another face 〜電網の恋人〜

第二話・脅迫

 

 

 

「ニュース、NEWS、だーいにゅうすううううう。l'omeletteの伝言板にいい!」

 

さすがに放送部(EBC)のリポーターを名乗るだけあって 、ミャーコちゃんは発音が奇麗だ。日本語、英語、フランス語を全て言い分けてる。この前みちる先生に「ミャーコちゃんは発音だけは上手ね。」と言われただけはある。いつもカタカナ英語の菜織とは大違いだ。(もっとも成績自体は菜織のほうが上なんだが…。)

 

「脅迫状があああ!!」

「『きょーはくじょー』?」

 

いきなりの突拍子もない言葉を理解出来ず、俺は鸚鵡(おうむ)返しに訊き返した。

 

「んもう、だーかーらー伝言板に脅迫状が来てるんだってば!!。」

「ハァ…どうせ誰かの悪戯じゃないの?。」

「解んないよー。もしかしたら大事件の前兆なのかも!とにかく見てみてよ。」

 

ため息混じりに俺が言うと、ミャーコちゃんがウキウキした声で答える。

相変わらず、波瀾万丈が好きな娘だ。

 

「…なんだか嬉しそうだねミャーコちゃん?。」

「もっちろん!特ダネかもしれないんだもん!何かあったらすぐに連絡頂戴ね。じゃっ、まったねー。」

 

……言いたい事だけ言って切っちゃった。まあいつもの事だけど…。伝言板の点検でもしてみるか。

 

 

【マスター】

誠に申し訳ありませんが、デリバリーは桜美商店街のお得意様に限定させていただいており

ます。これも当店の味を損なわないためとご理解ください。

 

【キャンミラマスタ−】

うーん、あの制服いいなあ。なんだかメイドみたいで。

 

【神影】

そうでしょ!やっぱりいいですよねえ>キャンミラマスタ−

 

【ハニーレモンπ】

だから、そういう発言は止めてください。>キャンミラマスタ−・神影<まったく男の人って皆こ

うなのかしら?

 

【puipui】

単にメイドフェチなんじゃないですか?>ハニーレモンπ

 

 

うーん…やっぱりお客さんもメイド服に見えるのか…。

あっ…そんな事より『きょーはくじょー』はと…。

 

 

【あめんぼう】

メニューにカレー入れて、好きだから。

 

【@】

髪が長いほうの娘の事を詳しく教えるか、彼女の制服をちょうだい。さもないと怒っちゃう

ぞ!!!

 

 

『髪が長い方の子』…乃絵美のことか?

でも、これは…。

 

「どう見ても悪戯か、子供の我が侭にしか見えんぞコレ。だけど、このままほっとく訳にも行かないよな。…よし!」

 

 

【マスター】

個人情報をお教えする事はプライバシーの侵害となり、当店の制服はオーダーメイドのため、

差し上げる訳には参りません。どうかご了承ください。

 

 

「まあこんなところか。さーてメシメシ。」

 

管理者としての発言を書き込むと、俺は夕飯を食べに一階に降りていった。

 

 

 

「ふぁああ……今日は疲れたな。乃絵美一人いないだけでこんなに違うものか。」

 

今日のl'omeletteは昨日以上の大入りで、「乃絵美の分は俺がカバーする!」と息巻いていた俺もさすがに疲れた。

それでもバイト代が上がる訳じゃないから、骨折り損だな…。

 

とんとんとん…コンコン

 

「ただいま、お兄ちゃん。今日は私の代わりにお店番してくれてありがとう。」

 

乃絵美は帰ってくるなり、まずは俺にお礼を言いに来たらしい。

少しお洒落をした乃絵美が新鮮で可愛い。

しかしそれは、乃絵美がl'omeletteでウェイトレスをしている姿を見る機会の方が多いから、新鮮に感じるのだと気付き、申し訳なく思う。

 

「別に礼なんか要らねーよ……・。普段は俺がどっか行ってて、乃絵美が店番してるんだからな。たまには交代してやらないとそのうち天罰が下りそうだ。あっその前に菜織に耳にタコが出来るほど説教されそうだな。」

「クスッ、でもお兄ちゃんのおかげで今日は楽しい時間が過ごせたんだから……。ありがとう、お兄ちゃん。」

 

そう言って乃絵美が少し首をかしげて微笑む。いつもいっしょにいて見慣れているはずなのに、見飽きるなんてことはない。むしろ、いつまでも見ていたくなる笑顔だ。

さっきまで疲れきって動けなかった体に、なんだか力が湧いて来るような気がする。

 

「?どうしたのお兄ちゃん……そんなに見つめられると恥ずかしいよ。」

 

と言って頬を染め俯く乃絵美。

可愛い…実の妹じゃなきゃこの場で交際を申し込んでしまいそうだ。

……そう、せめて乃絵美が義理の妹であったのなら…。

…。

バカだな…俺。

 

「何でもない。それより明日からもよろしく頼むな。」

 

そう言って笑いかけながら乃絵美の頭を撫でてやる。

乃絵美は相変わらず俯いたままだが、嫌では無いらしく、されるがままだった。

 

 

 

「また来てるな。」

 

次の日、伝言板のチェックをしてるとまた『脅迫状』が来てるのを見つけた。相変わらず子供じみた文章にうんざりしながら返答を書く。

 

 

【@】

嫌だい嫌だい、どーしてもあの娘の事が知りたいんだい。あの娘の匂いのする制服がほしいんだい!!!

 

【マスター】

何を申されましても、個人情報をお教えする事はプライバシーの侵害となり、当店の制服を差し上げる訳には参りません。どうかご了承ください。

 

 

「やれやれ、ある程度は予想がついていたとはいえ、変なのが関わってきたな。えーと他にはっと。」

 

こういうのは本気なんだか冗談なんだか解らないから、相手が飽きるまでこんな事を続けるしかない。

本当に性質が悪い。

 

 

【ピアニッシモ】

始めまして、ピアニッシモと言います。

皆さんいろいろと書き込んでいますね。ところで今日は皆さんに相談があるんのですが。

私には今、大事な人と、憧れの人がいます。だけど二人は私のせいでとても仲が悪いんです。

どうすれば二人を仲良くする事が出来るのでしょうか?

 

【アプリコット】

始めましてピアニッシモさん

そうですね。自分の大事な人と憧れの人との仲が悪いのは辛いですね。

だけど、そんな時に自分が中に入って二人を説得しようとしても、逆に悪化するだけかもしれません。

ですから私は、二人の事を信じて待ってみるもの一つの方法だと思います。

大事なのは、自分が二人の事を好きだと言う気持ちを両方に解ってもらう事だと思います。

なんだか、変な事を言ってしまってごめんなさい。御二人が仲良くなるのを祈ってます。

>ピアニッシモ

 

 

この『アプリコット』って人ちょっと呑気すぎないか?そんなに上手くいく訳無いと思うんだけど……。よし俺個人の意見として書き込んどくか。

 

 

【WIND】

始めましてアプリコットさん

失礼ですが、その意見は呑気すぎませんか?二人に自分の気持ちを解ってもらっても、二人の仲がそれ以上悪ければ、いつまで待っても事態は変わらないと思います。

僕はたとえケンカになってもいいから二人で話し合う場を設けるべきだと思います。相手の事をもっと良く知れば、お互いのいい面も見えて、認め合える事も出来ると僕は思いますよ。

>アプリコット

 

 

こんなところだな、ふぁ…今日はもう寝るか……。

 

 

 

カランカラン

 

「いらっしゃいませ。あっ!拓也さん…。」

「なにっ!」

 

驚きと、若干の喜びの入り交じった乃絵美の声に振向くと、柴崎が立っていた。乃絵美を振り、真奈美ちゃんに言い寄り、チャムナに利用された、あの柴崎拓也が…。

 

「少しいいか…。話がしたい。」

「おにいちゃん…。」

 

柴崎の思い詰めたような静かな声に、乃絵美が祈るような表情で俺を呼ぶ。

俺は柴崎から視線を外さないまま、ゆっくりと頷く。

 

「…一時間後に旧十徳神社で、菜織に見つかるなよ。」

「解った。必ず来てくれ。」

 

そう言うと柴崎は、一度も乃絵美の方を見ずに町中に消えていった。

 

「おにいちゃん…。」

「大丈夫だ、俺を信じろ。今のあいつとなら落ち着いて話が出来そうだ。」

 

心配そうな顔で俺を見つめる乃絵美の両肩に優しく手を置いて、安心させる様にそう言うと、俺は残りの仕事を頼む為に親父の部屋に行った。

 

 

 

「柴崎。」

「来たか…。」

 

菜織に見つからないように旧十徳神社につくと柴崎が待っていた。(ちなみに菜織は今日バイトが休みで幼稚園のほうにいるはずだが、ここに来る事は滅多に無い。)

 

「……無駄な話はしたくないし、お前も聴きたく無いだろう、本題だけを話す。」

「ああ…そうしてくれ。」

 

夕焼けに染まる桜美町を見下ろしながら、先程と同じく何処か覚めたような口調で柴崎は語り出した。

 

「俺は、乃絵美を振り、鳴瀬君に利用され捨てられた。だから、俺とお前にはもう何の接点も無い。」

「要するに全てを水に流して、俺達の関係を白紙にしろって事か?」

「言ってしまえば、まあそうゆう事だ。」

「…貴様って奴はどこまで腐ってんだ!そんな虫のいい話を認める訳無いだろうが!!。」

 

バギッ

 

あまりのいい加減さに、俺は柴崎の顔面にストレートを叩き込む。

しかし柴崎は避けようともせず俺の拳をまともに食らい、賽銭箱まで吹っ飛んだ。

それに駆け寄り、胸倉を掴んで二発目を放とうと拳を握り締める俺、しかしそんな俺を柴崎は、相変わらず悟ったような、覚めた目で見返してきた。

 

「なぜ…、抵抗しない……。」

「俺は鳴瀬君と乃絵美に教えられた。夢を追い求めていた俺が、いつしかその夢に溺れていた事。それによって多くの人を傷付けた事。最初は鳴瀬君を怨んだ、乃絵美を鬱陶しく思った。しかし、あの日公園に置き去りにされたボロボロのサッカーボールの見たとき、全てを悟った。」

 

そう言うと柴崎は、最早力無く胸倉を掴んでいた俺の手を外すと、階段と社をつなぐ石畳に大の字に寝転がった。

 

「俺はあのころの俺に戻ってもう一度やり直したい。しかしその為には今迄他人を傷付けて来た分、罪を償わなければならない。殴りたいなら殴れ!腕の…いや脚の骨を折ってくれても構わない。それでお前が満足し、俺が一人の男として改めてお前と乃絵美の前に姿を見せられるのならば!」

 

柴崎は本気だ。罪を償うために自分の未来をも犠牲にしようとしている。

 

「…………………解った。」

 

そう言うと俺は柴崎の側に近づき、幼児が蟻を踏み潰すように柴崎の脚の上に足を上げ…。

………。

……………。

…………………。

………………………。

……………………………。

勢いよく下ろした。

 

 

 

To Be Continued...

 

 

 

第三話予告

 

「乃絵美……すまん。」

乃絵美との約束を守れなかった俺

「何も聴きたくない!お兄ちゃんなんて大っ嫌い!!」

俺を拒絶する乃絵美

「見ろ。」

全てを受け入れる覚悟を決めた柴崎

 

三人が笑い合える日は来るのか?

 

次回『another face 〜電網の恋人〜』

第三話・贖罪

 

 

感想を書く/目次へ