another face 〜電網の恋人〜

第六話・帰国

 

 

 

【あめんぼう】

オムレツが有ってなんでオムライスが無いの?

 

【OTOMI】

喫茶店ですし、オムライスって多分日本で出来た食べ物ですから。やっぱりそういうのを入れちゃうとクレームが来ちゃうんじゃないですか?

 

【神影】

そんな事より、あの髪の長いこの子と何か知らない?>あめんぼう・OTOMI<もう今度玉砕覚悟でデートにでも誘ってみようかな?

 

【puipui】

多分ほんとに玉砕すると思うから止めたほうがいいと思うよ。>神影

 

【ハニーレモンπ】

だーかーらー止めなさいってそういう事言う(書く)のは!>神影

 

【ごませんべー】

私は昔からの常連ですが、やっぱりオムライスとかは無いほうがいいと思います。そういうのは他に任せて、l'omeletteは今のままのほうが、私個人としては安心します。(オヤジの我が侭でした)>OTOMI・あめんぼう

 

【ハニーレモンπ】

そんな事ありませんよ。私もあのお店の雰囲気は変わって欲しくないと思います。>ごませんべー

 

【キャンミラマスタ−】

なんだかんだ言って、いちいち反応するって事は、あなたも本当は怒ってなくて楽しんでいるでしょう。>ハニーレモンπ

 

 

「しばらく見なかったけど、随分利用者が増えてるんだね。」

「まあな、常連客も固まってきたし…。じゃあ始めるか。」

「うん。」

 

今日は朝からお兄ちゃんが私に伝言板の管理について教えてくれている。お兄ちゃんは明日から合宿でしばらく家を留守にするし、次の日に、お父さんとお母さんも商店街の旅行に行っちゃうから、その間は私に伝言板の管理を任せるんだって。

私じゃ無理だと思うんだけど、せっかくお兄ちゃんが教えてくれるんだし、出来る限りでいいって言ってくれてるから、頑張ってみようかな?

 

「……という訳だ。まあ他人を明らかに傷付けたり、不快にする文章を削除するのが主な仕事だな。削除する時は、管理者コード『im66e010on』を入れると管理者用画面が出るから、文章を指定して削除。じゃ試しに管理者用画面を出すところまでやってみな。」

 

私は、『ブラインドタッチ』というのがまだ出来ないから、右手の人差し指で、一つ一つキーを押していった。

さっき、お兄ちゃんが「ピアノが弾けるんだから、ブラインドタッチもすぐ出来るようになるさ。」って言ってくれたんだし、お兄ちゃんがいない間、少し練習してみようかな?

 

「…えっと、管理者コードはim6e…あれ?」

「『im66e010on』だ。」

 

お兄ちゃんがもう一度管理者コードを言ってくれたけど、やっぱりすぐには覚えられない。

 

「そんなに長いのすぐに覚えられないよ。」

「そうでもないと思うぞ、こうやって覚えればいい…。」

 

と言ってお兄ちゃんはちょっと悪戯っぽく微笑みながら、紙に書いて覚え方を教えてくれた。

……あっそうか!そうやって覚えればすぐに思い出せる。こんなところからコードを作るなんてお兄ちゃんって頭良いなあ。

それと、ちょっと嬉しい…。

 

「えーと『im66e010on』っと…出たよ。」

「よし、まあそれだけやっといてくれれば、後は俺が帰ってするから。」

「うん、頑張ってみるよ。」

 

私がそう言うと、お兄ちゃんは優しい笑顔を浮かべて頭を撫でてくれた。なんだか子供みたいで恥ずかしい。でも、お兄ちゃんに頭を撫でられてると、すごく幸せな気持ちになる。

……このままずっと時が止まればいいのにな………。

 

 

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン

 

成田空港。日本と海外を結ぶたった一つの空港。初めて来たなあ。

 

「あっ今着陸したのが真奈美ちゃんの飛行機じゃない。マーキングがミャンマーぽい。」

「バーカ、真奈美の飛行機は後二時間しないと来ねーよ。」

「そうよ、大体ミャーコが暇だって言うから屋上に来たんじゃない。」

 

真奈美ちゃんのお出向えに少し早く来ちゃった私達は、しばらく空港内をウロウロしている。

今いる屋上(展望デッキ)は、風が強くて、髪が長い私にはちょっと辛い。

さっきから髪の毛が、風に煽られて私の顔にかかったり、後ろに引っ張られたりしている。

 

「どうした乃絵美?ミャーコちゃんが引っ張りまわすから歩きつかれたか?」

「大丈夫?無理しちゃ駄目よ。ちょっとミャーコ!アンタがあちこち行くから。」

「大丈夫だよ菜織ちゃん。ちょっと考え事をしていただけ。これでも昔より丈夫になったんだから。」

 

そう言って菜織ちゃんに笑いかける。

やっぱりみんなに気を使わせちゃうなあ。私は本当に大丈夫なのに…優しくしてくれるのはすごく嬉しいけど、私も少しは丈夫になったって事を認めて欲しいなあ。

 

「ハニャア☆あれはもしや……。」

 

また何か面白い物でも見つけたのか、ミャーコちゃんが突然走り出した。

サエちゃんがミャーコちゃんを止めようとする。

 

「コイツ聞いちゃいねえな。こらミャーコひとやす…。」

「みんなー喉乾いちゃったー☆ここで一休みしよう。」

 

ミャーコちゃんが行った先はパラソルを並べたカフェテラスだった。

今日は日差しが強いから、殆どのパラソルが既に埋まっている。

そして、その半分くらいは海外の人みたい。

 

「ふふ…一本取られたわね冴子。」

「ミャーコちゃん五人分の席取っといてよ。」

「おまかせー☆」

 

 

 

屋上のカフェテラスで一休みして、お土産売り場で時間をつぶした私達は、真奈美ちゃんが乗った飛行機が到着したのを確認して到着ロビーに向かった。

 

「そろそろだと思うんだけど、あっいたっ!まぁなぁみぃー。」

「えっドコドコ、あっ真奈美ちゃ…ハニャッ!」

「どうしたんだよミャー…あれ?」

 

こちらに気付いたらしく小走りに近づいてくる真奈美ちゃんと一緒に、大学生ぐらいの女性が歩いて来る。真奈美ちゃんのお友達かな?

 

「お久し……いや、おかえり真奈美ちゃん。」

「うん!ただいまみんな…ただいま……あれっ泣かないって……笑顔で『ただいま』って言おうと決めてたのに…ゴメンね嬉しくて…。」

 

そう言うと真奈美ちゃんは小さな声で泣き始めた。

そんな真奈美ちゃんの涙をお兄ちゃんが拭い、菜織ちゃんが肩を抱きながら頭を撫でる。

羨ましいなあ…私もあの関係の中に入りたい。

 

「ハイハイ感動の再会はそこまで、真奈美ちゃんも私も長旅で疲れてるんだから、一服しましょ。」

「ネェネェ☆何でセンセーが真奈美ちゃんと一緒にミャンマーから帰ってくるの?」

「そうだよ、『世界一周・幻の秘境巡り』に行ってたんじゃないのかよ?挫折したのか?」

 

真奈美ちゃんと一緒にやってきた女性にサエちゃんとミャーコちゃんが質問している。

二人とも、この人の事知っているのかな?

 

「…ミャーコちゃんも冴子もタメ口になってるぞ。」

「あっいけね!ごめんなさい、みち…天都先生!」

 

お兄ちゃんが窘(たしな)めると、サエちゃんが『気をつけ』をして女性に頭を下げた。

 

「ふふふ…いいのよ今はプライベートな時間だもの、それに二学期も私が英語の担当するか分からないし。」

 

ああ、そうかあ。この人が前にお兄ちゃんが話してくれたみちる先生なんだ。すごく厳しい先生だって聞いてたけど…。なんだかイメージと違うなあ。

 

「アラ、あなたが乃絵美ちゃんね。お兄ちゃんからいつも兄思いで優しい娘だって聞いてるわ。よろしくね。」

「いえ、そんな…天都みちる先生ですよね。こちらこそよろしくお願いします。」

 

お兄ちゃんそんな事言ってたんだ…ちょっと恥ずかしいけど…嬉しいな。

そう思いながらお兄ちゃんを見ると、ちょっと焦った顔をしていた。

 

 

 

「それではっ!真奈美ちゃんとみちる先生の無事な帰国をお祝いしてっ…。」

「「「「「「「「「かんぱーい」」」」」」」」」

 

ミャーコちゃんが率先してやった乾杯の音頭で『真奈美ちゃん(とついでにみちる先生)の歓迎会』(byミャーコちゃん)が始まった。

会場はl'omelette。

みんな真奈美ちゃんとみちる先生を中心にミャンマーでの体験談なんかに花を咲かせている。

私もお兄ちゃんの隣で会話に入れてもらった。

 

ぴんぽ〜〜〜ん

 

誰か来たみたい。私が出ようとしたら、先にお兄ちゃんが席を立った。少し考えた後、やっぱり私も行く事にした。

 

「はーい、どなたで…どわあ!」

「お兄ちゃん!?どう…。」

 

玄関を開けるなり飛びのくお兄ちゃんを不思議に思ってドアのほうを見ると、私は言葉を失った。

 

「なーんだ、真奈美ちゃんも出て来ると思ったのにー。ザンネン。」

 

そこには「スーパージャンボクラッカー3Lサイズ」をお兄ちゃんに向けた摩耶お姉ちゃんと、『シェ・リュイ』のお持ち帰り用の箱を抱えた翔お兄ちゃんが立っていた。

 

「まっ摩耶さん何ですソレ…?」

「何って…見ての通りただのクラッカーよ。ちょっと大きいだけで…。」

 

お兄ちゃんの質問に摩耶お姉ちゃんは一見メガフォンの様な物を見せてくれた。『(注:)人に向けて鳴らしてはいけません』って書いてあるけど…。

 

「真奈美ちゃんは奥なのね?翔、プランB実行よ!」

「…ハイハイ。」

 

そう言うと摩耶お姉ちゃんは、なんだか疲れたような返事をする翔お兄ちゃんを引きずって会場のほうへ入っていった。

 

「お兄ちゃん…大丈夫?」

「ああ…俺は大丈夫だけど、真奈美ちゃん気絶し…。」

 

パパパーーーン

…バタッ

 

「まっ真奈美ぃっ!」

「……やっぱり。」

 

私達が会場に戻ると、真奈美ちゃんがソファーに寝かされ、それをみんなが、特に摩耶お姉ちゃんが心配そうに見ていた。

でもしばらくすると真奈美ちゃんは目を覚まして、摩耶お姉ちゃんが真奈美ちゃんに抱き着いて謝ると、真奈美ちゃんはすごく驚いた顔をしながら許してくれた。

 

 

 

「じゃあ明後日からしばらくお休みなんですか?」

「なんでー乃絵美ちゃんだっているし、人手が要るんならミャーコちゃんだって手伝うよ。」

「何だったらアタイも手伝うぜ。」

 

これからも時々来るって言った摩耶お姉ちゃんに、お父さんが明後日から商店街の旅行でしばらくl'omeletteをお休みにするって言うと、真奈美ちゃんたちが自分達が手伝うから、お店を開けて欲しいってお願いした。

お父さんはしばらく考えた後、私のほうをじっと見た。多分私に旅行中l'omeletteのマスターをする覚悟があるのか聞いてるんだと思う。

私が、大丈夫やれるよって笑いかけると、お父さんは満足そうにうなずいた。そして真奈美ちゃん達に留守中l'omeletteお任せする事を言うと、お仕事の説明の為に真奈美ちゃん達と厨房に入って行った。

 

「乃絵美、本当に大丈夫なのか?無理しなくても…。」

「もうお兄ちゃん…心配してくれるのは嬉しいよ。でも私も少しは強くなったんだから。お兄ちゃんが帰ってくるまでなら大丈夫だよ。」

 

心配そうな顔をするお兄ちゃんにそう言って笑いかけると、お兄ちゃんも解ってくれたらしく、それからは何も言わなかった。

 

 

 

「それじゃお休みなさーい。」

「おやすみーん。明後日からよろしくねーん☆」

「じゃあまたな。」

 

お別れの挨拶を済ますと、サエちゃん・ミャーコちゃん・菜織ちゃんがお兄ちゃんに、真奈美ちゃん・摩耶お姉ちゃん・みちる先生が翔お兄ちゃんにそれぞれ送られて帰って行った。

明後日からはお父さんも、お母さんも、そして…お兄ちゃんもいない……みんなの力を借りて、私がl'omeletteを守るんだ。せっかくお父さんがチャンスをくれたんだもの「私にもこれだけの事が出来る」って事をみんなにわかって貰わなくちゃ。

 

 

 

「おはよう。今日は朝から随分騒がしいな。」

「当然でしょ!小父様と小母様が旅行の準備、アンタが合宿、その上初心者だらけで明日から三日間ロムレットを経営する準備!ほんと猫の手も借りたい状況よ!」

 

朝、起きてきたお兄ちゃんに、明日からの打ち合わせや開店準備の為にいつもより一時間早く来た菜織ちゃんが話し掛ける。

 

「朝っぱらからそんなにカリカリするなよ。せめて、「おはよう」ぐらい言う余裕持てよな。」

「あーもー、どうしてそんなにのんびりしてるのよ!アンタ今日から合宿でしょ!さっさと行かないで遅刻しないの?」

 

今日の菜織ちゃんは、明日からの事を心配しているのか、私から見てもいつも以上にイライラしているみたい。

 

「そのあたりは大丈夫だ。…それより、乃絵美の事を頼むぜ。」

「解ってるわよ。ちゃんと私がフォローするから、何の心配もせず、アンタは合宿頑張って来なさい。」

 

聞こえてるんだけどな……私ってそんなに頼り無いかなあ?…お兄ちゃんに言われると、ちょっと悲しい。

 

「お兄ちゃんおはよう。明日からの事は心配しなくていいよ。みんながいてくれるから。それに私、独りぼっちでお留守番しているより、この方が楽しいよ。」

「そうよ。アンタも少しは乃絵美の事信頼してあげなさい。でも乃絵美、無理はしちゃ駄目よ。自分一人の手に負えなかったら、私達を頼りなさい。自分じゃ分からなかったり、どうしようもない時に誰かに助けを求めるのは、決して恥ずかしい事じゃ無いわ。それが約束できるんなら、私は出来るだけ何も言わない様にするから。」

「菜織……そうだな…菜織の言う通りかもな。乃絵美、俺が帰るまでl'omeletteはお前に預ける…っと言ってもまだ俺が継いだ訳じゃないけどな。」

 

私と菜織ちゃんの言葉に、お兄ちゃんはやっと安心してくれたみたいで、微笑みながら、私の髪を撫でてくれた。

 

「うん!お兄ちゃん私頑張るよ。そして菜織ちゃんありがとう。約束通り、無理はしないよ。」

「……アンタって、ほんっとにシスコンね…。」

「うるせー。じゃ、行ってくる。」

 

そうしてお兄ちゃんは陸上部の合宿に行った。

帰って来るのは四日後……寂しいな…ううん!お兄ちゃんが帰ってくるまで頑張らなくちゃ。帰って来たお兄ちゃんに誉めてもらえるくらい…。

…お兄ちゃん……。

 

 

 

To Be Continued...

 

 

 

第七話予告

 

それでは、一日でも早く彼があなたの前に現れる事をお祈りします。

頼りにしてしまう人

「「「「はい!マスター!」」」」

頼りになるみんな

「お兄ちゃん待ってよ!私を!私を置いて行かないで!」

誰かが側にいないと何もできない私

 

夢は自らの隠された胸の内を見せるのか…

 

次回『another face 〜電網の恋人〜』

第七話・夢幻

 

 

感想を書く/目次へ