

「うにゅぅ…今日のサエなんだか恐い…。」

「サエちゃん…。」

 

 

アクシデントにも関らずに結局、スイカ割りは続行され、みちる先生が割ったところで終わりになった。

 

シャクッ!

 

…もぐもぐ

 

「……」

 

ざ…

 

「サエちゃん、今日は御機嫌斜めじゃない。」

 

みんなから離れて海の方を見ながら独りスイカを食べていると、摩耶さんがやってきて、アタイの横に並んだ。

 

…またちょっかい出しに来たのか?

 

「何かあったの?よかったら話してくれないかな…伊達に女を20年以上してないわよ。」

「……。」

「…まあ言いたくないなら無理に聞かないわ…。」

「……。」

「カラ元気でもいいから出しなさい…みんな心配してるわよ…特に彼女は…。」

 

そう言うと摩耶さんは、親指でアタイの後ろを差して、みんなのところに戻って行った。
アタイと…
ミャーコを残して…。

 

 

さっきからサエは元気が無いってゆうか、なんだか落ち着かないってゆうか…

う〜ん…

難しく言うと自分の心を持て余しているみたい…。

やっぱりカレの事気になってるのかな?

でもカレには真奈美ちゃんがいるし…サエ優しいから多分それでどうしていいか分かん無いんだろうなぁ…。

 

とりあえず私は、サエに声を掛けてみる事にした。

 

「ねえサエ…スイカ…もっと食べない?」

「…いらね。」

「じゃっ…じゃあアイス食べに行こうよ…。」

「…行きたくねえ。」

「……サエ…横に座っていい?」

「…静かにするならな。」

「うん…。」

 

いつもとは全然違った感じの不機嫌さを纏ったサエの横に座って一緒に海を眺める。
私もサエもしばらく無言で、寄せては返す波の音を聞いていた。

 

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

「私が悪いんなら謝るから…いつものサエに戻ってよ…。」

「…静かに出来ねえんなら向こうに行けよ。」

 

サエの馬鹿…私が喋る以外に人を元気付ける方法知らないの分かってるくせに…。

…やっぱり怒ってるからかな?

でも…

元気になって欲しい。

…そうだ!

 

サエ、元気出して!

 

私は砂に字を書いてサエを励ましてみる事にした。

 

ミャーコちゃんも、みんなも心配してるよ

いつものサエに戻って

 

更に書き続ける。

 

「……」

 

サエはそれを虚ろな目で見てる。

 

 

今日の花火大会楽しみだね

 

書いたり消したりを三十回くらい繰り返して、周りにあった白い砂の殆どが濡れた緑になった頃、サエが動いた。

 

何でそんなにアタイに構うんだよ

 

迷わず私は、その下に返事を書く。

 

サエの事が大好きだから

 

私の返事を見てサエが目を見開いた。
砂上の会話は更に続く

 

どうせからかうと面白いからだろ

ちがうよ、サエって、やさしいもん

ウソつけ、アタイがやさしいもんか

ウソじゃないよ

じゃあ何でアタイが、やさしいって思うんだよ

なやむって事は真奈美ちゃんを、きずつけたくないからでしょ

 

サエが驚いた顔で、初めて私の方を見た。
私はさらに書き続ける。

 

私もカレことが好きだったの

でもね、カレが私を友達としてしか見てくれない事に気付いて、あきらめたんだ

 

サエは私の方を見続けている。

 

私と一緒にカレを見守ろうよ

恋人じゃなくてもカレは私達とのかんけいを大事にしてくれるよ

 

「ミャーコ…。」

 

サエ、しゃべるのはルール違反だよ

 

「ミャーコ…もういい…。」

 

しゃべるのはルール違反!

 

「ミャーコ!分かったからいつもみたいに喋ってくれ!」

 

しゃべるのはルール違反!

 

「ミャーコ!アタイが悪かった!元気になるから!」

 

しゃべるのはル

分かった!もうしゃべっていいから!

 

サエは殴り書きのような字を書くと私を抱きしめた。

 

「…戻ろうよサエ…みんな待ってるよ…。」

「そうだな…今日はありがとよミャーコ。」

 

サエの腕の中で私がそう呟くように言うと、サエは私を抱き締めている腕を緩めて、照れたように頭を掻いた。

 

「ニャハ☆サエが私にお礼を言うなんて初めてじゃないかな?」

「ミャーコはアタイを怒らせてばっかりだからな。」

「さーて、今夜はバーベキューに花火大会とイベントが目白押し☆楽しもうねサエ。」

「そうだな…。」

 

いつもの様に、どこか不機嫌そうな顔で答えるサエ…
もうそこには、さっきまでの気まずい雰囲気は無くて…
だけど、その前よりもお互いを分かり合えた私達がいた。

 

 

「もーえろよもえろーよー、ほのーよもーえーろー。ニャハハ☆もっと燃えろー。」

 

パタパタ

 

「バーカ!キャンプファイアーじゃねーんだぞ!あっこらっそんなに扇ぐな!肉が外だけ黒焦げになる。」

 

私が、一生懸命バーベキューを焼く炭を扇いでいると、汗だくで串刺しにした肉や野菜を焼いているサエに怒られた。

 

「いーじゃん、お肉はレアが美味しいんだから☆グルメじゃないなーサエは…。」

「肉と一緒に野菜も焼いてんだよ!玉葱が炭になるだろーが!」

「ニャハ☆じゃあミャーコちゃんがお肉食べるから、サエは野菜食べてね。」

 

これなら、美味しいお肉も食べれる上に、材料も無駄にならなくて一石二鳥☆

 

「…アタイに炭になった玉葱やら、ほとんど生のニンジンやらを食えってのか?」

「ウン☆」

「『ウン☆』じゃねえ!」

 

でも、サエはすっごく不満そうだった。

 

まあ、当然かな。ニャハ☆

 

「ほらほらサエ、引っ繰り返さないとホントに玉葱が炭になっちゃうよ。」

「おわっ!チクショー…メシが終わったら覚えてろよ…。」

「やだよーん☆もーえろよもえろーよー。ニャハ☆」

 

パタパタパタ

 

「だから扇ぐな!」

 

 

「ニャハハ☆美味しかった。」

「ったくコイツ、本当に肉しか食わなかったな。」

「ミャーコちゃん、野菜も食べないと栄養が片寄っちゃうよ。」

 

昼間いっぱい泳いだ分、お腹いっぱいバーベキューを食べた私に、サエが呆れた声を真奈美ちゃんが心配そうな声を掛けて来た。
そんな二人に、自分のコップにウーロン茶を注ぎながら、私が答える。

 

「だあってー、サエが焼いた野菜って、みぃーんな真っ黒焦げなんだもん…あんなの食べたらガンになっちゃうよ。」

「あれはミャーコが扇ぎまくったからだろーが!」

「でも何もしなかったら、サエ怒るんだもん。」

「クッ!あーいえばこーいうヤツだな…。」

 

私と言い合っても勝てないのが分かってるから、悔しそうな顔でサエは生のにんじんをバリバリ食べ始めた。
もっとも、にんじんは生でも美味しいんだけどね。

 

「ちょっと!二人ともー!次はまだー?」

「遅いぞー!女性を待たす男はモテないぞー!」

「「はーい、少々お待ちをー。」」

 

ちなみに今、焼く係の方は私達と交代したカレと翔さんの担当で、少し(大分かも…)酔っ払ったみちる先生と摩耶さんに『姑の嫁いびり』のごとく苛められている。

 

「はい!お待たせしました。」

「遅ぉーい!二人とも50mダッシュ30ぽーん!」

「ニャハ☆さらに遅かった方はプラス30ぽーん!!」

「あら、ミャーコちゃんいい事言うわね。じゃあそう言う事で…ヨーイ…ドン!」

 

調子に乗った私が冗談で言ってみると、みちる先生に笑顔で可決されてしまった。

 

「へいへい…ほらいくぞ!」

「何故だー!」

 

ダダダダダ……………。

 

「この前の『お仕置き』はそれで帳消しにしてあげるから頑張りなさーい!」

「翔さーん!そいつこの前の大会以来、テングになってるから、手加減しなくていいですよー!」

 

摩耶さんと菜織ちゃんの声を背中に受けながら、カレは悲壮な顔で、翔さんは余裕の表情で走りづらい砂浜を走り始めた。

 

ハニャア…悪い事しちゃったかな?

…まっいっか。

 

 

ポンッ!ヒューーーン…パーンパラパラ……。

 

「ニャハ☆たーまやー。」

「かーぎやーっと。」

「ハニャア?ねえねえサエー、なんで『たーまやー…かーぎやー』なの?」

「知らね。昔からの風習だろ。」

 

私の掛け声の後を継いだサエに前々から不思議に思っていた事を訊くと、サエは、「アタイに訊くな」といった顔で答えた。

 

「そう言やぁアイツ達は?」

「ハニャ?菜織ちゃんと一緒じゃないの?」

「いや…打ち上げは菜織が一人でやってる。アイツ達も後で来るって言ってたけど…遅いな。」

 

バーベキューが終わった後、私とサエ、それから勝負に勝った翔さんが後片付けを、残りが花火大会の準備をする事にして、それぞれ行動していた。
もっとも、勝負に負けたカレは、夜までかかって50mダッシュ30本をしていたけれど…

 

「ふーん…じゃあ私がカレと真奈美ちゃんを探してくるよ。」

「じゃアタイは乃絵美を探すかな…菜織ぃーすぐ戻るからなー!」

 

菜織ちゃんの返事を聞くと、私はカメラ片手に日の落ちた砂浜のどこかにいる二人を探し始めた。

 

カレ何処に行っちゃったんだろう?

多分、恋人水入らずで花火見物をしてると思うんだけど…ハニャ?

 

暫らく砂浜をさまよっていると、月明かりの中、浜辺で寄り添って花火を眺めている人達を見付けた。
カレ達かな?

 

 

ポンッ!ヒューーーン…パーンパラパラ……。

 

「フニャー…しょうー…ZZZ…。」

「まやー…私にも少し貸しなさいー…ZZZ…。」

「あれっ?そこにいるのは、ミャーコちゃんかい?」

 

近づいてみると、そこにいたのは翔さんに凭(もた)れ掛って寝てる摩耶さんとみちる先生だった。
二人に凭れ掛られながら缶ビールを片手に花火を見上げていた翔さんが、私に気付いて声を掛けてくる。

 

ニャハ☆これはスクープの匂いが…

 

「ハニャ☆摩耶さんとみちる先生って酔うと猫になるんですね。」

「みたいだね…。まあ今日は二人とも結構飲んでたから…。」

 

そう言って、両肩の二人に優しげな視線を向ける翔さん。
恋人を見る目ではなく、何だか世話のかかる妹を見る様な視線に感じる。

 

ポンッ!ヒューーーン…パーンパラパラ……。

 

「ニャハ☆翔さん両手に花状態ですね。浮気しちゃ駄目ですよん。」

「そんな事しないさ…。俺は摩耶一筋だからね。」

 

左肩に頬を摺り寄せる摩耶さんを見ながら、そう言い切ってしまう翔さんの目は、こっちが恥ずかしくなってしまうくらいの愛情が感じられた。

 

もしかして、みちる先生、振られちゃった?

 

「ふみい…ザンネーン。せっかく面白い記事になると思ったのにぃ…。じゃあ写真をいちまーい。」

「どーぞ、出来たらくれるかな?」

「もちろん!」

 

パシャッ

 

 

ポンッ!ヒューーーン…パーンパラパラ……。

 

うーん…本当にカレ何処に行っちゃったんだろう……ハニャッ!?

 

再びカレと真奈美ちゃんの姿を求めて浜辺をウロウロした私は、少しはなれた岩場の影にカレと真奈美ちゃんらしき二人の男女が寄り添って座っているのを見付けた。

 

岩場の影での密会…これはスクープかも?!

もしや!彼と真奈美ちゃんが…ついに一線を?!

抜き足…差し足…っと。

 

「……。」

「…。」

 

後ろから気付かれない様に近づくうちに、二人の話し声が聞こえてきた。たけど、何を言ってるかまでは分からない。

 

カメラよーし…。

 

カメラを準備して、二人が座っている後ろの岩から、そーっと顔を出すと、真奈美ちゃんが彼の肩に頭を乗せるところだった。

 

ニャハ☆良い雰囲気…。

もうちょっと…顔が見えるようにしてくれないかな?

 

「…えみ」

 

そうそう…。

 

ポンッ!ヒューーーン…

 

「…にい……」

 

…えっ!?

あれ…。

 

パーンパラパラ……。

 

乃絵美…ちゃん…だ…。

 

花火に照らし出された光景に私は目を疑った。
カレに寄り添って微笑んでいるのは…
髪をおろした乃絵美ちゃんだった…。

 

なんで…。

何で乃絵美ちゃんがカレと…。

まるで恋人みたいに…。

 

「何やってるのー?ミャーコちゃーん。一緒に花火やろーよー。」

 

その時、後ろから私を呼ぶ真奈美ちゃんの声が、私にはとっても遠くに聞こえた…。

 

ポンッ!ヒューーーン…パーンパラパラ……。

 

 

To Be Continued...

 

 

 

第十三話予告

「乃絵美、無理するなって…。」

兄として妹に優しいアイツ

「…うん…ごめんなさいお兄ちゃん……。」

妹として兄に頼る乃絵美

「私見ちゃったんだ…昨日の夜……」

私はそう思いたかった。だけど…。

 

少女は真実の為に絆を犠牲にするのか…。

 

次回『another face 〜電網の恋人〜』

第十三話・葛藤

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