another face 〜電網の恋人〜
第十五話・待望
「それじゃあ菜織ちゃん、行って来ます。」
「いってらっしゃい。あとは任しといて。」
今日のアルバイトはお昼まで、あとは菜織ちゃんがやってくれる。
「お兄ちゃん、何処に行っちゃったんだろう…今日は一緒に服を買いに行こうと思っていたのに…寂しいな…。」
お兄ちゃんは、今朝から何処かへ出掛けてしまったから、仕方なく私は、一人で横浜まで行く事にした。
「…たまには良いかな…こういうのも…。」
天気は快晴、さんさんと降り注ぐ太陽の中、いつもはミャーコちゃん達と一緒に来る人通りの多い元町を今日は一人で歩いてみる。
…。
……。
ハァ…。
輸入雑貨のお店や銀細工のお店を覗いたりしていると、周りにいるのがカップルばかりなのに気付いて、ちょっと寂しい気分になってきた。
……お兄ちゃん…。
…やっぱり、お兄ちゃんと来たかったな……。
…お兄ちゃんだったら、どんな所に連れて行ってくれるのかな?
あんな風に…腕を組んで……歩いてくれるかな?
……
……お兄ちゃん…私の事どう思ってくれているんだろう…。
『待ってる』って言っちゃったけど…やっぱり気になるな…。
……お兄ちゃん…。
歩く度に降り積もる切なさを感じ、そして何だか無性にお兄ちゃんに会いたくなって、私は早めに帰る事にした。
今晩、お兄ちゃんのお部屋に行ってみようかな?
またいつもみたいに、暖かく包み込んでくれるかな?
……甘えてばかりじゃいけないのは解ってる…。
だけど……時々凄く不安になる…私の気持ちって、お兄ちゃんの重荷になっているんじゃないかって…。
お兄ちゃんは、そんな素振り見せないけど……私が真奈美ちゃんとの間に入っちゃったのは事実だし…。
だけど…
私はお兄ちゃんが好き…大好き…
この気持ちは、変わってない…むしろどんどん強くなってる…。
だから私は…お兄ちゃんにとって凄く迷惑になるのを解ってて、甘えちゃうんだな…。
私って……ずるいな…。
そんな事を考えながら、桜美町駅の改札を出ると……お兄ちゃんがいた。
そして側に…今日、私が居たかった場所に、知らない女の子が立っていて、二人とも楽しそうに話をしている。
誰?!
…お兄ちゃん…楽しそう。
……お兄ちゃん。
WINDさんお久しぶりです。アプリコットです。
今日は朝からデートだったんですね。
駅前でWINDさんと知らない女の子が一緒に居るのを見て驚きました。
あらから一週間経ちますが、WINDさんは何も言ってくれません。
急がせるつもりはありませんが、不安で仕方ないんです。
私の気持ちがWINDさんの重荷になっていないか、とても気になるんです。
お返事待ってます。
アプリコット
……………。
二人を見ているのがつらくて、私はお兄ちゃんに気付かれない様に、駅から離れて久しぶりに『ぱぶりっく』に入った。
そして、気付いた時には『WIND』さん(お兄ちゃん)宛てにメールを書いて、『送信』にポインタを合わせていた。
「おにいちゃん…。」
送る?
……でも、お兄ちゃんどう思うかな?
やっぱり、止めておこう…でも…。
「あれっ?乃絵美さんじゃないですか。」
「きゃ…そっ宗一郎さん…。」
急いで画面を切り替えて声の方を振向くと、『ぱぶりっく』の制服を着た宗一郎さんが立っていた。
「乃絵美さんもインターネットに興味が?」
「…はぁ…。」
「あっ!この格好ですか?実は来月は欲しいのもがたくさんあるので、ここでアルバイトしているんです。」
「…そうですか…。」
笑顔で捲くし立てるように喋る宗一郎さんに、私は少し呆気に取られながら返事をする。
「どうしたんです?随分元気が無いですけど…。」
「……。」
お兄ちゃん…。
「僕で良かったら相談に乗りますけど?」
「……。」
おにいちゃん…。
「…気分でも悪いんですか?」
「……。」
でも、呆気に取られたおかげで、自分が少し考え込み過ぎていた事に気付いた。
お兄ちゃんが自分の知らない人といただけで沈んでいた心が少し軽くなり、今、自分がするべき事が頭に浮ぶ。
お兄ちゃん…やっぱり私待ってる。
つらいけど…お兄ちゃんを信じるよ…。
だって…私は…お兄ちゃんの事を愛しているから…。
「乃絵美さん?」
宗一郎さんが私に向かって手を伸ばそうとするのと同時に、私は立ち上がってカウンターに向かった。
「ごめんなさい、宗一郎さん。私帰ります。」
「乃絵美さんいったいどうしたんで…。」
宗一郎さんの声が後ろで聞こえた気がしたけれど、今の私は、お兄ちゃんの事しか考えられなくなっていた。
早く家に帰ろう。
家に帰れば、大好きなお兄ちゃんがいる。
もしいなくても、待っていれば必ず帰ってくる。
待っていれば…必ず……。
To Be Continued...
第十六話予告
「お客さんか…では、御席の方へご案内します。」
いつも通りの平和な日常
「ハアッハアッ……乃絵美!!」
でも、災厄は突然起こった
「なんですって!?」
そして広がる波紋
大切な人がいなくなった時、彼は初めてその大切さを理解する
次回『another face 〜電網の恋人〜』